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第一回国際経済・金融システム研究会


【第二部】

<自由討議>

行天座長

 伊藤さんと篠原さんの話を聞かれておそらく皆様、それぞれのお立場で疑問に思われたところとか、若干違った意見を持たれていることとか、あるいはこれは非常に大事なことだと思いますけれども、同じアジアの危機の話をしていて、伊藤さんも最後に触れられましたけれども、これからどうしたらいいのかという点について皆様のお話を伺いたいと思うのですが。篠原さんがアジア基金の話をかなり具体的にされたわけで、これはいずれこの研究会でも具体的に話をしないといけないと思っております。
 私がお二人の話を聞いていて思いましたのは、確かにアジアの危機というのは国によって事情も違うし、その後の展開も変わってきたのですが、それにもかかわらずアジアに危機が起こった。しかも最初はインドネシア、マレーシア、タイ、韓国、これから中国の問題も大分、心配になってくると思います。アジアの問題になった。世界的にはそういう問題として受け止められているわけです。これからアジアをどうやって再活性化していくかということを考える場合に、やはりアジア経済危機の反省というのは非常に大事だろうと思います。どこをこれから変えていくのか、どこは守っていくのかというこれからの単に経済政策上の戦略であるのみならず、もっと広い意味で我々アジアの国の経済の運営全体、おそらくその中にはどうしても外交的な考え方も入って来ざるを得ないと思います。経済というのは決してそれだけ他から切り離しては考えられませんから。そういう点を今日一回の会合で結論を出すという意味ではなく、皆さんの感じ、つまりどんなところをこれから考えて議論していかなければいけないのかということについて、ご意見があれば是非伺いたいと思います。

吉冨委員

 実は宣伝になりますけれどもアジア開発銀行の研究所というのは危機の後の新しい発展のパラダイムというのはどうあるのだろうか、どうあるべきだろうか、would be, should be, could beというようなことを考えております。そういうときには金融市場の在り方、それから労働市場の在り方、それから生産物市場というのでしょうか。そして最後に為替市場と四つぐらいの市場を考えるとわかる。
 本当はソーシャルサービスというバンコックなど典型的ですけれども、アジアの最大のウィークポイントの一つはシティ-・プランニングがほとんどないと。クアラルンプールとシンガポールぐらいであとの都市は非常に混雑が激しい。こういうことも含めて本当はやりたいのですが、当面は経済問題なわけです。
 例えば次のような話を通産省の人から聞くわけですが、タイの場合、中小企業の振興を考えなくてはいけないのだけれども、中小企業は日本と同じようにクレジットクランチで金融機関がお金を貸してくれない。日本と同じだと思ったら大間違いで、日本の財投にいわば相当するようなタイの政府の中小企業金融公庫のようなものがお金を貸したがらない。なぜかというと借りる相手は、タイの小企業はブッキングしていない、つまり帳簿を持っていない。そういう話は実は昭和30年ごろの日本の話を聞きますとそういうところもあるのです。それで商工会議所などが中心となって、プリミティブな意味でのアカウンタントをちゃんと送ってそれから始める。タイの場合は伊藤先生はご存じでしょうけれども、この中小企業金融公庫に相当するようなものというのが、どうも90年代のごく初めにできた。その頃は軍政が終わっていて、いわゆるタイ並みのデモクラシーになっている。すると地域の利益を代表した政治家が、その公的金融機関を使ったと。それで相手は帳簿はなしと。したがって今日貸したお金は明日はデフォルトであると。似たようなことがずっと繰り返されていて、それで今、立て直さなければならない。それは危機の直後の半年ぐらいはそういうことまで回らなくて、金融のお掃除ということだけなのでしょうけれど、少しダストが収まってきた今ごろから、そういう日本のいい意味での経験、というのは中小企業というのはやはり経済の基礎ですし、ここで金融を付けながら、これからプロダクトマーケットにも行きますけれども、技術をどうやって教え込んでいくかとかです。それで労働市場にしても日本のような企業の中の労働市場。中でジョブ・ホッピングだけをするのがいいのではなくて、いい物を作るためには長期の雇用制度も必要だといったような日本の制度の持っているメリットをうまくトランスプラントできるようなことをするというのも先程、伊藤さんがおっしゃっていたインテレクチャルなコントリビューションの実務的なレベルでの非常に大きなものではないかと思います。こういうようなことを考えておりますのでご協力をお願い申し上げます。まだ一月しかやっていないものですからこれ以上考えられない。

行天座長

 今、吉冨さんがおっしゃたように、日本的な中小企業のお話でしたけれど、企業の発展のためにどのようなことをしたらいいかということについての経験とかノウハウというのは大変なものだと思いますね。けれども同時に少し私が心配なのは、日本で例えば中小企業の育成というようなことが戦後、非常に熱心に行われたし、それがある意味ではうまくいったんだろうと思うのですが、そういうものがうまくいった環境ということを考えまして、それと同じようないい環境が今の東アジアの国にあるのだろうか。それともそういう環境は今、かなりもう違ったものになっているので、必ずしも日本的なやり方を再び踏襲すればうまくいくというものではないのではないかという危惧もあるのですけれど。

