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日時:1999年3月25日、8:00~10:00
場所:帝国ホテル「竹の間」
【第一部】 <基調報告>
行天座長
本日はお忙しいところ有り難うございました。
国際経済・金融システム研究会第2回の会合ということで、ご案内の通り、楠川委員から「国際金融システムの問題点」、小川委員から「為替制度、国際通貨制度の問題点」につきまして後ほどお話を頂いて、その後ディスカッションを致します。
前回は高村大臣にご出席頂いて第1回の会合を致しまして、その時には伊藤委員からこの度のいわゆる東アジアの金融危機についてのお話を頂いたわけですけれども、今後一体この研究会として、どういうテーマについてどういう議論をしていくか、その結果をどういう形にとりまとめるかという点について方向性を出さないといけないと思うのですが、この国際経済・金融システム研究会というのは、広範にわたるテーマでございますので、私どももどういうところにポイントを置いてご議論頂こうかと、いろいろ考えております。そもそもこの研究会は高村大臣の私的研究会ということなので、その依頼主のご意向も考えなければいけませんし、その意味で外務省の方ともご相談を申し上げておりました。その結果、今日お手元に紙がお配りしてあると思うのですが、「報告テーマと報告書」という案を作ったわけでございます。ご覧の通り、全体の構想としては、総論ということで前回の伊藤委員のアジア通貨危機全般についてのお話し、それから今日は、主として国際金融システムの問題、それから次回は貿易、投資、雇用、国際機関というようなかなり幅の広い金融以外の分野についての話しということで総論的な議論をして頂いて、その後4回に分けまして、まず第1回はいわゆるジオポリティクスとか或いは安全保障の問題を含めて、アジア太平洋地域に於ける政治経済安定化のために、特に日本にとっていったい何をすべきなのか、できるのかという観点、それから2番目に今度は途上国の為替政策への支援という点に焦点を置いて、現状の問題それから今後一体どうしたらいいのか、これも日本の主としてアジア地域への支援ということを中心にして議論をしていただいたらどうかと。3番目は非常に難しい問題だと思うのですが、いわゆるアジア型の経済発展モデルというのは、昔から良かったときも、危機になってからも議論になっているわけですが、その問題というのは一体どう考えたらいいのか。特に韓国とインドネシアという、その意味では非常に卑近な且つ役に立つ前例があるわけで、その辺を中心にしてその問題を考えたらよいのではないか。それから4番目はアジアの経済危機を全体として総括反省した上で、これからこういうアジアの発展を阻害するような経済危機の再発の防止を行いながら、且つ最もアジアに役に立つような形での日本の貢献というのは、広い意味で単に金融の面だけではなくて、まさに貿易、投資、援助それから国際@関を通ずる支援、あるいは労働力の移転の問題等々、広い意味で日本の貢献というのは一体どうしたらいいのか。最後に、8回目になるわけですが、それまでの議論を総括して頂く議論。日程等を考えまして、年内に8回の会合を開きたいと考えております。
そしてご依頼主に対して報告をしなければならないので、報告書をまとめるわけでございます。この報告書については、私どもが考えておりますのは、7回までの議論を拝聴した上で、報告書としてまとめるとなると、だいたいこんな枠組みで、こういう点に重点を置いて、報告書としてまとめたらどうかという案を作らせていただきたいと思います。その案を最後の会合の折りに皆様にお配りします。報告書というのはやはり委員全体、全員が貢献をしていただかなくてはいけないわけでして、具体的には執筆をしていただく必要があります。報告書というのは、まさに委員全体がそれぞれの意見を述べたものの集大成といいますか、総括と、しかもそれが全体としてひとつの枠組みを作っている、こういう形にしたいと思っておりますので、最後の第8回の会合の折りにその枠組みを示して、皆様方にそれぞれどういうことについてのご意見を書いていただきたいか。大体その場合のお願いは、この研究会の過程でご報告をいただいた点を中心にお願いすることになると思いますので、報告書のために全く新しいことを何かしていただくということにはならない筈です。
また何かご意見がございましたらご遠慮なく是非是非、私なり、あるいは事務局の方に出していただけるとありがたいと思っております。
それから各会合の事前に事務局の方から次回のレポーター、コメンテーターにはご連絡を申し上げまして、どういう点に重点を置いてお話をして頂いたらよろしいのかご相談をさせていただくことにしております。
それから研究会での議論をどういう格好で情報公開するのかという点ですが、前回の第1回の議事録は、すでに皆様方にチェックをして頂いております。本日その議事録をお配りしてあります。この議事録につきましては、目下外務省のホームページに掲載するということで準備を進めておりますが、特にご異存なければこれから毎回の研究会の結果については、外務省のホームページに公表するということでやっていきたいと思っております。
事前に私からご報告をする点は以上でございます。
それでは本日は先程ご案内いたしましたように、楠川委員と小川委員という、まさにこのテーマにつきましては最も資格のおありになるお二人にお話を頂きたいと思います。
この国際金融システムの問題、最近国際的に大変関心が高まっておりまして 、先週ワシントンで行われました三極委員会というのがございますが、楠川委員も小島委員も私もそれに参加しておりました。そこでもこの問題にかなり関心が集まっておりまして、米国のサマーズ財務副長官もその問題に触れた話をしておりましたし、ご承知の通り、最近世界中の経済関係の刊行物を開きますと、こういう問題が議論されていない号はないというくらいで、日経新聞社も昨日から経済教室で、特集を組んでおられますけれども、まさにその意味では大変時宜にかなったテーマであると思います。
