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第1章 概観

   第1章   概観   


2007年の国際情勢と日本外交の展開


2007年、日本は、強固な日米同盟関係を基盤にしつつ、アジア外交を一層強化した。また、外交の地理的な拡大と深化を進めるとともに、国際社会の一員として地球規模課題の解決に向けて貢献を行った。こうした取組を通じ、翌2008年に日本が主催する第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)(5月)や主要国首脳会議(G8北海道洞爺湖サミット)(7月)に向け、日本にとって重要な外交基盤の強化が図られた。

2007年前半は、安倍晋三総理大臣の下で、日米同盟の一層の強化が図られるとともに、対中関係の改善と発展や日印関係の強化など、アジア外交が大きく進展した。さらに、同年後半には、福田康夫総理大臣が、日米同盟の強化とアジア外交の推進の「共鳴」を提唱し、11月には米国を訪問するとともに第3回東アジア首脳会議(EAS)へ出席、12月には中国を訪問し、「共鳴外交」の具体化に着手した。

アジア外交の中では、中国について、温家宝(おんかほう)国務院総理の訪日(4月)、福田総理大臣の訪中(12月)、高村正彦外務大臣ほか5閣僚が出席した日中ハイレベル経済対話(12月)等の活発な要人往来等を通じ、両国間のハイレベル対話が強化され、今後の日中間の「戦略的互恵関係」の更なる進展に向けた展望が広がった。また、南アジアで急速に発展するインドについても、8月の安倍総理大臣訪印をはじめとする活発な要人往来を通じ、政治・安全保障、経済、人的・文化・学術交流等広範な分野で関係の強化が図られた。東南アジア諸国連合(ASEAN)との間でも、日・ASEAN包括的経済連携協定の交渉が妥結し、11月の日・ASEAN首脳会議において福田総理大臣が一層のASEAN統合支援を表明するなど、関係が緊密化した。その一方で、北朝鮮問題に関しては、2月に六者会合において合意された「初期段階の措置」が実施され、10月には「第二段階の措置」が合意されるなど、一定の進展があったが、北朝鮮は2007年の年末までに実施することを約束した非核化措置、特にすべての核計画の「完全かつ正確な申告」を実施しないなど、朝鮮半島の非核化に向けた動きは今後も予断を許さない。また、拉致(らち)問題について、日本は解決に向けた具体的な行動を求めたが、北朝鮮はこれに応じなかった。アジア太平洋地域の地域協力については、EAS、アジア太平洋経済協力(APEC)において、エネルギーや気候変動・環境問題に関する取組が進展するとともに、日中韓三国協力においても、福田総理大臣が出席した11月の日中韓首脳会議において、今後、首脳会議をASEAN関連会議の枠外で、三国のいずれかで適当な時期に開催すべく検討していくことで一致するなど、着実に進展した。アジア太平洋地域に関心を深めつつあるロシアとの間では、日本から極東・東シベリア地域における協力強化を提案したほか、ハイレベル対話を行い、日露関係を高い次元に引上げるべく、平和条約締結交渉を行った。


写真・歓迎式典での福田総理大臣と温家宝・中国国務院総理

歓迎式典での福田総理大臣(右)と温家宝・中国国務院総理(左)
(12月28日、中国・北京 写真提供:内閣広報室)