吉冨委員

 当面の危機はこの間、行天さんのところで国際的なセミナーをやられましたね。そのときにタイの元の副首相、7月の頭まで金融関係、あるいは大蔵関係の副首相をなさったビラポンさん。私はたまたま大学でウォートンで落ち合ったもので。ビラポンさんが言っていたように企業間信用そのものが今、潰れてしまっているわけです。トヨタの第一次下請け、これは基本的に日本でしょうけれども、そういうコンポーネント・サプライヤーとの関係はまだいいとしても、土着の第三次、第四次、第五次という下請けのところでお互いにやっている企業間信用といったものが途切れてしまっている。回り回って今や金融機関の貸し出し残高のなんと43%が不良債権だというわけです。日本はこれはいくら計算しても10%ぐらいだと思いますけれども、43%になった経済と、10%ぐらいの不良債権の場合では、もう質的に意味が違うと思います。危機の深刻さの度合いが大変違って、信用という資本主義の根幹をなすところが途切れてしまっている経済。そこで一番やられているのが中小企業を立て直す。おそらく今、行天さんがおっしゃられた一つの深刻な問題だと思うのです。長期の話よりもこの3年以内に片付けなくてはいけない大きな問題だと思います。
 別途にそういうエマージェンシー・メジャーみたいのを考えておいたらと思いますね。それは先程言った長期のパラダイムを作ることとは矛盾はしないだろうと思います。それはそこで中小企業の現実を見て、今の問題を解決するときに20年、30年長持ちするような制度を同時に作っていくというようなことをしていけば、短期の解決と長期の解決が両立しますので。私はそう思っているのですけれども。

行天座長

 近藤さん、おたくなどはもちろんタイでもいろいろとやられているわけですが、危機の前と後をご覧になっていて一番強く感じられること、教訓というのか、将来の、こうしなければいかんな思われるようなことは何かございますか。

近藤委員

 日本がこれから協力出来る分野では、行政官の質をいかに向上させるかという問題があると思います。あそこの官庁には何回か行ったことがありますけれど、質的な問題があると感じます。官僚の養成技術を日本から移転出来ませんか。先程の中小企業、金融の分野も含めて総合的に検討してほしい気がします。その辺はわが国としてできることなのかもしれないと思います。勿論、日本でやってきたことがそのままタイで、あるいは他のアジアの国で当てはまるかどうかというのはまた別の話です。
 もう一つの問題は税制も含めた規制の整合性の欠如です。第一に、非常に規制の数が多いんですね。又、それら規制の適用についても政府側の対応の仕方に整合性を欠く場合が多い。これは個々の企業にとっては深刻な話なのです。

行天座長

 要するに一つは税制という、それもインフラですね、それが整備されていないということと、それを支えている行政官の人間的なというか、能力が非常に劣っていると。腐敗しているということも入っているわけですね。

近藤委員

 場所によってはそのようなこともある様です。

吉冨委員

 クオリティ・オブ・ガバメントというのが流行ってましてね、日本はたまたまクオリティがよかったのかもしれませんね。公務員だからお互い言いにくいですけれど。クオリティがひょっとしたら意外とよかったのかもしれません。

高村外相

 ガバメントには政治家も入っているんですか。

吉冨委員

 いえ、ビューロクラットです。

行天座長

 日本も似たような危機を被っているわけですからね。先程の伊藤さんの話を聞いてみて、アジアの問題と日本の問題というのはかなり似ているところがあります。あまり日本だけが偉いよということは言えないような気がします。

吉冨委員

 僕はその二つの相違を明らかにするということは非常に大事なことだと思います。発展段階が違うことからくる違いです。アジアの問題でもうんと違うのです。だからクローニズムとかいう言葉で、大括りのアングロ・アメリカン型で括ると同じように聞こえますけれども、実際に中身を調べていくと違いますよね。だって財閥みたいなものは日本にはなかったわけですから。韓国の場合とは違うとかね。

行天座長

 日本にも財閥があったんじゃない。

吉冨委員

 いや、戦前ですから。今の問題は戦前の財閥が起こしているわけではありませんから。  それは非常に研究に値することです。というのは金融市場の発達がどうなるかというときに、しばらくコマーシャルバンク中心に行かざるを得ないと思うのです。それはキャピタルマーケットと並立してもいいのですけれど、まだ今は発展段階です。アメリカでさえもコマーシャルバンキングが中心だったのは60年代の末までであったと考えていいぐらいだとしますとそういう国においておや。コマーシャルバンキングというのはまさに関係が重要なのです。リレーションシップというのが。そのリレーションと言うときにアメリカの商業銀行もアメリカの中小企業に対しては比較的長期の取引関係を持っているというリレーションズがあるし、日本のメインバンクがボロアーに対して持ったリレーションもあるし、それからタイのようなものとかインドネシアとか、あるいは韓国のような政府が非常に強く介在したようなリレーションシップもあるというわけですから。同じクローニズムと言うときの政府と銀行と企業との間のリレーションというのも質が違ったりマグニチュードが違ったりしますので、それはちゃんと調べたほうがいいのだろうというふうに思っています。

伊藤委員

 それもやはりタイとインドネシアと韓国でかなり程度は違うと思います。

吉冨委員

 ええ、まずはアジアと日本ので押さえればよかったのですが。それではどこで区別するのかというのは経済学者にお願いすることにしたいと思っております。

伊藤委員

 クローニズムとか汚職とかいう点で言うと、インドネシアというのは格段に違うと思う。そういう点で三つの国、あるいはマレーシアとかフィリピンを入れた、いわゆるアジアの国と括るようにするというのは非常に危険なことであり、その国それぞれを見ていかないとまずいと思うのですね。
 中小企業のことで先程のことに戻りますけれども、吉冨さんもおっしゃっられたように、通産省がいろいろがんばって支援をしてまして、元局長だった人をアドバイザーで最近、送り込んで中小企業支援のフレームワークを作るという作業を手伝っていたりします。先程の中小企業金融公庫みたいなところにも2年間JAICAの出向で一人、派遣しているというようなこともしています。これはかなりオールジャパンでタイを助けているというのはあると思うのです。こういうことを大切にしていかなければいけない。
 もっとやろうとすれば、先程言ったような帳簿がつけられないというところをどうするかと言うと、要するに経営指導員とか、あるいは中小企業診断士というような人達を、経営診断士で指導する、経営指導員を指導する人を日本から派遣する。日本でいっぱい余っているわけですよね、おそらくそういった人達が。そういう人達はどんどんタイに行って頂いて、タイの人を指導して頂くと。こんなことをどんどんやればいいと思うんですよね。それから日本ができることはいくらでもそういう意味ではあるのではないかと思います。

