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【第二部】 <自由討論>
行天座長
どうもありがとうございました。東アジアの国が、まさに今、茂木委員がご心配していらっしゃるような段階に、これからも入ろうというわけですので、この研究会に非常に関連のあるお話だったかと思います。
それでは、早速フリー・ディスカッションに入りたいと思います。例によって、私がちょっと先に一言いわせていただきたいんですけれども、お三方の話を伺っておって、この研究会のテーマである国際経済・金融システムということと関連のある3つの点が出てきたように思います。1つは、まさにアジアの危機の経験等から、相互依存が高まっているということで、これはまさにその通りでしょうし、今から振り返ってみますと、ちょうどアジアの奇跡と言われていた頃も、いわゆる雁行的発展形態という格好で、日本がやればほかもみんな同じようになるんだということだったわけで、言うならば、その雁行的上昇と雁行的下降が同時に起こっているわけですけれども、この問題に関連して、それでは、いい意味でも悪い意味でも、何が相互依存の核であったのかというところを、やっぱり理解をしておく必要があるんだろうということを感じたわけです。
それからもう1つは、まさに、これも皆さんのお話にあったんですけれども、確かに危機の後、アジアの諸国を見ておると、かなりはっきりとディ・レギュレーションの方向へ進んでいる国と、リ・レギュレーションの方向に進んでいる国があるわけで、リ・レギュレーションの方向に進んでいるのは、もちろん中国もあるし、香港もあるし、シンガポールもそうでしょう、マレーシアもそうでしょう。ディ・レギュレーションの方は、タイであり、インドネシアであり、韓国でありというようなことなんでしょうけれども、この問題を一体どう考えるのか。というのは、お話の中で皆さんが、例えば短期の非常にスペキュレーティブな資本の流れについては、リ・レギュレーションというのか、何とかコントロールするのが大切だということでありましたけれども、そういう必要性と同時に、片方で情報が完全にディ・レギュレートされていこうという世の中で、そもそもそういうことが可能なのかという問題もあると思うんですね。ですから、特にアジアの今後の経済システムということを考える場合に、このディ・レギュレーションとリ・レギュレーションということを考える必要があるのかなという感じがいたしました。
それから3番目は、私も実は先週韓国へ行ってきまして、確かにV字型の景気回復というのはすごいわけですよ。これは大変結構なんですけれども、まさにクルーグマンが言ったという、竹中委員のお話で、肝心なところの改革が全然進んでいないのに、V字型の回復ができたということは、要するに肝心なところというのは、今回もきっとあまり関係なかったんじゃないかという話になってしまうわけですよね。その問題は本当にそうなのか、それともそうではないのかという問題は、やっぱり考えなければいけないのかなと。韓国なんかでも、例えば財閥の改革というのはかなりやっぱりもう元気がなくなってしまっているわけですね。本当にそういう状態で、再び昔の夢よもう一度みたいなことができるのかどうかという、そんなことを感じておりました。以上でございます。山澤委員
どうもありがとうございました。今、座長がおっしゃられたことと関係してくると思うんですが、竹中委員の言われたことの中の一つを、もう少し詰めて議論する必要があろうと思います。
初めの方でおっしゃった、市場の不安定性を市場がチェックする、これは大変大事なことで、これをもう少し説得的にできれば、茂木委員の経済学者に対する不信感を少しやわらげることができると思うんです。この市場の不安定性を市場がチェックするというのを、アメリカと中国の例を出されましたよね。それでアメリカはまさにその方向、中国はその逆の方向、間にアジアの諸国が入ると、こう言われたんですが、そのあと、市場のチェックする方の力が何かということで、民主主義ということを言われてしまったんですね。民主主義というのは、人権とか政治システムという面もありましょうし、アメリカが言い出すとそういうところが往々にして表面に出てきますが、恐らく竹中委員の議論では、経済民主主義のレベルで十分に議論ができるということで、それは多様な参加者が自由に参加するし自由に退出すると、そういう仕組みが保たれているかどうかという形だろうと思うんです。そういう形で議論をしないで、人権とか政治システムという面で民主主義を持ってくると、アジアでは拒否反応が非常に強いですから、むしろ経済民主主義がどの程度かということを見る必要があるのではないでしょうか。