また、2007年を通じ、日本外交の地理的な拡大と深化が顕著に進んだ。具体的には、例えば北大西洋条約機構(NATO)との間では、1月に安倍総理大臣が日本の総理大臣として初めてNATO本部を訪問、12月にはデ・ホープ・スケッフェルNATO事務総長が訪日したほか、アフガニスタンでの復興支援等の具体的な協力が進展した。また、麻生太郎外務大臣は、「自由と繁栄の弧」演説(2006年11月)において、民主化や市場経済化を進める国々との対話と協力を重視することを明らかにし、その具体化が図られた。中・東欧諸国については、1月に麻生外務大臣が同諸国を歴訪し、5月には第2回V4(ヴィシェグラード4:チェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア)+1外相会合に出席した。中央アジア・コーカサス諸国との間では、首脳レベルでの訪日が相次ぐとともに、6月には初の、12月には第2回目の「GUAM(グルジア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドバ)+日本」会合を開催した。南アジアとの関係では、4月の南アジア地域協力連合(SAARC)首脳会議に日本が初めてオブザーバーとして参加し、麻生外務大臣が出席した。メコン地域諸国との関係では、11月のASEAN等関連会議の際に福田総理大臣が日・CLV(カンボジア、ラオス、ベトナム)首脳会談に出席したほか、2回にわたり、日・CLV外相会談が実施された。2008年1月には、高村外務大臣が初の日・メコン外相会議を東京で主催した。

さらに、日本は2007年、国際平和協力や地球規模の課題の解決に向けて、引き続き積極的に取り組んだ。具体的には、「テロとの闘い」に向けた取組や、イラク、アフガニスタンの復興支援、「平和と繁栄の回廊」構想推進等を通じた中東和平の分野での積極的貢献、平和構築人材育成事業の開始等、平和構築に向けての取組を強化した。また、国際社会として早急な対応が求められる地球温暖化問題については、日本は、5月に打ち出した「クールアース50」に基づき、G8ハイリゲンダム・サミットにおける議論をリードし、12月の気候変動枠組条約第13回締約国会議(COP13)においては、日本の提案に沿った形で、すべての主要排出国が参加する交渉の場の立ち上げが決定されるなど、G8北海道洞爺湖サミットに向けて日本がリーダーシップを発揮してきている。2008年1月、福田総理大臣は、第169回国会における施政方針演説において、世界の平和と発展に貢献する「平和協力国家」として、国際社会において責任ある役割を果たしていく考えを表明しており、TICAD IVやG8北海道洞爺湖サミットに向け、平和構築支援をはじめとする国際平和協力を一層強化していく日本の姿勢を明確にしている。

(アジア・大洋州地域)


アジアは、中国やインドの目覚ましい成長や、ASEAN統合の進展、EASの枠組みの下での協力の定着、二国間及び多国間の自由貿易・経済連携ネットワークの緊密化など、ダイナミックで前向きな変化が見られる一方、朝鮮半島や台湾海峡を巡る伝統的な安全保障上の問題や、自然災害、テロ・海賊、感染症、エネルギー問題といった地域共通の課題が山積している。日本は、豊かで安定し、開かれたアジアを実現すべく、自由と民主主義、基本的人権などの基本的価値の共有に基づいた具体的な地域協力を進展させるため、努力を重ねてきている。

共に地域や世界に影響力を有する隣国である中国とは、「戦略的互恵関係」の構築に向け、首脳間をはじめ、様々なレベルで対話を重ねた。中国国内では、10月に中国共産党第17回全国代表大会が行われ、総書記に再任された胡錦濤(こきんとう)国家主席の下で新指導部が発足した。また、中国は、対外的には、米国との安定的な関係構築に努力しつつ、近隣諸国のみならず、中東、アフリカ、中南米諸国に対して積極的な外交を行っているほか、EASや上海協力機構(SCO)等の地域間協力枠組みや六者会合へも積極的に参加するなど多国間外交にも積極的に取り組んでいる。日本は、中国が国際社会の諸問題の解決に関与する姿勢を歓迎しつつ、軍事力の近代化や対外援助の在り方等について、透明性を確保し、国際社会の規範にのっとった行動をとることを求めている。

地理的に最も近く、基本的価値を共有する隣国である韓国では、12月に大統領選挙が行われ、李明博(イミョンバク)氏が当選した。福田総理大臣は2008年2月25日の大統領就任式に出席し、李明博大統領と「日韓新時代」を拓いていくことの重要性で一致した。