吉冨委員

 技術を持った中高年対策とアジアの技術援助とを結び付けられないんですかね。私は昔からそう思うのですけれど。

竹中委員

 通産省はそういう政策を持っていることは持っているわけですよね。ちょっと今の話しでいくつか説明したいのですけれども、先週ダボスのエコノミック・フォーラムに行ってまして、私は二日間だけで帰ってきたんですが、まあ経済戦略会議でどういう経済処方箋を書いているかということを話す目的で行ってきました。この中でも何人か向こうでお目にかかった方がおられるのですが、まあこれは皆さんもうご存じだと思うのですが、ゴア副大統領が演説の中でかなりの時間を日本に割いて、最後にこう言ったんですね。
 "Please Japan, we need your help." これは何を意味しているのか。二つあると。あるアメリカのエコノミストの解釈ですが、一つは日本の経済をしっかりと立て直せというのがもちろんあるわけで、それと同時にどう立て直しているのかというのを語ってくれというのがあるんですね。二番目がまさにさっき伊藤さんが言われた知的な貢献、これは吉冨さんも言われましたけれども、その知的な貢献で今回のテーマというのはまさにレスポンシブル・グロ-バリティということで、グローバリゼーションの中でも、いくつかの問題が出てきたのをどのように修正していったらいいだろうか。それに対して日本というのは少し違った経験がある筈なのにそういった知的な発信がないのではないだろうか。これはあるジャーナリストが言ったことですけれども、例えば関東大震災の後、日本は大震災の時の都市の災害はどのようなものであって、いかなる対策が有用であったかということを非常に立派な本にして知的に発信したらしいですね。これは後藤新平がそういう本を書いているらしいですが。バブルとは何であって、バブルの崩壊とは何であって、その時の政策は何であったのかというような知的な発信がやはり前もってあるべきだった。これはさっき伊藤さんが言った住専の処理が早かったからというのがまさにその問題だと思います。そうするとどうも必ず何か日本ではそういったグローバリズムなりマーケット・メカニズムなりに対して批判が出てくると、アメリカはそらみたことかと、私達には私達の道があるんだというような短絡思考になるわけですけれども、どうもわれわれはアジア的な方法とは何なのかという知的発信をしていない、そこが大変重要だと思います。それは何を意味するかというと、実はワールド・エコノミック・フォーラム自体が、これは外務省に重要な仕事になってくると思いますが、ある人が言ったのですが、これはIRであると、インベスターズ・リレーションであると、だから私達の国はこんなふうに立派にやっているんだということを言いに来るために、各国の首脳が皆、時間を割いてやってくる。日本は国会の制約等々でなかなかトップの方がお出になれないそうでありますけれども、IRの場というのを日本が持つというような、まさにこれはソフト・パワーだと思いますが、そういう大きな知的発信とかを含めた仕掛けをこういう場で議論できれば面白いのかなと思っております。

行天座長

 同感ですね。いわゆる国際世論というものはどうやってできてくるかというものを見ますと、必ずしも首脳とか大臣が集まった会議だけでできているのではなく、ダボスの会議も含めて、今は無数の国際会議があちこちでしょっちゅう開かれていて、そこへいろいろな人が集まって話をしている。そこへ出てきた人というのはいろいろな意見を聞いて、それぞれの国に帰って、それが自分の国での仕事の中でなんとなく生きてくるわけですから。世界的な有識者が集まって話をし合っているということが段々と濾されて、一つの国際的な世論になってきているような気がします。そもそもそういう場へ出て行って日本人としての考え方、あるいは日本としてのものの見方を言わないことには国際世論を作る材料の中にインプットが全然できないわけでしょうから、それは本当に大事なことだと思います。

山澤委員

 日本への投資という意識はごく最近始まったことです。私は今JETROというところとも関係しているのですが、ここではもっぱら日本の外国への投資、それから日本への輸入の促進を扱ってきた。日本への投資は去年ぐらいから始まったのです。対日投資という新しい課を作りました。しかし国のレベルよりも地域のレベルで関心が強いようです。
 JETROは日本中ほとんどの都道府県に経済情報センターを置いて、地域と外国を直接結びつける。お金はあまり使いませんけれどもっぱら情報を提供する。この地域のほうが大変熱心に外国企業の誘致をやっております。
 例えば徳島県が明石大橋というのができて阪神地区に大変に近くなったわけです。しかし賃金等のコスト条件がそれに追いついていませんから、今は進出条件がいいわけです。こういうことを宣伝して徳島に来てほしいと外国企業に対してやるわけです。日本の地方が誘致に積極的で、それに対応して外国企業が進出してくるということだろうと思います。私はそういう形で地域レベルの国際化を促進していくことが、まだまだ日本に残っているエネルギーを使うことになるのではないかと思う。

行天座長

 最近は海外、特にアメリカやヨーロッパの企業が日本の特に高い技術をも持った中小企業に非常に関心を持つようになりまして、彼らはもちろん最終的には合弁を作るなり、あるいは買収するなり、そういうことを狙っているわけでしょうけれども。そういう形で海外の企業の日本の、東京だけではなくて、地方に現に存在して大変優れた仕事をしている企業に対する関心、投資というものは随分と増えてきました。

山澤委員

 おそらく成功しているのは各府県で平均して二つ、三つから五つという数字でしょうか。

行天座長

 まだ日本の企業などが特にアジアなどに出る場合に、そういう形の進出意欲というのはないわけでしょうね。つまり既にある現地の企業の何かいいところを見出して、それをその企業の国際的な戦略の中で活用していけるのではないか、だから進出するのだというような。

