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日時:1999年7月16日 8:00~10:00
場所:帝国ホテル「竹の間」
【第一部】 <基調報告>
行天座長
今日はお忙しいところをどうもありがとうございます。この国際経済・金融システム研究会も今日で4回目になりまして、若干、経済プロパーというよりは、もう少し広い視野でアジアと日本の問題を考えるというセッションにしたいと思っているわけでございます。
ご案内の通り、今日は田中委員から「アジア太平洋の安全保障をめぐる諸情勢」、山澤委員から「日韓経済関係緊密化について」、それから岡本委員から「アジア太平洋地域における政治経済の安定化のための日本の取り組み」ということで、それぞれ15分ぐらいお話をいただきまして、その後、皆さんの間でディスカッションというふうにしたいと思っております。
基調報告
田中委員「アジア太平洋の安全保障をめぐる諸情勢」この地域の安定化ということですが、幾分か安全保障面に限って、今思っているポイントだけ申し上げたいと思います。細かいことは、よくご存じの話ですから、後々の議論のきっかけにでもなればと思います。
まず最初に、現在のアジア太平洋地域の中で、安全保障問題といったときの具体的なことを考えますと、かなりはっきりしていまして、基本的には朝鮮半島の問題と、それからやはり台湾海峡をめぐる問題、この2つが最大の焦点であって、この2つの成り行きいかんによっては、ほとんどのことはすっ飛んでしまう可能性もありますし、この2つがうまくいけば、この地域は非常にやりやすいということだろうと思います。
朝鮮半島についても、金正日の体制で去年の9月に憲法改正ということがあったわけで、それから核開発疑惑というのは依然としてあったわけですけれども、アメリカの調査団が行って、それなりに落ちついたように見えますけれども、北朝鮮との交渉のというのは、チキンゲームみたいなところがある。オートバイに乗って相手に向かって走り出し、最初にブレーキを踏んだほうが負けだというようなゲームですけれども、このチキンゲームは、よく言われるように、最初にブレーキを壊しちゃうということをやられると、相手は合理的だったら、ブレーキを踏まざるを得ないんですよね。だから、お互いにとってブレーキを踏むのがいいんでしょうけれども、絶対に負けないためには、こっちが気違いだということを最初に示すほうが合理的であるというようなことがある。北朝鮮が今までやってきたパターンのうち、幾つかはこれに近いようなところがあるんですね。
核開発疑惑をつくってみて、それでアメリカも日本も、じゃあ経済制裁でやるかというと、こちら側もブレーキを踏まないという形になれば戦争になっちゃいますから。戦争になった場合に、北朝鮮の場合は、コソボと違って、5,000対0で、向こうは5,000人死者を出して、こっち側はゼロというわけにいかない。あっという間にソウルに爆撃されてしまいますから、これはできないんです。そうすると、北朝鮮がブレーキを壊すということをやれば、こちら側がブレーキを踏むという話になって、ゲーム論的に言うと、ナッシュの均衡解ですから、動かないんですね。
今度も、ウィリアム・ペリーさん、アメリカの前の国防長官が朝鮮半島政策の見直しということで、包括的な取り決めのため北朝鮮に行ったわけですけれども、行った後にミサイルの発射準備をまた始めるということになった。これはやっぱりアメリカとの交渉の中で、アメリカが北朝鮮にあげると言っているものだけでは、やっぱり不十分だということを示しているようにも見える。果たして、北朝鮮のミサイル発射に対して、日本は、ここのところの新聞だと、送金停止からKEDOの支援をやめるとかというところまであるというふうに言っていますけれども、どちらかというと、これは北朝鮮がやるぞと言っているのに対して、やったらこっちもやるぞというふうにやっているわけですけれども、果たしてどこまでいけるのかというのは非常に難しい問題です。
次は台湾海峡の問題です。台湾海峡は、朝鮮半島と比べてみると、直ちに武力紛争が起こるというような可能性は非常に少ないというふうには思うんですけれども、今度はこの台湾海峡の場合は、李登輝さんのほうが時々いろいろなゲームをやるわけですね。先週でしたか、台湾と中国との間の関係というのは、1つの国家の中に中国と台湾というものがあるということではなくて、90年代に入って、台湾は憲法改正して、もう中国共産党のことを反乱分子だとみなさなくなったわけだから、それ以後、この海峡の間には中華人民共和国と中華民国という2つの国家があるんだということを言ったわけですね。そこから結論は、李登輝さんは2つの国家があって、この特殊な関係はもうできちゃっているんだから、台湾は十分な主権国家であって、今さら独立などと言う必要はない、もう十分今でも独立しているんだということなんですね。