もう一つ、今、竹中委員が言われ、座長も言われた相互依存ですが、ここで採り上げられたのは、むしろ相互依存のネガティブな面ですね、特にアジア危機の中で。しかし相互依存のネガティブな面は、みんなが同じように行動してバタバタバタと倒れてしまったというニュアンスだろうと思うんですが、私はアジアの中では必ずしも同じように行動しなかったと。確かに、危機の伝染という意味ではそうですけれども、それに対する政策的な対応は、かなり国によって違っていて、ここに挙げられているタイや韓国、インドネシア、マレーシア、フィリピン、さらにベトナムまで入れれば、一つ一つの国が大変みんな違っていて、非常に多様な対応をしたと言えるのではないか。私はその点は、恐らくアジアにとってメキシコやラテンアメリカよりは、アセットになり得るのではないだろうかと思います。以上、もう少し議論を深める必要があるだろうと思います。
もう一つだけ、さっき日本は、みんな貯蓄して人から借りたことがないなんて言ったけれども、あれは間違いで、日露戦争から第一次世界大戦の間は、日本の投資の20%は外資で賄ったんです。しかし逆に、日本はよそから借りないかわりに、債務者のメンタリティというのを理解しないという議論もできるだろうと思いますね。楠川委員
今日のお話を聞いていまして、ではこれから日本はどうするんだということが念頭からはなれなかったのですが、その絡みで、3つぐらいのことが出てきているように思います。1つは、いわゆるアジアの金融システムを再建していく上で、日本は一体どういう役目を果たすことができるか。その次は、市場、特に資本市場ですね、小島委員がおっしゃっていたけれども、それを、アジアにおいてどういうふうに構築していけるのか。それから3番目は、為替レートの安定化をどうやってやるのか。この3つについて、日本は関与してゆく必要がある、そういうことにリーダーシップを持ってやっていくことを期待されている、ということだと思います。
では一体どういうことが、この三つについてあるのだろうかということですけれども、例えば金融システムの問題について申しますならば、実はごく最近、吉冨委員の前任者のエスタニスラウが、盛んに私に言っていたんですが、FSF、ファイナンシャル・スタビリティー・フォーラム、あれに呼ばれていない国がアジアに大分ある。FSFのアジア版を作ってくれと。何か一種の、ガイドポストのようなものを作って、それに向かってみんなで努力するような形のものを、日本がリーダーシップを取ってやってくれないかという話です。
それから他にも、例えばオーストラリアから今出ている問題ですけれども、このアジアの銀行のリスク・アセットのマネジメントに使用すべき尺度、ベンチ・マーキングをもっとしっかりと作ってゆくべきだという議論もあり、ここら辺りはやっぱり日本の今までの審査経験、その他が役に立つ。そういうものは、今、日本の銀行もリストラクチャリングやっていますから、経験を積んだ人たちがいろいろ貢献出来るのではないかと思います。アジアの金融システムの強化のために、どういうことをやれるかということも、具体的に考えるべき時期に来ていると思います。
それから市場の問題としては、これはこの前、グリーンスパンが言っていましたけれども、アジアの危機の最大の問題は、あまりにも問題の解決を銀行に依存したことに問題があると。その依存の結果、銀行の脆弱化が進んでしまったということですが、そこでグリーンスパンも言っているのは、やはり資本市場を強化しておくべきであったと言うんですが、これはアジアについては無いものねだりのようにも思えます。では日本の場合どうだったんだということでは、ご承知のように、1980年代の終わりの頃は、銀行はお呼びではなくて、すべてが資本市場の方へ向かって行っていたということです。そして日経ダウ平均はああいう高いところまでいってしまった。しかもあれは全部蒸発してしまった。
