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「第2回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議」基調演説

 法務大臣 森山眞弓

平成13年12月17日

 シルヴィア王妃陛下、高円宮妃殿下、ご列席の皆様、
 この度、この横浜において「第2回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議」が開催されますことは大変意義深いことであり、これまで児童問題に一国民、一議員として多大の関心をもち、深くかかわって参りました私にとりましても、大変感慨深く嬉しいことであります。横浜市を始め御協力下さった多くの方々に感謝します。
 1996年、本日ご列席のスウェーデンのシルヴィア王妃のご提唱、お力添えにより、ストックホルムにおいて第1回世界会議が開催されました。残念ながら私はこの時には出席できませんでしたが、出席した議員仲間から、児童の性的搾取に関する日本社会全体の認識の希薄さや、立法・行政施策面における対応の遅れを痛感したとの報告を聞きました。これが一つのきっかけになって、この問題の深刻さに危機感をもった国会議員、弁護士、NGOなどの関係者が立ち上がり、力を合わせて真剣に取り組み始めたのでした。
 その意味では、ストックホルムにおける第1回会議は日本の「児童買春・児童ポルノ禁止法」成立への大きな流れをつくる足がかりとなったといえるでしょう。1999年議員立法として成立した「児童買春・児童ポルノ禁止法」は、それまでの社会通念をくつがえす、まさに画期的なものでした。
 しかしながら、児童の性的搾取の問題は大変根の深い問題であります。またハイテク時代の今日において、その手段は益々多様化しております。法整備のみによって簡単に解決されるような問題ではなく、今後も絶えず注意し、対策を立て、実行しなければなりません。また、児童を取り巻く問題の解決にあたっては、社会的意識の育成が基本的に重要でありまして、そのためには政府、国際機関、NGO等との協調が不可欠であります。この第2回目の会議が、ユニセフ、ECPAT、NGOグループ、日本政府の四者の共催によって開催されましたことは、大変意義深いと思います。
 児童、主として女の子に、僅かな報酬を与えて性の対象としてもてあそぶ、或いはポルノ写真を作って儲けるといった大人たちが後を絶たず、それにまつわる児童の性的虐待とか性の商業的搾取が世界各地でまかり通っている現状があります。また途上国においては、貧困や教育の欠如、性差別などが要因となって多くの児童が売春宿へ送られたり、日々の生活の為に売春を余儀なくされているという現実もあります。 
 グローバリゼーションの進展と、情報通信技術の急速な発展は、様々な分野において我々の生活に恩恵をもたらした反面、あまりにも急速な進展が社会にひずみを生み出し、いわゆるグローバリゼーションの負の部分といった問題があちこちで発生してきています。その中でも、特に児童を取り巻く環境が大きく変化し、児童の売買やインターネット上の児童ポルノの問題など、新たな形態の脅威が大きな社会問題となっております。
 日本も、社会の複雑化・グローバル化の中で、深刻化する児童の商業的性的搾取の問題にはこれまで大いに頭を悩ましてきました。現代の日本社会における倫理観、道徳観の欠如を示す象徴的な言葉の一つとして「援助交際」という言葉があります。これは近年ジャーナリズムによって作り出された言葉で、児童が金銭等の経済的利益の代償として性的な関係を提供するという売春行為を指すものですが、売春行為の非道徳性、反社会性の印象をうすめる効果を与えています。この「援助交際」という言葉の広まりは日本社会に「児童の性の商品化」が広がっていることを顕著に示しています。またマスコミはそれをあたかも流行のように扱うという憂慮すべき傾向があります。