中国にしてみると、台湾は中国の一部であって、1つの中国、1つの台湾というような考え方は絶対に認められないというふうに言っていて、それで台湾が独立を宣言するなどということがあれば、武力行使を排除しないというふうに言っているわけなんですが、この中国の言っていることと、今の李登輝さんが言っていることはどういう関係になるかということで、今かなり緊張が高まっているわけですね。中国から見ると、台湾がやっているのを、これで今何もしないということになると、もうほとんど独立の一歩手前ですから、ここまでやられて何もしない、そういう台湾の見方を世界の国々がいろんなところで認め始めるということになると、手がつけられなくなるというふうに多分思うんじゃないかと思うんですね。そうすると、どうするのか。報道されているところだと、我が方はもう中性子爆弾の技術を持っているのだというふうに、きのうですか、おととい言ったわけですよね。これもまた大変なおどかしでありまして、李登輝さんがアメリカに行った後の、台湾の前の総統選挙のときは、軍事演習をやって、それからミサイルを2発、台湾の北と南に向けて実験しました。
だから、今回はそこまではいかないとは思います。そこまでやると、今はそうでなくても米中関係は大変ですから、何とかそこまではいかないうちにおさめたいという気持ちがあると思います。ただ、中性子爆弾の技術を持っているんだというようなことを言うというのは、もちろん建前から言えば、中国人が中国人相手に放射能だけで人を殺すような兵器を使うというのはちょっと考えにくいですけれども、やっぱりある種の、そういう心理戦のようになっているんだと思います。
そもそも李登輝さんが何で今の時期になってこんなことを言い出したのかというのはよくわからないわけで、聞いてみなきゃわからないんでしょうけれども、1つは、この10月に中台の民間レベルの交渉で、上海の前の市長というか、江沢民さんの前の上海の市長の王道涵氏が、10月に台湾に行って、中台の民間レベルの交渉をやるということが大体決まったということから、ある種のポジショニングというか、中国との交渉をする場合に、台湾の立場をある程度高めておいて、それでもってやるという、そういうような選択かもしれないと思います。
ただ、もう1つは、台湾の中の国内情勢というか、来年総統選挙で、民進党の候補も結構有力で、前の台北市長の陳水扁さんですけれども、今度李登輝さんが言ったポジションというのは、現在の民進党のポジションとほとんど同じなんですね。ちょっと前までは民進党は独立宣言をすると言っていたんですけれども、最近は、もう独立しているんだから独立を宣言する必要はないという言い方をしていて、李登輝さんのほうで民進党と同じ立場に立つということは、やや国内情勢をよくするという面もあるのかなという感じもしています。ただ、やっぱりこの心理戦も結構危ないゲームで、中国の新聞は、李登輝に対して危ない火遊びはやめろというふうに言っているわけですけれども、やっぱりかなりな大胆なゲームです。
それから、この朝鮮と台湾は非常に明らかな問題ですけれども、3番に、もう1つやっぱり今若干危ないといいますか、不安、懸念を持たざるを得ないのは、中国の情勢全般だろうと思います。やっぱり経済情勢が去年から今年にかけて、どうもあまり思わしくない。そうなりますと、経済情勢が思わしくない中で、社会的な動揺を示すような出来事がかなり起きているわけですね。報道されるだけでも、去年から今年にかけて、各地でストライキとか、それから暴動とか、あと爆破事件というのが結構いろいろありますし、それから、この4月には気功をやっている人たちのグループの法輪功というグループが、中南海で座り込みをやったわけですね。その法輪功のメンバーというのは共産党のメンバーよりも多いんだと言われていますし、それで、法輪功のメンバーというか、気功のメンバーは、共産党の幹部の中にも結構メンバーがいるということです。
あと中国で報道されているだけでも、華南、揚子江の南の方だと、三大邪教集団とか何とかといって、キリスト教と何かがまざったようなのがあって、それは大体撲滅したというのが中国の報道ですけれども、果たして本当に撲滅できているのかどうか。何となく中国史の王朝末期の黄巾の乱とか、白蓮教の乱とか、あるいは太平天国の乱というようなものと、結構雰囲気的には少し似たようなところが出てきているというようなところで、その中で、気功というのは、ちょうど100年前には義和団の乱がありましたけれども、あれもスポーツですから、結構気功というのも危ないものみたいですね。
今やマルクス・レーニン主義を信じろと言ったってだれももう信じませんから、共産党の今の正当性、レジチマシー(legitimacy)というのは、通常の権威主義政権のレジチマシーの維持の仕方にならざるを得ない。通常の権威主義政権のレジチマシーの維持の仕方というのは、経済パフォーマンスと、あとナショナリズムですね。ですから、この経済パフォーマンスとナショナリズムを両方高めておけばいいわけですが、経済パフォーマンスが悪くなってくると、経済パフォーマンスで共産党のレジチマシーを維持できないということになると、ナショナリズムに頼らざるを得ないというような面がある。そういうシンボリック操作というのはここのところ強くなっていますね。ただ、これは大変危ない話です。コソボのときの、アメリカにやられた後のデモはかなり統制はとれていたようですけれども、中央共産党にしてみると、やっぱり後になって、あれは大変危ないと思ったんじゃないかと思いますね。火がつき始めると本当にとまらなくなって、それとさっきの社会不安が結びついてくるとどういうことになるか。