したがって、今、日本の経済危機の最大のポイントは、銀行の脆弱性だということを言われたけれども、その前に、一体あの証券市場というのはどういう役割を果たしたのか、また果たすべきだったのかということがあります。そこでまた同じような証券市場をもう一回作り上げてもこれは意味がない、もっと違った形の証券市場を作っていかなければだめなのではないかという、反省があってしかるべきだろうと思います。
この資本市場の問題としては、アジアの各国にローカル・カレンシーのボンド・マーケットを作ったらどうかという話がございます。それがどういうわけだかちょっとスライスしたんだと思うんだけれど、円建ての外債について、金利補填的な形のファシリティを日本政府として与えようというふうな話があるんですが、これはいわゆるマーケットのプリンシプルからいうと、ODAにしか過ぎないという意味で本当の解決方法ではない。そこで、いずれにせよ各国があまりハード・カレンシーで借りないで済むように、それをローカル・カレンシーのボンド・マーケットで代替できるようにすれば、それにこしたことはない。各国の高い貯蓄率を考えれば、そこを何とか開拓すべきであるということになる。これはよくわかる議論ですが、そのために、ではアジアの各国がどういう協力ができるのかということになってくると、これは大変に悩ましい問題になってきます。例えば国境を越えて資金的な協力をするということになると、各国のローカル・カレンシーの先物のあり方の問題と絡むだろうという、おいそれと対応出来ない、歯が立ちにくい問題も出て来ます。しかしこういう問題を、今からでも遅くないから少しづつアタックしていかないと、いつまでたっても解決出来ず、またまた今回のような危機を繰り返すことになります。
そういう意味で、韓国あたりでは問題意識もあり、そういうボンド・マーケットの動きも出てきていますが、日本として各国の資金調達について、どういう新機軸を出してゆけるかというチャレンジに応えてゆく必要があります。それにしても日本の証券市場、あるいは日本の証券の当事者たちはどこへ行ってしまったんだという感じがします。確かに銀行が脆弱であって、不況が今まで長引いたということはありますが、しかし銀行がこれだけの大きな不良資産、不良債権というものの処理を今まで何年間もやってきたけれども、その間にあって資本市場が、銀行のこの処理にとってどれだけのショック・アブソーバになったんだろうか、グリーンスパンのいう話はどこか現実味が欠けているように思います。銀行が主としてこの危機を救うための手段にされてしまったということの中に、いろんな問題が含まれているということも、一つの真実であったかなと思っております。
最後はやっぱり為替の問題になってくるんですけれども、先ほど小島委員もちょっと言われたけど、例えばアジア地域に共通の通貨制度を持ち込もうと思えば、私が考えるところでは、やっぱりドルとユーロと円のバスケットにリンクした形のものしかないだろうと思います。ただ、それに対してペッグするのか、あるいはそれを一つのリファレンス・ゾーンにして、マネージド・フロート、言葉は悪いがダーティ・フロートの形を作り上げる方がいいのか。そこらのところはまだいろいろな議論があると思います。
そこに恐らく、大きな問題として出てくるのは、非常に政治的な問題として、中国がどう反応するかということがあります。フリー・フロートを前提にした通貨のバスケットという形では、人民元を現段階でバスケットに入れるのはおかしいのではないかということです。中国に関してはやっぱり少し時期を待つよりしようがないと私は思います。
そういうこと等々を考えますと、全体として見ると、どうもやはりこの間、シンガポールのワールド・エコノミック・フォーラムでも言われていたし、あるいはマニラのPECCでも言われていた問題ですけれども、各国とも日本に対して何でAMFをやってくれないんだという話は、依然として強い。それからアジアに統一カレンシーを作ろうではないかというような話も、結構各国の首相辺りから出るんですが、これはあまり詰めた話ではないとしても、そういう願望が出てきているということは無視出来ません。やはりここまできますと、レファレンス・ゾーンやボンドやベンチマークの運営の問題や、さっきの、例えばサルベーションのためのクライシス・クレジッドラインの運用の問題等々も含めて、どうしても何かそれらをキャリーする組織が必要だという感じがします野上・外務省外務審議官
