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日時:1999年12月21日 8:00~10:00
場所:帝国ホテル「竹の間」
【第一部】 <基調報告>
行天座長
お忙しいところをありがとうございます。おかげさまでというか、いよいよこの研究会も、実質的に本日が最終回ということになりました。本日はご案内のとおり、前回までに委員の皆様方からそれぞれのテーマにつきまして、大変実のあるお話を伺ったわけでございますけれども、いわばそれの総括報告という形で、吉冨委員と近藤委員のお2人から、「求められる今後の国際経済・金融システムと日本の貢献」という、この研究会のテーマの中で、総括的なお話をお伺いしたいと思います。その後で、皆様のご意見、ご質問等々を例によって伺って、最後に、来年にかけて皆様方からご報告を書いていただく件について、ご相談、お願いを申し上げたいと思っております。
それでは早速でございますけれども、先ず吉冨委員からよろしくお願いします。
基調報告
吉冨委員「アジア金融危機と国際金融システム」関心事は、やはりアジア危機と国際金融システムとの関連だと思いますので、2つの項目に絞りました。
最初にアジア危機の捉え方ですけれども、僣越ですが、私自身が1年前に書いた本の中の資本収支危機、それからアジア経済研究所で大野教授とさらに一緒にやって、英語にまとめた「キャピタル・アカウント・クライシス・アンド・クレジット・コントラクション」というのがあります。危機の特質は、これまでの経常収支危機とは違って資本収支危機であると。その特徴は何かというと、経常収支危機というのはご存じのように、コンベンショナルなマクロ・エコノミック・ファクターが悪い時に起こったものと。コンベンショナルというのは、インフレ、財政赤字、それから貯蓄率の低さといったところに表れているわけですから、経済学的に考えても、それはすぐ経常収支の大きな赤字をもたらして、アンサステーナブルになるというのは分かります。
私もIMFで4年ほど働きましたけれども、そういう国々が大半で、当時の資本移動はほとんどなくて、経常収支の赤字が大きいとファイナンスができなくなって、IMFに駆け込んで、コンディショナリティは、今言った3つの悪いマクロ経済変数の是正のための経済政策と、インフレ抑制、財政再建、金融構造の改革、したがって貯蓄率の上昇、実質金利の上昇とか、そういうことであります。
ところがそういう条件をすべて満たしていて、かつ30年前後にわたって8%前後の高成長を続けてきたアジアの4つの国が、危機のコアだというわけですから、通俗的な意味での、コンベンショナルな意味での経常収支危機とは全く違ったものだと。やや冗談風に言いますと、国際収支というのは、経常収支と資本収支からしかなっておりませんので、経常収支危機でなければ、あとは資本収支危機であるということで、これは資本収支危機というふうに考えたら、まず分かりやすいわけです。
その内容は2つあって、1つは大量に資本が流入してきたと。大量の意味は、その国のアンダーラインが趨勢的な経常収支の赤字を上回る大きさで入ってきたという、マクロ経済的な現象であります。これはマクロ的に非常に意味を持ちまして、当然事実上の固定相場制のもとでは、国際収支全体が黒字になりますから、リザーブが累積していきます。そのリザーブが十分溜まっているという時に、こういう危機が起こったわけですけれども、そのリザーブが増えるということの裏側は、マネーサプライが増える、したがってまた銀行信用も増えるというので、そういったマクロ的な現象が、その当時の韓国の製造業の設備投資の循環上のピーク、それからタイもそういう循環上のピークとぶつかりまして、図式化していうと、既に貯蓄率がGDPの30%以上もあるところへ、こういういわば追加的な資金が入ってきて、それがその当時の景気循環上のピークの、いろいろなエクセス・インベストメントをファイナンスしてしまったというのが、マクロ経済的な現象であります。
そのプロセスで非常におもしろいのは、今でも議論になりますけれども、為替レートがオーバー・バリュエーションになっていたので経常収支が赤字になって、それが危機のきっかけではないかという説が非常に多いんですけれども、我々はそれは全く間違っている説ではないかという説であります。オーバー・バリエーションになるのは当たり前でして、それだけ資本が入ってきているわけですから、変動相場制にするともっと、そのリザーブが溜まった分だけと考えていいぐらいに、為替レートは切り上がっていたはずで、その結果、経常収支の赤字はもっと大きくなっていたはずといってもよろしいわけです。その後、それは訂正されていくわけですけれども、要するに国際収支論としては極めて当たり前なことで、変動相場制であろうと固定相場制であろうと、国際収支全体が黒字になるほど資本が入ってきている時には、国内のマネーサプライの増加を通してアブソープションが高まるか、あるいは為替レートが切り上がって、競争力を脅かして、結果的には経常収支は赤字になって、資本収支の黒字に均衡するように、経常収支の赤字が大きくなっていくというメカニズムが、何らかの形で働くということでありますから、根源はすべてそういう大量の資本流入にあったと。
