第1節 平和と安定の確保 |
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冷戦終結後も、国際社会には多くの流動的な要素が存在している。日本が位置するアジア太平洋地域においても、98年中は、インドやパキスタンによる核実験、北朝鮮のミサイル発射等、地域の潜在的な不安定要因が顕在化し、新たな不安が生まれつつある。 【日米安全保障体制の意義】
96年4月に日米首脳により発出された日米安全保障共同宣言に示されているとおり、日米安保体制は、依然不安定性・不確実性が存在するアジア太平洋地域において米国の存在と関与を確保するとともに、国際社会における広範な日米協力関係の政治的基盤となっている。 【新たな「日米防衛協力のための指針」の実効性の確保】
97年9月に公表された「日米防衛協力のための指針」(「指針」)は、平素及び緊急事態に際して、より効果的かつ信頼性のある日米協力を行うための堅固な基礎を構築することを目的とするものである。政府は、97年9月の指針の実効性確保についての閣議決定の趣旨を踏まえ、法的側面を含めた国内体制の構築の検討を進めた結果、(イ)「周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」案(周辺事態安全確保法案)、(ロ)「自衛隊法の一部を改正する法律」案、及び(ハ)「日本国の自衛隊とアメリカ合衆国軍隊との間における後方支援、物品又は役務の相互の提供に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定を改正する協定(いわゆるACSA改正協定)」を98年4月国会に提出した。 【技術・装備面での日米の防衛協力】
日米の防衛技術交流を更に進めることは、日米安保体制の効果的な運用を確保する上で重要な課題である。現在、ダクテッド・ロケット・エンジン、先進鋼技術、戦闘車両用セラミック・エンジン、アイセーフ・レーザー・レーダー、ACESⅡ射出座席、先進ハイブリッド推進技術の、6案件につき共同研究・改修が進められている。 【在日米軍に関する諸問題】
在日米軍の活動が施設・区域の周辺住民に与える影響をいかに小さくするかという問題は、日米安保体制を円滑に運用していく上で大きな課題である。米国側も、在日米軍の駐留にとって施設・区域周辺の住民の理解と支持が不可欠であることを十分認識しており、11月23日に米国国防省が発表した1998年度「東アジア戦略報告」(EASR)においても、アジア太平洋地域において約10万人の米軍プレゼンスを維持する旨を表明するとともに、駐留米軍が地元住民と「良き隣人」関係を築くことの重要性にも言及している。このような認識に基づき、日米両国は、緊密に協力し、在日米軍の円滑な活動を確保するとともに、地元社会に対する種々の影響を軽減するために様々な措置に取り組んでいる。
アジア太平洋地域における安全保障上の不安を減ずるためには域内各国間の信頼醸成に向けた努力が不可欠である。このような信頼醸成のためには、各国の関係者が頻繁に接触・コミュニケーションを図ることにより互いの意図を、また、各国がその軍事力・国防力の透明性を高めることにより互いの能力を、それぞれ認識・確認することが基本となる。98年、日本は、金大中韓国大統領の訪日、小渕総理大臣の訪露、クリントン米大統領と江沢民中国国家主席の訪日など、地域の主要国との一連の首脳外交を通じて域内対話を緊密化し、また、アジア太平洋地域における全域的な政治・安保に関する対話・協力の場であるASEAN地域フォーラム(ARF)等を通じて各国間で信頼醸成に努めてきた。これらの取組に加え、98年6月の韓国との初めての安全保障対話を含め、最近、中国、インドネシア、タイ等との間でも安保・防衛対話を推進している。さらに、この地域の関係各国間の協力としては、北朝鮮の核兵器開発を封じるための日米韓を中心とする協力、北朝鮮及び韓米中による四者会合等があるが、今後とも中長期的な観点から北東アジア地域の安定化について議論するための適切な枠組みを模索していくことが重要である。 |