今、楠川委員が言われた件に絡んでくるんですけれども、さっき竹中委員も言われた日本の背中ということなんですけれども、日本がアジアに相当これから見せていくものとして、キャピタル・マーケットの強化というのがあると思うんですけれども、今も楠川委員が言われたんですけれども、日本はこのいろいろな危機を通じても、定期性預金、決済性預金を足してみたら、金融資産の全体量の中での預貯金のシェアはあまり下がっていないわけです。それに生命保険を加えると、それがほとんどになってしまい、個人の株式保有のシェアは極めて低いというように、これは全然変わっていない。
その一つの問題として、やはり我々はいろいろシステムの話をするんですけれども、個々のプレーヤーの問題として、これは小島委員が言われたように、コーポレート・ガバナンスというものが、もうちょっと議論されてしかるべきではないかなと思うんです。日本はやっぱり相対の取り引きの世界で、市場性の強い金融資産が選好されない。日本では残念ながら、コーポレート・ガバナンスというのは日経の株主総会特集ぐらいにしか記事が出てこない。インベスター・リレーションズとか、そういった形での企業側の対応というのがどうなっているのか。これはアジアに一つ見せていく変化の姿だと思うんですけれども、その辺のところがどうなっているのかということです。
第2点、これは若干技術的な問題ですが、先ほど竹中委員が自由貿易協定の話をされたわけですけれども、垂直型の自由貿易協定と水平分業型とあると思うんですけれども、垂直型についてはいろいろな政治的な問題がありすぎる。日本と相手国との関係、それからいろいろなセクターの問題、その他諸々あると思うんですが、水平型の分業ということを考えて自由貿易協定をやっていった場合に、依然として日本はまだアジアではアウトライアーではないかと思いますね。シンガポールと韓国と香港と台湾ぐらいしか、水平型の協定というのは可能でない。ところが香港と台湾というのは、ちょっとこれはあまりにも政治的なユニットとしての特殊性がありますから難しい。
そうなってくると、考えてみると、可能性はあるけれども、オプションとしてはシンガポール位しかないのではないかと思いますね。別にグローバルで、二国間で、という話ではなくてですね。ですからそこのところをどう考えるかということ。僕はNAFTAというのは決していいアレンジメントではないし、EU・ACPなんていう自由貿易協定というのがありますが、あれは植民地主義以外の何物でもないと僕は思っているわけですけれども。EUと違って、同質的な経済が、近いところにあまりないという、この問題というのは、やはりどうしても日本の物理的・地理的限界ではないかなという感じを持っていまして。
それから先ほど山澤委員が言われた、経済民主主義と政治民主主義というのは、僕は最後にやはりクラッシュが起こると思うんですけれども。経済民主主義を可能にするための一つのルールというものは、やはり政治的民主主義に基づいてできてこないと、これは長いこと続かない。今度のインドネシアの例を見ていて、技術的にはまだ稚拙な民主主義を、経済民主主義を求めている人たちかもしれませんけれども、少なくとも政治的な正当性があると。ところが仮にあり得たとしたハビビ・ウィラント政権というのは、事実的にはかなり成熟した経済民主主義を追求できる人たちだと思うんですけれども、政治的正当性がないということからして、これはもたないと。ですからそういう意味で、その最後の鼎の軽重を問われるのは中国だと思うんですけれども、その辺のところについて、日本はぼちぼちと、政治民主主義の話に手を突っ込んでいくといろいろ問題はありますけれども、腰が座っていないというところにあるのかもしれませんけれども、やっぱりそこは少しきちっと言っていかなければならない。