その面で言うと、また、さっき言った台湾海峡との問題で、李登輝さんはこういうことを言っているのに対して、中国国内の共産党は何もしないということになりますと、内部の中から政権批判につながる可能性が多い。一番台湾は大事だと言ってたのに、李登輝が何をやって何もやらないのかということになる可能性があると思います。ですから、その辺も非常に心配なわけです。
そういう問題の中で、あと簡単にポイントだけですが、日本としてみると、やっぱりこの95年から後の日米安全保障体制の再確認というのはやってきてよかったなあと思いますね、こういう事態を考えてみますと。ガイドライン関連の法律も、非常に時間はかかりましたけれども、成立した。問題が起きないのが一番いいわけですけれども、問題が起きたときの枠組みということからすると、つくっておけてよかったと思います。
それから2番目に、中国政策の面で言うと、周辺事態について、いろいろあいまいであると言われてますが、安全保障に関する話には、やはりある種のあいまいさは、つきものです。
ただ、一番問題なのは、北朝鮮に対して、ミサイル実験を本当にやられた場合にどうしたらいいのかという大きな問題があろうかと思います。先程ちょっと申し上げましたように、送金停止とか、それからKEDOの資金をまた凍結するとかということですけれども、今やめさせるためには、こっちは相当強いことを言っていないとある種の抑止にならないわけで、強いことを言わなければいけない。しかし実際にやられちゃったときにどうするか。さっきのチキンゲームですから、本当に向こうがアクセルをいっぱい踏み出してきたときに、こっちもアクセルを踏むかという話ですね。私は、ミサイル程度では、こっちはやっぱりアクセルは踏めないんだろうというふうに思いますね。そうすると、どのぐらいのところでとめるかというような話でして、私は、KEDOの仕組みを全部壊すような形で日本が反応するのはやはり望ましくなくて、もし何かしなければいけないんだったらば、日本独自でできるものとすると、送金停止というような話だろうと思います。ただ、これは、北朝鮮にとってみると大変な敵対行為ですから、こういうことをやるということは、日本国内で、場合によるとある種のテロ活動のようなものが起きるとか、そういうことは想定せざるを得ないということはあろうかと思います。
結構この夏はやや緊張が高まっているので、あまり楽観的なことは言えないんですが、ここ3、4年の大まかな流れを見ると、大国といいましょうか、日・米・中・ロの間の関係は一進一退ですけれども、それほど悪くなってきているわけではないんだと思います。それなりに首脳同士の関係が強まっていますから、そういう面で非常にポジティブな面もあったと思うんですが、ただ、米中関係が、今申し上げましたような台湾の問題とか中国情勢全体の問題、それから米中関係に内在する幾つかの問題、それからコソボでの問題等から、やや不安定になっているということが心配なわけであります。
特に今、李登輝さんの発言がある前までで言うと、これで大体コソボの件はアメリカが謝ってそれなりに賠償するということで大体落ちつくのかなというふうに思っていたのですが、ここのところで、李登輝さんのあれで、中性子爆弾の技術を持っていると言ったと。そうすると、これはその前にいろいろ問題になっていました、中国がアメリカから核開発技術を盗んでいろんなものをつくったという議会報告書ですね、コックスさんという人のコックス委員会の報告書の問題と非常に関連するので、アメリカの国内、議会の中で言うと、やや、こういう形で台湾を挟んで緊張が強まって、中国が中性子爆弾を持っているということになりますと、アメリカの中で言うと、やはり中国は単に関与していれば済む存在ではなくて、これは封じ込めなければだめなんじゃないかという意識が強くなる可能性があって、日本とか、クリントン政権も大変やりにくくなる可能性があると思います。ですから、そこのところが非常に大きな不安定要素です。
