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1998年を通じて、日本外交は新たなかつ多くの困難な課題に取り組んできた。それらの中でも特に、インドとパキスタンによる核実験の実施及び北朝鮮によるミサイル発射などの安全保障にかかわる問題から、97年のアジア通貨・金融危機に続くロシア、中南米の金融不安などの経済面での動揺に至るまで、地域や世界の安定を損ないかねない新たな事態への対応が大きな焦点となった。このような状況の下、98年の日本外交は特に(1)アジア太平洋地域、ひいては世界の安定と繁栄を一層増進していくとの観点から米露中韓及び多くの国々との間で積極的に首脳外交を展開したこと、さらに(2)大量破壊兵器の拡散防止から紛争の予防、更には紛争の根本原因のひとつである貧困への対応といった様々な局面で、包括的かつ独自のリーダーシップを発揮したことに特徴付けられる。
まず、積極的な首脳外交については、3回に及ぶ日米首脳会談を通じて、アジア太平洋地域の平和と安定の基礎である日米関係を強化し、両国が幅広い分野で緊密な協力を行っていくことを改めて確認した。ロシアとの間では、ハイレベルの「間断なき対話」を通じて、東京宣言に基づく2000年までの平和条約締結に向けた交渉を含むあらゆる分野で二国間関係が着実に進展した。日中関係についても、日中平和友好条約締結20周年という節目の年に、日中両国首脳は「平和と発展のための友好協力パートナーシップ」の名の下に日中共同宣言をとりまとめるとともに、33分野にわたる協力項目について共同プレス発表を行った。また、日韓両国首脳は「日韓共同宣言-21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ」に署名し、過去の問題に区切りをつけて21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップを構築していくことで一致した。その後の日韓閣僚懇談会開催などを経てこの共同宣言は着実に実践されつつある。さらに、ハノイにおける日・ASEAN首脳会議やクアラルンプールにおけるAPEC首脳会議の場を通じて、日本経済を再生させるとの強い決意の下、アジア経済の回復のためにもアジア太平洋における地域協力の推進を引き続き重視する日本の姿勢を改めて強調した。 第二にこのようなアジア太平洋地域の安定と繁栄の基盤である域内諸国との友好協力関係を一層強化する努力に加え、98年中に起こった様々な出来事に対応して、日本は包括的かつ独自の外交を展開した。 まず、深刻な安全保障上の問題を提起したインドとパキスタンによる核実験実施に際し、日本は、両国に対して断固たる抗議の姿勢を示すとともに、G8や国連安全保障理事会などの場を通じて国際的な核不拡散体制を堅持・強化していくべきことを強く訴え、国際世論を喚起した。また、核不拡散・核軍縮のための国際レジーム強化のための有識者の英知を結集するために「核不拡散・核軍縮に関する東京フォーラム」を開催したり、国連総会において今後の核軍縮・核不拡散への道筋を示す決議案(圧倒的多数の賛成を得て可決)を提案するなど、積極的にイニシアティヴを発揮した。 さらに、北朝鮮によるミサイル発射に対しては、これを日本の安全保障に直接脅威を及ぼす極めて遺憾な行為として、北朝鮮に対して国交正常化交渉の開催や食糧等の支援の当面の見合わせ等毅然とした厳しい対応をとった。また、日米韓三国の緊密な連携を維持・強化しつつ、国際社会に対しても積極的に問題提起を行い、その結果、国連安保理議長による対プレス声明の発出をはじめとし、国際民間航空機関(ICAO)、ミサイル輸出管理レジーム(MTCR)等の国際場裡においても日本の懸念が広く共有された。 一方、新たな形態の危機としては、97年以来のアジア通貨・金融危機、さらにそれが引き金となったロシアの金融不安や中南米経済の不安定化への対処が挙げられる。このような国際的な経済・金融危機の発生を防ぎ、また発生した際に適切に対応していくために、5月のバーミンガム・サミットをはじめ、IMF・世界銀行等の一連の会合において国際金融システムの強化策が検討された。