山澤委員

 日本の企業というのは典型的にグリーンフィールド、新規投資でございまして、なかなか現地の企業を買収してというようにはならない。

行天座長

 まあもっぱら特にアジアではまず労働力でしょうね。

小島委員

 今のお話と関連しまして、アジアの発展問題というふうに言いますけれど、日本の発展モデルと決定的に違う一点がある。それは日本は海外からの直接投資、投資したいという国がたくさんあったときに徹底的に排除してきたわけです。今になってほしいと言ったって来るわけがない。それほどまで排除に成功した。ところがアジアはこの15年、20年、とにかくオープンにして、入れて入れて、それで動き出したという点は基本的に違うところなのです。韓国は日本の真似を全部したらどうして失敗するのだと怒っている。

浦田委員

 戦前にはかなり外資が入っていた。自動車や電機がそうです。外資によって技術や資本が入ってきて、その後、追い出すわけです。追い出したことによってその技術が地元の企業あるいは社会に蓄積されていく。結果的に見れば経済発展という意味では非常に都合がよかったと思うのです。しかし韓国では前段階がなくて最初から外資を排除していたわけですからそこが日本と決定的に違う。

小島委員

 一つ皮肉な見方をしますとね、今、世界ですべての国が一つの対象を考えなくてはいけない。そういう中でアジアの危機というのは、今、アジアで一番恵まれた国々に危機が起こったわけです。グローバル化が進み、市場化が進みというときに、おっしゃるとおり民間資本が中心だったわけです。民間は損するところには行かない。儲かると思っている、可能性のあるところに行くのです。最初からこの国には可能性がないと言ったら完全に最初から投資対象として排除されてしまうわけです。そういうところには投資ブームもないし、バブルも起こらない。従って今回、その反動を食らった危機もない。

行天座長

 フィリピンなどはそうだ。

小島委員

 どの過程でも波がなくて一番底辺でもがいている地域、中央アジアとかアフリカ全体、そういうところもある程度議論しなければいけないということかもしれないですね。これだけバブルがあって、アジアの危機、数カ国だけですよね。これはむしろ危機が起こるところまでレベルが高くなったことで、ハッピーなことかもしれない。

行天座長

 まさに今度のアジアの経済危機というのは10年前、20年前のアジアの奇跡というものと完全に結びついているわけですから。片一方だけを取り上げて議論するわけにはいかない。そこでまさにいったいそれではこれからどうするという話になるのだろうと思うのですが。先程のお話に出ているいろいろなクローニズムとか、あるいは金融が不備だったとかという話は、そのこと自体はこの10年で起こった話ではないわけです。まさにアジアの奇跡が揚々と行われていた時期にそういうものがあった。しかもと言うか、にもかかわらずと言うか、それゆえにこそと言うのか、アジアの奇跡があったわけだから。何が過去のああいうすべての長所というもの、メリットをなくしてしまったのか。

吉冨委員

 金融です。資本主義の不安定の要因は全部、金融です。良い悪いというのではないですよ。どうマネージするかという話をするために言っているわけです。

伊藤委員

 タイの場合にはあきらかに金融の自由化というのが金融機関の衰退性を招いたというのは明らかだと思います。インドネシアの場合は金融の自由化は20年前ですから、それがなぜ今ごろ裏目に出るのか、この20年間は何だったのかという問題は残ります。やはり国によって違うのです。

下村委員

 国によって違うのでそこは国別の事例研究の蓄積が重要だと思います。システムの話で言うと、私が先程の伊藤先生のお話であらためて痛感しますのは、最近の国際経済システムはうまくいっているときはいいけれど、何か少し問題が起きるとガタガタとおかしくなる。つまりシステムがフェイル・セイフになっていないのです。一番うまくいったときの最適配分とか最大の利益とかだけを追っかけて構築されたシステムですから、マックス・マックスと言いますか、そういうふうになってますので。ミニ・マックスでもマックス・ミニでもいいのですけれど、何か起きたときに被害を最小限に食い止めるとか、あるいは悪くなったときでも一番うまくいくようにしようとか、そういう仕組みがもう一つないと。そこをIMFとか新しい何かファンドとかで食い止めるということもありましょうけれども、やはり何か知恵をしぼらなくてはいけない。いっぺんにガタガタいかないための一番原始的なシステムというのは、おそらく中を仕切っておくということで、だから中国とか今のマレーシアとか仕切られているところは被害を受けない訳ですけれども、あまり仕切りすぎるとうまくいかなくなるわけですから。政策が悪かったから、金融が脆弱だったからうまくいかなかったと言っていたら、途上国相手に絶対うまくいかないと思うのです。それがうまくいかないから途上国であり、エマージング・マーケットですから。やはり完全を狙ったり最大を狙ったりしないで、何かうまくいかなかったときでも最小限に食い止めるという考えでシステムを構築しなおさないと、あるいは修復しないとまずいのではないかと思います。

茂木委員

 一つ質問させて頂きます。門外漢の質問で多分、相当ピントがはずれるのではないかと思います。今、20年前からインドネシアは自由化したというお話がございましたが、この20年の間に、私は詳しいことはわかりませんので、いろいろな方のお話を聞いたり新聞を読んで私が受けている印象ですから、違っていたらご訂正頂きたいのですけれども、例えば金融の中で、ものすごく大きな違いが起きているのではないかと思うのです。というのは、今日、確か実物経済の取引の30倍とも40倍とも言われるような金融取引が世界中を瞬時にして駆け巡っているというような状況だそうですが。私などにはなぜそのようなことができるのか不思議で仕方ないくらいの感じなのですけれども。20年前にはおそらくそういうことはなかったのではないかと。いつごろから起きてきたのかという問題ですね。そしてそれがどういう変化を遂げてきて、国際経済システムの安定化、あるいは非安定化にどういうインパクトを与えているのかということを、もう少し是非この機会に皆さん方からご教示頂きたいと思います。
 今日の冒頭の高村大臣、それから行天理事長のお話の中に非常に重要な示唆が含まれているように私には受け取れたのですが、何かその国内にしろ国際システムにしても経済システムを考える際に、振り子の振れ過ぎみたいな議論が起きているのではないか。市場原理が少し行き過ぎたというようなお話がありましたね。どうもそういうことがあるのではないか。それから金融にしても貨幣の流通量にしても、よく経済の血液に例えられるわけですが、こんなに血が増えたら人間なら脳出血を起こしてどうにかなってしまうと。果たしてそういうことが自由に放置されているのが、創意工夫でそういうものがどんどん考案されていくことが本当にいいのかどうか、是非その辺について勉強させて頂きたいと思います。