それではまず最初に楠川委員、次いで小川委員に、大体お一人20分位でお話を頂きまして、そのうえで、全体としての議論をしていきたいと思います。
それでは楠川委員一つ宜しくお願い致します。
基調報告
楠川委員 「国際金融システムの問題点-資本取引自由化の功罪、金融システム構造安定化の方策など-」 実はこの研究会の名前と私の今日お話する課題とが似通っているんですね。ということはこれをリポートすることはこの研究会の全てをカバーすることになります。とてもその任に堪えずと思います。そこで私としては、問題の指摘をさせていただく程度でご勘弁いただければと思っております。またこの問題、色々重複があるな、と思っておりますのは、3月1日に宮沢大蔵大臣が世銀の会議で提言をなさっているんですが、その内容がまさにこのテーマでありまして、勝手ながら、添付別紙の形で、「国際金融のアーキテクチャーについて」という宮沢提言を私なりに要約させていただいてここに並べさせていただきました。それからまたもう一つは、私、今、ABAC、APECのビジネス・アドバイザリー・カウンシルの日本委員をやっておりますが、そこに「フィナンシャル・クライシス・タスクフォース」というのがありまして、そこで去年一年かかってああでもない、こうでもないと言ってやってきたことがございます。それもまあ、ちょっとご参考までにということで別紙で添付させていただきました。
要するにこのテーマは「インターナショナル・フィナンシャル・アーキテクチャー」という言葉で言われている話だと思うのですが、まあ考えてみますと、どうしてこういう言葉が世界中で今問題になっているかというのには、最近のいくつかの出来事が背景にあるということが言えると思います。やはり一つはアジアの経済危機ということですが、何がここまで問題をこじらせたのかとか、あるいは為替制度がおかしかったのではなかろうかとか、IMFの処置が間違っていたのではなかろうかとか、コンテイジョンは防止できなかったのかとか。そもそもバブルがあったわけですが、そういうものに対する対応が何もなかったのか、というような議論がいろいろと出てまいります。
これは東アジアの新興国、あるいはロシア、ブラジルの問題であるわけですけれども、先進国の方ではどうだったかと申しますと、やはり先進国側にもある程度、問題はあったのではないか。まず一つは、日本の景気低迷というのがどうしてこんなに長引いているのだろうかというようなこと、これにはやっぱりこのフィナンシャル・アーキテクチャーの問題が若干あったのではないか。それから1980年代の終わり頃にありました米国の大銀行のリストラクチャー、この問題と関係があったかもしれない。またそれから90年代のはじめに出た英ポンドに対するヘッジファンドのアタックも、あるいは昨年香港で発生した為替市場、及び株式市場に対するアタックも、このフィナンシャル・アーキテクチャーの問題であったのではないかという感じがいたします。
グローバルな資金が大量に動いているということが一つ共通的なものとして指摘できるわけでございますが、これについてはこの前の会議の時にも話題になって居りました。何れにしましても国際的な流動性の大きさというのは、世界の貿易額と比べますと、1.3倍、1.4倍位の大きさになっていると思いますし、ユーロ預金残高だけをとってみましても、そういう貿易額を超えているという状況にございます。
またいわゆる後進国に対する資金援助につきましても、公的な機関からの貸し出しに比べて最近は民間からの貸し出しが非常に大きくなっているという問題もあるわけですが、その背景はやはりグローバルな資金が、すごい勢いで動いているということです。グローバリズムという言葉がございますが、これがいいか悪いかというよりも、もう、これはむしろ所与の既定事実で、おそらく我々はこれからこの考え方とは共存していかなくてはならないんだと考えた方がよいのではないかと思います。結局グローバリズムというのは、前回の議論でも出ていたように、エレクトロニクスの技術や通信技術にサポートされて出て来ているわけですから、これはもう逆戻りはしない。そのことをまず考えておく必要があるし、世界のマネーがこれに乗っかって非常なスピードで動いているということで、これを止める手段はないわけですし、また止める理由も、あるいは止める必要もないのかもしれない。こういう発想は先進国の論理だと思いますが、果たしてそれでよいのか、そこが一つの問題点になるところかと思います。
もちろんもう一つ問題としては新しい国際的な通貨が出現したということがあるわけですが、これは小川委員の方からお話しになるかとも思いますが、ユーロの影響がどういう風になるのか、特に国際的な基軸通貨が複数になったという現象をどう理解するのかということが、結構インプリケーションの大きな問題になるのではないかという感じがいたします。
そういうことを今までの背景として見て来ますと、結局共通する問題としては、資本取引の自由化というのがどういうものをもたらしてきているのかとか、あるいはそれを担っている世界の金融システムというのはうまく機能しているのか、各国個別の金融システムはその尺度から見て大丈夫なのか、何か不足していないのかというような問題になって来ます。
そこで資本取引の自由化の功罪といいますか、メリット、デメリットを見てみる必要が出てきます。先ず世界のこれからの安定的、持続的な成長のためには、どうしても資本取引の自由化というのは基盤に据えられるべきだろうと思います。これは後進国、新興国につきましても同じだと思います。自由な環境が企業家というかエントレプリナーが充分に働けるチャンス、機会を作るものであり、それが発展の原動力となると思います。
そういうことが背景にありますので、昨年、一昨年あたり、WTOあたりでもフィナンシャルサービス・インダストリーの自由化というものを強烈に推進して、一応の国際的なコンセンサスも出来上がりましたし、この関係の批准も今年の3月には出来上がったというわけです。しかしこれもそこまで来たけれども、さてこれから先どうするかという問題があります。