この不安定性がそれほど強まらないということであれば、中国の江沢民政権の態度等は、コソボであれだけ怒っても、やっぱりアメリカと決定的に対立したら損だということははっきり意識しているというふうに思うんですね。もちろん日本との、この間の小渕訪中がそれなりによかったというか、何も問題にならなかったのは、アメリカとの関係が不安定だから、日本との関係まで悪くしちゃったら大変だということがあったんだろうと思います。中国の今の政権は、全面的に自らを孤立させるというような傾向はなくて、その面で言うと、アメリカの優位というのは、まあ、しようがない、アメリカというのはそういう国だから何とかつき合っていくしかないわというふうに、中国国内でもなる可能性があって、それは大変いいと思うんです。ただ、先程申し上げましたように、中国情勢全般が非常に不穏当になっている中で、ナショナリズムが強くなって、それを刺激するような台湾の問題があるということは、米中関係にも影響を与えるかもしれないということであります。
最後は、日本のこの地域の安全保障といいましょうか、政治全般の問題なんですけれども、中国とか朝鮮とかをひっくるんで、東アジアというものをどういうふうに日本外交は構想するのかという問題があろうかと思います。90年代の初めにできた地域枠組みは、経済面でいうとAPECで、安全保障面でいうとARFですけれども、これは割と非常に広い範囲の枠組みだったのですよね。これに対し、90年代後半になってできてきたものは、やや、APEC、ARFの中の東アジア部分を強調するのになっています。
先ずASEMはアジアとヨーロッパの会議ですが、ASEMのアジア側というのは、ベトナムを入れたかつてのASEAN 7と、それから日・中・韓ですね。それから、97年12月のASEAN首脳会議の際に行われたASEANプラス日・中・韓というのがサミットレベルで始まったわけです。もちろんASEMにしても、ASEANプラス3にしても、実体はあまりないですけれども、ただ、枠組みとして見ると、かつてマハティールさんが言っていたEAECと同じグループができたわけですね。そうすると、このあたりにどういう内実を日本としてつけ加えていくのが必要なのかというような問題が出てきていると思います。
ここから先は安全保障というわけではないんですけれども、97年の金融危機以来の、国際金融の枠組みとしてのアジアといったときに、どのぐらいの範囲を考えるか。そうすると、このASEANプラス3というようなあたりに、あともう幾つかくっつけるという形になるのかどうかと。行天座長
どうもありがとうございました。ご意見や質問は、3人のお話を伺った後でということにさせていただきたいと思います。それでは、早速、山澤委員、お願いいたします。
基調報告
山澤委員「日韓経済関係緊密化について」私は焦点を絞りまして「日韓経済関係緊密化」ということについてお話しさせていただきます。これは私どものアジア経済研究所が通産省に頼まれて、韓国の研究所と共同研究をしているものです。新聞紙上では、日韓FTA、自由貿易協定などというように報道されておりますが、今日のこの共通課題である、アジア太平洋地域における政治経済の安定化のための日本の取り組みの1つの具体例というふうにお考えいただければと思います。日本の通商政策スタンスをかなり変えるということにもなるわけでありまして、そういう要素も含んでいるかと思います。
先ず、この日韓経済関係緊密化ということは、いろいろな動きが昨年のうちから起こっていたんですが、やはり一番大きなものが、10月の初めに金大中大統領が日本に来られて、20世紀に起こったことは20世紀のうちに片づけようという言葉をつけて、21世紀の新しいパートナーシップを築こうと、大変立派な呼びかけだったと思いますが、これが大きなイニシアティブになっていると思います。もちろん、その前に日韓両方から幾つかの同種の方向の提案がされまして、そもそもの言い出しっぺは、どうも小倉駐韓大使ということのようですけれども、やはりこういう大きなイニシアティブということになると、金大中大統領の演説ということになろうかと思います。
しかし、これがどういう意味を持つかということについては、日韓経済関係がこれまでどう推移してきたかということを見ておかないと、分かりにくいことです。1960年代、朴正煕大統領になってから、日韓関係は大変緊密化してきているわけですが、同時に日韓の摩擦というのも高まってまいりまして、基本的には1つ、日本からの機械・部品輸入に大変韓国の製造業は依存をしたわけで、そのことによって、対日貿易赤字が累積いたしまして、これが日韓の話し合いのときに常に改善を要求するという形で推移してきたわけです。
1979年には、韓国は輸入多辺化制度といいまして、輸入源を多様化するという制度を導入したんですが、これは実質的に日本製品の輸入制限というものであります。80年代を通じてその関係が、経済関係は緊密化しながらも摩擦が高まるということで続いてきたんですが、宮沢・盧泰愚間で、「日韓貿易不均衡是正のための具体的実施計画」を合意しました。これは官民両レベルで、主として韓国に対する日本側からの技術協力を中心として解決していこうというものです。その具体的な形として、日韓・韓日経済人会議、日韓産業技術協力財団、AOTSによる技術研修、これは専ら日本が韓国に専門家を送ったり、韓国からトレーニーを招いて、向こうに日本の製造業の技術を伝えるということが中心でした。