日本は、金融システムに焦点を当てたグローバルな取組への積極的な参加に加え、97年の通貨・金融危機からの回復が最優先課題となっているアジア諸国に対して、98年末までに総額約800億ドルの支援策を表明し、これを着実に実施してきている。 次いで紛争への取組については、フン・セン、ラナリット両首相間の確執が顕在化していたカンボディアにおいて国民和解が遂げられ、自由で公正な選挙が実施されるなど、いわゆる「四項目提案」をはじめとする日本の努力が実を結んだ。また、第2回アフリカ開発会議を開催し、紛争との関連をも視野に入れた開発促進へのイニシアティヴをとり、アフリカの開発に携わる関係国・国際機関から高い評価を得た。 これらの取組に加え、日本は、6月に改正された国際平和協力法に基づき、9月にボスニア・ヘルツェゴビナに選挙要員を派遣し、また、大規模なハリケーン災害に見舞われた中南米諸国のうち特に被害が深刻であったホンジュラスに対し、11月に初めて国際緊急援助隊として自衛隊の部隊を派遣した。いずれも従来以上の目に見える日本の貢献として、関係国から高い評価を受けており、グローバルな脅威から世界の平和と安定を守っていく上で日本が果たし得る役割も広がりを見せつつあることを示した。 このような98年の締め括りに当たり、小渕総理大臣はアジアの21世紀を展望し、「人間の尊厳に立脚した平和と繁栄の世紀」の構築というビジョンを打ち出した。このビジョンを支える行動分野のひとつに「人間の安全保障」の重視が謳われているが、これは、人間の生存、生活、尊厳を脅かすあらゆる種類の脅威を包括的に捉え、これらに対する取組を強化していくことを目指すものである。日本は、また、危機に瀕したアジア諸国の安定と繁栄の実現に向けて、経済危機のしわ寄せが深刻な社会的弱者層を救済し、社会の安定化を図る必要があるとの考え方に立脚し、98年末までにこれらの国に対して世界最大規模の支援策を表明した。こうした日本の取組はアジアのみならず国際社会の多くの国から高く評価され、アジア太平洋地域の安定と繁栄の確保を目指す日本外交の基本方針が改めて国際社会において明確に認識されたことは、今後の日本外交の展開にとって積極的な意義をもつ。 以上、98年の日本外交の主要な動きについて概観したが、最後に、21世紀を迎えようとするこの機に、世界を特徴づける今後の大きな流れをどう見るべきか、3つの側面に整理して捉えてみたい。 【脅威の多様化】
まず第一に挙げられるのは「脅威の多様化」である。今日の国際社会において大規模な戦争が発生する可能性は低下しているものの、個人の生命や安全にとっての最大の脅威は依然として武力紛争である。冷戦終結後局地的な紛争は多発しており、これに対応する形で、過去10年間に新たに展開した国連平和維持活動の数はそれ以前の約2倍に膨らんでおり、紛争の原因は、民主化をめぐる政府と反政府勢力の対立、領土やアイデンティティー(宗教、民族等)をめぐる対立など多岐にわたっている。紛争の地域的分布についても、ここ数年の紛争発生件数が最も多い地域はアフリカとアジアであるが、欧州等他の地域もその脅威を免れてはいない。実際の紛争における武力行使の手段に着目すると、紛争の局地化現象と相俟って対人地雷や小火器等の使用が増加し、それが紛争の激化や人的な被害の拡大・深刻化を招いていることがわかる。すなわち、冷戦期において脅威の主たる源となり、その規制が議論されてきた大量破壊兵器や弾道ミサイルのみならず、通常兵器も今や現実の脅威となっている。このように、武力紛争の増加とともに、その形態、原因、手段が多様化していると言える。 【国力の多元化】 第二は「国力の多元化」である。190か国近い主権国家が共存する今日の国際社会においては、他の国家との関係の処理、すなわち「外交」を支える国力の源泉にも多様性が現れている。帝国主義列強がその勢力を競い合った近代においては、強大な軍事力が外交関係を大きく左右していたが、冷戦が終結し、世界の一体化が進む現在の世界では、軍事力のみならず、経済力、技術力、文化の力など様々な要素が外交に影響を与えている。現実の国際政治において、秩序維持・回復のための最終的な手段として軍事力が引き続き一定の役割を果たしていることは疑いないが、今日、外交を通じて国益を実現していくためには、軍事力以外の様々な力を背景に国際的な発言力を増していくことがますます重要になってきている。また、21世紀を視野に入れた新たな国際秩序の形成においては、構想力、設計力、説得力といった能力も国際社会を自国に有利な方向に牽引していく上で必要不可欠な資質である。 【グローバリゼーションの進展】