日本もそうですが、貯蓄過剰な状態にある国にとっては、こういった自由化の環境というのは、投資機会の拡大という意味からいっても非常に有意義なことであると思います。
ですから、自由化を否定するというふうな事にはならないのですが、ただ最近の諸外国の事情を見てみますと、自由化のスピード、それからその内容に問題があるのではないか。そして結局は資本取引の自由化というのはそれなりのインフラが整備されていなければ非常ににむずかしい問題を惹起してしまっている。これが今回の東南アジアの経験であるということが言えるのではないかと思います。
そういう観点で国内的な整備ができていない、しかし自由化はやりたい、ということの一つの中間的な、妥協的な産物として、例えばオフショア・バンキング、あるいはオフショア・マーケットというようなものが試みられて来ましたが、どうもこれは今振り返ってみますと、あまり成功したような試みではなかったのではないかと思います。
今回の東南アジア危機では、世界中をはね回っている短期資本を一体どうするのか、規制するのかしないのか、規制できるのかできないのかというような話が盛んに出て来ております。そして現在では、私の見るところ、やはり規制することもやむを得ないのではないかという議論が、かなり強くなってきているように思います。
もちろんイスラム・ファンダメンタリストじゃないけれどマーケット・ファンダメンタリストっていうのがいますし、そういう人たちは絶対そんな規制はダメだと言いますが、しかし現実論としてはなにかやらなければいけないのではいかという空気が強いと思います。
それに引き換え、先進国の場合はちょっと違うと思うのですが、しかし先進国の中でも、自分達の国際資本市場というところの中にもっとディシプリンとか、ルールとか、規律とか、そういうものの見直し強化が、国際的コンセンサスをもって盛り上がってこないといけないのではないかと思います。銀行とか証券の管理監督、監査等の在り方も、新しい環境の下では新しいフィロゾフィーにしたがってやってゆく必要があるのではないだろうか。市場環境に対応して、例えば開示原則の中でも、デリバティブなどの取引についての取り扱いを変えてゆくなどということはやはり必要なのではないかと思います。
規制ということについては、今度の宮沢さんの提言の中では、マーケット・フレンドリーな資本流入規制だったらいいのではないか、事情によっては認めていいのではないかと言われています。これは現実論として、時宜にあった発言ではないかと思います。そこで問題は、マーケット・フレンドリーな規制というのはどういうものなのだろうかということですが、古くあるものは、トービンタックスのようなものもございます。ただトービンタックスの場合は全世界が全部やらなければ意味のないことであります。ピーター・ケネンが、ポール・ボルカーに頼まれて、ダメもとでもう一度検証してみてくれという話があって、8分の1パーセントでしたか、4分の1パーセントぐらいのタックスをかける前提でワークしたのだけれど、結論としてやっぱりこれはワーカブルではなかったという話があります。そういう世界中をインバルブしなくてはならない制度のやりにくさが一方にありますが、他方、マレーシアが今度やったようなイグジットタックスの形のもの、良く言われておりますチリのような流入資金をステラライズしてしまうような形のものなど、流入国が単独でユニラテラルにできるやり方もあります。どうもユニラテラルな方が、実現可能性が高いのではないかと思います。しかしいずれにしましても抜け穴は常にあるわけですし、本当に実効性を確保するということについては、いろいろな困難な問題を伴っているということではないかと思います。
一方の今度は放出側と言いますか、先進国などの出す方について何かできないのかという事になりますと、これはまず取引の開示です。LTCMの破綻の時に明らかになりましたように、かなり銀行、証券等の関与があって、こういうところから出た金がレバレッジとなって、このヘッジファンドの動きを非常に大きなものにしておりますし、これはジョージ・ソロスも言っておりますけれども、ヘッジファンドの動きには常にハードと言うんですか、群が待ちかまえていて乗っかって来ますから、ボリュームが非常に大きくなるわけです。そういうことからしましても、ヘッジファンド自身というよりは、そういったそのまわりにいて提灯点けて歩くような人たちの、そういうところをディスクロージャーで縛ってしまったらどうかという議論があります。これはかなり有効な手法になるのではないかと思います。ただこの問題の一つの難しい点は、外からの流出、流入という問題なら対応出来るのですが、内国の人たちまで群に加わってキャピタルフライトを起こす問題があります。こうなるとなかなか大変で体力のいる規制の仕方になるのではないかと思います。ラテンアメリカのケースで見ても、フライトに対する対応はほとんど何も出来ていなかったし、考えてみれば、それぞれの国がちゃんとした経済のマネージメントをしていればフライトなんかは起きないわけですから、そこらで物事がお茶が濁されると言うことになるのかなと思います。
いろいろなファンドの動きなどがございますけれども、去年ブラッセルで開かれたWTOのフィナンシャル・サービス・インダストリー問題についての民間部門の会議で強調されたのは、FDI、産業的な長期投資の活動はどんどん進めてゆくべきである。しかしファンドというか、ポートフォリオ的な資金は、一体受け入れ国にとってどれだけのメリットがあるんだろうかという議論もありました。やはりそういったファンド的なお金の動き方については批判が強くなってきたような感じがいたしました。そういうことで、後進国の方で一応の規制ということはあり得るとしても、そこで考えておかなければならないことは、このことも為替レートのフレクシビリティとは関係するわけでして、なにがしかの短期資本規制が始まるとおそらく完全なフロートということは出来なくなるということです。そういう関連性については一応考えておくべきではないかと思います。