1990年代を通じまして、日韓貿易・投資ともに、絶対的にというのではないんですが、相対的にはもう明らかに減少いたしまして、韓国の中に占める日本のシェアは、貿易・投資ともに縮小しました。しかも貿易の赤字は持続したという形が、アジア経済危機が起こるまでの状況です。そこで、アジア経済危機が起こりまして、その中で、どうもこのままではだめだということが、主として韓国側のほうから出てきたと思います。やはり日本との関係を強化して、韓国の経済力を強めなければならない。同じようなことを日本からも言われ始めてきて、いわゆる経済緊密化を促進するという言い方になっていると思います。
ただ、このような形のものを、今までいろいろやってきているわけですから、従来型の努力を超えてやはりさらに一歩踏み出すとなると、政府間協定に基づく新しい制度的枠組みを模索することになるだろうと思います。具体的な動きは、去年の11月、12月にAPECのときと、11月28日に日韓閣僚会議が鹿児島で開かれたり、それから12月の初めに官民合同会議がソウルで開かれたりして、最終的にことしの3月に小渕総理が訪韓されて、「経済アジェンダ21」を提案されたわけです。これは、いわば金大中大統領の21世紀のパートナーシップ構築に対して、日本側の主体的な、経済面を中心とした施策を提案をしたという形になろうかと思います。その内容は、経済関係緊密化に向けて段階的にそれを進めていくと。その幾つかは既に始まっておりまして、日韓の租税条約は改定されましたし、今は日韓投資協定を交渉中であります。また、いろいろな制度や基準認証の相互承認であるとか、知的所有権分野での協力というのは、もう既に交渉のアジェンダに上がっております。ちなみに、韓国側は輸入多辺化制度を、これは徐々に減らしてきていたんですが、最終的に6月末で完全に撤廃いたしました。
さてこのような中で、日韓経済関係緊密化は段階的に始めてきているわけです。この全体を包括する日韓の新しい制度的関係のビジョンをどのように与えるべきかということになって、それはまだ政府間で議論するのは早いということで、私どものアジア経済研究所と韓国のKIEP、対外経済政策研究院が共同で取り組んで、作成することになっています。そのやり方は、合同の研究会をつくるのではなくて、それぞれ研究チームを組織して、今年の末までに、それぞれ自国語で報告をしようと。先ず自分の国の人々に説明するのが先であるということで、自国語で報告書をつくる。しかし全く内容が違ってはおかしいですから、定期的に合同の協議を通じて、相互に整合的な内容とする、いわばエクゼクティブサマリーはかなり似かよったものにするということを考えております。
研究の内容といたしましては、中核は2国間貿易・投資自由化の利点と影響の調査であります。日本と韓国が、2国間の通商関係をちゃんと制度的に新しいものにするということになりますと、きちんとGATTやWTOをクリアしておかなければいけませんので、やはりGATT24条に基づく自由貿易地域、FTAという形になろうかと思います。これが新聞紙上で、日韓FTAと先走って言われているものです。
しかし、私どもは、GATT24条に規定されているようなFTAだけではなくて、もっと幅の広いもの、先程も「包括的な」と申しました、投資協定、相互認証、金融・通貨協力も含めたものを考えて、それがどういうものであるかということを研究しております。この中では、特に漁業・農業、これは日本側がかなりプロテクトしている領域ですが、ハイテク産業になると韓国がプロテクトしておりますし、サービス産業は一般に日本も韓国も欧米に対して弱い分野であります。そういう民間分野への影響も見なければいけません。しかし、とかくこういうことをすることによって、影響が出る分野をどう取りつくろおうかというのが今までのやり方でして、これらではどうも、わざわざやる意味がない。むしろ、新しい関係、枠組みの中で、いろいろな動態的な変化を、企業合同、提携その他の協力関係から生ずるような経済活力が生み出されてくるということをやはり目指すべきであって、それを売り物にしないと、この種の考え方は売れないであろうと考えております。
最後にこの構想の特徴ですが、先ず第1に、日本も韓国もいずれも、これまで制度的な地域統合に反対して参りまして、不参加でありました。専らヨーロッパ、北米、豪州、ニュージーランド、ASEANなどで、地域統合化をやってきたんですが、それには今まで全く参加して参りませんでした。その動きに、遅ればせに参加するという形になろうかと思います。既に韓国とチリの間で、それから日本とメキシコの間で、同じような試みが進行しております。