 欧米において、児童の人権保護のための法整備が進められていく中、日本においてもこのような大人の行為を児童の人権を害する犯罪として罰する法律を早急に作らなければという動きが1997年の年初から議員の中でも活発になりました。自由民主党でも問題意識が高まりまして、当時の山崎政務調査会長からの指示を受けて私がまとめ役となり、1997年6月、児童の性的搾取・ポルノを禁じる法案作成のため、社民党とさきがけも加えて、当時の与党三党プロジェクト・チームが作られました。ここで30回以上にわたり熱心な議論がなされましたが、特に児童のポルノと「表現の自由」、「プライバシーの権利」との関係は大変難しい問題でした。また、途中で政権組替えがあり、議論が中断、錯綜したこともありました。しかし、とにかく法律を作ることが重要であるとの観点から、まずは誰もが賛成できる最小限度のものをまとめようとの方向で、与野党をこえるすべての党が参加する動きとなり、橋本元総理、野中官房長官(当時)等の御支援もあって、漸く1999年5月18日、衆議院本会議で「児童買春・ポルノ禁止法」が可決され成立しました。この問題が日本で政治的に取り上げられてから約3年、法案作成の協議を始めてから約2年の月日を経て、ようやく日本も国際社会に大きな遅れをとった状況から一歩抜け出すことが出来たわけです。
 この法律によって18歳未満の児童に金銭を払って性行為をしたり、ポルノを制作することが犯罪として厳しく処罰されることとなりました。また、買春・ポルノ制作を目的として児童を売買した者や、誘拐されたり売買された児童を居住国外に移送したものも厳しく処罰されます。これらの犯罪は国内外を問わず禁止されることとなり、海外で買春行為などを行った日本人を国内で訴追することができるようになりました。
 またこの法律のもう一つの重要な柱は、性的搾取により心身に有害な影響を受けた児童を保護するということです。具体的には捜査・公判における児童への配慮や関係職員に対する訓練の実施を求めている他、被害児童に関する報道規制や、児童の権利に関する教育・保護のため様々な措置の実施を求めています。さらに、2000年5月、刑事訴訟法が改正され、児童買春罪その他の罪の被害児童などが刑事裁判で証言する際、証人の供述中に適当な者の付き添いを認める制度や被告人とその証人との間につい立てなどを立てることを認めたり、更にはビデオモニターを通じて、別室にいる証人から尋問を行う制度も新設されましたので、刑事裁判で被害児童が不当な影響を受けることがないように配慮するための制度が整備されました。
 児童買春・児童ポルノ法の国外犯に対する適用例について、一言いわせていただきますと、タイ国でタイ人児童の児童ポルノを製造した児童ポルノ製造罪で、日本人が日本の裁判所に起訴され、有罪判決が言い渡されております。この法律がなければこのような事案は不問に付されていたと思うと、法律を作った成果を喜びながらも、なおも日本人によるこの種の事例が絶えないことを思い、複雑な気持ちです。
 また昨年11月には「児童虐待防止法」が施行されました。今後とも児童虐待に対する取り組みが更に強化され、児童虐待と密接な関係にある児童の商業的性的搾取の根絶にも貢献することを期待しています。
 これまで道徳的制約のみで、法律上の問題になっていなかったことを犯罪として罰するのですから、まず人々の考え方の転換が必要であり、法の成立はその第一歩に過ぎません。今後、児童買春・児童ポルノを許さないという社会的意識の育成が重要であり、それはまさに地域社会を構成する私達一人一人にかかっていることは言うまでもありません。
 先ずは「つくることが大切」という方針に基づいて立法されたこの「児童買春・児童ポルノ禁止法」は、施行後3年を目途として見直しを行うことになっており、来年が丁度3年目にあたります。法施行後、この法律により数多くの人が罰せられているという現状を見ますと、児童の商業的性的搾取の問題が、家庭や教育などの観点を含め、社会全体として対処すべき問題であると強く感じます。今後この法律の見直しに際しましては、当初念頭においていた問題だけでなく、インターネット上の児童ポルノ、携帯電話がかかわるものの取り扱いも重要になってきたと感じています。G8の枠組みにおいてもハイテク犯罪対策・官民合同ハイレベル会合を開催する等、インターネット上での犯罪についての議論は現在国際的にも行われているところですが、今後この問題を扱っていく上で、インターネット・サービス・プロバイダーなど産業界からの意見も聞きながら、インターネット上の児童のポルノ犯罪等の問題に取り組んでいくことが大切であると考えています。
 21世紀最初の年に行われるこの「第2回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議」を契機に、より多くの人々がこの問題に対する理解を深め、児童の権利と尊厳が守られる社会が作られることを願いつつ、結びと致します。


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