なぜその資本流入があったかというのが大問題になるわけですが、それが第2の特徴で、今度はそれをコンポジションで見ていくと、銀行資金を中心に、短資で入ってきていたということであります。平均を取ると7割ぐらいが短資であったということで、これは90年代の特徴ですが。それで、その流れていった先というのは、金融機関を通した現地の企業のボローワーということで、言うところのミスマッチが発生するということになります。ミスマッチというのはダブル・ミスマッチでありまして、商業銀行に特有なマチュリティ・ミスマッチが、非常に拡大された形になると。それからカレンシー・ミスマッチ、ドルで借りて現地通貨建てで使うと。銀行自身がそういうことを直接するということは少なかったにしても、結果は同じでありまして、ボローワーがそういうダブル・ミスマッチを起こして、マーケット・リスクが結局金融機関のバランスシートの悪化を招くという構図は、全体を捉えてみれば同じであります。
そういうシクリカルがピークの時と、マチュリティ・ミスマッチでバランスシートの潜在的な要因が悪いところへ、景気循環上のピークから利潤が大きく後退する。リアルエステートの部分が崩壊するということで、それを見て、短資が引き揚げていく過程が、96年の終わり、97年の初めから始まります。したがって短資が流出してくるきっかけというのは、国際収支が先程のようなメカニズムで均衡しようとしている時に、国内均衡が崩れてしまったということで、その国内均衡の崩れを見て、短資が逃げるという形になります。
国内ではそういうダブル・ミスマッチですから、まず国内の危機循環のピークから、エクセス・インベストメントが利潤の大きな低下をもたらす、バブルの崩壊が資産の価値の低下をもたらしますから、国内のバランスシートの左側の資産の価値は目減りしていると。それを見て短資が逃げると、今度は国際収支全体が赤字になりまして、変動相場制に切り換えざるを得なくなるけれども、変動相場制ではなくて、つまりフリー・フロートにしたと思ったところが、フリー・フォールになってしまって、そのフリー・フォールの原因というのは、ダブル・ミスマッチがぐるぐるとダウンワード・スパイラル現象を起こすからです。ライアビリティのほうの負債価値が、自国通貨建てで、為替が切り下がる度に上昇していく、するとまたバランスシートが悪化する、バランスシートが悪化すると資産の側がまたもっと悪化するというようになって、ぐるぐると資産と負債が回ったという意味の、ダブル・ミスマッチから来るダウンワード・スパイラル。その結果が、ツイン・クライシスと言っていいわけで、国際流動性危機と国内銀行危機の同時発生であります。この時にいろいろな問題が起こるわけですけれども、国際流動性に対する直接の対応手段というのを持っていなかったといってよろしいでしょう。IMFの場合は、コンベンショナルなカレント・アカウント・クライシスに対する対応ですから、クオーターの範囲内で処理ができるというのが基本的な範囲なのでしょうけれども、今回の場合は、クオーターを数倍から10倍上回るような資金が必要だと。それは当たり前で、流動性危機だからでありますけれども、それに対する対応はなかったと。あるいはメキシコに対する、ラリー・サマーズのような、一気に500億ドル近くをぶち込んで、コンディショナリティなしで、まず流動性危機に対応するという、的確な対応を取るような仕組みもなかったと。基本的には遅れ遅れで出てくるわけですけれども。そういう時に、そういう国際流動性、つまり資本が逃げていくことをどう止めるのかというのは、マネタリー・ポリシーしかないということで、高金利政策を取らざるを得なくなったと。
つまり、目的は2つあると。国際流動性危機に対応する手段、それから国内の銀行危機に対応する手段、対応の政策。その時に、インストゥルメントがただ1つしかないというのは、経済学で一番問題を起こす問題で、2つのターゲットがあるときに、2つのインストゥルメントを持っていればいいんですけれども、1つしかないわけです。1つを国際流動性対策にあてがうと、今度は国内の銀行危機は一層悪化すると。そのシクリカルなピークの時に、ものすごくレバレッジが高まっておりますから、高い中での金利の上昇というのは、キャッシュフローを非常に縮小させて、パンクしてしまうというわけで、ノン・パフォーミング・ローンが全体のローンの35%から50%になるという、通常のバンクラプシー・コードでは考えられない、大量の倒産が同時に出てくるというのは、まさにマクロ・エコノミック・バンクラプシーでありまして、今のような組み合わせで起こったわけでありますから、非常に問題が難しくなってしまったわけです。