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核兵器を始めとする大量破壊兵器及びその運搬手段であるミサイルの拡散の危険は冷戦終結後も存続しており、これらの軍備管理・軍縮及び不拡散体制の強化が国際社会全体が取り組むべき緊急の課題となっている。98年には、インドとパキスタンによる核実験、北朝鮮のミサイル発射等があり、核兵器やその運搬手段の拡散への取組強化の必要性が国際社会において強く認識された。一方、対人地雷や小火器をはじめとする通常兵器が、冷戦終結後頻発している局地的紛争の主力となり、また、紛争終結後の復興の障害になっている。こうした現状を踏まえて通常兵器の分野においても国際的な取組が強化されつつある。 【核兵器】
【生物兵器】 生物兵器禁止条約(BWC)は、生物兵器、毒素兵器の開発、生産、貯蔵、保有等を包括的に禁止するが、化学兵器禁止条約と異なり、検証規定が存在しない。このため、95年1月以降「検証措置を含めた新たな法的枠組み」の作成作業が行われている。9月にニューヨークにおいて非公式閣僚会合が開催され、検証体制の早期成立に対する各国の決意を表明する共同宣言が採択された。現在2001年までのできるだけ早期に作業を妥結するよう審議が重ねられており、実効的な検証体制に向けて各国がどれだけ歩み寄れるかが焦点となる。また、イラン・イラク戦争中イラクによる化学兵器の使用が明らかになったことを受けて、85年に発足したオーストラリア・グループ(AG)は、化学・生物兵器の不拡散を目的とする輸出管理レジームであり、BWCやCWC(下記の項参照)を補完するものとして引き続き重要な役割を果たしている。 【化学兵器】 97年に4月に発効した化学兵器禁止条約(CWC)は、未だ北朝鮮や一部の中東諸国などが未締結であるが、締約国数は121カ国に達し、本条約の実施機関である化学兵器禁止機関(OPCW)による査察も98年には全世界で約280回実施された。日本においては、98年秋に有毒ガス「サリン」の製造施設であったオウム真理教団の「第7サティアン」が廃棄され、12月、OPCWの査察団による廃棄の確認が行われた。日本は、技術事務局の査察局長などの重要なポストに邦人職員を派遣するなど積極的に貢献してきているが、今後とも、各国と協力して条約の普遍性と実効性を高める努力を継続していく考えである。(化学兵器関連の輸出管理レジームについては前項参照。) 【大量破壊兵器の運搬手段としてのミサイル】 98年にパキスタン、イラン、北朝鮮が相次いで行ったミサイル発射は、地域の安定のみならず国際社会全体の平和に対して深刻な脅威をもたらす出来事であった。日本は、これらの国に対してこうした懸念を伝達するとともに、様々な機会を通じてミサイル関連活動の自制を働きかけている。また、32カ国が参加するミサイル輸出管理レジーム(MTCR)は、大量破壊兵器の運搬手段としてのミサイルの不拡散を目的とする唯一の多国間の枠組みとして、北東アジア、南アジアや中東地域等のミサイル拡散問題への対応において重要な役割を果たしている。日本は97年10月から98年9月までの一年間MTCRの議長国を務めた。 【通常兵器一般】
【対人地雷】
対人地雷問題について、日本は、普遍的かつ実効的な対人地雷の禁止の実現と地雷除去活動及び犠牲者支援の強化とを車の両輪とする包括的アプローチをとることが不可欠と考え、「犠牲者ゼロ・プログラム」を提唱し、「犠牲者ゼロ」の目標の実現に向けて積極的に取り組んでいる。 【小火器】
拳銃、機関銃、携帯用対戦車ミサイルなど比較的小型の兵器が近年の紛争における主要な武器となっているが、日本は95年、97年に続き98年の国連総会で小火器問題への取組を推進する決議案を提出したほか、国連政府専門家グループで議長を務めるなど指導力を発揮している。また、98年の国連総会において、2001年までに国連主催の国際会議が開催されることが決定されたことから、今後国連専門家グループを中心に準備が進められる見通しである。