次に、世界の金融システムは機能しているのかどうかという問題があります。公的分野について見てみますと、先ずIMFの機能の問題、これは宮沢さんの提言の中に出てきますが、かなり改善すべき点がある。また世銀などとの棲み分けの問題もある。例えば今回の東アジアの場合にも、IMFのコンディショナリティの中に、ちょっと世銀の分野に入り込み過ぎているものがあるのではないかという感じのするものもあります。そういうことについては、もう一度、議論を整理する必要があるように思います。
いずれにしましても、昨年のAPEC、ABACの会議などで感じておりますのは、IMFあたりの行動の中で、あまりにもワシントンの事情にこだわったもの、そして現地の事情がなおざりにされているような風に、いわゆるワシントン・コンセンサスというようなものが感じとられていることです。やはりオン・ザ・スポットの事情についての正確な把握が必要であると思うのです。もし世界の百何十カ国を見ているため、IMFとしていちいちカバーしきれないということであるならば、これは地域に密着した対応の出来る組織が必要だということになるのではないかと思います。
このアジアの地域的な組織と言うものは、情報の収集分析の他に、緊急的に融資する枠の運営とか、為替のレジームの地域的な中核の機能を担うとか、いろいろの任務を果たさせることが出来ると思います。そういう意味で、地域密着型のものが、しかもIMFをリプレイスするものではなくて、サプルメントするようなものとして出てきてもいいのではないかと思います。
いろいろとこの東南アジアの問題を見ておりますと、銀行制度、あるいは法律制度、特に司法の制度、それから行政哲学などなど 、あるいは人的資産というんですか、そういうものにいろいろ問題があるように思います。したがってそういうところのインフラを整備することに先進国がかなり力を貸してやる必要があるのではないか。常に自由化はいいのだというふうなレクチャーばかりしないで、むしろ腕捲りでもして後進国を教育してやるという事が私はやはり非常に大切なことではないかと思っております。
各国の金融システムの安定化の問題ですが、もちろん市場の健全化、市場のルール、それからそれに携わっているパーティシパンツたちの倫理の確立というものは非常に重要なことでありますが、個別的な自己責任の問題とマクロ制度自体に内在する問題と、その二つをどう識別してゆくのか、これは現在の日本にとっても重要な問題であると思うものです。例えば交通事故を起こした場合に、普通ですとこれは運転手の責任であると言われるのですが、同じ場所でしょっちゅう同じ交通事故が起きれば、これは運転手の責任ではなく、むしろ道路設計などのミスではないかということになってくる。そういう議論から申しますならば、個別の問題、個別責任論とシステムの安定化問題とが混同されてはならないと言うことがあるのではないかと思います。
そう言うことで民間分野の責任の問題についてさらに考えてみますと、例えば貸し手責任の問題につきましても、一番悩ましい問題は途上国の債務不履行についての先進国の民間部門のビヘイビア、対応の仕方、これをどうマネージすればいいのかということです。貸し手責任の問題を強調しますと、それではもうこういう貸し金はやめてしまえということにもなりかねません。しかしそうなったのではこれまた非常に困る。なかなか金も出て来なくなる。そうすると、その貸し金のスプレッドが非常に高くなる。さらに一番困るのは、今まで以上に貸し手側が慎重になりまして、聞き耳を立てて 、逃げ足が早くなる。逃げ足が早くなると、これはもうコンテージョンの問題に直結してくるということになるだろうと思います。
次に資本充実の問題として、BISの基準の問題があります。私はいろいろ議論はあるとは思いますが、レベル・プレイング・グラウンドを確保するという意味で、こういう国際的な基準があったほうがいいと思います。それから8%という一つのスタンダードができています。これは別に理屈があって8%になったものではなく、目の子で決めたものです。しかしだからと言って、今になってこれを変えようというのは、どうも理屈が立ちません。ただ日本の場合につきましては、銀行協会あたりが何かいろいろ要望したらしいのですが、TIER2という基準の中に、有価証券の含み益を入れたことは非常にまずかったと思います。これがもし入っていなかったら、バブル時代に日本の金融機関の資産の拡大はあんな膨張はしなかっただろうと思います。したがって現在のような金融機関の不良債権の大きさに立ち至ることもなかったのではないかと思います。TIER2に含み益を入れたため、バブル時期に本来はきつめにすべき銀行貸金がゆるめに運用され、不況時期にゆるめにすべき銀行貸金がきつめになってしまうという、本来の政策と正反対の結果を生み出して、結果として非常にまずいことになってしまったのではないかと思います。この問題は今の時期ですと止めやすい環境にあるわけなので、この時期に止めてしまった方がいいのではないかと私は思います。
次にクレジット・カルチャーの問題があるのですが、日本についてだけちょっと申し上げますが、我々は教科書において、銀行と顧客との良き関係というふうなことで、カスタマー・リレーションということを教えられてきているわけですが、日本は伝統的に担保主義の貸し金をやっていた。しかもその担保というのは土地神話的なものであり、これが最も健全であるというかたちでずっとやってきた。そこに今の問題の誘因があるわけです。それと同時にメインバンク制度というものも、これが良かったか悪かったか、これは顧客との伝統的な関係の行き着いた先ですから、そこにも問題があったのかもしれない。要すれば、その結果、資産、貯蓄の運用の形態が極端に銀行預金、定期預金に片寄っていたということが、銀行の優位性を作り上げて、そこから顧客と銀行とのあいだの位置関係を銀行優位の形にしてしまったというわけです。これが一種のコリュージョン、コラプトの温床になったか否かは、外国、西洋の基準で見れば、そういうこともあるいは言えるかもしれませんが、こういう関係というのは外国の銀行関係でも見られるものでして、一概にだめだと決めつけることではないのではないかと思います。