第三はグローバリゼーションの進展である。特に経済面において、今世紀後半急速に進展したグローバリゼーションは、今後とも不可逆的な一大潮流として継続していくものと考えられる(第2章第2節1.(1)参照)。
以上、21世紀を迎える世界を特徴づける潮流を3つに整理して敷衍した。99年は、この潮流を視野に入れつつ長期的展望に立った日本外交のあり方を見定めていくべき重要な年と位置づけられよう。
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(1)インドとパキスタンによる核実験
インドでは総選挙の結果、3月にインド人民党(BJP)を中心とする連立政権が発足し、核政策の見直しと核兵器導入オプションの行使に言及した共通政策綱領が発表された。一方、隣国のパキスタンでは4月6日に「ガウリ」中距離ミサイルの試射が実施された。こうした南アジアにおける緊張の高まりを懸念して、日本は、橋本総理大臣発ヴァジパイ・インド首相宛親書を通じて同国の核政策における慎重な対応を求めるとともに、パキスタン政府に対してもミサイル・核開発の抑制を求める申し入れを行ったが、インドは5月11日及び13日の二度にわたり核実験を実施した。 【事実関係及び日本の対応】 8月31日正午頃、北朝鮮が弾道ミサイルを発射した(注1)。31日夜、日本政府は、このミサイル発射は日本の安全保障や北東アジアの平和と安定という観点及び大量破壊兵器の拡散防止という観点から極めて遺憾であり、このような北朝鮮の行為に対して厳重抗議するとの官房長官コメントを発表し、同日中に北朝鮮側に対して、ミサイル発射に対する遺憾の意を直接伝達した。また、翌9月1日、政府は、北朝鮮によるミサイル発射に対する日本の対応について以下のような官房長官発表を行った。
これらの措置に加え、2日に北朝鮮の高麗航空に対して与えられていたピョンヤン-名古屋間の貨物チャーター9便の運航許可を取り消し、その後の運航も不許可とすることとした。
【国際社会の動き】 北朝鮮によるミサイル発射に対する日本の懸念は広く国際社会においても共有された。まず、日本の働きかけにより、9月15日に国連安全保障理事会議長による対プレス声明が発出された。この声明は、安保理メンバーが8月の北朝鮮の行為は地域の漁業及び海運活動に危害をもたらし、域内諸国間の信頼醸成に逆行するとして懸念を表明するとともに、この発射が事前通報なしに行われたことへの遺憾の意を表明するものであった。また、9月22日の日米首脳会談において、北朝鮮のミサイル発射が日本の安全保障に直接関わるのみならず、北東アジアの平和と安定にとっても極めて憂慮すべき行為であり、北朝鮮に対してミサイル発射、開発、輸出を行わないよう種々の場において毅然たる態度で働きかけていくことが確認された。その2日後に、北朝鮮問題に関する日米韓三国外相協議が行われ、共同発表が行われた。この共同発表の中で、北朝鮮によるミサイル発射に対する非難が明示され、「合意された枠組み」及びKEDOを維持することの重要性が確認され、今後の米朝ミサイル協議を通じて北朝鮮にミサイルの発射、開発、関連物資・技術の輸出の中止を求めていくとの米国の決意が表明された。さらに、10月8日の日韓首脳会談において、両首脳は、国連安保理議長が安保理を代表して表明した懸念及び遺憾の意を共有するとともに、北朝鮮のミサイル開発が放置されれば、日韓及び北東アジア地域全体の平和と安全に悪影響を及ぼすことにつき意見の一致を見た。なお、9月に開催された国際民間航空機関(ICAO)モントリオール総会において、また、10月に開催されたミサイル輸出管理レジーム(MTCR)ブダペスト総会においても、北朝鮮のミサイル関連活動に関する懸念が共有され、北朝鮮のミサイル発射に関連する議長声明、決議が各々採択された。 【アジア経済情勢】