楠川委員

 とにかく、国際的に金融資産が非常に大きくなって行ったのには、戦争がなくて、破壊もなくて、富が貯りに貯っていったという背景があると思います。
 それは別にしまして、最近感じていることは、G3の論理を世界に持ち出すときには、すこし注意する必要があるのではないか、ということです。アジアの場合、G3のマーケットで行われている論理をそのままレクチャーされ、それを鵜呑みにしたところに非常に問題があった。そのレクチャーがひどい結果を齎したものだから、IMFとか財務省とかは何をやっているのだ、ワシントンのコンセンサスだけで、我々を説教しているが、実はアジアのことを何も知らないで口ばかり出しているではないか、ということです。お金は出さないで口ばかり出しているという感じですね。今回クアラルンプールのAPEC会議の折、日本と米国とIMF、ADBで合意した50億ドルの借款供与も、ややワシントン・コンセンサスの匂が強いように思います。というのは、結局その中で出てくるコンディショナリーが、かつてIMFがインドネシアに出していたものとあんまり変わっていない。そんなものを、またここでアメリカが出して来て、本当にそれでよいのか。これはやはり日本あたりが発言して調整しなければいけないのではないか、と私は思います。
 それからもう一つの問題は高い貯蓄率をもっているアジアの国は今後その使い方を良く考えてみる必要がある。いままでのように高い成長志向のために使い切ってしまうのではなく、成長志向そのものをひん曲げていかないといけない、ということがあるだろうと思います。

行天座長

 ひん曲げていかなければならないというのは、それを捨てなければということですか。

楠川委員

 成長率を下げろ、ということです。日本だって、今は2%ぐらいで丁度良いといっているが、かつては2%といえば皆が低すぎると言って目をむいていた時代があったわけです。こうなるまでに、時間が掛かりましたけれど、同じようなことがアジアについても言えるのではないでしょうか。そういうことで新しい対応が出てくると、おそらく貯蓄率というものが、もっと違った意味をもってくるようになるのではないでしょうか。
 それから最近の話ですが、クローニズムについてドイツの連中が、クローニズムってあれはエリート集団のことだろうと。エリートとクローニ-というのはひょっとしたら同じかもしれない。ジャパン・インコーポレーテッドだって政、官、財の鉄の三角形は、一つのクローニズムだったのかもしれない。特に東南アジアの場合は、彼等の開発主義があるわけだから、それに係わっている人達にいろいろな人がいることは、頭にいれておかなければならない、と。
 もう一つ、このごろ出てきた議論で、今のアジア危機の問題の中心は、民間のデット(債務)だということです。民間のデットに対する解決方法というのは、最終的にはデット・エクイティー・スワップのような資金の出資金への振替しかないのではないかと思います。そのための各国の法的整備が非常に遅れていることは問題だと思います。なんですか、タイは今回、関係の法改正が議会を通ったという話ですが。

伊藤委員

 まだです。上院を通らなかったんです。

楠川委員

 そうですか、やはり。
 こういうことをやったらいいということは分かっていても、実際には動かない。そこで出てくるのは、先程のお話にあったように、法律の整備と、それに加えて法律の実務家の養成などが必要なのですが、そのためには国際的なコンセンサスをつくって攻めて行った方がいいのではないか、と思います。
 先程、IMFがレンダー・オブ・ラースト・レゾートになれないか、というお話がありましたが、IMFの方では、国際的な破産法が存在しない以上、この話は潰れてしまうという見方です。そうなると、どうも議論が拡散して収集しにくくなる恐れがあるように感じます。

岡本委員

 どうしてアジアかというと、世界経済崩壊以降、構造的に変わってしまったんだと思うのですけどね。それは、物作り経済というのが、ヒットされているということではないかと思う。中国、ベトナムが入り、旧ソ連、東欧が入り、市場経済が一挙に拡大した。今までは外資に対して敵対的であったインドとかインドネシアもいっせいに門戸を広げ始めて、市場経済が人口規模で2倍、3倍に広がってしまった結果、しかも低賃金国家ですから非常に安価なものが世界中にあふれ始めている。ということはデフレが世界経済にビルトインするような格好になってきてるんですね。
 私はアメリカの経済を見ているのですけれども、92年位から生産性がジャンプして、つまり物作り経済からサービス経済へ変わってしまった。どうもアメリカだけは物作り経済を含む世界的なデフレ傾向をうまく逃げだしてしまって先に行っている。となりますと、一番そこでやられるのはアジアであって。伊藤先生も大変きれいなご説明なのですけれども、一つ一つをお伺いすればなるほどと思うのですが、それでは誤った政策とか、インドネシアのキャピタル・フライトが元へ戻るならいいのか。構造的なことを考えるとアジアの今までの経済の没落は、よほど構造的な転換をしないと不可逆的でないかという気がしているのですが、そのあたりはどうなのですか。

伊藤委員

 まあ世界的な比較優位の話ですから、下から物作りをするところが出てくれば、上にいるところはハイテク化するしかないわけです。今の議論をもし正しいとすれば、日本が物を作ってはいけない、日本は情報化して、鉄鋼でも何でも全部作るのをやめてアジアに渡せ。そうすれば世界調和を保つにはうまくいく。