市場基盤の欠陥に対する対応の問題は、会計原則、開示原則その他いろんな事でやっていかなくてはいけないと思います。コーポレート・ガバナンスの問題もございます。
最後に、途上国債務不履行についての実務家からの視点と言うことで、借り手の問題、貸し手の問題に触れておきたいと思います。借り手の方の問題は、身の程以上に借りるなということと、身の程以上に成長指向するなということでありますし、一番いいことは短期資金は入り口で防圧した方がいいのだということ。そういうところのプルーデンスというかディシプリンがしっかりはいってくるべきだろうということです。
この頃よく出てきておりますが、短期債務対外貨準備のレーシオを判断指標として、リスク度合いを見ていったらどうかという提案がありますが、これは私はよいのではないかと思います。また国際的な監視が強くあって、おまえの国、ちょっとこれではやばいよというようなことをときどき警告したりするようにしておくこともいいのではないかと思います。IMFあたりでも、"Supplementary Reserve Facility"とか "Contingent Lending Facility"というような救済制度も考えているようでございます。宮沢さんも、一時的なモラトリアムはあってもいいんじゃないかということをおっしゃっていますが、これも一つの可能性であるかと思います。
貸し手の方の問題と申しますのは、まず第一にみんながリスクが見えないブラインドの中で貸し金をやってるんじゃないかということがございます。それに対してIMFの"Special Data Dissemination Standards(SDDS)"というのがありますが、これは後進国から出てくるデータを公表していいのかどうかという問題があって、IMF側に守秘義務との悩ましい問題があります。これをワーカブルにするにはどうすればいいのか難しいところです。長期債務というのは大体、ディスクローズされてるのでまだ対応が楽ですが、問題は短期債務です。特にクライシスが近づいたときに短期債務というのは急激に膨張する癖がございます。それではそういう徴候をどうやって見つけるのだということになると、本当はニューヨークとかロンドンの市場の中にいる人たちが資金の動きの中から臭いを嗅ぐということが、あるいはできるかもしれないという程度で、これも常にできるとは限らない。また民間企業の短期借入が外国で行われることもありますし、なかなか把握しきれない。そこで短期の借入、短期の流入の報告義務をやはり強化する必要があるのではないかと思います。
よく言われることですけれども、モラルハザードとして借り手の場合は、初めから返す気がないという意味のモラルハザード、これはロシアのケースでございますね。それから返せないので居直ったというのはインドネシアのケースかなと思います。それから貸し手の場合ですけれども、市場の規律の強化というのは 私は必要だろうと思います。自分だけは逃げおおせたと思っていても、大抵の場合は逃げられない。銀行の場合は逃げられないケースが多いですね。結局とっつかまっちゃって、債権者会議に呼び込まれて、債務国のリストラに力を貸すことになるケースが多いわけです。
以上で時間をだいぶ超過してしまいまして申し訳ありませんが、雑駁な話になってしまいました。日本の話、アジアの話、全体の話が一緒に混じってしまって、整理がついておりません。ただ問題提起として話させて頂いた次第でございます。
基調報告
小川委員 「為替制度・国際通貨体制の問題点-目標相場圏、最適通貨バスケットなど-」 私に与えられましたテーマは、為替制度と国際通貨体制の問題点ということです。大きく三つについてお話しさせていただきたいと思います。一つは国際通貨体制について、現在ドルが基軸通貨として成立している国際通貨体制についてお話しさせていただきます。それから二番目は、先進諸国の為替相場の安定ということで、これは先進諸国に限ったことではないんですけれども、為替相場の安定についてお話をしたあとに、三番目に、アジア通貨危機、あるいはほかの通貨危機から得られる教訓として、発展途上国の通貨の安定に関してお話しさせていただきます。
お手元にレジメがあるかと思いますが、それに沿ってお話しさせていただきますけれども、先ずドルを基軸通貨とした国際通貨体制ということで、これまで国際通貨体制というのはドルが基軸通貨として利用されてきたわけです。特に私、ここで問題にしたいのは、1973年以降、総フロート制になった後に、ドルの価値がトレンドで落ちてきているにもかかわらず、ドルが基軸通貨として利用され続けているという問題があると思います。それについて先ずお話しさせていただきます。
ドルが基軸通貨として利用されている状況を、慣性、イナーシャが働いているというふうに言われます。ドルがどうして基軸通貨として利用され続けるかということで、貨幣論、あるいは国際通貨論の考え方で、貨幣と言うのはそもそも何かと、あるいはどういう機能があるのかということを考えると、教科書的には三つあると言われています。交換するための手段、それから価値貯蔵手段、それから価値尺度と言うことです。ここでドルの価値がどんどん落ちている状況というのは、価値貯蔵手段が他の通貨に比べて劣っているという事になるわけです。しかし価値貯蔵手段の機能が劣っている通貨をどうしてみんな保有して利用するかって言うと、他の機能が優れていると。ここでは交換手段というところを強調したいと思います。