北朝鮮を巡る諸懸案については、日本は関係国とも協調しつつ粘り強く取り組んだ。核問題では一定の進展があったものの、北朝鮮は2007年末までに行うと約束した非核化措置、特にすべての核計画の「完全かつ正確な申告」を履行していない。また、拉致問題についても、日本の強い働きかけにもかかわらず、具体的な進展はなかった。

ASEANは、11月に、普遍的価値の尊重をうたった「ASEAN憲章」を採択した。日本はこれを歓迎するとともに、ASEANの統合努力を力強く支援すべく、域内格差是正のための支援をはじめとする様々な協力策を表明した。ミャンマーでは、9月に政府当局が僧侶と市民によるデモを実力で鎮圧し、日本人ジャーナリスト1名を含む多数の死傷者が発生した。日本はミャンマー側に対し、様々なレベルで日本人の死亡に対する抗議と真相究明要求を行うとともに、民主化や人権状況の改善を求めた。

世界最大の民主主義国であるインドについては、8月に安倍総理大臣が訪問し、シン首相との間で、安全保障協力の方向性の検討、2010年までに200億米ドルという年間貿易額に向けて取り組むことなどを内容とする、「新次元における日印戦略的グローバル・パートナーシップのロードマップに関する共同声明」を発出した。

オーストラリアとの関係は、3月の「安全保障協力に関する日豪共同宣言」の発出やそれに続く安全保障関係の急速な緊密化、日米豪戦略対話の実施に示されるように、従来の貿易や経済中心の関係から政治安全保障面を含む「包括的な戦略的関係」という新たな段階に入っている。



(北米地域)


米国は日本の同盟国であり、日米同盟は日本外交の基軸である。日米両国は基本的価値と利益を共有し、安全保障をはじめとして、政治・経済等の幅広い分野において協調し、対処していく関係にある。東アジア地域に現在も不透明性や不確実性が存在する中で、日米安全保障体制を中核とする日米同盟は日本の平和と安全及びアジア太平洋地域の安定と発展にとって不可欠な役割を果たしている。さらに日米両国は、二国間の課題のみならず、国際社会が直面する諸課題に対し、国際社会と連携しながら様々なレベルで、また様々な機会をとらえて協力して取り組んでいる。安倍政権の下においては、アジアや世界の直面する諸問題について日米両国は緊密に連携し、また、9月に成立した福田政権においても、日米同盟の一層の強化という一貫した方針の下に、日米間で緊密な政策協調を行っている。

日本とカナダは、基本的価値を共有するアジア・太平洋諸国のパートナー及びG8のメンバーとして、様々な分野で緊密に協力している。


写真・日米共同記者会見での福田総理大臣とブッシュ・米国大統領

日米共同記者会見での福田総理大臣(左)とブッシュ・米国大統領(右)
(11月19日、米国・ワシントン 写真提供:内閣広報室)



(中東地域)


中東地域の平和と安定の確保は、国際社会全体の平和と繁栄に直結する問題であり、また、原油の約9割を中東地域から輸入している日本のエネルギー安全保障にとっても重要である。しかしながら、中東地域では、中東和平問題、イラク及びアフガニスタン情勢の不安定、イランの核問題など、地域の安定に依然多くの課題を抱えている。

こうした状況の下、日本は、国際社会と連携しつつ、中東地域の平和と安定の確保と日本のエネルギー安全保障を主要目標にして、中東外交に積極的に取り組んでいる。

4月から5月にかけて、安倍総理大臣が、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、カタール、エジプトの中東5か国を訪問し、二国間関係の強化、エネルギー安全保障の確保、中東地域の平和と安定における協力の拡大を図った。また、麻生外務大臣も5月にエジプトで開催された「イラク安定化に関する周辺国拡大外相会合」に出席し、イラク問題への積極的取組を表明したほか、8月にはイスラエル、パレスチナ自治区、ヨルダンを訪問し、日本が推進している「平和と繁栄の回廊」構想に関する4者協議閣僚級会合をジェリコで開催した。