ベトナムがだめであるという小島委員の議論で、経済民主主義についても、行き方については本を見ればわかるけれども、根本のところで触れぬ、動けないというところが、ベトナムについてもあるのではないかという感じを持っていますけれども、これがざっくばらんな感想です。篠原委員
しゃべろうと思っていたことをきれいに、はるかにコンプリヘンシブに楠川委員にしゃべっていただいてしまったのですが、しゃべることがなくなってしまった感じがするんですけれども、この間、アメリカのCSISか何かから来たニュー・ジャパノロジストの若い研究者がいて、何かぺちゃぺちゃしゃべっていたら、突然にしてあなたと同じようなことを言う人が何人もいたと。彼らに聞くと、突然にして日本のインテリは国益ということを言い始めてていると。自分の言葉で自分の論理をここに来てしゃべり出したような気がするという感想を述べていたんで、これは大変にいいことだと思いますけれども。それにしてもということは、これまで例えば何かのテーマを言って、それがグローバリスムに沿った日本の考え方みたいなことを言うと、例えばこれまでは「日米はどうするんですか」と言うと、「あ、考えが足りませんでした。ごめんなさい」と、さっさと引っ込んでいたと。日本のインテリは大変素直で、聞き分けがよかったんだけれども、最近は聞き分けが悪い、意見を出してくる人がいると。
これは極めて心強い話なんですけれども、それでも例えば今、竹中委員が言われたグローバリズムとリージョナリズム、あるいはバイラテラリズム、これはいいんです、その通りなんです。それをどういうふうに使い分けていったらいいか、アメリカは国益に沿って得手勝手に使うわけです。そこで、僕らがいくらダブル・スタンダードと言おうが何しようが、知らん顔をしている。我々の場合、どうしているかというと、インテリからメディアから何から、お互いに隣のテーマのアンチテーゼで考える。グローバリズムということを考えようとするときには、リージョナリズムを考えなければいかん、バイラテラリズムをケアしなければいかんと、制約要因でしか考えていない。EAECと言った時に、アメリカはどうするのといきなり反応したというのがいい例なんだと思いますね。
こんなことをやっていて、小島委員が言う立派な背中になるはずがない。僕がマレーシアから帰ってくるときにノルディン・ソティーに言われたことは、アジアの長兄なんだから立派な背中を見せろと。アメリカに向かってぺこぺこしている姿を、南からおれは見続けたくないと、真っ直ぐ言われた覚えがあるんですけれども。だからAMFでも何でもいいんですけれども、これは日本の国益として、作り上げていくというのが、今の一番必要なことの一つだというふうに思います。以上です。
近藤委員
今日三人のスピーカーの方から、それぞれ大変プロボカティブな、それぞれの立場からのお話を伺いまして、非常に勉強になりました。本当に今日は、朝早く起きて得をしたなという感じがいたします。三つ程、感想を述べさせていただきます。先ず一つが、竹中委員がお話しになりました経済危機の背景についてです。その中でチェック&バランスの問題を指摘されましたが、これこそ問題の核心ではないかという感じを従来から持っておりました。
我々商社の人間は、経済危機を見る場合でも、現地の事業を通じての大変ミクロな視点で見ているものですから、総合的な判断として果たしてそれが正しいのかどうか、必ずしも確信を持っている訳ではありません。しかし、少なくとも我々の立場から見ていますと、現地における政策のインバランスが、今回の危機の大変大きな原因であったような気がしてなりません。具体的に申し上げますと、我々はタイで現地合弁事業に出資をしている。しかし現地の外資法に基づく出資制限がある。増資の必要が起こった時には、こちらは増資ができても、現地パートナーに増資をする金がない。そうなりますと、FDIに比べて自由化が進んでいる外貨資金の借り入れに依存せざるを得ない。短期資金だと金利も安い。事業経営がこのように、政策のインバランスによってゆがめられてしまうのです。投資の自由化がより徹底していたら、このような問題は起こらなかった筈です。
