第4章 国際社会で活躍する日本人と外交の役割


(1)領事サービスの向上

 外務省の「領事サービス本部」 (注1) は、これまで本部会合を7回開催して、領事サービスに求められる施策及び接遇の両面から議論を集約し、国民の視点に立った領事サービス向上のための指針を在外公館に示してきている。

 また、領事シニアボランティア (注2) は領事サービス向上のための諸施策を講じており、好評を得ている。各ボランティアは所属公館において、民間企業等で培われた知見をいかして利用者からの様々な相談事に対し親身な対応を行っているほか、領事サービス向上のための多くの提言がなされており、同制度は着実に成果を上げている。

 COLUMN

パリの日本人と領事シニアボランティア

 パリ、華の都。パリを知るだれもがそう言い、古くから世界の人々を引き寄せてきた街。その華やかなパリの街の片隅で、人知れず人生を終える日本人がいる。

 先日、故あって中年の日本女性をパリの墓地で見送った。フランス人のご主人と、数人の男性だけのひっそりとした葬儀に、ただ一人の日本人として参列した。どんな事情があったにせよ、祖国日本を遠く離れ、はるか異国の地で一生を終えた人の冥福を、心から祈らずにはいられない。

 日本の社会と同様に高齢化が進むフランス・パリの日本人社会。高齢者の集まり「マロニエの会」に、領事シニアボランティアとして関わるようになった。古きパリの日本人の歴史を伺ったりする。「老後を豊かに」をモットーに、医療、介護、年金、社会保障や葬儀、墓地等の、避けて通れない問題を話し合っている。日本に戻らずフランスを、パリを終の住み 処 か にする人もいる。支援を求められている訳ではない。それでも大使館の存在を心強い支えにされている。老いをどう迎えるか、きれいごとでは済まされない明日の日本の姿がパリにもある。

 在留邦人の相談に、領事シニアボランティアとして対応していると、パリの日本人の生き方を 垣 かい 間 ま 見、人生の節目に立ち会う経験をする。

 パリは世界の交差点。いろんな国の人が、それぞれの文化、多様な価値観を持ち込んで生きている。言葉やカルチャーショックに苦労し、フランスに来た目的が思うようにならず、人間不信やパリ嫌いになる日本人もいる。外国暮らしに疲れ、落ち込んで人生が辛くなり思い悩んでしまう。日本の将来を担う若い世代を励まし、元気付けるのはシニアの務め。人生には、辛さ以上の喜びがあり、悲しみを越える幸せがある。生きてみる、何かやってみるだけの価値がある、捨てたものじゃないのも人生。人生につまずいてもくじけることはない。焦らず、慌てず、 諦 あきら めない。粘り強い気持ちを持ち続ければ、運は必ず巡ってくる。こんな考えは、民間企業の海外駐在生活での体験と、人生のベテラン高齢者の先輩から学んできた、領事シニアボランティア活動に対する一貫した姿勢である。

 大使館は近寄りがたいと敬遠されがちな一方で、最後の拠りどころとして領事部を頼ってくる人もいる。 破 は 綻 たん 瀬戸際の国際結婚のカップル。別れる、別れない、喜び、あるいは悲しみ、そして泣き笑い。日本人の様々な岐路に居合わせる領事の業務は、人生の万般に関わっている。大使館は敷居が高いと言われていた時期もあっただけに、相談を 真 しん 摯 し に受けとめ、昨日まで自分が窓口の向こうにいた立場を忘れずに、誠意をもって接し、対応している。

 海外で問題に遭遇する日本人の保護支援、現地生活を応援することが、領事シニアボランティアの社会への還元ではないかと考えている。国民と共にある外務省、大使館の民間外交、領事活動を支える一人として、少しでも社会貢献ができればと思っている。他の在外公館に赴任している領事シニアボランティアの、同期の仲間とも情報を交換し問題を共有し合っている。納得できる相談員になるにはまだまだ学び教えられることが多い日々である。願わくは、領事シニアボランティア制度が、一過性のサービスで終わることなく、継続されることを望んで止まない。

執筆:在フランス日本国大使館 領事シニアボランティア 占部 重行

▲「マロニエの会」(フランスでの老後を豊かに)の 新年会で(右端が筆者)




<< 前の項目に戻る 次の項目に進む >>