(欧州地域)


欧州連合(EU)の加盟国は、1月にブルガリア及びルーマニアが加盟して27か国となり、全体で人口約4億9,000万人、国内総生産(GDP)約14兆6,000億米ドルを擁するまでに拡大している。また、12月にはEUの新条約となるリスボン条約が署名され、2009年1月の発効を目指し、EU統合の深化が一層進むこととなった。こうした中、日本が国際社会の安定と繁栄に向けて主導的な役割を果たしていく上で、基本的価値を共有する戦略的パートナーである欧州との間で政治対話や協力を進めていくことがこれまで以上に重要になっている。

このような認識の下、2007年は、1月の安倍総理大臣の西欧諸国及びEU、NATO訪問並びに麻生外務大臣の中・東欧諸国訪問に始まり、年間を通じて欧州諸国、機関首脳等との会談が間断なく行われ、政治、経済、文化等の幅広い分野で日欧の協力関係が一層強化された年となった。

NATOとの間では、安倍総理大臣のNATO訪問のほか、12月のデ・ホープ・スケッフェルNATO事務総長の訪日をはじめとする政治対話が活発に行われるとともに、平和構築、復興支援、災害援助等の分野での知見の共有や、アフガニスタンでのNATO・PRT(地方復興チーム)と連携した人道支援など、日・NATO協力が着実に進展した。EUとの間では、1月の安倍総理大臣とバローゾ欧州委員長との会談に続き、6月にはEU議長国であるドイツのメルケル首相も参加して日・EU定期首脳協議が行われた。

麻生外務大臣の「自由と繁栄の弧」スピーチで言及された民主化や市場経済化を進める国々との間でも関係強化が進んだ。具体的には、V4+1外相会合や「GUAM+日本」会合、「中央アジア+日本」対話等、様々な政治対話を実施した。

ロシアとの間では、「共通の戦略的利益に基づくパートナーシップ」の構築に向け、幅広い分野で一層協力を進めた。また、北方領土問題に関しては、2度の首脳会談及び外相会談を通じ精力的な交渉を行った。さらに、ロシアが極東・東シベリア地域の発展に力を傾注し、それをアジア太平洋地域全体の統合プロセスの中に位置付けたことを受け、6月の日露首脳会談において、安倍総理大臣から「極東・東シベリア地域における日露間協力強化に関するイニシアティブ」を提案し、プーチン大統領からの支持を得た。



(アフリカ地域)


日本は、[1]アフリカに集中する世界的課題の解決に向けた国際社会の責任ある一員としての応分の貢献、[2]国連加盟国の約3割を占めるアフリカ諸国との関係強化を通じた外交基盤強化、[3]資源に恵まれ将来的に大きな市場となることが期待されるアフリカとの経済関係の深化の3つの政策目標の観点から、アフリカ開発に関する世界最大級の政策フォーラムである「アフリカ開発会議(TICAD)」プロセスを基軸に、積極的な対アフリカ外交を展開している。2007年は、TICADプロセスの一環として、2月にタンザニアで「第4回アフリカ・アジア・ビジネス・フォーラム」を、3月にケニアでTICAD「持続可能な開発のための環境とエネルギー」閣僚会議を開催した。

2008年5月に横浜で開催されるTICAD IVに向け、「元気なアフリカを目指して」との基本メッセージの下、10月には東・南部アフリカ諸国、11月には北・西・中部アフリカ諸国を対象としたTICAD IV地域準備会合をそれぞれザンビア、チュニジアで開催し、TICAD IVに向けた重点項目について議論を深めた。

2008年1月には高村外務大臣が日本の外務大臣として29年ぶりにタンザニアを訪問し、日本のアフリカ重視の姿勢を印象付けるものとなった。


写真・第62回国連総会で一般討論演説を行う高村外務大臣

第62回国連総会で一般討論演説を行う高村外務大臣(9月28日、米国・ニューヨーク)



