9.国際協力の推進(開発及び環境等の地球規模課題への取組を含む)
【総 論】
2006年は、日本の政府開発援助(ODA)を一層戦略的かつ効果的に活用するため、国際協力(ODA、国際機関を通じた協力)の企画・立案、実施にかかわる体制を一新する大きな節目の年となった。内閣官房長官主催の「海外経済協力に関する検討会」がとりまとめた最終報告書による提言を受け、4月、政府は日本の海外経済協力に関する重要事項を機動的かつ実質的に議論するため、総理大臣と少数の閣僚から構成される「海外経済協力会議」を設置した。次に、この会議で審議された基本戦略の下、引き続きODAの具体的な企画・立案、調整の中核を担う外務省は、外務大臣の下に国際協力に関する企画立案本部を設けるとともに、8月、経済協力局と国際社会協力部の国際機関等多国間の開発関連部門を統合し、国際協力局を新設した。これにより外務省は、二国間援助と国際機関を通じた援助を有機的に連携させ、外交政策により即した国際協力のための企画・立案、調整を行う体制を整えた。実施機関については、円借款は国際協力銀行(JBIC)、技術協力は独立行政法人国際協力機構(JICA)、無償資金協力は外務省と援助手法ごとに実施の体制が異なるこれまでの体制を改め、援助手法間の連携を更に強化することを目的に、今後はJICAが基本的にこれらを一元的に担う体制を構築することとした。11月には改正JICA法が成立し、2008年10月の統合を目指し、現在、準備作業を行っている。

▲スマトラ沖大地震の被災地で、捜索・救助活動に従事する国際緊急援助隊(写真提供:JICA)
このような新しい体制の下、国際社会の中で存在感・影響力を一層高め、国際社会から評価され尊敬される日本を実現するよう、国際協力により積極的に取り組む必要がある。その際の理念として重要なのは、ODA大綱に掲げられた諸原則である自由、民主主義、基本的人権そして市場経済化の実現と、一人ひとりの人間に着目し、保護と能力強化を通じて人間それぞれの持つ豊かな可能性を実現し、人づくり、社会づくりをもって国づくりを目指す「人間の安全保障」の視点である。
こうした理念の下、外務省(日本政府)は、大きく以下の2つの目的をもって国際協力に取り組んでいる。第一に、(1)経済成長を通じた貧困削減により途上国の開発へ取り組むこと、(2)環境、感染症、テロとの闘いなどの地球的規模の課題の解決に取り組むこと-を通じて、国際社会の平和と安定に貢献し、国際社会の一員としての責務を果たしていくことである。この目的はG8サミットをはじめ様々な国際会議において国際協力が主要な議題となっていることからしても、今後とも一層重要性を増すといえる。第二は、中国・インド等が台頭したこと等の新しい国際環境に的確に対応し、より外交政策に即した国際協力を企画・立案、実施していくことで、グローバル化の中での日本の国益の確保を図ることである。これはODAの新たな使命とも位置付けられている。具体的には、特にアジアにおける経済の発展に伴い市場が拡大するとともに各国の相互依存関係が一層深化する中で、産業・物流インフラ整備や知的財産権保護等の制度整備、経済連携推進などをODAを通じて促進し、日本を含めた民間経済活動をより一層発展させることが挙げられる。また、資源・エネルギーの安定供給の確保や省エネルギー・代替エネルギー分野での協力の確保も日本の経済的発展という観点から重要である。
麻生外務大臣は、11月の講演において、ユーラシア大陸の外周に新興の民主主義国をつなぎ、「自由と繁栄の弧」を作ることを提唱したが、その実現のためにもODAを含めた国際協力を戦略的・効果的に進めていく方針である。
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