97年7月のタイ・バーツ下落に端を発した東南アジアの通貨・金融危機は、その後インドネシア、韓国等に波及し、世界経済全体にも影響を及ぼした。タイ、韓国については、IMF合意の着実な実施等により危機的状況を回避したが、その後インドネシアでは、輸出入の停滞、華人系住民に依存した流通システムの崩壊、食糧・医薬品の高騰・不足などの諸問題が深刻化し、次第に社会不安、ひいては暴動にまで発展し、5月にスハルト大統領の辞任に至るという政治不安までもたらす結果となった。このインドネシアの混乱は、進出していた外国企業等に働く外国人の一時的な海外退避を余儀なくさせ、多くの邦人企業が一時活動を停止せざるを得ない状況となった。
【世界経済情勢】
一方、97年のアジア通貨・金融危機は、98年に入ってロシアの金融危機をはじめとして中南米など新興市場諸国にも飛び火した。これは、日本のみならず、欧米諸国の経済にも影響を与え、世界的なデフレ懸念を引き起こした。まず、ロシアにおいて、原油価格下落による経常収支の悪化、財政赤字増大等のファンダメンタルズの悪化を背景とした銀行システムへの不安が深刻化し、外為・株式市場等の金融セクター全般にこれが波及し、8月、ロシア政府・中央銀行はルーブルの切り下げの実質的容認、一部対外債務返済凍結等の一連の措置を発表した。その後、為替・株価の下落は一時収まったが、IMFとの協議不調により融資は凍結されたままで、ロシア経済は依然厳しい状況に置かれている。
97年6月頃から協力拒否や妨害の事例が目立っていたが、98年1月、イラク政府は査察団の国籍別構成が米英に偏っていることなどを理由に、大量破壊兵器廃棄に関する国連特別委員会(UNSCOM)の査察を拒否した。国際社会はイラクに対しUNSCOMとの完全な協力を求めたが、イラク側が応じなかったため、米国政府は武力行使も辞さずとの姿勢を示すなどイラク情勢は緊迫化した。これに対し、2月、アナン国連事務総長が調停のためイラクを訪問し、イラク政府との間でUNSCOM等の査察への協力に関する了解覚書に合意・署名した。これを受けて、3月初めに、この合意を承認し、イラクに対し関連安保理決議に対するいかなる違反もイラクにとって最も深刻な結果をもたらすであろう旨警告する安保理決議1154が採択され、危機は回避された。
日本は、10月19日から21日まで国連及びアフリカのためのグローバル連合(GCA)との共催により「第2回アフリカ開発会議」(TICAD II:The Second Tokyo International Conference on African Development)を開催した。同会議には、80ヶ国(アフリカ51ヶ国、アジア11ヶ国、北米及び欧州18ヶ国)、40の国際機関、22のNGOが参加し、アフリカに明るい未来をもたらすことは可能だとの信念のもとに、教育、医療、民間セクター開発、女性の社会参画、平和等を通じたアフリカ自身の手による国造りを目指した。
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日本の安全と繁栄を確保するためには、日本を取り巻くアジア太平洋地域の安定と繁栄の実現に大きな役割を有する国々との間の協調関係を強化しつつ、この目的に資する様々な多国間の枠組みを整備・強化していくことが必要不可欠である。このような観点から、日本は、米国との同盟関係をはじめ、ロシア、中国、韓国等近隣諸国との二国間関係を重視しており、98年を通じて、これらの国との一連の首脳外交に代表される緊密な関係構築に向けた努力を一層強化してきた。また、日本は、ASEAN諸国や大洋州諸国との関係強化、アジア太平洋経済協力(APEC)やASEAN地域フォーラム(ARF)など地域協力の推進を通じて、同地域の安定強化や発展に努めてきている。こうした努力は、12月に小渕総理大臣がASEANとの首脳会議出席の際に行った政策演説の中で表明した21世紀のアジアのビジョンである「人間の尊厳に立脚した平和と繁栄の世紀」を実現するための基礎となる。
【総論】
緊密な日米関係がアジア太平洋における安定と繁栄に不可欠な基盤を提供しているとの認識の下、日米両国は二国間関係のみならず幅広い事項について協議、協力を行っている。このような日米関係は引き続き日本外交の基軸であり、北東アジア地域の安全保障やアジア及び世界経済の不安定化など困難な問題が山積する中、日米間の緊密な協議及び政策協調がますます重要となっている。 【日米経済関係】