(中南米地域)


民主主義・市場経済が定着し、安定的発展を遂げる中南米諸国は、日本の「共益を語れるパートナー」である。日本は、中南米地域との間で、約150万人の日系人の存在や長年にわたる人的交流、貿易・投資、政府開発援助(ODA)等を通じて培われた伝統的な信頼関係をいかし、より一層の関係強化を図っている。

7月には麻生外務大臣が対中南米外交に関する政策スピーチを行い、[1]日本と中南米地域の経済関係の強化、[2]中南米地域の安定的発展への貢献、[3]中南米諸国との国際社会での協力の3つを柱とした対中南米外交を推進していくと述べた。これを受けて8月には、麻生外務大臣はメキシコ及びブラジルを訪問し、経済関係の発展に向けた施策や気候変動に対する取組について議論を深めるとともに、国連安全保障理事会における協力について意見の一致を見た。



(平和への取組)


日本の平和と繁栄は、世界の平和と繁栄なくして実現できないものである。福田総理大臣は、2008年1月、第169回国会における施政方針演説で、日本が「平和協力国家」として、世界の平和と繁栄により積極的に貢献していく旨表明し、高村外務大臣も「平和の創り手『日本』」と題する政策スピーチを行った。

2001年9月の米国同時多発テロ以降、国際社会は一致して「テロとの闘い」に取り組んできた。こうした努力の中核の一つに、アフガニスタンを再びテロの温床としないための取組があり、日本も国際社会の一員として積極的に貢献している。具体的には、アフガニスタンの民生・復興分野でこれまで1,400億円以上の支援を行うとともに、インド洋における諸外国艦船による海上阻止活動に対して、旧テロ対策特別措置法に基づき海上自衛隊による補給支援活動を実施してきた。11月の同法の失効に伴い6年間にわたる活動は中断したが、テロの根絶に向けた国際社会の連帯において引き続き責任を果たしていくため、2008年1月11日に補給支援特別措置法が成立し、2月にインド洋における海上自衛隊の補給支援活動を再開した。また、イラクの国家再建に寄与するための航空自衛隊による空輸支援を実施している。

国際の平和と安全の維持に重要な役割を担う国連安全保障理事会の改革の早期実現は重要な課題である。日本は、国際社会において一層の貢献を行うためにも、早期の安保理改革の実現と常任理事国入りを目指して、引き続き精力的に外交努力を重ねた。

2008年2月末時点で、日本は2つの国連平和維持活動(PKO)等に計51名の要員を派遣しているほか、選挙監視要員の派遣や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)への物資協力を行ってきている。また、日本は、ODA支援においても平和構築が重点課題の一つと考え、イラクやアフガニスタン、アフリカなどにおいてODAによる平和構築支援を行った。さらに、アフリカの平和維持能力向上を目的として、非ODA資金によるアフリカのPKO訓練センターへの支援を決定した。そのほか、日本は6月から国連の平和構築委員会議長を務め、平和構築に対する積極的参画を強化するとともに、「平和構築分野の人材育成のためのパイロット事業」を開始した。

日本は、国際社会の平和と安定の維持・増進のため、また、唯一の被爆国として、戦後一貫して軍縮・不拡散問題に積極的に取り組んでいる。2007年も、国連総会に核軍縮決議案を提出して、広範な支持を得て採択されたほか、核兵器不拡散条約(NPT)運用検討プロセスの第1回準備委員会に議長を出して会議の成功に貢献するなど、国際的な軍縮・不拡散体制の維持・強化に努めた。

また、国境を越える国際組織犯罪は市民社会の安全や法の支配を破壊するものであり、国際社会が一致して対処すべき問題である。日本は、人身取引に関する施策や、アジア地域における薬物対策等に積極的に取り組んだ。



(環境・気候変動)