岡本委員

 そういうことを申し上げているのではなくて、物作りの中でも、生産性の非常に上がっているところと上がってきてないところとかあって。その間にかなり労働生産性の差が出てきている。物作りでも情報通信化の流れというものを取り入れていかないとデフレ化に勝てない。

伊藤委員

 情報通信の問題というのは日本にとっては確かにそうですけれども、アジアは情報通信化が遅れたからアジア通貨危機が起きたとは思えないんですね。そういう意味では世界経済全体の流れとしては確かにそういうことは重要なのだけれども、もしそれが一番インパクトが大きいとすれば日本とかヨーロッパとかその辺で、どうしてアメリカに追いつかれてしまったのかという意味では今の話は意味のあることだと思います。
 アジアの中では物作りは物作りで階段をどんどん皆、登ってきたわけですから、下から ベトナムや中国が追いかけてきたときに、タイが階段を登りそこなったというので多少、均質化をしたというので説明は成り立つと思いますが。

行天座長

 岡本さんが今、言っておられた情報通信技術を例えば物作りの中に取り込むということで思いついたのですが、アジアの場合、確かにアジアの物作りの段階というのはまだ情報通信技術を議論する段階ではないのでしょう。
 ただ情報化の時代に何が起こったかというのは情報が非常に共有されて、今まで知らしむべからず卑しむべしと言われていた納税者にしても消費者にしても株主にしても、その連中が皆ある意味では目覚めてしまったわけでしょう。本来ならばそういう情報化によってもたらされたことに対して、政府なり企業なりというものは十分対応していなければいけなかったという面はあったのだと思う。それが日本の場合もアジアの場合も遅れていたと私は思う。その意味では情報化時代への対応の遅れというのはアジアの場合、私は共通した問題の一つであったような気がします。

竹中委員

 今のお話と関連するのですけれど、金融の話と情報化の話。もう一つはアジア的な経済構造というふうに考えると、私は次のように思うのです。
 よくアメリカの政治学者が日本の構造を批判するときによく使ってきた言葉で、パターン化されたプロラリズムという言葉があります。パターンド・プロラリズム。要するにプロラリズムというのは多元主義ですから、経済における多元主義というのは、高く売りたい人と安く買いたい人がいてマーケットが成立する。政治における多元主義というのはあるものに賛成する人と反対する人がいるのが当たり前で、これが民主主義的なものだ。民主主義と市場経済というのが彼らの言う多元主義。日本はまさしくそれだけれども、部分的にそうではないところがある。それがパターン化されたプロラリズムという日本の批判だったと思うのです。
 実はアジアの経済というのはまさにそれだったわけです。例えば外国為替市場においてはドルにリンクされているから、これは多元主義ではないわけです。つまり市場メカニズムが働かないわけです。インドネシアにおいては政治が自由ではなかった。韓国においては財閥という非常に歪んだ、自由競争が阻害された部分があって、そこがやはり結果的に見ると問題を起こしている。日本でも実は金融が問題を起こしたのは競争の原理が働かない、多元主義ではなかったということになる。そういう問題から言うと、それでは今までだってそうだったのにどうして急になったのだということになる。それはまさに情報だと思うのです。情報がこれだけいろいろな手段になると、いわゆるウイナー・テイク・オールになって、要するに勝つところが圧倒的に勝つようになって、いいところは圧倒的にいいと皆が思うようになり、それで資金の移動が起きる。それを助長するように金融技術が画期的に変わってしまった。これは私の同僚の池尾和人さんが、よく言うところですが、 かつての金融というのは少し訓練すればできる自動車の運転みたいだったけれど、今はジェット機の操縦と同じで普通の人は手が出せない。そうすると金融技術の革新、情報化がパターンド・プロラリズムになる。そこで処方箋としては二つ出るわけです。もっと徹底したプロラリズムにしろと。それを徹底すれば多分、ワシントン・コンセンサスに基づくIMF的な処方箋になるし、そうではなく徹底的にもうそこへ排除しよう、中国を無碍にしてしまえ、というふうにいくとそれはそれで見かけ上は安定するということだと思う。多分、真理はその中間にあって両極端なことはできない。アメリカだってそんな観念型多元主義ではないからこそLTCMみたいなものが起こってきたわけです。そうするとおそらく多元主義を前提としながらも、特に発展途上国の場合はどういう順番でやるかというところが問題になってきて、多分、日本が貢献できるのはそういうところの知的発信になってくるのだと思います。

山澤委員

 その情報に第三番目の道として多元主義を持ち込んだらどうですか。一つの情報だけ流すからウイナー・テイク・オールになるので、いろいろな情報を流せばいいわけでしょう。

竹中委員

 そのために多分、大場さんのところはムーディーズを格付けするというようなことをやって、その競争をやろうと。それも一つの方法だと思います。
 ただ現実問題としては、特に知的な問題になってくると、圧倒的にいいところがあります。例えばハーバード大学には皆、行きたいと思うわけです。そういう知的なもの、教育などはその典型だと思うのですけれど、どうも一人勝ちになってしまうということは、そういうことをやってもなかなか止めにくいものがあるということではないでしょうか。