日本も韓国もいずれも、これまで自由化というのは、ウルグアイ・ラウンドだ、東京ラウンドだというような世界大の自由化だけでした。ということは、より踏み込んで国内生産者、消費者を対外競争に晒した経験がないということです。この日韓経済関係緊密化は、日韓双方に、より踏み込んでの自由化を経験させるという意味で自由化の実験、これは、EUになる前の欧州共同体などの正統化の議論として盛んに言われたものですが、まず世界大の自由化ではなくて、隣の国同士で自由化をして、徐々に自由化に慣れていくということです。そういうことを、今まで日本も韓国もやったことがなかった。それが、日本、韓国の、それぞれ世界大の自由化にいろんな形で尻込みさせる原因になって、日本などは明らかにそういう要素があろうかと思いますが、それをならしていくという意味があるであろうと。ですから、それはAPECやWTOの自由化に準備を進めるということになろうかと思います。
こういうことをやりますと、当然、日韓以外の国からは、日韓FTAで第三国差別が生じるであろう、ほかの国を差別するものだ、そして、それはAPECとWTOの自由化が進行している中でけしからんではないかという議論になってくるわけなんですが、最近のアジア危機の後での韓国のいろんな規制緩和だとか構造改革の動きを見ておりますと、あとどんな規制が残るんだろうなと思うくらいに、かなり思い切ったことをやっているわけですね。日本の場合も、ある程度それに似たことが出てきて、そういう中で、これが1年、2年で達成しようというものではありませんから、この先を見ていきますと、恐らく第三国差別が深刻になることはまずないでしょう。これを伝えるのも我々の仕事だ考えております。
この日韓自由貿易協定は、最終的な日韓のフレームワークをWTOなどのルールに合わせたものとすればそういうものになるということであって、究極的なビジョンですから、こういう方向に向かって日韓両国が協力するんだということを言って、それを目指して、日本と韓国の企業、さらには第三国の企業も、日韓に進出してくれる、それが恐らく一番大きな動態的な効果を上げる方法であろうと思います。私どもが考えておりますのはそういうことでございまして、ぜひこの種のオピニオン・リーダーがお集まりのところで、いろいろアドバイスをいただきたいし、ご理解もいただきたいと思って報告をさせていただきました。行天座長
どうもありがとうございました。それでは、最後に岡本委員、お願いします。
基調報告
岡本委員 「アジア太平洋地域における政治経済の安定化のための日本の取り組み」 私はこれからのアジアの安定化ということを考える上で、決定的に重要なのは、アメリカがこれからアジアでどういうふうに動いていくかということだろうと思います。90年代にアメリカの一極突出が顕著になったわけです。そして、アメリカン・スタンダードというのが、デファクトのグローバル・スタンダードになる中で、アジアが一層アメリカに傾斜していっているのではないか。その中で、アメリカの自らのディシプリンというのが失われてきているという感じがいたします。冷戦時代には、もちろんアメリカがアジアの1つの国をあまりに押し込めば、その国はソ連の方へ傾斜してしまうというゼロサムがございました。ソ連の失敗は、今度は逆に、アメリカ陣営の得点になる。という中では、アメリカはアジアに対しては、ある程度バランスのとれた抑制策にならざるを得なかったけど、もうその心配がなくなったわけですから、インドネシア政策などはそうだと思うんですけれども、相当傍若無人さが目立つようになってきたという感じがいたします。
にもかかわらず、アジア諸国というのは、一層アメリカに経済面からも傾斜せざるを得ない。特にインターネット経済の爆発というものがそうですし、英語というものがアメリカン・スタンダードというものを浸透させていると思います。今までは物づくりの世界の中で、製造品自体が世界標準だったわけですけれども、これからはそうではない、知的財産、考え、情報。となると言葉というのが一層重要になるわけであります。
今申しましたように、アジア各国は対米関係を従来以上に重視するようになっていく。これはまた、社会主義国家群の中で一層目立ってくると思います。中国、北朝鮮、ベトナム、そういったところで感じます。北朝鮮にしても、アメリカとの関係さえうまく維持していればいいんだという金日成の遺訓は未だに生きていると思います。大体NPT脱退ということで危機をつくり出したわけですけれども、何のためにNPT脱退と脅したかと言えば、アメリカの関心を引きつけるためだったんだろうと思います。ベトナムなども、行く度に、日本でもベトナムに対する関心というのが急速に薄れてきておりますけれども、着実にアメリカ化というものが浸透している気がいたします。
ところが問題なのは、そうしたアジアがますますアメリカを必要にしている、それに対する戦略的な政策というのが、アメリカ側に欠落していることだと思います。特にクリントン政権になってからのアジア外交というものは、やはり場当たり的な色彩が濃いと思います。国内政治の反映としての状況対応的な政策が見られるのではないか。米中関係などが好例でございます。「建設的・戦略的パートナーシップ」が米中間に存在するはずもないのに、ああいうことをレトリックで言ってみる。そのために国内でも猛反発をくらう。私もある会合に出ておりまして、アメリカ人同士が猛烈な議論を始めました。政権にいる人たちに対して、在野の人々が「英語で幾ら辞書を引いてみたって、戦略的というのは軍事的な意味以外にないのではないか」と。一体、アメリカと中国はどうやって軍事的なパートナーシップを持つんだと言って、政権側の人が返す言葉もないという場面もございました。