いずれにしても、マクロのメカニズムとしてはその結果、内需が大崩壊いたします。98年は、大体平均を取ると30%から35%、内需は崩壊するわけです。その結果、輸入が崩壊する。輸入が崩壊するので、経常収支は赤字から急速に黒字化するというわけで、経常収支は黒字化しますけれども、それは内需崩壊の結果であると。その内需崩壊の結果、輸入が崩壊して、経常収支が黒字化するときに、先程の短資の流出はいろいろな形で、事実上もう終わってしまっているか、流血に対する歯止めが効いているということで、国際収支全体は大幅な黒字になってきます。そういう転換点が来るのが、98年の春、その後黒字がどんどん溜まるという形で、98年の春頃から、為替レートはもう下落しない、その後しばらくして、やや上昇に転ずるという図式であります。
今度、為替がそうやって安定しますと、金融政策が開放されまして、低金利政策を取ることができる、それから財政政策も拡張に転ずるということで、ケインジアン・ポリシーでもって景気は回復の端緒を掴むのが、98年の終わりで、それを受けて、先ず在庫投資という非常に微妙なおもしろい動きがあるんですが、その在庫投資が反転する、それで消費が動く。設備投資は出てこないんだろうと言ってたところが、設備投資も今年の中頃から出てきているということで、韓国のように10%以上の回復軌道に乗ってしまうというわけで、奇跡と危機と回復がめまぐるしい展開をしているというのが、この4~5年であります。
この3つの局面をどう説明するのかというのが我々にとって難題でありまして、ご存じのように30年前あるいは35年前は、ケニアのパー・キャピタ・インカムは、タイのパー・キャピタ・インカムと35年前は同じなんですけれども、今は、96年ではタイが10倍なわけです。これはこの間、ケニアでの会合でも出たんですけれども、それ以前はしたがって、アジアは長期低迷地帯と言われていたわけですが、その長期低迷を唱えていた学者というのは、その後続く30年間の奇跡を説明できないと。奇跡を説明したワールド・バンクのレポートは、相当詳しく読んでみても、この危機の潜在的な要因を指摘しているというところはほとんどないような気がするというので、奇跡の学派は危機を説明できないでいると。危機は今度は、銀行部門が中心で、リレーションシップで、リレーションシップ=クローニーという、極めて短絡的な、非経済学的解釈をした、危機構造学派とでも私は言うんですけれども、そんな回復は数年先だと言っていたのが、あっと言う間に回復してしまったというわけで、危機学派というのも崩壊してしまったと。停滞も奇跡も危機学派も全部学派が崩壊してしまったもので、この3つをどうやって説明するのかというのが非常に難しいわけですが、今申し上げた、前半に6分かけて申し上げたことが、大体全部説明できるということを含んでいるわけであります。
では何が問題なのかというのを我々はやっていますけれども、やっぱりコーポレート・ガバナンスが非常に大きな問題ですが、コーポレート・ガバナンスを議論すると、アングロ・アメリカンが非常に影響を受けまして、ファンドやバンクの影響でしょうけれども、ADBのヘッドクオーターもその影響だけしか受けないので洗脳されているんですけれども、要するにバンク・ベーストか、エクイティ・マーケット・ベーストかという切り口だけで来るわけであります。我々、調べてみるとですね、どっちともないのではないかという気が先ずするわけで、バンクといってもどういうバンクか、ちゃんとモニタリングをしているのか、銀行の機能というのは我々は大体経済学で知っているわけですけれども、そういう機能をちゃんとしているのかしていないのか。エクイティ・マーケットに至っては、ほとんど発達していってないと言ってもよろしいわけですし、エクイティ・マーケットの相手で誰がオーナーかということですし、そのオーナーの投資戦略のようなものは非常に重要でありますけれども、ご存じのようにエクイティ・マーケットというのは経済の中でも一番難しくて、相当うまくやっても、内部取引とか詐欺とかがしょっちゅう起こるところで、アメリカもそれを克服するのに100年以上もかかったわけですから。それから今度の危機でも分かりますけれども、先程銀行ローンがショートと言いましたけれども、エクイティ・マーケットも当然ショートでありまして、シクリカルな問題を抱えるとすぐに逃げるわけであります。マレーシアなんかはそれでやっておるのですけれども。