山澤委員

 今日は初回ですから、後で事務局がこれからの計画を立てられるのだと思いますが、それのアドバイスとして篠原さんのおっしゃったことを是非、生かして頂きたい。
 アジア危機でアジアに対する見方が非常に揺れてきました。先程のお話では危機が起こってから三つぐらいの段階で変化してきたと。危機の前の例の東アジアの奇跡というところから見ると大変な逆転ですよね。しかし今は明らかに揺れ過ぎているわけですね。篠原さんが言われた高い貯蓄率であり、勤勉であり、大変に向上心が強い。これはアジアの利点なわけです。アジアの奇跡というものをもう一度見直して、一体どこが本当に良くてどこが悪かったのかということをきちっと整理する必要があるのではないでしょうか。
 例の世銀のアジアの奇跡のレポートはある程度、慎重な見方が入っているとは言いながら、やはり全般的に誉め上げているところで、おそらく弱かったところも誉めていると思うのですね。それを整理して本当にアジアの強い点というのはどこなのか、その利点を生かすことがアジアの再生の方向だと思うのです。それがどちらの方向なのか。おそらく先程からいろいろ出ている物作りということになるのでしょうが、そういうことを打ち出すのがこの研究会の一つのコントリビューションになるのではないでしょうか。
 竹中さんの委員会の話だと、日本が成長率で他の国をインプレスするにはまだまだ時間が掛かりそうですから、せいぜいインテレクチャル・コントリビューションということでしばらく時間を稼ぐというのはいかかでしょう。

行天座長

 インテレクチャル・コントリビューションというのは本当に大事なことだと思いますね。ただ別に水を差すわけではないのですけれど、竹中さんが言ったようにその分野ですら勝てば官軍的な状況というのは起こっていると思うのです。先程から例えば中小企業の会計の問題だとか、経営の問題だとかをもっとやったらいいではないかと。しかし本当にそれでは日本的な会計なり法律制度なりが今アジアの人たちが一番求めているものなのかということになると、かなり疑問があるのではないですか。

吉冨委員

 そうであるところもあるし、そうでないところもありますね。それは日本的なものを輸入することが目的なのではなくて、解決には何が一番いいかと考えればいいわけですから。何になってもいいのではないですか。それが本当のプロラリズムですよね。
 中小企業などはおそらくアングロ・アメリカンの人々はあまり興味を持たない分野であることは事実ですし、しかし重要であることは事実ですし、日本がノウハウを持っていれば組み合わせればいいと言っているだけで、全部、日本式にしろなどど言うのは一番間違っているのではないでしょうか。
 物作りというのも、それだけでもだめだと思いますけどね。コア・コンピュータンスを作りたいというのはわかりますけれど、一つだけに凝り固まらないほうがいいのではないですか。何でもいいものは取り入れるというのがアジアだったのでは。

吉冨委員

 どんなにオープンでも、どんなにうまくやっても資本主義というのは金融が荒れるというのが本当のニュー・ケインジアンが言っているところですから。先程、茂木さんがおっしゃったご質問も、私の本に少し書きましたけれども、通常、資本の移動と言うと国際収支を見て、国際収支上、経常収支の裏側なのです。ところが85年以降はまさにデリバティブが異常に発達したために、往復がものすごく多くなったわけです。往復が多いのをグロスを呼んでいますけれど、ネットというのは国際収支ですから結局は経常収支の赤字・黒字の範囲内でしかネットの資本収支は動けないわけです。ネットというのはGDP比でせいぜい2~3%なのです。だから85年までのネットの資本の動きはその程度。往復のものも大体それより少し大きいぐらいだったのですが、今はネットは依然としてそのぐらいのものですが、グロスの資本の動きというのはGDP比で8%か9%になっているわけです。これは全部ここ15年ぐらいの話で、先程のIT革命と密接な関係があるわけです。IT革命というのはなんということはなくていろいろな要素を先ず分解する。リスクをいろいろなものに分けて再構築する。モジュール化すると我々は言っていますがけれど。それはITの世界の基本ですから。それが発達して金融の中に取り込まれてデリバティブが出てきたわけです。それイコール投機だと、取引が大きいから投機だと言うのも私は学問的には正しくないと思います。むしろその行動を見なければいけないわけで。ではLTCMは何をやったのかと言うと、あれは本当に投機だったのか、どういう意味で投機だったのかというのはすごく論争のあるところです。しかし最終にはファイナンスというのはどんなにうまくやってもだめ。先程のようにトランスペアレンシー、情報を渡せばいいか。よくスティグリッツが言いますけれども「スウェーデンを見ろと。あんなにトランスペアレントのところはないけれども、GDPの8%もの公的資金を使ったではないか」と。この金融というのはずっと悩んできているわけです。金融が入ると実物だけでは説明できない、すごいダウンワード・スパイラルが働くということも事実なのです。アメリカの大恐慌然り、今度の日本然り、先程のタイが然りなわけです。これは遅れているからそうなるという要素のところと、うんと発達していてもそうなるところもあるということを含めて 、how to manage を考えなくてはいけないということなのです。だからファイナンスは得意ではないから止めて物作りに行くとか、そういうのではないと思いますね、今からの時代は。両方マネージしていかないといけない。もっと度量を大きく持ったほうがいいのでは ないですか。

小島委員

 ジョージ・ソロスがウイナー・テイク・オールをやったんだけど、失敗したら急に規制しろと。だから泥棒に入って戸締りが悪いと文句を言っているような感じですね。

小川委員

 やはり規制というネットをどう作るかということだと思うのです。それからコストがかかるということを意識して作らなくてはいけないのではないかなというのは、先程、伊藤先生がIMF側が最後の貸し手になるべきかと言ったけれど、なり得るかという問題もやはりあって、IMFの限界というのはファンドでやっているので、無限には貨幣を出せない、中央銀行ではない、そういう意味ではセーフティー・ネットあるいは最後の貸し手になり得るのかという問題もあります。それを地域的に確立していくというは一つの意味合いがあるのではないかと。

近藤委員

 セーフティー・ネットの場合に最大の問題はモラル・ハザードなのです。借り手も貸し手も、これはもう安心だと言うようなものであった場合には、やはりその適用に当たってはコンディショナリティーの履行を迫るメカニズムが必要です。IMFでもサーベイランスをやっているのだけれど守られていない。守られていないけれど、それには制裁はないし、いざとなったら最後の責任は貸し手にあるのだということではどうしてもモラル・ハザードの問題が起こる。これは先程の問題提起の中のリーズナブルな担保の話に繋がる。要するにどうコンディショナリティ-に強制力をつけていくのかという問題を真剣にこれから議論する必要がある。