98年を通じて、日本経済の早期回復及び世界経済の安定に向けた日米協調が焦点となった。米国は、アジア経済及び世界経済の回復と安定を図るためにも、日本が内需主導の景気回復を早期に実現することが重要であるとして、金融システム安定化、財政刺激策、及び更なる規制緩和の実現を強く期待してきており、10月に成立した金融再生関連法や11月に策定された緊急経済対策などの日本の取組の迅速かつ効果的な実施を重視している。9月と11月の2度の首脳会談では、世界経済及びアジア経済の安定と繁栄のために、世界第一位、第二位の経済力を有する米国と日本の協調が不可欠であるとの認識で両首脳が一致した。また、11月のAPEC首脳会議に当たり、経済的困難に直面しているアジア諸国への支援策として日米両首脳が共同で発表した「アジアの成長と経済回復のためのイニシアティブ」は、多くの国から評価された。
【拡がる日米協力】
93年に発足した「地球的展望に立った協力のための共通課題(日米コモン・アジェンダ)」の枠組みの下で、日米両国は、「保健と人間開発の促進」、「人類社会の安定に対する挑戦への対応」、「地球環境の保護」及び「科学技術の進歩」という4つの柱、18分野で様々なプロジェクトを推進している。3月に外務省及び米国国務省の共催で「コモン・アジェンダ・オープン・フォーラム」が開催され、カーター元米大統領、竹下元総理大臣、河野元副総理大臣をはじめ、関係国政府、国際機関、企業、NGOなどから多数の関係者が出席した。この会議においては、「健康」、「保全」というテーマの下で、活発な意見交換が行われ、日米両国政府と民間(NGOや企業)やアジア太平洋諸国を含む第三国との相互対話を一層強化し、相互補完的な形で協力していくことの重要性が強調された。また、広報活動等を通じて両国の国民の意識向上を図り、NGOなどが活動しやすい社会的環境を整備する必要性が提起された。日本においては、96年2月以来、民間有識者によるコモン・アジェンダ円卓会議(会長:平岩外四経団連名誉会長)が日米両国政府に対し助言と指針を与えてきており、11月には円卓会議が主催する初のプロジェクトであるインドネシア環境教育プロジェクトが開始された。
日露関係については、93年のエリツィン大統領訪日の際に署名された東京宣言が両国関係進展の基盤となっている。日本としては、東京宣言に基づいて北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結し、日露関係の完全な正常化を達成するために最善の努力を払うとともに、ロシアの改革努力を支持しつつ、様々な分野における協力と関係の強化を図ることを対露外交の基本的な考え方としている。また、このような日露協力関係の強化はアジア太平洋地域の安定と繁栄に大きく貢献するものと考えられる。領土問題については、日本は、北方四島の帰属の問題の解決に向けての確実な前進と、四島交流や四島住民支援等問題解決のための環境の整備を「車の両輪」のように同時に図っていくことが重要との立場である。
同時に、日露投資保護協定や観光、環境等の分野での日露協力に関する覚書等、経済・実務関係の一連の文書が署名又は発表された。 【日中間の対話】
アジア太平洋地域の安定と繁栄の確保のためには、中国が国際社会においてより一層建設的なパートナーとなるよう働きかけつつ、あらゆるレベルでの交流拡大を通じて、アジア太平洋地域ひいては世界の平和と繁栄にとって極めて重要な意義を持つ日中関係を一層発展させていかなければならない。こうした認識に基づき首脳レベルの交流を一層強化していくことが日中間で一致をみている。98年には、中国国家元首として初めて江沢民国家主席が訪日するなどハイレベルの交流を通じて両国関係の諸課題について率直かつ緊密な意見交換が行われた。 【日中経済関係】
日中間の貿易総額は約640億ドル(97年)に達している。中国は日本にとって第2位、日本は中国にとって第1位の貿易相手国の地位を占め、相互依存関係が深まっている。また、アジア経済危機との関連で人民元レートを含む中国経済への関心が高まる中、9月に東アジア経済に関する次官級の日中ハイレベル協議も実現した。日中両国の施策がアジア経済に与える影響は大きく、今後も、緊密な意見交換の継続が期待される。中国のWTO加盟については、97年にモノの貿易について実質的な合意が成立しており、中国は、サービス貿易分野での交渉を進めるべく努めている。