いずれにしましても、エクイティ・マーケットを作っていくには時間がかかると。すぐにはこれをベースにしたものができない。ではバンクになるのではないかという議論をしますけれども、その時の産業構造の全体の姿は、ファミリー・ビジネスが産業の中心的な組織体であるというのは、この危機を乗り越えた後も、依然として変わらず残っているという点が違います。銀行自身がファミリー・ビジネスだったわけですけれども、それが崩壊したところはたくさんあるわけですが、いわば企業サイドのファミリー・ビジネスというのは、依然として残っているわけで、これは研究がたくさんありまして、ファミリー・ビジネス、トップ5を取ると、キャピタライゼーションの6割5分は占めるというのが大体の平均の姿であります。
そうなりますと、では銀行はどこにあるのという話になりますが、銀行はその下にあるわけです。下にある人が、上の人をどうやってモニターするのかというのが非常に難しいので、戦前の日本の財閥の中の銀行の位置付けと、非常に私は似ているのではないかと思います。その点で、東大の岡崎先生なんかとその研究をしておりますが、どうも戦前の日本の財閥は、それなりにコーポレート・ガバナンスを回していくうまい仕組みがあったというのが岡崎さんの仮説ですけれども、アジアについては、そこら辺はまだ分かっていないということであります。したがって銀行というのは、産業組織全体の中でどこに位置付けられているのかということが重要であります。
香港もファミリー・ビジネスが主体であります。先程のコンセントレーションも同じでありますけれども、ミルトン・フリードマンの世界と両立しているというわけですから、ファミリー・ビジネスが全部そういう自由経済とは両立しないという意味では全くないんですけれども、産業組織としてはそれを抑えて、銀行のアロケーションをとらえておかないと、バンク・ベーストではなくて、我々はこれをファミリー・ビジネス・ベースト・コーポレート・ガバナンスと呼んでいるんですけれども、そういうコーポレート・ガバナンスのあり方というのを探らなくてはいけないということになります。
ではエクイティ・マーケットはどうなのといっても、オーナーシップが先程のように非常に集中しているわけですから、テークオーバーはまずできないわけですね。だからそうい仕組みが働かないというので、今、焦点は全部、シェアーホルダーの中の、マイノリティー・シェアホルダーの権利を守れるかどうかという議論に集中しておりまして、それはそれで非常に重要なんですけれども、それでコーポレート・ガバナンスが働くというのは。大体こういうのは、株主総会を通してしか働かないというメカニズムが強いものですから、そんなものを信用しているのは、アングロ・アメリカンでもできなくて、日本でもできなくて、云々であります。
それから、外部重役を派遣したらどうかというので、韓国なんかも派遣しているんですけれども、学校の先生がいらっしゃるから申し訳ないんですが、大学の先生と、分かってるのか分かってないのか分からないと。外部重役という時も、どこから来た外部重役かというのを調べる必要があって、というのは、結構、遠い親類縁者が入ってたりするわけですから。全体の産業自身がそうなっているわけですから、幾ら外部重役といってもそうなるわけです。
アカウンタビリティとか、アカウンティングのサンダーダリゼーションとか、トランスペアレントとか言いますけれども、それはそれで、ベスト・プラクティスを目指すべきですけれども、ベスト・プラクティスは、物に書くことはすぐできます。法律は、パー・キャピタ・インカムに関係なく、書き下すことができる。しかしそのエンフォースメントは、パー・キャピタ・インカムとポジティブなコーリレーションを持っていると。こういう時にどうするかという問題が、このコーポレート・ガバナンスにあるわけで、それをどうやって解くかというのが、真の構造問題だと思います。だから、チェボールならチェボールの本当の改革は、一種の財閥解体に近いようなことを考えるのが、私は正解だろうと思うんですけれども、そういうリボリューションがない時に、ではどうするかというのが、今のところ残念ながら、十分に解けていないのではないかなというふうに思います。