要するに、もともとアメリカと中国の間で、人権問題あり、チベット問題あり、核不拡散の問題あり、通常兵器の不拡散問題があり、知的所有権の問題があり、さらには台湾問題がある、その中で成立しようのない言葉を使っている。考えてみれば、なぜあのときにアメリカはあそこまで踏み込まなければいけなかったか。残念ながら、クリントン大統領が当時置かれていた国内の政治的状況から、どうしてもああいう、まあスタンドプレーが必要だった。そのために難しくされたのはどこかというと、日本であります。アメリカは、例えば3つのノーというようなことを言ってみる。従来、ご承知のとおりアメリカはそういうことは言ってきてはおりますけれども、ああいう高いレベルで言ったのは初めてであります。アメリカにしてみれば、TRAがありますから、台湾関係法がありますから、遊びといってはいけませんけれども、そういうことを言える余地があるわけですね。何を中国に言ってみたところでTRAは動きませんから、台湾側もある程度安心しているわけです。ところがそういう枠組みを持たない日本は、中国との間で、アメリカがそこまでするのにどうして日本は同じことを言えないのかというふうに責めたてられるわけです。日米間で、そのようなことに対する政策協調が本当に行われているのか、アメリカが日本のことをどこまで配慮しているかというのは、私は疑問であります。
中国の登場というのは、いろんな国際的な場での中国の自信のほどを見れば明らかでありますけれども、急速なものがございます。これを、もし東アジアのステータスクオというものはやはり守らなければいけないという立場に立てば、そのための基本的な枠組みというのは、やはり日米安保体制であるべきであります。ところがクリントン政権というのは、日米安保体制というものに対する、言葉の上ではともかく、本質的なコミットメントというのがあるのかということは、いささか疑問に思っております。それはいろんなところで出てきているんですね。例えばアメリカ側の関係者と話をしていて、尖閣という言葉を発するときに、尖閣と言うアメリカ人はあまりいないですね、みんなターユイタイというわけです。これはフォークランドと呼ぶか、マルビナスと呼ぶか、それでもう陣営が色分けされる、そのような気持ちで私は悲しくアメリカ側の発言を聞くわけであります。そのようなことはともかく、より本質的な問題としては、中国の核のアメリカに対する照準外しということを、国内に大きな成果として喧伝する。
では、一体日本はどうなのか。80年代、冷戦構造の時ですから、そのまま比較はできないのかもしれませんけれども、アメリカはNATOとソ連の間の中距離核の削減交渉におきまして、本来は、あれはドイツの要請を受けて始まった、ソ連と欧州との話であります。したがって、欧州部のSS20だけ撤廃させれば、それで本来の目的は達成できた。ところがアメリカは頑張って頑張って、日米安保体制というのを信頼性のあるものにするためには、アメリカが日本のことも考えて政策をやっているんだということをわからせなければいけないということで、アジア部の核まで撤廃させちゃったわけですね。アメリカは本当に頑張って頑張って、ついに中距離核を欧州部とアジア部全部から撤去させた。ソ連にしてみれば何だということになる。日本との間では、自分たちはどうしてこんなものを撤廃する必要性はないじゃないか。しかしアメリカが強引にやった。あの時のアメリカには日米安保体制というものに対する本質的なコミットメントがあった。中国がアメリカに対する照準を外したからよかったよかったというアメリカには、日本に対する配慮というのはないんです。本質的なコミットメントがない。いろいろ他にも例証というか、エピソードがございます。
沖縄問題を巡るここ2、3年の動きを見ていてもそうであります。具体論を言っている時間はございませんけれども。アメリカは、自分たちが日本に米軍を駐留させる、この重要性というのはいささかも彼らにとっては変わっていませんけれども、日米同盟関係というものが冷戦後のアメリカにとって非常に重要だという意識がどこまであるのか。もとより、アメリカは日本にとっては世界で唯一の同盟国であります。しかしアメリカにとってみれば、日本は40近い同盟国のうちの1つに過ぎません。ですから、そこで鏡の関係は存在しないんでありますが、それにしても、アメリカの日本へのコミットメントというのは弱くなってきている。
