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国連教育科学文化機関(UNESCO(ユネスコ))を通じた協力 |
日本は、1951年、戦後いち早くユネスコに加盟した。以来、教育、科学、文化、コミュニケーション等の分野における知的協力や開発途上国に対する支援等のユネスコの様々な活動に積極的に参画してきた。特に1999年以降は、日本人として初めて就任した松浦晃一郎事務局長とも協力し、ユネスコの改革と各活動の推進に取り組んでいる。また、文化面においては、世界の有形・無形の文化遺産の保存修復、振興及び人材育成の分野での支援を日本の協力の柱としている。
優れた文化遺産は、次の世代に受け継がれるべき人類共通の遺産であると同時に、その遺産を有する国の国民にとっては誇りであり、アイデンティティの根源に深くかかわるものである。日本は、高い技術と豊富な経験をいかし、海外の文化遺産の保存修復や人材育成に協力するとともに、文化遺産保護のための国際的枠組みにも積極的に参画している。その一つとして、日本は、ユネスコに有形・無形それぞれの文化遺産保護を目的とした日本信託基金を設置している。文化遺産保存日本信託基金では、カンボジアのアンコール遺跡やアフガニスタンのバーミヤン遺跡の保存修復事業を行っている。将来はその国の人々が自分たちの手で遺跡を守っていけるよう、人材育成を行いながら、現地の人々と力を合わせて実施している。無形文化遺産保存・振興日本信託基金では、開発途上国における音楽・舞踊等の伝統芸能や伝統工芸等を次世代に継承するための事業や、無形遺産条約締結に向けた国内制度の整備を支援している。
さらに、日本は、ユネスコに人的資源開発信託基金を設置し、ユネスコが主導機関としての役割を務める「万人のための教育(EFA)」の推進など教育分野を中心とした開発途上国の人材育成への取組を支援している。また、「持続可能な開発のための教育(ESD)」については、ユネスコと協力し、国際社会として更にESDを推進する目的で、12月に東京で「ESD国際フォーラム2008」が開催された。
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世界遺産条約 |
世界遺産条約は、文化遺産や自然遺産を人類全体の遺産として国際的に保護することを目的として、1972年のユネスコ総会で採択され、1975年に発効した。日本は1992年にこの条約を締結している。
世界遺産は、建造物や遺跡などの「文化遺産」、自然地域などの「自然遺産」及び文化と自然の両方の要素を持つ「複合遺産」に分類され、日本からは、文化遺産11件、自然遺産3件の計14件の世界遺産が記載されている。なお、世界遺産への推薦は、各締約国の作成する「暫定一覧表」の記載物件から行われ、推薦物件は約1年半にわたる審査の後、世界遺産委員会においてその記載の可否が決定される。7月、カナダのケベック・シティで行われた第32回世界遺産委員会において、日本が推薦した「平泉-浄土思想を基調とする文化的景観」が、世界遺産が有すべき「顕著な普遍的価値」の証明が不十分であるとして、日本の推薦物件としては初めて「記載延期」決議を受けた。これを受け、現在、再推薦に向けた準備を進めている。
世界遺産条約は発効から30年以上が経過し、締約国と世界遺産の数は飛躍的に増大している。世界遺産委員会を中心に、条約運用の制度や世界遺産の在り方とその価値の定義を見直すための議論が行われており、日本はこれら議論にも積極的に参画している。
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無形文化遺産条約 |
無形文化遺産条約は、2003年ユネスコ総会で採択され、2006年4月に発効した。この条約により、伝統芸能や伝統工芸等の無形文化遺産についても国際的保護の体制が整えられることとなった。国内の無形文化財の保護において豊富な経験を持つ日本は、この条約の作成に当たりけん引役となり、条約発効後は、条約に基づき設置された政府間委員会の委員国に選出され、2007年には第2回政府間委員会を日本において開催した。2008年6月には、日本も取りまとめに貢献した運用指針が締約国会議において採択され、今後条約の実際の運用が開始される。その第一歩として、2009年秋の第4回政府間委員会から、無形文化遺産代表一覧表への記載が本格的に開始される予定であり、日本からは14件の無形文化遺産を提案している。これに先立ち、2008年11月にトルコのイスタンブールで開催された第3回政府間委員会においては、この条約の先行プロジェクトとしてユネスコが実施した「人類の口承及び無形遺産の傑作の宣言」を受けて、90件の無形文化遺産(日本の能楽、人形浄瑠璃(じょうるり)文楽、歌舞伎(かぶき)の3件を含む)を条約に基づく無形文化遺産代表一覧表に統合することが決定された。
![]() 能 観世流「高砂」(撮影:辻井清一郎 写真提供:社団法人能楽協会) |
![]() 文楽 国立劇場小劇場「仮名手本忠臣蔵」城明渡しの段(写真提供:国立劇場 協力:NPO法人人形浄瑠璃文楽座) |
![]() 歌舞伎 国立劇場「参會名護屋」序幕 北野天満宮社頭の場(写真提供:国立劇場) |