そういう問題を抱えたのがアジアの危機でありまして、国際金融へのインプリケーションというのは、チリ型の対応というのを先ず考えたらどうかと。チリ型の時に、短資の規制だけを考える人が多いんですけれども、短資の規制のみならず、銀行の強化、それからマネージド・フロートと3つであります。マネージド・フロートを、82年の、アジアと同じような危機を迎えた後、10数年かけて、今年ようやくフロートに転換したというわけで、そういう意味でのインスティテューション・ビルディングというのが非常に重要でありますから、小川委員も参加された、我々のエクスチェンジ・レート・レジームのエマージング・マーケットでのあり方の中で、ツー・コーナー・ソリューションというのは断固として排撃して、その中間点にある適正な為替レートのシステムを求めていくと。私はこれは、チリが頭にあるんですけれども、それで10年とか15年かけて、真の変動相場制に対応していくという形にしていったほうがいいのではないかということであります。
それから、先程申し上げたように、こういうキャピタル・アカウント・クライシスの場合には、ツイン・クライシスですから、インスツルメントが2つ要ると。ということは、国際流動性に対応する準備をちゃんと持っていかなくてはいけない。IMFともう1つ考えられるのは、それを補完するリージョナル・マネタリー・ファンドということであります。AMFの場合には、非常に提案も唐突でしたし、中国へのアクセスも、ちゃんとディプロマティックなチャネルを通っているかどうかも分からないようなことで、それからコンディショナリティの考え方も整理されていないということですので、今後こういう問題が、中国、インドなどに起こる可能性があるとすれば、十分に対応していく価値のあることだというふうに思います。
そこで重要なのは、リージョナル・モニタリングですし、これは部分的にマニラ・フレームワークで扱っておりますけれども、メンバーも非常に多いし、アジアの中での真のモニタリングまでにはなっていないし、それから何といっても、ピア・プレッシャーをかけていくということであります。これはアジアの人々と議論しても、アジアの一番弱いところではないかと。リージョナル・マネタリー・ファンドというのはホーム・ドクターで、IMFはホスピタル・ドクターだと。でかいことは知っているけど、細かいことは知らないと。細かいことを知っているのは、ファミリー・ドクターだと。しかし、細かいことを知りすぎているから本当のことは言えないと、だからだめだと、こういう議論ばかりをやっているんですけれども、これは非常にある意味では言い得ておりまして、そういうファミリー・ビジネスを中心とした、またさらなる別のファミリーが集まってやると、ファミリー・ドクターも大したことではないと、分かっているけど本当のことは言えないと。だから、本当のピア・プレッシャーのメカニズムをオブジェクティブにやっていくというのが、アジアにとっての非常に重要なことだと、私はこの半年ぐらいの議論を聞いて思います。
それからコンディショナリティのあり方は、コンベンショナルなカレント・アカウント・クライシスと違うわけですから、先程の、インフレだから金融で締める、財政赤字だから財政を締めるなんていうことを伝統的な形でやって、今回失敗した側面も非常に多いわけで、別のコンディショナリティが要ると。我々はそれを本にも、我々の論文にも書いておりますけれども、これは何ということはない、こういう国際情勢への対応策があれば、国内は国内金融対応策として、レンダー・オブ・ラスト・リゾートとか、キャピタライゼーションとか、そういうことようなことをやっていくということであります。
もう1つアジアで問題になったのは、ダブル・ミスマッチの話で、恐らく98年の9月の香港の、これはオーストラリアもそうですけれども、マレーシアも部分的にそうだと思いますけれども、マクロ・ヘッジファンドが先ず為替を襲うと。固定相場制に近いようなところで為替を襲うと、必ず金利を上げてくると分かっていると。金利を上げると、必ず株価は下がると。両方ともだからショート・セーリングをしておくと必ずもうかると。これは一見、そう言うと、もうかるような気がしますけれども、みんな同じような行動をしなくてはいけないわけですから、同じような行動をするようなルーマーを作ります。そのルーマーは、アジア危機という雰囲気の中でそのルーマーを作ることに成功するわけです。それが98年の6月、その前に97年にもありますけれども、大きいのは、ヘッジファンドが4つ5つ入ったこともありますけれども、合計しますと、香港のGDPの15%から20%分ショート・セーリングがかかっていたというぐらいですから、大変なことが行われるということです。小さなマーケットだから行われるというのではなくて、ちょうどいいサイズのマーケットがありそうだというのが我々の議論ですけれども、そういう議論をしているときに、日本のレートが140円から120円になってしまったと、たった3日間でなったと。あれは後から調べると、タイガー・ファンドなどのポジションのアンワインディングに非常に関係したということですから、マーケットが日本のように、為替市場でこれだけ厚くても、ヘッジファンドの規模というのはどれだけ大きいかというのを、まざまざと見せつけているわけです。