しかしこのようなチェック&バランスの問題について、今回の危機の教訓が生かされず、「何も変わっていない」とは必ずしも言い切れない。座長が先程言われましたように、ディ・レギュレーションとリ・レギュレーションの動きが同時併行的に起こっているということは、ある意味で政策のバランスを取ろうとしている動きと解釈できないこともない。しかしそのどちらの方向でバランスを取るべきか、どちらが中長期的に正しい方向なのかは、これまた自明だろうと思います。また、先程からお話がありましたように、政治的には民主主義と経済的な民主主義のバランスも大変重要になってくる。
二つ目の問題は、日本の貢献についてです。竹中委員の言われたことに、私も同感なのですが、小島委員がおっしゃる通り、日本の経済は構造改革をしっかりやって、市場開放を更に進めることが貢献の基本だということを忘れてはならない。この点を改めて我々は認識をしておく必要があるのではないかと思います。
三つ目は、竹中委員がお話しされた日本の戦略についてです。先生は二国間協定と円の国際化についてのお話をされました。私も同感でありますが、敢えて申し上げるとすれば、小島委員が言われたアーキテクチャーの問題について、APECをもう少し戦略的に活用する余地はないのかということです。APECの成立の過程は別にいたしましても、本来、日本にとり大変使い勝手のいい枠組みであろうかと思います。これからの我が国としては、AMFの話とか、WTOでは大きく推進するには限界がある投資の自由化など、APECという枠組みをその地域的アーキテクチャー作りにより戦略的に活用すべきだと思います。篠原委員
近藤委員の二つ目のポイントと小島委員のポイント、日本の構造改革というものをどうとらえるかというのは大賛成なんですけれども、日本の構造改革が終わり、きれいにならないうちは、発言権がないよというのでは全くないだろうと思います。いつだったか、三極通貨体制みたいな話が出た時に、日経の社説で、こんなこと言うのは日本は10年早いだろう、うちの中をきれいに掃除するのが先だろうという社説が2回載ったと思います。あれはどこか論理が逆転していて、負け犬根性的な社説だったような気がしておりますが、僕は、非常に長い努力を必要とする構造改革をやっていますよというのを、止めていいという話は一言もしません。ただこれが終わらないと、何の発言権もないんだよということではないし、発言をしなけばいけないだろうと思います。
野上・外務省外務審議官
AMFなんですけれども、アジア危機の教訓で、資金の出し入れの激しさとか、そういうのを見ていて、ヨーロッパを絡ませるというような想定はないんですかね。
篠原委員
問題はどこにあるかと言えば、危機の対応能力をある程度持たせなければいけない。そのためにはこの基金は、基金を集める力を持たないといかん。その資金をどこから集めてくることを基本にするかと言えば、メンバーの国々の持っている、例えば外準が6,000億を超えますから、あそこにあるよねということで、ヨーロッパのほうが資金のコミットをして、おれも入れてくれといえば、それはアジアの国々はイエスというかもしれませんけれども、ヨーロッパ、あるいはEUがそれだけの用意があるかどうかというのは、これは全然沙汰の限りではなくて、真っ直ぐ問いかけてみてもいいんですけれども、この間どこかでやったら、フランスもドイツも極めてしらけていて、勝手にやってくださいと、そういう反応だったんです。
行天座長
最後に、お三方からお話をいただくということで、まずまさに竹中委員から。
竹中委員
資金的なコミットメントがあるかどうかという問題ではなくて、遅れてきた投資家としてのヨーロピアンが、アジアで非常に大きな損害を受けたと。ついては、地域の良質な情報提供機関、情報監視機関に対しては、ヨーロッパの関心は、ポテンシャルにはあると私は思います。あまり申し上げませんけれども。
