第4章 国際社会で活躍する日本人と外交の役割


(6)社会保障協定や投資協定等を通じた日本企業の利益増進

 日本の投資家や投資財産を保護し、より自由に投資活動が展開できる環境を整備することは、日本経済にとってますます重要となってきている。これまで13か国 (注13) と投資協定を締結したが、中でも韓国及びベトナムとは投資の保護に加え、投資の自由化を中核とした先駆的な投資協定を締結している。近年、日本が積極的に進めている各国との経済連携交渉においても投資の自由化推進を主目的の一つとしており、12月に署名された日・マレーシア経済連携協定においても両国間の投資促進に配慮されている。現在、日中韓三国間でも、投資を促進するための法的な枠組みを整備すべく協議している。多国間での投資ルールの策定については、WTOのドーハラウンドでは交渉が断念されたものの、日本は引き続きAPECの投資専門家会合をはじめとする各種枠組みの議論に積極的に参画している。

 社会保障協定は、社会保険料の二重負担や掛け捨ての問題を解消することなどを目的とするもので、海外に進出する日本の企業や国民の負担を軽減し、ひいては相手国との人的交流や経済交流を促進するものと考えられる。2005年には米国、韓国との社会保障協定が発効し、フランス、ベルギーとの社会保障協定が国会で承認された。カナダとの間では2006年2月に協定への署名に至ったほか、オーストラリア、オランダともそれぞれ交渉を開始した。

 COLUMN

官民のパートナーシップで「日本ブランド」の発信を

 毎年1月、スイスのスキー・リゾートとして知られるダボスに、世界各国から2,000名を超える経営者、政治家、有識者が集まり、「世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)」が開催されます。そこでは、世界経済、政治、社会、文化などの問題について200以上もの分科会が開催され、政府や企業を率いるトップリーダーたちが熱い議論を繰り広げています。

 日本経済が緩やかに回復を続ける中で、2006年のダボス会議には日本の閣僚や経営者が例年以上に参加し、「日はまた昇る」ことを世界に印象付ける上では絶好の機会でした。しかし、参加者の関心は急速な経済成長を続ける中国、インドに集中し、私はここ数年間参加していますが、日本の存在感が年々薄らいできていることに、あらためて危機感を強くしました。

 人口減少を迎え、資源も乏しい日本が、中長期的に国際競争力を維持・向上させていくことは並大抵のことではありません。日本の発展のためには、世界中の優れた人材、資本、情報が交わる拠点となり、高い付加価値を持つ「日本ブランド」をつくりあげた上で、世界に向けて発信していくことが必要です。それは、民間の努力だけでなく、ソフトパワー (注) を重視する外交戦略の一環としても重視すべき課題だと思います。

 諸外国では、官民の積極的なパートナーシップで、自国ブランドをアピールする例が数多く見られます。例えば、首脳・閣僚が外国を訪問する際、その国を代表する企業経営者が多数同行し、自国製品のPRや自国への投資拡大のために一緒に活動することがあります。また、海外の建築コンペや芸術コンクールで自国の作品が入賞した場合、現地の大使館がその紹介を兼ねた記念レセプションを開催するという話を耳にしたこともあります。このような活動の背景には、自国の「ブランド」を担う企業、製品・サービス、個人などを海外にアピールすることは、一企業、業界、個人の個別利益のためではなく、国全体の豊かさへの貢献や魅力の発信につながるという明確な哲学があるのです。日本の外交においても、各国のベスト・プラクティスに 倣 なら いながら、「日本ブランド」発信に向けた創造的な官民パートナーシップが築かれることに期待しています。

執筆:社団法人 経済同友会 代表幹事 北城 恪太郎

▲日本とASEAN諸国の企業経営者の交流・議論の場である、「日本・ASEAN経営者会議」にて講演をする北城氏(写真提供:経済同友会事務局)

(注)良い理念や文化によって相手を敬服させ、魅了することによって自分の望む方向に動かす力。




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