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3 開発協力事業(開発投融資を含む)の概要と実績


1.事業の開始時期・経緯・目的


開始時期


 74年度の国際協力事業団(JICA)設立に際し、同事業団の前身である海外技術協力事業団及び海外移住事業団から引き継いだ業務以外の新規業務として創設。

経緯・目的


 我が国の経済協力においては、従来必ずしも政府ベース経済協力と民間ベース経済協力の連携あるいは資金協力と技術協力の結びつきが十分ではなかったとの認識から、これらの連携や結びつきを強化することにより、我が国の国際協力の一層の拡充及び強化を図ることをねらいとして創設された。
 開発途上国の自立的経済発展のために民間部門の果たす役割は極めて重要である。このような観点から、開発協力事業は、本邦企業等が行う開発事業に必要な資金や技術の提供を通じて、途上国の社会基盤整備、企業振興、輸出促進等を中心に、その自立的経済発展に資することを目的とするものである。
 なお、平成13年12月の特殊法人等整理合理化計画において、開発投融資事業の廃止が決定している。

2.事業の仕組み


概 要


 開発協力事業は、本邦企業等が開発途上地域等において行う開発事業のうち、地域の社会開発並びに農林業及び鉱工業の開発に寄与する事業に対し、必要な資金を貸付け又は出資し、併せて当該途上地域等に対して必要な技術支援を行うものである。
 本事業は、貸付及び出資に係る業務(開発投融資業務)及び技術支援に係る業務(調査・技術指導業務)に大別される。
(イ) 開発投融資業務
 開発投融資業務は、本邦企業等が開発途上地域等において行う開発事業のうち、国際協力銀行からの資金供給が困難なものについて、当該地域の経済社会の発展と民生安定に資する経済協力効果の高いものを対象として、ソフトな条件の資金を提供し、事業の円滑な実施に協力しようとするものである。
 開発投融資の対象となる事業としては次の2つがある。
(1) 関連施設整備事業
 国際協力銀行等から貸付等を受けている開発事業に関連して必要な施設で、周辺地域の住民の生活、福祉の向上に資する公共性の高い施設(教会、診療所、道路、港湾施設、上下水道施設、集会場等)の整備事業。
(2) 試験的事業
 開発事業のうち試験的に行われる事業であって、技術の改良又は開発と一体として行わなければその達成が困難な事業。具体的な例としては、農業分野の栽培試験、家畜等の飼養試験、林業分野の造林試験、未利用樹加工試験、鉱工業分野の原料炭・燐鉱石等資源の採掘・選鉱・精錬試験、社会開発分野の低価格住宅の建設等がある。
(ロ) 調査・技術指導業務
 調査・技術指導業務は、開発事業が円滑に実施され、開発途上国にとっても有益な効果をもたらすように、企業等の要請に基づいて各種の技術支援を実施するものである。この技術支援には、融資前に行われる現地踏査や資料収集を中心とした各種調査と、融資実行後に行われる技術指導がある。
(1) 調査
a)開発基礎調査
 開発投融資の対象となりうる開発事業について、資料収集や現地踏査を行い、事業の可能性を検討し、開発の基本計画や事業計画を立案する調査。
b)投融資審査等調査
 現地において、開発投融資資金の適正使用を審査するとともに、事業の実施状況を把握し、事業実施後に発生した問題への対処方針の検討等を行う調査。
c)現地実証調査
 本邦企業の海外投資活動のうち、技術・データ等がないため直ちに事業化することが困難なものについて、現地において基礎的データを収集し、技術的可能性を実証する調査。
d)地域開発効果等評価調査
 一定期間経過した開発投融資案件について、当該事業が地域の社会・経済開発にどの程度寄与しているか等を測定・評価し、地域開発効果に何らかの阻害要因がある場合には、その軽減・除去のための方策を探る調査。
e)環境保全関連開発投融資促進調査
 開発途上国では経済開発が優先され、環境保全は二次的なものとされる傾向があることに対応するため、環境保全案件の発掘形成を行う調査。
(2) 技術指導
a)専門家派遣技術指導
 開発投融資対象事業及び一般の開発事業を対象に、本邦企業等の要請に基づき、当該事業の分野に精通した専門家を派遣し、現地において技術指導を行うもの。
b)研修員受入技術指導
 開発投融資対象事業及び一般の開発事業を対象に、本邦企業等の要請に基づき、現地従業員の技術水準の向上のために、同従業員を研修員として本邦に受入れ、技術指導を行うもの。