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個々の人間が形成するコミュニティー同様、国家を中心に様々な主体より構成される国際社会においても種々の衝突が生じることは避けられない。一方、全人類が基本的人権の尊重の下で平和のうちに生存するためには、国際の平和と安全を維持する努力が必要不可欠である。国家間の意見の対立が武力紛争にエスカレートする前に調整されることが望ましいが、国際の平和と安全を脅かす紛争については、国連憲章が示す通り「平和的手段によってかつ正義及び国際法の原則に従って」その解決を図っていかなければならない。このような紛争解決に向けた努力は、紛争のあらゆる局面における取組を必要とする。紛争の発生を未然に防止するためには、貧困を始め紛争の背景にある諸要因を総合的に把握して問題に取り組むという「包括的アプローチ」が重要であり、日本は、このような考え方に立った「新たな開発戦略」を数年来提唱してきている。一方、実際に紛争が発生した場合にはその拡大や激化を抑え、平和的解決に導く国際平和協力が不可欠である。地域紛争では、各地域の機関や関係国の果たすべき役割が大きいので、普遍的な国際機関である国連と各地域機関等とが緊密に協力し合っていくことが必要であるという「地域的アプローチ」が重要である。また、紛争に伴う難民問題の解決や紛争後の和平努力など、真の平和回復に向けた国際支援も重要である。本章においては、これらの局面のうち紛争防止と紛争発生後の対応に焦点を当て、「紛争予防」、「国際平和協力」、「難民問題」、そして98年を通じて紛争状態が継続している「コソヴォの問題」を取り上げる。
紛争予防とは、あらゆる次元で武力紛争に発展する虞のある対立関係の所在を事前に察知し、これを解消あるいは沈静化することを通じて、武力紛争の発生を未然に防止することである。 【現状】
国連平和維持活動(PKO)は、国際の平和と安全の維持のために重要な役割を果たしてきている。98年は、最初のPKOと呼ばれる国連休戦監視団(UNTSO)が設立されてから50周年を迎えたことを記念して、10月にPKO50周年記念国連総会が開催され、日本においても、3月に国連PKOの現状と将来についてシンポジウムが開催され、PKOの今後の展望について様々な議論が行われた。 【PKOを巡る議論】
PKOを効率的かつ効果的に実施するための質的向上の必要性が認識されており、このための具体的方策の模索が引き続き行われている。 【日本の協力】
日本は、92年の「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(国際平和協力法)」施行後、アンゴラ、カンボディア、モザンビーク、エル・サルヴァドルのPKOに参加してきており、現在は、中東地域の平和と安定に向けた日本の包括的取組の一環として、96年2月からゴラン高原の国連兵力引き離し監視隊(UNDOF)に後方支援部隊43名と司令部要員2名の計45名を派遣している。その活動振りは現地司令官を含む国連関係者及び派遣先国から高く評価されている。
9月に、ボスニア・ヘルツェゴヴィナにおいてOSCEが行った選挙監視活動は、この法改正に伴って新たに協力の対象となったものであり、同選挙監視活動に、日本からは選挙管理要員25名と選挙監視要員5名を派遣した。
冷戦終結に伴い民族的、宗教的対立が各地で表面化したことにより、世界の難民数は90年代に入って急増し、95年には3000万人に達したが、その後はインドシナ難民問題の収束、大量のモザンビーク難民及びルワンダ難民の帰還により減少傾向に転じ、98年1月現在では約2600万人となっている。一方、世界各地に滞留する難民や紛争などのためにやむなく居留地を離れ流浪する大量の国内避難民の存在は、人道上の問題であると同時に、関係地域ひいては世界全体の平和と安定に影響を及ぼしかねない地球規模の問題となっている。日本は、難民・国内避難民に対する人道援助を国際貢献の重要な柱の一つと位置づけており、ユーゴスラヴィア内のコソヴォ地方で大量発生した難民等への緊急支援をはじめ、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、世界食糧計画(WFP)、赤十字国際委員会(ICRC)など中立的な立場にある国際機関を通じて積極的な支援を行っている。
ユーゴスラヴィア連邦共和国(ユーゴー)内のセルビア共和国コソヴォ地方(全人口200万の9割がアルバニア人とされる)では、独立を求めるアルバニア人住民とセルビア当局との間で従来より緊張関係が続いていたが、2月末にこれが武力衝突に発展し、銃撃戦等により多数の死者が生じた。また、この衝突により、20万人を越える大量の難民や国内避難民が発生し、人道状況の悪化が強く懸念された。 |