それではその交換手段としての機能というのはどういうものかと言いますと、これは例えば外国から小麦を輸入するいうときに、その小麦の決済に使う通貨、あるいはそれを表示する価値尺度と言うことでは表示する通貨と言うことになるわけですが、そもそも貨幣そのもの、あるいは通貨そのものというのは持っていても効用を生むものではありませんので、それを使って初めてある商品を買うということで効用が生まれてきます。ですから使えない貨幣を懐にたくさん蓄えてもそれは全然意味のないということになります。むしろ一般受容性があってみんなが受け取ってくれるという貨幣で交換しているということが、一番スムーズに取引ができるということです。これが他の人が使っている、しかもそれが他の人が使って、お互いに使えば使うほど便利になるというところで、ネットワーク外部性という言葉で表現されております。他の人が使えば使うほどということで、使えば使うほど自分たちが持って、持てばまた他の人たちが持つということで、どんどん外部性が働いてきて、言葉を変えますと規模の経済が働いてくるというものになります。ですから一度大きなシェアを持った通貨というのは、それ自体非常に便利なものになりますので、ますますみんながそれを持つと言うことになるわけです。例えば国際的に使われている言葉で、英語が今、主流だと思うのですけれども、中学校とか高校で英語を勉強する理由はみんながそれを使っているからと。そうやって英語を使う人が増えてくればまた英語が国際語として使われるということで、ますます英語を勉強しようと言うことになってくるわけです。それと同じようなアとが通貨にも起こっているという事です。そうしますとドルとそれ以外の通貨を考えた場合に、今言ったネットワーク外部性、あるいは規模の経済と言うことから、ドルは交換手段としての機能が非常に優れていると言うことになるわけです。それに対して他の通貨はそうではないということでいくと、ドルとその他の通貨というのは違う性質を持った通貨、あるいはもう少し広く言えば、財・サービスというものに考えることができると思います。そうしたときに例えば普通の市場を考えたときに、異質性を持った普通の商品市場でしかも規模の経済が働くというと、これは一度基軸通貨になった通貨に対して他の通貨が競争を挑もうとしてもなかなか難しい問題が出てきます。産業組織論のほうでそういうマーケットをガリバー型寡占市場と呼ばれますけれども、通貨体制も正しくガリバー型になっているだろうということです。
そういう状況の中で今年の1月1日からユーロが登場してきたわけです。ユーロの登場というのは、ヨーロッパの中での為替リスクの問題、あるいは交換手数料が節約されると言うメリットもあるのですけれども、それ以外に国際通貨システムに対して影響を及ぼすだろうと言うことが考えられます。というのは今まで多分マルクがドイツを中心に使われていたというその規模と、EU11ヶ国でユーロを使うというその規模、あるいは範囲というのは全く違うわけです。いろいろな統計でドルを発行しているアメリカの経済規模とEUの経済規模が同じだとか、あるいは貿易面で量的に同じになってきているということで、ユーロがドルの地位に近づいてきたんではないかということが言われてるわけですが、それは量的なものもあるのですけれども、先程お話ししたように質的に決済手段、あるいは交換手段としての質がドル並みに高くなってくるということを意味するわけです。そうしますと現在はガリバー型の国際通貨体制で、去年まではガリバー型の国際通貨体制で、ドルとそれ以外の通貨と言うのは異質性が高くて、競争を挑もうとしてもなかなか競争状態にならないということでしたが、同じような規模を持ってくるユーロが登場してきますと、ユーロとドルの間で異質性が非常に落ちてきて同質的な通貨になると。そうするといわゆる通貨競争、あるいは複数基軸通貨になった下での通貨競争が可能になってくるということがあると思います。ですからユーロが登場するということで、現在、これまでのドルを基軸通貨とした国際通貨体制にユーロが第二の基軸通貨として入り込んでくる可能性があるということです。
ただEUの中で、ユーロが本当に一つの通貨としていいかどうか、あるいは耐えられるかどうかというところはやはり問題があります。最適通貨圏という理論的なモデルがあるわけですけれども、通貨を一つにするということは、地域間あるいは国家間の経済調整をする為替相場という手段を奪ってしまうということですので、そうした場合には、労働が移動するとか、財政的な資金のシフトを、移転をするというようなことが必要になりますが、今ヨーロッパで労働がどれほど移動性が高いか、あるいは財政の面でかなり縛りをかけてますからそういう資金の移転が行われるかというところは問題が残るかと思います。
それではユーロが第二の基軸通貨となった後に円はどうなるかということですが、これについては後ほどまた別のところでありますけども、今のコンテクストでいけばEUでユーロが生まれたという状況とはかけ離れた状態だろうという事だと思います。
それでは次の問題で、主要通貨間の為替相場の安定ということです。先ず為替相場はどのように決定されているのかという事をここでちょっと確認をさせていただきたいと思います。資本移動が規制されていた時代というのは、為替相場というのは貿易収支、輸出入のところから発生する外為取引が為替相場を決めてくるということでしたが、今日国際金融市場が発達して、資金フローが大きいという下では、むしろ外為市場あるいは為替相場の決定というのはアセットマーケットで決まるような価格の決まりかただというふうに考えるべきだと思います。例えば株価がどういうふうに決まっているのかというのと同じような考え方で為替相場を考える必要があります。為替相場の現在から将来にわたってのファンダメンタルズと将来の為替相場の予想ということですが、要するに、ファンダメンタルズと為替相場、これがどうなるかという予想で決まってくるというのが、基本的な為替相場決定の考え方だと思います。そのときにファンダメンタルズが何かということで、いろいろ為替相場の決定の分析というのがあるわけですが、ここではファンダメンタルズよりも為替相場の将来の予想に注目していただきたいと思います。