そういうことは全部1年も経って、IMFのレポートなどにどかどかと表れてくるわけですけれども、それで渋々認めるわけですが、そういうことを情報として的確に掴んでおくというのが、こういうリージョナル・モニタリングとかに非常に重要なんです。それでその情報をつかんでいるのは、全部インベストメント・バンカーだというのを、我々は知っているわけです、残念ながら商業銀行はそういうのはあまりないわけです。そうすると、日本はインベストメント・バンキングは非常に弱いと。これが、私は日本の役割の最大の課題ではないかというふうに思います。
これはフィナンシャル・エンジニアリングの発達にものすごく関係があるわけで、フィナンシャル・エンジニアリングのエキスパートは、私のいた長銀なんかでもいっぱいいるんですけれども、それを使いこなせるマネジメントがあまりいないというわけで、私は、銀行のコーポレート・ガバナンスの問題だというふうに捉えておりますから、これは日本に対する最大の問題であります。
あと、これは長期のことで、できたらこういうこともやっていったらいいなということで、3極体制に向けて、アジアのトラストの構築とか、これはよく言われるわけですけれども、それから先程言った、情報力が力の源泉だということで、日本のインベストメント・バンキングの重要性、それから今いろいろ考えられている地域協力の体制のあり方、それから願わくばエーシアンERMとかの構築と。しかしこれは息の長い話と言いますか、議論はきちんとしていったほうがよろしいと思うんですけれども、当面のインプリケーションは、先程申し上げたところでよろしいかと思います。行天座長
どうもありがとうございました。それでは早速近藤委員にお願いします。
基調報告
近藤委員 「世界経済の安定と持続的成長を求めて」この研究会に参加させていただきまして、お陰様でいろいろと勉強をさせていただくことが出来ました。今日は私なりに今迄勉強させていただいたことを総括してみたいと思います。ただ私の立場は、あくまでもアジアあるいは世界各国で事業を展開している事業者、あるいは商社という事業者の目から見たものでございますので、内容的に多少感覚的であり、整合性を欠く点もあろうかと思います。その点はご容赦をいただきたいと思います。
先ず総括するに当たりまして、今、吉冨委員からお話がございましたように、アジア通貨危機の総括が先ず第一に必要かと思います。この点で2つの問題点を、十分認識しておく必要があろうかと思います。先ず1つが、アジア各国の政策上の歪みという点が1つであります。もう1つが、国際システムの欠陥という点であります。この2つの問題点を、アジア危機の背景にあるものとして、しっかり認識をしておく必要があります。
多くの関係者から指摘されておりますミクロの経済構造問題、透明性の欠如であるとか、あるいはコーポレート・ガバナンスの欠如であるとか、あるいはクローニー・キャピタリズムといったミクロ面での構造問題というのは、必ずしもその原因ではなかったのではないか。このようなミクロの構造問題は、今回の危機によって表面化はした、そしてその存在が改めて認識されることになったわけでありますが、必ずしもそれが危機の直接的な原因ではなかったということを認識する必要がある。ましてやマクロのファンダメンタルズ、貯蓄率や、インフレなど、財政、国際収支上のファンダメンタルズに重大な問題があったというわけではなかったのだと思います。
今申し上げました政策上の歪み、そして国際システムの欠陥を具体的に申し上げておきます。政策上の歪みについては我々の目から見ておりますと、3つ程の歪みがあったような気がいたします。1つが、各国で進められておりました、資本の自由化を含めます自由化プロセスのシークエンスが間違っていたのではないかということ。直接投資の自由化に比べて、短期資金によるポートフォリオ投資の自由化のペースが、いかにもバランスを欠いていたというようなことが、その1つの例証です。
もう1つの歪みは、自由化と、国内システム整備上のインバランスがあったのではないか。具体的には、自由化に見合った国内の規制、あるいは監督のあり方が未整備なままに、自由化だけが進められてしまったということ、これが2つ目の政策上の歪みとして挙げられると思います。3つ目の政策上の歪みとして挙げておきたい点は、ドル・ペッグ制であります。我々から見ておりますと、利鞘が簡単に短期資金で経常的に稼ぐことができるというシステムがそこにあったことは、政策上の大きな欠陥であったと思います。