幾つかの重要な点がありましたので、まず座長がおっしゃったディ・レギュレーションとリ・レギュレーションの問題というのは、日本のあり方を考える上でも大変重要な問題だろうと思うんです。実は何かと言いますと、日本自身がディ・レギュレーションなのかリ・レギュレーションなのかよく分からない状況であるということだと思います。これは、日本はまさに去年から今年にかけて、非常にある意味で緊急事態だったわけですけれども、それを脱するために公的資金を投入して、銀行の資本のうちの半分は、今、政府が持っているという状況を作り、信用保証で民間の信用リスクを政府が丸抱えするという状況を作っておりますので、非常時の経済をいかに平時に持っていくかということに関して、日本はまだ何のシナリオも示していないわけですから、日本自身がどういう形で非常時から平時に戻るかというシナリオを示すことが、まさに本当の意味での背中を示していることになるんだと思います。ここら辺が大変重要な問題で、AMFを作るにしても、そういった一つの哲学なり、一つのシナリオがないと、作っても本当に箱を作っただけになってしまうでしょう。
ここでやはり重要なのは、どういう政策を組み合わせて、それをどういうふうに順序立てするかという、その時間の概念ですね。シーケンスの問題というのは、IMFの議論で大きな問題になりましたけれども、時間の概念を入れたポリシー・ミックスを、ポリシー・ダイナミクスというふうに言っていいと思うんですけれども、ポリシー・ダイナミクスに関するモデルを日本が提示するということが、今、大変重要であるかと思います。篠原委員がおっしゃるように、それまで何も言わないということではもちろんありませんけれども、それでない限りは、日本が言えば言うほど、むしろアロガントに聞こえてしまうというような逆効果も、むしろ私は予想されるんではないかと思います。
あとは二国間の問題をどう考えるか。今の議論を聞いて、私は一つアイロニーだなと思いましたのは、NAFTAの議論にしてもEUの統合にしても、実はひっつめていくとこれは経済の問題ではないということになるわけですね。これは社会政策だと。隣人経済で、これはクルーグマンがNAFTA論争の後に総括しましたけれども、別に経済的にはプラスもマイナスもそんな大した問題ではないと。だから、しかしこれは隣人をどうするかという社会政策なんだというような書き方をしているんだと思うんですね。二国間は、経済的な問題については、非常に多くの議論が可能だと思いますけれども、私は特に思うのは、NAFTAに、韓国、シンガポールを巻き込もうというような動きは、当然今後とも非常に強くなってくると思うんですね。その時の一つの日本の切り札として、外交のカードとして、そういう二国間協定の準備を進めておくというのは、これは一種の経済政策ではなくて、外交としてはあり得るのではないだろうかということを申し上げておきたいと思います。
全部のことにお答えできませんけれども、最後に一つだけ。今日申し上げた中で、プロ・アクティブな政策をやろうではないかということについて、あまり議論がなされなかったんですが、IT革命のことがいろいろ議論されますけれども、数日前の日経新聞に書かせていただいたんですけれども、やはり「革命」という言葉に、ものすごく大きな意味があると思うんですね。産業革命というのは、単に機械技術の進歩ではなくて、あれは人々の価値観、ライフスタイル、行動様式、全部変えるようなものだったから革命なんです。今の世界の価値がアメリカ、ヨーロッパ中心になっているのは当たり前で、その革命に参加したのがヨーロッパの人だけだった、アジアの人は参加しなかったからだと。今のIT革命という、新しい21世紀の価値観を作る中に、我々はどのようにコミットしていけるだろうかと言うことは、これはある意味では私はアジア共通の利害だと思うんです。
これは一例ですけれども、携帯電話の規格が違うわけですね。アジアに行く時、アジアの人が日本に来る時、何で違う規格をやっているんだと。アジアは、基本的にヨーロッパの規格が席巻していますけれども、そういうIT革命という、21世紀のライフ・スタイルを作るものにアジアとしてどのようにかかわっていきますかと。私はIT外交というような概念があるべきだと思うんです。そこら辺は、非常に大きな問題提起ですけれども、前向きな問題として、議論する必要があるのではないでしょうか。小島委員