審査・決定プロセス


 融資を希望する本邦企業等からJICAへ提出された企画書により、事業の適格性、安全性等を詳細に検討、必要に応じて開発基礎調査を実施する。その結果、融資案件として適当と判断されたものについて、当該企業等から事業計画書を添付した借入予備申請書の提出を受ける。JICAにおいて書類審査後、関係各省、国際協力銀行との協議を経て、さらに当該企業等から正式な借入申請書を受け、JICAの投融資理事会にて承諾、融資が決定される。
決定後の案件実施の仕組み


 上記(2)の承諾後、融資限度額を定めた融資契約を申請企業とJICAの間で締結する。資金の支出は、申請企業からJICAへ提出された資金交付願に基づき、融資契約の融資限度額の範囲内で実行している。資金の交付中または交付後においては、投融資審査等調査団を現地に派遣し、事業の実施状況及び会計書類・会計帳簿等の調査を行い、資金の使途状況を確認するとともに、返済が完了時まで定期的に事業の実施状況、経営状況等について報告を受けている。
 また、技術指導(専門家派遣及び研修員受入)については、本邦企業等からJICAへ提出された申請書に基づき、審査の上必要と認められるものについて実施する。

3.最近の活動内容


概 要


 開発投融資業務については、近年の本邦企業の海外進出は、日本国内の現下の経済情勢を反映して極めて低調にあり、収益の期待できない事業を対象としている本事業は、一層実施されにくい状況となっていることもあり、貸付実績及び融資承諾実績は停滞傾向にある。このような状況下においても企業が本事業をより利用しやすくするために、99年度に債権保全の緩和等を行い、さらに、2000年度に金利体系の見直しを行った。その結果、2000年度の貸付実績は5件(4.8億円)、融資承諾実績は5件(6.7億円)であった(99年度の貸付実績は2件(2.0億円)、融資承諾実績は2件(1.3億円)) 。
 調査・技術指導業務については、2000年度は、調査団派遣が29件(2.7億円)、専門家派遣が43人(2.5億円)、研修員受入が20人(0.3億円)であった。

地域別実績


 99年度と同様、2000年度は、開発投融資業務、調査・技術指導業務とも、投資環境が比較的整備されているアジア地域が中心となっており、それに中南米地域が続いている。特に開発投融資業務の融資承諾実績については、4件がアジア地域、他の1件が中近東での案件となっている。

図表-144 開発投融資業務実績

開発投融資業務実績

図表-145 調査・技術指導業務実績

調査・技術指導業務実績


主要な具体的事業・案件名及び内容


 分野別にみると、開発投融資業務については、農林業のみであった99年度に対し、2000年度は、農林業、鉱工業、社会開発の3分野において実施された。
 2000年度に新規に融資承諾された案件としては、試験的事業では(1)ミャンマー「菊苗生産試験事業」、(2)タイ「花卉園芸栽培試験事業」、(3)ミャンマー「マングローブ造林試験事業」、(4)フィリピン「地熱坑井試掘試験事業」、(5)トルコ「構造物耐震補強試験事業」の5案件がある。
 (1)は、経済の停滞により特に貧困が進行しているミャンマー山間部において、生活安定のための換金作物の普及につながるものとして、高原部の冷涼な気候を利用した廉価で良質な菊の苗の生産・運搬の技術の確立を目指すものである。
 (2)は、カトレア、コチョウラン等の花卉園芸植物について、タイの気候等の条件に適した組織培養の生産技術を確立するための試験事業である。
 (3)は、減少するマングローブ林の保護育成を行うと同時に、今後の人口増加による薪炭の需要増加をにらみ、優良な木炭材を作ることを目的としたマングローブの造林試験事業である。
 (4)は、自国フィリピンの地下資源でありかつ二酸化炭素を排出しない地熱資源を利用した、地熱開発の事業化の可能性を判断するための試験事業であり、国産エネルギーによる自国の社会・経済の発展に寄与するものである。
 (5)は、地震国トルコにおいて、現地に適した安価かつ簡単な耐震補強手法の研究開発を行う試験事業である。


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