気候変動問題を含む地球環境問題については、先進国、開発途上国を問わず、国際社会が直面する大きな課題であり、国際社会の一致団結した取組の強化が急務である。とりわけ、気候変動問題については、2012年で終了する京都議定書第一約束期間後の次期枠組みに関する議論が大きな焦点となっている。2007年は、9月の国連「気候変動に関するハイレベル会合」、12月の気候変動枠組条約第13回締約国会議(COP13)等に大きな国際的関心が集まった。

日本は次期枠組みづくりにおける国際的議論を主導すべく、積極的に取り組んだ。5月には気候変動に関する提案「クールアース50」を発表し、世界全体の温室効果ガスの排出量を、現状に比して2050年までに半減することを全世界の共通の目標とする必要性を強調した。6月のG8ハイリゲンダム・サミットにおいて、安倍総理大臣は「クールアース50」を各国首脳に紹介し、気候変動問題に関する議論に積極的に参画した。12月のCOP13では、日本は、すべての主要排出国が参加する交渉の場を設け、長期目標や緩和対策等について議論することを提案し、同提案も踏まえた新たな作業部会の立ち上げの決定に貢献するなど、国際的議論を主導する役割を果たした。さらに、福田総理大臣は、2008年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)における講演で「クールアース推進構想」を発表し、今後の温室効果ガス排出削減について、国別総量目標を掲げて取り組む方針を明らかにするとともに、100億米ドル規模の開発途上国支援策(クールアース・パートナーシップ)を表明した。



(ODA)


2006年4月の「海外経済協力会議」(内閣総理大臣主宰)の設置、同年8月の外務省国際協力局発足以来、日本政府の国際協力は、戦略性強化とより一層の効果的実施に向けた変革期にある。外交政策全体の方向性も勘案して、地域、分野・課題ごとの援助方針を示すために外務省内に設けられた「国際協力企画立案本部」は、2007年に、年度ごとの「国際協力重点方針・地域別重点課題」を初めて策定し、[1]環境・気候変動への取組(「クールアース50」に基づく次期枠組みづくりへの経済協力の活用)、[2]開発途上国の経済成長と日本の経済的繁栄の実現(貿易・投資環境整備、経済連携の推進、資源・エネルギー確保)、[3]民主化定着・市場経済化の支援(法制度整備支援、人づくり支援、人権重視など)、[4]平和の構築・「テロとの闘い」、[5]人間の安全保障の確立(ミレニアム開発目標への貢献等)を重点事項として打ち出した。

日本の政府開発援助(ODA)は減少傾向にあり、2006年の実績は、1982年以来24年ぶりに、経済協力開発機構(OECD)開発援助委員会(DAC)諸国中、米国、英国に次いで第3位となった。日本は、厳しい財政状況等の中にありながらも、G8サミット等の場で表明した国際公約を着実に実行するため、国際協力に積極的に取り組んでいる。


写真・G8ハイリゲンダム・サミットに出席する安倍総理大臣

G8ハイリゲンダム・サミットに出席する安倍総理大臣(中央)(6月7日、ドイツ・ハイリゲンダム)



(国際経済と経済面での国際的取組)


2007年の世界経済は、グローバル化の進展による貿易・投資の拡大に続き、中国、インド、ロシアをはじめとした新興市場国の存在感が一層強まる一方で、米国のサブプライムローン問題を発端とする金融市場の混乱や原油価格の高騰などの影響により不透明感が高まった。

日本経済の拠り所である多角的貿易体制の維持・強化に向け、日本は1月に本格的に再開した世界貿易機関(WTO)ドーハ・ラウンドの交渉に積極的に参加してきている。7月には農業及び非農産品市場アクセスのモダリティ(関税等の引下げ方式)に関する議長テキストが発出され、以後、早期妥結を目指して交渉分野ごとに精力的な交渉が行われている。