ワシントン・コンセンサスは、座長が言われた、肝心なことは危機と関係があったのかなということがありましたが、クルーグマン自身、今回のアジアの危機は、「アジアの罪に対する罰ではない」と言っているわけですね。要するにクローニー・キャピタリズムそのものが引き起こしたわけでも何でもない。したがって、それはより長期の構造的な問題であるわけですね。それからワシントン・コンセンサスも、危機に対する対応として、短期的対応としては全然役に立たないですが、しかし、かと言って、長期の大方向として見ると、あの方向というのは重視しなければいけないのではないか。したがって、短期にそれを翻訳した場合に、何がその問題なのか。アメリカは性急に短期措置としてやろうとして、結局危機を増幅したわけですね。しかし、長期の大方向と短期の問題、その間を繋ぐいろいろなやり方がある。吉冨委員は前回、それはインスティテューションズの問題だと言った。なぜワシントン・コンセンサスの問題、やり方の問題があったのか。もしそういう問題を起こさないためには何が必要なのかということを考えた発想が必要なのではないかと思うんです。
ワシントン・コンセンサスという概念は、何も危機があったから出てきたわけではなくて、冷戦が終わってから出てきたわけです。ともかく各国は民主主義と自由経済を入れればいい、入れるべきだという考えです。
それからIT革命の問題ですが、ITに絡んで新しい産業ができるというふうにとらえる人が多いんですが、そうではなくて、やはりおっしゃるとおり革命ですから、あらゆる生活、産業、経済、社会のシステム全体が変わってくる話だということでとらえなくてはいけない。恐らくこれは危機そのものとは関係ありませんから、これからの日本の経済、社会の考え方、及びアジアとのこれからの政策議論において、採り上げる必要がありそうです。茂木委員
今日は途上国と日本のかかわりということが、専らの主題であるわけですけれども、ただ今日、世界中が本当に、今のIT革命の話ではありませんけれども、全く情報の伝達その他、密接に動きが重なってしまうということで、ちょっとアメリカ経済のことを私は触れてみたいと思います。というのは、先ほど楠川委員が、あの3万9,000円は何だったんだろうかと、こういうお話があったんですけれども、今はアメリカは 1万1,000ドルを越えてしまって、今はIT革命のおかげで、情報の伝達がほぼ完全な形で行われるようになり、そのために、いろいろな経済的な調整が、より完全な姿で行われるようになったがために、ニュー・エコノミーというものが確立したんだというような考え方の人もいるようですね。
だけど、本当にそうなのかどうかですね。双子の赤字の一人の方は何か消滅してしまったようでありますが、依然としてもう一人の赤字というのは大変な問題であって、アメリカが一人、経済の繁栄というものを今謳歌しているような状況ですけれども、これが一体いつまで続くのか。そして日本とか途上国が、それにどうかかわるのかということですね。これは私、非常に疑問に思っているんです。アメリカが経済の繁栄を謳歌しても、さっきのグリーンスパンの言葉で、国民生活の向上というのが経済政策の目的だということを言われたそうですが、私が最初に申し上げた経済学の使命ということと、表現は違っても全く同じだろうと思うんですけれども。しかし、アメリカがそういう経済成長を謳歌している一方で、コペルニクスではありませんけれども、地球環境問題は依然として深刻になりつつあるということも、これまた事実であるわけでありまして、ますます私にとっては疑問が大きくなったような気がいたします。行天座長
ありがとうございました。私も茂木委員のおっしゃっていることは、だれも反対できないだろうと。だけど非常に率直に言って、ではどうしたらいいんだろうかということについての答えは全然出てないわけですね。それで、みんなちょっと戸惑ってはいるんでしょうけれども。今日もまた相変わらず大変活発なお話しをいただきまして、大変ありがとうございました。
いよいよ次回、8回目が最終回ということになりますので、最終回では今までの議論のまとめということで、吉冨委員と近藤委員にレポーター並びにコメンテーターをお願いしたいと思っております。
それでは今日は本当にありがとうございました。
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