ということは、実はこれがアジアの安全保障の枠組みというものを脆弱化させていくのではないかという心配があります。もちろん有事の時にどう対応するか、どういうことになるのかというのは別の話でありますけれども、普段からの枠組みとして、アメリカが他の国に対して日米安保体制というものをどういうふうに説明しているか。これは中国のシンクタンクの人たちと話をしてみればわかることでありますけれども、アメリカは、日本と中国に対する説明の仕方が違います。中国に対しては、例の瓶のふた論を持ち出して、我々が日本にいないと彼等は何をするかわからないという議論をしているという話を、中国の人たちから聞きます。今のアメリカの、目の前にある問題をとりあえず処理する、あるいは目の前にいる人を満足させるという政策が、アジアに強固な安全保障、政治上の枠組みというものを確立することを妨げてやしないかということを、私はこういう場ですから、申し上げたいと思います。
そうして日本とアジア諸国の関係が、アメリカとその国の関係の従属変数になっている場合が出てきた。この間の小渕訪米、小渕訪中、いずれも大変うまくいった、しかし、じゃあ日米関係に新しい戦略的な定義づけがもう一回行われたか、何か本質的に日米関係を改善するような合意ができた上での成功だったのか、日中も同じでありますけれども、行ってみたら、向こう側の態度がやわらかくてよかった。これはもう明らかに、アメリカにしてみれば、中国、中国ということだったのが、米中関係がそうも簡単にいかないということで日本に戻ってきたし、日中首脳会談にしても、中国にしてみれば、今まではアメリカがすべて彼らに必要なものをくれる、そことさえうまくやっていれば日本なんかいいやといっていたのが、そうもいかなくなってまた日本に向いてきた。日本はその間で振り回されるというか、従属変数になっているのではないか。日本としては、そういった振れに影響されないアジア政策をとっていかなければいけないと思います。
経済の方は今までずっと議論してきましたので、もうご説明はいたしませんけれども、アジアの経済の没落というのはなぜ起こったのか。クルーグマンの言っていたことというのは正しかったのか正しくないのか、私は正しくないと思うんでございますけれども。IMFにすべての診断まで任せておいていいのか、そこはもう一度アジア諸国と日本が議論してみるべきではないかと、私はかねがね思っております。アジア諸国に対しては、宮沢構想を初め、日本は多分言われる以上のことをやってきていると思うんですけれども、それにしても、そのインパクトというか、PR効果が薄い。もらっている国々は喜んでいますけれども、それが世界的に日本の貢献として認証されてない。レールを敷いた経済政策の中で、アジアがアメリカのデファクト・スタンダードのもとで動いている時に、日本がその枠内でやるだけでは、やはり真のアジアと日本との緊密化というのはできないのではないか。今、私はやはりもう少しアジアの資本市場にエクイティを入れるべきだと思いますし、それから、今、この間のBISの報告では、1日当たりの外為市場の取引高は1兆5,000億ドルだそうではありますけれども、そういう新しい時代のマネーというものに対して、マハティールが1人でソロスとけんかをしておりますけれども、アジアの一員として日本も取り組むんだという話を彼らともう少し突っ込んでするべきだと思います。
最後に「アジアに対する日本の基本的姿勢」でございますけれども、私が若干危機感を持っておりますのは、アメリカのデファクト・スタンダード化とも関係する話でありますけれども、世界、特にアジアが一斉にアメリカの方を向いている中で、日本がアジアと欧米のかけ橋になる、あるいはアジアの代表としてG7などの場で、欧米に対してアジアの利益を主張するといった構図はもはや成立しなくなっているのではないだろうか。欧米諸国とは、アジア諸国自身の方がうまくインターフェースをとっているような状況ではないか。これは国際会議などに行きますと、アメリカとアジアの代表が集まっているところで、どうも我々の方が疎外感を持つというか、日本など素通りした、彼らの直接のいろんな共通問題意識なり議論というのが成立するわけであります。その中で、日本を通して話をしろと言ったって、無理な話であります。日本はアジアの一員として、アイデンティティを確立しなければいけないと思います。
その意味でも、私は山澤委員が今おっしゃられた日韓のパートナーシップというものは大変に重要だと思うんです。日本は、安全保障は確固としたパートナー、同盟国がもちろん存在するわけでありますけれども、経済面では存在しません。日韓のFTAというのは、土台、農水省などは絶対に反対でございましょうから、その実現性はさておきますけれども、そういった目標を立てることによって、それに至る過程にある投資促進も含めた日韓の経済関係が緊密化してくる、日韓のいわば経済的な盟友関係というものができることによって、この東アジアに非常に安定的な枠組みが1つできるのではないかと思います。
その他、アジアの人づくり政策、あるいは社会的弱者政策、あるいは行政や教育などにおいての共通のシステム作り、そういったことも日本は率先してやっていくべきだと思います。以上でございます。
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