【台湾との関係】 日本と台湾の関係については、72年の日中共同声明に基づき民間の地域的な関係、すなわち非政府間の実務関係として維持されてきている。なお、10月に中台間の対話が再開したが、日本としては、台湾問題が当事者間で平和的に解決されることを希望する旨繰り返し表明してきている 【21世紀に向けて】
72年の国交正常化から四半世紀余り、日中関係は全般的に急速な発展を遂げてきているが、同時に、両国は歴史的にも関わりの深い隣国であり、政治体制や国情も異なるため、交流が深化していく過程において種々調整を要する問題も生じている。 【日韓関係】
【日朝関係】
【ASEAN諸国]】
東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国は、現在深刻な経済困難に直面しているとはいえ、アジア太平洋地域の安定と繁栄の実現に重要な政治的、経済的役割を有している。こうした考えに基づき、98年を通じ、アジア太平洋地域の安定と繁栄の実現を目的として、日本とASEAN諸国の協力関係強化に向けて様々な取組が行われた。
【カンボディア】
日本は、80年代末以来、カンボディア問題を東南アジアにおける最大の不安定要因と位置づけ、カンボディア和平プロセスに積極的に関与してきた。特に、98年にはカンボディアにおいて総選挙が実施され、新政府が成立したが、この過程において日本は主導的役割を果たした。
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冷戦時代には東西対立が国連の場にも現われ、国連はその第一の目的である国際の平和と安全の維持に必ずしも十分な役割を果たすことができなかった。しかし、冷戦の終結に伴い、安全保障理事会が本来の機能を果たし得るような状況が生まれ、また、開発の問題についても、冷戦下の南北対立を脱却した真のパートナーシップに基づく国連の取組が可能な状況となっている。 冷戦終結後、世界規模の紛争が発生する可能性は低下したが、地域的紛争は頻発しており、紛争発生後の対応のみならず、紛争の防止と紛争後の平和回復のための対策の強化が急務となっている。また、紛争の根底には貧困を始めとする経済的・社会的問題があり、これらの問題を避けては真の紛争解決は望めない。こうした状況の下で平和と開発の問題が密接に関わるものであることに留意しつつ、両者を視野に入れた包括的な対策を国連等の場で講じていく必要がある。また、環境破壊、国際組織犯罪、薬物、感染症といった、「人間の安全保障」を脅かす問題が地球規模でより深刻化していることから、国連を中心とする国際社会の一致した取組の必要性が増しており、国連に対する期待が一層高まっている。 日本は、56年に国連に加盟して以来、常に国連の目的と原則を遵守し、一貫して国連重視を外交方針の柱の一つに掲げて国連の活動全般に寄与してきた。98年は、引き続き安保理非常任理事国として各種の地域情勢を始めとする安保理での審議に積極的に取り組んできたが、特にイラクの国連査察拒否問題、インド・パキスタンの核実験、北朝鮮のミサイル発射問題に関して安保理における意見の取りまとめにイニシアティヴを発揮した。 【グローバルな取組の強化と国連改革の必要性】 国際環境が大きく変化し、国連の果たすべき役割への期待が高まるにつれ、国連は21世紀の課題に十分応えるべくその機能強化を迫られている。国連改革の問題については、国連総会の下に設置された各種作業部会などで議論が行われてきているが、日本は、平和と開発の問題が相互に密接に関わることから、安保理改革と開発面での改革、またそれを支える財政面での改革の3つの分野が均衡のとれた形で進められることを主張してきている。また、アナン事務総長は、懸案の国連改革をも念頭に置きつつ、9月の総会での演説の中で、西暦2000年に開催される「2000年総会(Millenium Assembly)」において、21世紀の国連の役割とあり方を見直すことを提案している。日本は、引き続きこれらの議論に積極的に貢献していく考えである。 