それでは2つ目の問題、アジアの通貨危機の原因として申し上げました、国際システム上の欠陥についてでありますが、3つ申し上げておきたいと思います。先ず1つが、国際システムとしてモニタリングの体制が全く整備されていなかったということです。ここでは借り手だけの情報のことを申し上げているわけではありません。貸し手につきましても、全くモニタリングのシステムがそこになかった。したがって、政策上の歪み、それに伴った賃金移動の実態把握とその問題点が、事前になされ得なかったということであろうかと思います。
もう1つの国際システム上の欠陥として挙げておきたい点として、適切なセラピーが出せるシステムになかったし、また残念ながら、その能力を備えてもいなかったということであります。具体的には、短期的な、実現不可能なコンディショナリティを与えるというような、致命的な誤りを国際システムとしては犯したわけであります。
3つ目の国際システム上の欠陥は、為替の不安定性であります。為替の不安定性ということを考える時に、我々がよく理解をしておかなければいけないのは、根本的な理由は、グローバル経済の捻れ現象があることがその基本的な原因だということです。グローバル経済の捻れと申しますのは、具体的には2つございまして、1つは、基軸通貨国が世界最大の純債務国であるということ、もう1つは、世界最大の資本輸出国が、金融システム上の後進国であるということです。この2つの捻れがある以上、国際システムに緊張を強いることになる。その結果として、為替が不安定化する可能性を常に持っているということが言えようかと思います。しかしながら、この捻れを是正する、あるいは短期的な資金のフローをコントロールできるという国際的なメカニズムがなかった。それゆえに、為替の不安定性が極めてドラマティックな形で発生するということになったわけです。
以上、アジア通貨危機の背景につき私なりの認識を申し上げましたが、一方でアジアにとりましてマクロ、ミクロ構造問題への対処とともに、キャピタリズム、あるいはガバナンスの問題への対処を要しないということでは決してないということも念のため申し添えておきたいと思います。グローバル経済の急激な進展、あるいは今回の危機で、その問題点がはっきりと浮き彫りにされたという事実は、アジアに改革のチャンスを与えていると考えるべきでしょう。この改革に向けてのミクロ構造問題の解決のモメンタムを維持することは、アジア諸国自身だけではなく、世界にとっても大変重要だと思います。したがいまして、このモメンタムを維持するための世界的なアジアへの関心も必要であるし、支援も必要になると思っています。
もし、このミクロ構造上の問題が、今回の危機を契機といたしまして解決されれば、政策上の歪みの是正と並行いたしまして、アジア経済の将来にとり大きな効果が期待されます。それによりまして、アジア経済は、危機発生以前以上に強いものになっていくことができます。21世紀初頭におきましては、日本を除きます東アジアの経済規模は、実質経済成長率の中期的予測を勘案いたしますと、日本に匹敵するものになることは間違いない。となりますと、日本と東アジアを合わせたブロックは、NAFTAあるいはEUと並ぶ規模を持つことになるということでございます。
それでは、今申し上げました政策上の歪み、あるいは国際システム上の欠陥、そしてミクロ構造上の是正というこの流れは、我が国にとってどのようなインプリケーションを持つのだろうかということにつき申し上げます。3つほど、インプリケーションを指摘しておきたいと思います。まず1つが、日本経済の構造改革。具体的に申し上げますと、内需主導型の経済に向けての構造改革の必要性というインプリケーションがあるということです。これには、今申し上げました国際システム上の問題あるいは政策の歪みの2つの側面から、大変大きな意味を持っていると思われます。まずグローバル経済のバランスの回復のためには、日本経済の内需主導型経済構造への改革は不可欠であります。またそれによりまして、基軸通貨国であります米国経済のバランス回復を強制することにもなるかと思いますし、中長期的には、為替の安定にも寄与することができるのではないかと思います。そして円の国際化を促進するためにも不可欠であります。円の国際化につきましては、利便性の向上に加えまして、十分な円資金の供給を要します。その意味で、内需主導型の経済への構造改革は、円の国際化にとっても大変重要な意味を持つと考えています。
そして2つ目の政策的インプリケーションは、開発支援の強化ということであります。これには、2つの視点が必要だと思います。1つは資金面で、資金援助は極めて貴重ではありますが、むしろこれからは我が国として、市場の提供という面をより重視していくことが望まれます。具体的には、内需の拡大に加えまして、発展途上国、特にアジア諸国に向けた、一層の市場開放が望まれます。もう1つの開発支援上のインプリケーションといたしましては、知的支援をより強化する必要があるということです。マクロ、ミクロ両面での知的な支援の必要性が高まってきています。