すなわちファンダメンタルズでその国が強い国で通貨も強いはずだとしても、もしみんなが、投資家が、その国の通貨は弱くなるだろうというふうに間違って予想すれば、それが現実的なものになってきます。すなわちその通貨が弱いということで、弱くなるだろうという事を皆さんが信じれば、それでその通貨を売っていくわけです。売ればそれで通貨が下がってきますから、下がれば、自分の予想は当たっているということで、ますますファンダメンタルズを離れて下がっていくということが起こります。これが、ファンダメンタルズを離れて起こってくるということで、株価の方ではバブルと呼ばれていますが、為替相場でもそういう状況をバブルと呼んだり、あるいはファンダメンタルズから中長期的に離れているということでミスアラインメントというふうに呼びます。為替相場のバブルというのは、たとえその市場参加者が合理的に行動していても、すなわちファンダメンタルズが分かっていて長期的にはファンダメンタルズに戻るだろうと予想していても、今日、明日、明後日ぐらいの短いタイムスパンではこれは上がると思ったらどんどん買っていこうとか、下がると思ったら売っていこうということで、例え長期的にファン_メンタルズが分かっていたとしても、短期的にはバブルが発生する可能性が合理的に説明できます。但しもっと問題であるのは、本当に市場参加者が情報を持っているのか、ファンダメンタルズに関する情報を持っているのか、あるいは自ら判断して行動するよりも隣の人の行動を見て判断している方が、例えば企業あるいは金融機関の中でペナルティーがない、あるいは損したときの理由付けで、隣がやっているからそうやってると説明がつくというようなそういう市場参加者がもしいれば、群衆行動というのが起こってきます。更に先ほどお話がありましたけれども、ヘッジファンドなどの、ある機関、ファンドが非常に儲けていると、あるいはノーベル賞の学者がいるということだけをもってして、そこでついていけば儲かるだろうというふうに思うと、そのノーベル賞の経済学者が持っているファンドにくっついていくという事でそのファンドが儲かってくると。そうするとそれで、その予想したことが実現していくという可能性があるのです。こういうその、おそらくヘッジファンドはそれで動かそうとはしてはいないんでしょうけれども、そういうことが起こってくるという可能性があります。このように予想したことが実現していくという事で、自己実現的予想とか、自己実現的投機ということで呼ばれております。
こういう為替相場の、ファンダメンタルズと将来の予想ということで決まるということでいくと、その為替相場の動きをどう抑えたらいいかという事でいろいろ考えられると思います。ハネムーン効果という、これはクルーグマンが付けた名前ですけれども、ファンダメンタルズと為替相場に矛盾がなければ、即ち為替政策とマクロ経済政策に矛盾がなければ、それでそういう情報をしっかり持って合理的に行動している人たちが、市場参加者が多ければ、ハネムーン効果が働くといわれています。ハネムーン効果というのはその通貨当局が矛盾した行動をしていないということで、当局の言っていることは当たるんだと、あるいは当局の言っていることは信頼できるんだということで、予想のところでファンダメンタルズに収まるんだというふうに予想し始めれば、為替相場は当局が思っているように動き始めるということになります。逆に実際には為替相場を固定にしながら、マクロ政策でインフレを起こすというようなことをやれば、これは矛盾しているという事が明らかになるわけです。その明らかなときに、固定相場にするとかあるいは為替は切り下げないというふうに主張しても、それは信じられないということで、それに対して投機、攻撃が、アタックがかかるということがあります。ですからファンダメンタルズと予想という二つで為替相場は決まるわけですが、その予想のところをいかにファンダメンタルズに近づけるかというところで、当局の金融財政政策と為替相場のコンシステンシィーということが問題になります。
ではそのときに、今いろいろ議論のある目標相場圏、これが実際、為替相場を安定させるかどうかということで、今いろいろ議論があるかと思います。マクロ経済政策と矛盾した為替政策を行って目標相場圏を設定するということであれば、これは実効性は低いだろうということが考えられます。逆にもし目標相場圏を設定するのであれば、これはファンダメンタルズを為替レートに合わせていくという事になるわけですが、その時に為替のファンダメンタルズというと、日本だけではなくて相手の国のファンダメンタルズとの相対的なものになりますので、相手の国との政策協調ということが必要になってくるわけです。この政策協調をいかに民間に信じさせるかということで、国際協調にコミットしているという事を知らしめる、あるいはコミットメントを破った場合にはペナルティーがその当局に発生するんだというところを民間部門に知らせるような状況になっていなければ目標相場圏というのもうまくいかないだろうというふうに考えられます。
続きまして発展途上国の通貨の安定ということで、通貨危機に関しましては前回、伊藤委員からいろいろご説明がありましたので、簡単にパターン化、分類しますと、ファンダメンタルズに基づく通貨危機、自己実現的通貨危機、それからアジアに関連するかと思いますが金融の脆弱さから発生した通貨危機という三つに分けることができると思います。先程、為替相場はどう決まるかという話をしました時に、ファンダメンタルズと将来の予想だと言うことで、ファンダメンタルズが悪くなっているときに無理に固定するということで、ダメになって通貨アタックを受けるというのがファンダメンタルズに基づく通貨危機になります。具体的には財政赤字をマネー・ファイナンスするということで、財政赤字がよく問題になります。