【安保理改革】 冷戦後の安保理は、伝統的な安全保障の分野のみならず、紛争の防止や紛争後の状況の安定化に向けて、人道、人権等の分野でも重要な役割を担うに至っている。これは、政治・安全保障面のみならず、経済・社会分野においても幅広く貢献できるような資質が安保理メンバーに求められていることを示しており、安保理改革に当たっては、これら様々な面でグローバルな貢献を行い得る新たなメンバーを加え、安保理の作業方法等を改善していくことが必要となっている。安保理改革については、94年1月以来、「安保理改革に関する作業部会」等の場において集中的に議論されてきている。これまでの議論を通じて、安保理の実効性と正統性を向上させるために常任・非常任理事国双方の議席の拡大が必要であることについては概ね各国の意見の一致があり、運営方法の改善や透明性の向上を図る方法についても議論は進展してきている。また、日独の常任理事国入りについては幅広い支持が得られている。しかし、依然として、拡大後の安保理の規模(現在は15)、新常任理事国への拒否権付与や現在の常任理事国の拒否権維持の是非、途上国からの新常任理事国の選出方法(日独のみが新常任理事国となることについては途上国を中心とした抵抗が強い)などの問題を中心に議論が継続している。日本は、グローバルな責任を担う能力と意思を有する限定された数の国を新たに常任理事国に加え、安保理の機能を強化することや非常任理事国の議席数の適当な増加により安保理の代表性を強化することの必要性等を主張するとともに、既に5年間議論されてきているこの問題に対する各国の政治的決断の必要性を訴えるなど、議論の進展に向けて積極的に取り組んできている。9月の国連総会での演説において、小渕総理大臣は、国連が様々な課題に有効に対処し得るよう、国際社会全体の利益に適う包括的合意の早期成立に向けて各国の英断を呼びかけるとともに、憲法の禁ずる武力の行使は行わないと言う日本の基本的な考えの下で、多くの国々の賛同を得て安保理常任理事国として一層の責任を果たす用意があるとの従来よりの立場を改めて表明した。 【開発分野の改革】 先進国と途上国の「グローバル・パートナーシップ」に基づく冷戦後の新しいアプローチを通じて開発問題に効果的に取り組む必要があるとの認識の下、日本は「新たな開発戦略」(注5)を提唱してきており、また、国連諸機関間の円滑な連携を図る改革の必要性を主張している。日本は、この戦略を国連において根付かせるため、6月に開発協力に関する国際シンポジウム及び新開発戦略に関する東京会議を開催したほか、10月に日本が国連等と共催した第2回アフリカ開発会議(TICAD II)において、アフリカ諸国の開発問題にこの戦略を活かす方途を探った(本章2.(5)参照)
【財政分野の改革】 財政面では、国連は、米国を始めとする幾つかの加盟国の分担金滞納などにより引き続き深刻な状況にある。日本の分担率は、99年には19.984%、2000年には20.573%となるが、加盟国中第2位の拠出国である日本が国連において果たす役割への期待は高く、国連行財政諮問委員会(ACABQ)選挙でも日本からの候補者が多数の支持票を集めて当選した。一方、滞納金の解消、分担金負担の衡平化は引き続き重要な課題であり、国連の活動を効果的かつ効率的なものとする観点から、日本としては、今後ともこの分野における改革を推進していく考えである。 【国際刑事裁判所】 国際刑事裁判所は、国際社会にとって最も深刻な罪(集団殺害罪、人道に対する罪、戦争犯罪等)を犯した個人を国際法に基づき訴追し、処罰するための常設の国際刑事法廷であり、その設立は、今世紀の国際社会にとって大きな課題であった。95年以降、国連にて裁判所の設立条約草案につき各国の間で検討が行われてきたが、98年6月から7月にかけてローマで行われた外交会議において、裁判所の設立条約が賛成多数で採択された。日本としては、国際社会における最も深刻な犯罪の発生を防止し、もって国際社会の平和と安全を維持する観点から早期に同裁判所が設立されるよう、起訴手続規則の作成等、今後予定される関連の作業に引き続き積極的に取り組んでいく考えである。
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