3つ目の政策上のインプリケーションは、国際システム強化へ向けての貢献の重要性ということであります。この点については、3つに分けて考える必要があると思います。1つがマルチ、1つがリージョナル、そしてもう1つがバイであります。これらを重層的に、同時並行的に推進していく必要があります。マルチにつきましては、IMFについて言えば、今申し上げましたようなシステム上の欠陥を是正する、強化をしていく動き、そこにはリージョナルの視点も当然必要となります。吉冨委員の言われたリージョナルなファンドという考えも、そこに当然取り入れていく必要があると思います。危機発生の原因とそれらの対処については、地域的な、リージョナルなバイアスというのも当然あるわけでして、それに十分対応するためには、リージョナルな能力を備えておく必要があるということが私も指摘しておきたいところであります。
加えてWTOも、国際経済システムを考える上で極めて重要であります。当面は早期ラウンドの立ち上げに日本はどう対応していくのか、どのようなイニシアチブをとれるかということが課題になっていると思います。一方、リージョナルな視点では、ASEANプラス3、あるいはAPECという枠組みをより経済外交面で戦略的に使っていくことができるのかできないか。これからの国際経済システムの改革と運営の改善を計る上で、我が国のイニシアチブと役割には大きなものがあると思います。
3つ目のバイの関係につきましては、今後、投資環境の改善を計っていく上で、特に重要性を増すものと思われます。例えば2国間の投資協定を2国間で広く張り巡らしていく。あるいは今話題になり始めております、2国間FTAについても、WTOの究極的な目的を達成するための促進材料として、戦略的に使っていくことも視野に入れつつ対応していく。このように、2国間取り決めを戦略的に活用することは、これからの我が国にとり、通商政策上の大きな課題となろうかと思います。
最後に、このような我が国に対する政策上のインプリケーションを踏まえまして、来年予定されております沖縄サミットに向けての短期的政策課題を3つ程、申し上げておきたいと思います。
先ず1つが、次期ラウンドをいかに早期に立ち上げ出来るのかという問題であります。結論的に申し上げますと、今度の沖縄サミットの大きな目玉に、WTOの次期ラウンドの立ち上げの問題を据えるべきだと思います。とすれば、それに向けての我が国のイニシアチブが当然期待されるし、必要になります。
2つ目がIMFの強化であります。特に、リージョナルなバイアスに適切に対応するメカニズムの創設によるIMFの強化が望まれます。それに加えましてモニタリング・システムの強化という視点から、情報開示の徹底も必要であります。これについては、借り手・貸し手、双方の情報開示の徹底が必要であることは改めて指摘するまでもありません。
3つ目が、為替の安定であります。我々実業の立場から申し上げますと、何らかの形での為替の安定化の方策についての議論を進めて欲しいというのが偽らざる所です。例えば1987年2月のルーブル合意的なものでも、レファレンス・レンジ的な、介入の強制力はないにしても、主要国間で一定の水準に対する合意があるとのメッセージを市場に送るだけでも、有効なのではないか。何らかの工夫を沖縄サミットで打ち出して欲しいと期待しています。更には、為替安定化基金的なものを創設をするというようなことにも、一歩踏み込んで議論して頂けないのかという気もいたします。ご承知のとおり、協調介入を実施する場合、アメリカにおいては法律的になかなかそれを実行しにくいシステムになっています。議会への報告義務があることにより、アメリカの当局者が仮にその意思があっても、なかなか実際には発動しにくいということでもあります。したがって関係国の拠出によって、一定水準の基金を準備して、為替安定化に活用するようなシステムについても沖縄サミットの場で議論をしていただきたいし、できればそれに向けての日本による強いイニシアチブにも期待したいと思っております。
沖縄サミットに向けての3つの政策課題について申し上げましたが、そのいずれにつきましても、我が国としては、アジア諸国の支持があって初めて強いリーダーシップの発揮が可能になると考えます。従って、いかにして沖縄サミットの議長国としてそのような気運をアジア諸国間で作り上げていくのかが喫緊の課題になります。
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