それから2番目の自己実現的通貨危機、これは1992年にポンド、リラなどの通貨危機がこれに当たるといわれておりますけれども、ファンダメンタルズに問題がなくてもみんながこの通貨は下がるだろうと、ポンドは今92年の段階で固定しているけれども、ポンドは将来下がっていくだろうという予想をみんなが持ったり、あるいはヘッジファンドがポンドを売りに出た時に、これは一緒についていけば儲かるかもしれないということを予想すれば、危機が発生するということで、自己実現的な投機がここで発生するということになります。さらに3番目と致しまして、金融機関のリスク管理が欠如しているというところで、通貨、期間でミスマッチが発生した場合に、市場参加者が本当にこの国はお金を返してくれるんだろうかいう不安感から危機が発生してくると、一種の銀行取り付け、バンクランが発生するということがあると思います。特にこの3番につきましては、次の通貨危機の伝染効果とも、コンテイジョンとも関係しておりまして、例えばタイ、インドネシアなど危機に陥った時に、97年7月の段階で韓国はそれ程悪い状況ではなかったです。ただその不良債権の問題、あるいは企業の問題というのは確かにあったと思いますが、それはもう97年の年初あるいはそれより前からあったわけで、97年7月にタイバーツが切り下がった時に、ウォンがその時は大丈夫だったわけです。けれどもそのあとに10月、11月に入ってきて、ウォンが下がってくるというところで、これは何が作用しているかというと、おそらくファンダメンタルズよりは自己実現的な通貨危機、あるいは金融の問題が自己実現的な通貨危機を引き起こしているという可能性があるかと思います。
この伝染効果で、貿易の結び付きとか、あるいは似たような政策をやっているとかということがあるわけですが、やはりアジアの危機を見ていて問題になるのは、国際的な銀行取り付けという問題があるかと思います。その中で発展途上国がどういう為替相場制度を取ればいいかということで、これもまたいろいろ議論があるかと思います。いっそのこと、フロート制にすればいいという意見もあれば、そうではなくてドルペッグが良くなかったのだから、ドルにペッグするという事で、どうしてドルなのか、あるいはドル以外のものはないのか。それから、ペッグではなくてもっと伸縮的な、例えば為替バンドのようなものがないのかという事があるかと思います。その中で先程、あとに回しますといった円の国際化との関係で言いますと、どうして東アジア諸国がドルペッグをしていたかという事をヒヤリングしたりしますと、先ず円高ドル安というトレンド、これは一番初めにお話ししました基軸通貨ドルという通貨体制の中でみんながドルを欲しがっていれば、ある程度ドル下げてもいいと言う気持ちがあったかどうか分かりませんけれども、そういうことでドルが下がってくるということがあります。その中でドルにペッグしていれば、自分の国の通貨が特にもし輸出の上で競争しているのが日本であれば、円に対しては有利になってくると言うことで、ドルにペッグするという事があると思います。それから貿易取引、あるいは輸出業者、輸入業者などの為替リスクを軽減する、あるいは直接投資を呼び込むために為替相場を安定化させておくというところで、みんな貿易業者、あるいは金融機関がドルを基準にして考えているから、ドルに固定するんだということがあるかと思います。みんながドルで利用しているので、ドルでお金を借りようということをやれば、ドル建て債務を持つことになるわけです。ドル建て債務を持って、国内には自分の国の通貨の資産を持っているというと、円安ドル高という局面が95年から発生したわけですけれども、その中でドルに固執し続けた理由としては、ドル建て債務を膨らませないということがあったかと思います。そういたしますと円の国際化が進んでいないということが一つ、ドルペッグを採用せざるを得なくした理由ではないかと。他にもいろいろ理由はあるわけですけれども、円の国際化との関係でいくと、そういう問題があるかと思います。 最後に、発展途上国がどういう為替制度あるいは為替政策を採ればいいかというところが問題になります。そもそも為替政策というのは、どうゆう、なんのために行うのかというところは考えなければいけないわけなんですけれども、例えば貿易収支の変動を安定化させようということがもし目標であれば、そのときに日本と貿易があるんであるから、ということでドル以外の他の通貨とのリンク、完全なペッグでなくても参考にする通貨として入れてくるという必要があるかと思います。それから例えばASEANの中で、円にもう少しウエイトを置いた方がいいといった時に、自分だけ円にウエイトを置くということになりますと、為替相場が不確実に動いている状況の中で、例えば円にリンクするということで、将来的にもし円高ドル安が発生するという中で、自分の国だけ円にリンクしますと、自分だけ、その国だけ交易条件、国際競争力が落ちてくるという可能性があります。そのように自分だけ円のウエイトを高くすると、あるいは為替政策を最適なものに変えようという時に、自分だけそれを変えると不利な状況になるという問題があります。それがコーディネーション・フェイリア-という問題で、コーディネーション、話し合いをしないで 、さあどうぞ、自分の好きな為替政策を取って下さいというと、本当は最適な為替政策があるにもかかわらず、他の国がそういう方にいかないんであれば自分たちは現状維持をしようと、そういう非常にまずい状況が発生してきます。このコーディネーション・フェイリアーをいかに回避して、あるいは更に切り下げ競争などを回避するかというところで、やはり国際協調が必要になってくるかと思います。
国際協調の象徴として、ACUがありますけれども、その国際協調を今度はいかにコミットさせて、いかにそのコミットを破らせないかということのために、ある象徴を持ってくるとか、あるいはそこの象徴であるACUから離れたときにはペナルティーを課すと。あるいは事前的にサーベランスをするというようなことが必要になってくるかと思います。
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