また日本は、WTOを補完するものとして、引き続き経済連携協定(EPA)交渉を推進している。6月にはブルネイ、8月にはインドネシアとのEPAが署名に至り、9月にはチリ、11月にはタイとのEPAが発効した。また、ASEAN諸国との包括的経済連携協定の交渉妥結が11月の日・ASEAN首脳会議において報告された。これにより日本及びASEAN域内全体での生産ネットワークが一層強化されることが期待される。

経済の基盤となる資源の多くを海外に依存する日本にとって、世界的にエネルギー・鉱物資源、漁業資源、農産物資源等の需給が逼迫する中で、持続可能な形で資源の安定供給を確保することが、経済安全保障の観点から重要な課題となっている。特にエネルギーについては、原油価格が高騰する状況下で、日本は輸入先とエネルギー源の多様化やシーレーンの安全確保に取り組み、安定供給に努めている。またEAS等の機会をとらえ、新興国におけるエネルギー効率の向上や省エネ技術の活用に向けて、国際社会と協力して取り組んでいる。

さらに日本は、世界が必要としている最先端の科学技術を有しており、これを最大限活用して、環境・エネルギー・開発等の世界の諸問題に取り組む「科学技術外交」を推進している。



(パブリック・ディプロマシー)


外交政策を推進する上で、相手国政府だけでなく、相手国国民に直接メッセージを伝えるパブリック・ディプロマシーの取組が注目されている。各国国民との交流の拡大、主要な外交政策の理念や目的の広報、さらには、日本文化の魅力の発信を通じて、日本に関する理解を深めるとともに、日本への信頼の増進に取り組んでいる。特に近年は、海外において、アニメ・漫画などの日本のポップカルチャーの人気が非常に高いことから、外務省は、「国際漫画賞」の創設をはじめとして、現代日本文化を通じた文化交流を積極的に進めている。こうしたポップカルチャーの普及は、各国で順調に増加している日本語学習者数や、各種世論調査に見られるように、世界各国の対日イメージ向上に寄与している。

また、日本と相手国国民の媒介となる海外メディアの世論への影響力は増大しており、日本の実情や政策につき正確に伝達する上でも極めて重要な存在となっている。

外務省は、海外メディアによる日本の取材への支援や情報提供、事実誤認に基づく報道に対する反論投稿、外国記者招聘事業等を行うことを通じ、対日イメージの向上に努めている。



(国民と共にある外交)


1年間に約1,750万人の日本人が海外に出かける現在、世界中で活躍する日本人のための安全対策及び領事サービスの強化が今まで以上に強く求められている。外務省は海外における日本人の生活に密着した領事業務を外交業務と並ぶ主要業務に位置付け、国民の安全確保のための情報提供、事件発生時の邦人援護、戸籍・国籍関係書類の受理、証明書発給、旅券(パスポート)発給、在外選挙などの任務を円滑に遂行できるよう、積極的に領事業務の実施体制の強化に取り組んでいる。

日本外交が国民と共にあるためには、日ごろから国民との双方向の情報発信に取り組み、幅広い理解と支持を得ることが不可欠である。そのため、外務省は、各種メディアへの的確な情報発信や取材協力、講演会の開催、外務省ホームページ上への迅速な情報掲載、様々な媒体を通じた国民からの意見募集などに取り組んでいる。

さらに外務省は、豊かな市民力を背景に、種々の国際的な取組を通じて重要な外交プレーヤーとして位置付けることができる地方自治体等との国内外での連携を推進している。

これらの取組を確かなものにするためには、在外公館の新設や、外務省職員の主要先進国並み水準への増員、情報の収集・分析機能強化など、外交実施体制の抜本的強化が不可欠である。今後も国民の信頼を得ながら、国民と共に外交を実践していく方針である。


写真・政策スピーチを行う麻生外務大臣(7月6日、経団連会館)

政策スピーチを行う麻生外務大臣(7月6日、経団連会館)



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