第2章 地域別に見た外交


(3)米国情勢

 日米間では以上に述べたような幅広い分野での協力関係が見られるが、その背景を知る上で、米国における国内情勢を見ていくこととしたい。

(イ)政治

 ブッシュ大統領は1月の一般教書演説において、経済競争力の強化を急ぐ方針を示し、減税政策の継続、財政赤字の削減、増大する社会保障費への対応、理数系教育支援の拡充などを挙げた。さらに、石油依存症からの脱却を目指し代替エネルギーの開発を推進する方針を明らかにした。また対外政策では、長期的目標として圧政の終焉を挙げつつ、テロとの闘いの文脈において世界各地における自由・民主主義の拡大、イラク復興の重要性を強調した。北朝鮮の弾道ミサイル発射、核実験実施発表等に対しては、日本をはじめとする関係国と協力し六者会合の枠組みを通じた平和的解決を目指す方針を維持している。また拉致問題に関する日本の立場を支持している。対中関係では、中国が国際秩序における責任ある利害共有者(responsible stakeholder)としての役割を果たすよう働きかけるとともに、中国との協力的・建設的関係の構築・強化を目指すとしている。

 ブッシュ大統領の支持率は、イラク情勢の悪化と政権のイラク政策に対する国民の支持の低下に加え、政権幹部や共和党有力議員にまつわる相次ぐスキャンダル、さらにはガソリン価格高騰等の影響を受けて、2006年を通して30%台から40%台前半で低迷が続いた。これに対しブッシュ大統領は、テロとの闘い及びイラクにおける成果と経済の好調を繰り返しアピールすることで支持率回復に努めるとともに、4月以降、大統領首席補佐官等の政権の人事刷新を敢行したが、これらによる政権浮揚効果は一時的なものにとどまった (注4)

 11月7日に行われた中間選挙(連邦議会選挙及び36州での州知事選挙)では、連邦議会上下両院で民主党が多数党の地位を共和党から奪還し、州知事選挙でも共和党知事州6州で民主党候補が勝利して全米50州中過半数を超える28州を民主党知事が占めることとなった。上記選挙結果を受けて2007年1月からの第110議会では上下両院で議会指導部及び委員会委員長ポストを民主党が占め、同党が議会運営を主導することとなったが、これによりブッシュ政権にとっては内政・外交上の各種の政策実現に際しこれまでより難しい舵取りを迫られると見られている。また、中間選挙終了後、米国内の関心は急速に2008年11月の大統領選挙へと移っており、大統領選挙を睨んだ動きが加速しつつある。

(ロ)経済

 米国経済は、2003年第2四半期以降、堅調な個人消費、民間設備投資の持続等により、2006年第1四半期までほぼ一貫して年率3%以上の成長を記録してきた。第2四半期以降、原油を中心としたエネルギー価格の上昇等による一部個人消費の陰りやインフレ対応として金利の引上げ等による住宅市場の冷え込みにより、経済成長は以前の力強いペースからは減速してきている。

 金融面では、2004年6月から2006年6月までの計17回連続の引上げを経て、2006年末時点でフェデラルファンド(FF)レート目標値は5.25%まで上昇してきている。連邦準備制度理事会(FRB)は、2006年前半までは、原油を中心としたエネルギー価格の高騰が他の財サービス価格に一部波及したこと等から、インフレ圧力を抑制すべく引上げを実施してきたが、8月以降、政策金利を据え置き、インフレ圧力の動向、景気関連指標などを注視している。2006年終盤には、金利引上げの効果により物価の騰勢が落ち着く一方、住宅市場は冷え込み始めた。

 貿易面では、2006年の商品貿易赤字(センサス・ベース)は、8,330.94億ドル(前年比8.55%増)に達している。このうち対日赤字は前年比4.4%増の861.84億ドルとなり、過去最大となった2005年を上回った。 

 財政面では、2006年度(2005年10月~2006年9月)の財政収支は5年連続の赤字となったが、赤字額は、景気拡大に伴う税収増、ことに想定以上の法人税収などにより歳入が2兆4,070億ドル(前年度比11.7%増)と過去最大となったことから、前年度比22.3%減の2,480億ドル(対GDP比1.9%)となった。これにより2009年までに財政赤字を2004年度財政赤字の当初見込み5,210億ドル(ないし対GDP比4.5%)から半分にするとの大統領公約は3年前倒しで達成された。ただし、イラクでの軍事費、メディケア処方薬給付の増加や戦後ベビーブーム世代の高齢化による社会保障費の急増等、財政収支改善にとって否定的な要因も存在することに留意する必要がある。

 雇用情勢は堅調を維持しており、2006年12月時点で、40か月連続の雇用者数増加を記録し、2006年通年では約179万人の雇用が創出(月平均約14.9万人増)された。




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