浦田委員

 確かに日本の中小企業政策は、50年代、60年代において成功したと思います。それが今のアジアに非常に有益な示唆を与えると思うのですが、もう一方で台湾の経験はもう一つの可能性を示唆しています。台湾というのはご存じのように中小企業が経済の大部分を占めるわけで、最近少し景気がよくないみたいですけれど、一応危機は逃れました。日本の中小企業が、公的な支援を受けて発展したのに対して、180度違うような形で中小企業が育っていったのが台湾なのです。ですからどういうような中小企業に対する対処の仕方が今のアジアに好ましいか。確かに今は危機ですから公的な支援というのが必要なのでしょうけれど。それが克服された後に果たして日本的な中小企業支援策がまだ有効なのか、あるいは台湾型で中小企業を発展させていくのが有効なのかというのは、もう少し検討してみなければいけないと思います。
 中小企業と言うと日本とかアジアという話がすぐに出てくるのですけれど、実はそうではなくて、ヨーロッパの多くの国々で中小企業が非常に大きな位置を占めています。中小企業と言うと日本の独壇場という感じがするのですがそうではない。アメリカも少し違う視点からだと思うのですけれども、非常に中小企業に興味を持っていて、支援はしているわけです。直接に融資はしませんけれども保証というような形でかなり支援していますし、アメリカ政府は人的な支援もかなりしているわけです。実はこれがアメリカの好況の一つの原因ではないか。生産性について先程お話がありましたが、僕の記憶ですとアメリカの生産性は最近それほど上がっていない。そこでなぜこれだけうまく経済がいっているかと言うと、中小企業の数が増えているからであるという見方があります。
 少し話が飛びましたが、中小企業の話をするときには、日本的な中小企業政策だけを考えることが多いのですが、実はそうではなくて、いろいろなアプローチの仕方があり、その中でもっとも適切なものをアジアに対して支援していくということが重要ではないかと思います。

行天座長

 まさに今の話になると、長谷川さん、いかがですか。

長谷川委員

 仕事をしている者から話を聞くと、我々が元気になればおそらくアジアも元気になるのだろうと自負しているわけですけれど。今からお話しすることは、ややもすると誤解されて「お前たちは保護主義ではないか」「規制論者ではないか」と言われるかもしれませんが、私が今、いろいろと仕事をして、アジアを活性化するにはどうしたらいいかといろいろ考えています。
 いろいろなところで議論され尽くしていますが、まずは為替の安定です。これは固定相場にして頂くか、管理フロートにして頂けば、それだけで我々製造業はすごく仕事がやり易い。これは私がある国際会議でアメリカの製造業であるユナイテッド・テクノロジーとかイートンと議論したらまったく我々と同じ意見です。そういう意味で必ずしも日本だけが、あるいは我々だけがそう思っているとは思いません。
 それから資金コストの安定。これは為替に次いで頭が痛い。できれば低くして頂く。今、アジアは中小企業も含めて何が困っているかと言うと、金がない。会社というのは金さえあれば絶対に倒産しませんから。ところがそれがなくなってしまった訳です。ですから健全な企業も今、倒産しています。そのために我々は何をしているかと言いますと、増資対応したり、ダイレクト・ローンを出したり、あるいは支払い期間を猶予したり、いろんなことをやっています。そこで是非お願いしたいのは、やはり増資等のしやすい環境、これはひとつにはエクイティ・スワップというのもありますけれども、日本の銀行さんはあまりこういうことを好まない。むしろ当面の問題として解消した方がいいという考え方のようですけれど、このためにアジア版のIFCのような会社を作って頂いて、IFCのようにあまりコマーシャルリズムに乗りすぎてない、どちらかと言えば支援型のIFCのようなものを作って、とにかく取りあえず債権を買って、エクイティにして、何年か経ったら ある条件で売りますよと。その時は現地の政府と話し合って頂いて、そういったもの対しては免税措置を取るとか、いろんな方法があると思いますので、こういうようなことを考えて頂くと我々は大変ありがたいですね。
 そういう中で中小企業に対しては、今、お話にあった通り、いろいろな中小企業があります。スーパー・マーケット・アイテムスを売っているような中小企業もありますし、我々のような企業と一緒に仕事をしてくれているような中小企業もありますから、一概に言えませんが、やはりアジアで見てますと、親会社がしっかりしてないと中小会社はダメだろうと思いますね。我々親会社も今、アップアップですので、先程言ったような為替の安定、資金コストの安定化、これが私は大変重要だと思います。
 私、仕事を通じていろんなアジアの人と付き合って参りましたが、クローニズムという問題についていろいろあると感じます。ある時、私言ったのですけれども、金持ちにもいい金持ちと悪い金持ちといろいろある。金持ちがいなかったら困るじゃないかと。現実に金持ちも余裕が出ればいい金持ちになる筈だと。
 適度な規制は必要ですが、そこを突きすぎると自由に伸びていくものも伸びなくなるのではないかと思います。
 ちょっと極端ですけれど、仕事を通じて感じたことを二、三述べさせて頂きました。

行天座長

 ありがとうございました。
 今日は第一回目であったにもかかわらず、大臣にも最後まで話しを聞いていて頂いて、委員の皆様方から、学問的側面から、あるいは実務的側面から、あるいは評論家的側面から、多彩なご意見を頂いて、面白かったと思います。
 やはり感じますのは、アジアの経済危機の経験を将来に活かすためには、やっぱりある意味での総括は必要であろうと思います。その総括の中から一体、何がウェント・ロングであり、何が生きなければならないかということを考えなければいけない。その上に立って、今日は本当にうれしかったのは、非常に具体的な話しがいろいろと出てきました、将来について。そういう問題を含めて研究会の報告の中に活かしていければよろしいかなと思っておる次第です。



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