第2章 地域別に見た外交


(1)政治情勢

 近年、中南米では、ベネズエラ、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ等で、従来の政党政治の下では、政治への参加が限定的であった市民団体、先住民組織等の新興勢力を支持母体とする政権が誕生するなど、いわゆる左派勢力が台頭してきている。2005年はボリビアで、先住民団体等による反政府運動が活発化する中、6月に自ら退陣したメサ大統領の後を暫定的に継いだロドリゲス大統領(メサ政権時代の最高裁長官)の下で、12月、大統領選挙が実施され、先住民層の強い支持を受けたモラレス候補が当選した。また、エクアドルでも、街頭における反政府行動が続く中、グティエレス大統領罷免決議が4月に国会で採択され、パラシオ副大統領が大統領職を継承した。これらの背景には、1990年代以降新自由主義的経済政策によりマクロ経済指標の安定が達成された反面、90年代後半に、域内・国内の貧富の格差拡大、失業率の増大等により、貧困層、先住民、労働者階級等が経済的利益の享受と社会問題の解決を求めるようになったことがあると考えられる。

 しかしながら、このような政変や政治的対立は存在しつつも、ボリビアの大統領選挙は大きな混乱もなく実施され、また、エクアドルでも、2006年10月に総選挙の実施が予定されるなど、民主主義の枠組みは堅持されており、中南米で民主主義が着実に定着していることが示されている。

 国内に不安定な要素を抱え、国際社会の注目を集めているコロンビアとハイチについても、情勢は改善の方向に向かっている。

 コロンビアのウリベ大統領は、国軍及び治安対策の強化により、ゲリラ勢力等への圧力を強め、その弱体化を図りつつも、対話を維持する姿勢を見せている。2月には、対コロンビア国際協力・調整会合が同国のカルタヘナで開催され、国際社会の支援継続が確認された。

 ハイチ情勢は、反政府武装勢力による主要都市占拠が相次ぐ中、2004年にアリスティド大統領が出国する事態に至ったが、その後国連安保理は、情勢安定化のため、国連ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH)を派遣し、約9,000名の要員が活動している。ハイチ暫定政府は、国際社会の協力を背景に新たな国づくりに取り組んでおり、2006年2月には第1回大統領・国会議員選挙が実施され、プレヴァル候補が次期大統領として当選した。4月に実施予定の国会議員決選投票の後に、大統領就任式が行われ、新政権が発足する予定である。

 なお、ペルー国内の政治情勢の混乱により2000年12月から日本に滞在していた同国のフジモリ元大統領は、2005年11月に日本を出国し、チリに入国した。入国直後、ペルーとチリの間の犯罪人引渡条約に基づき、チリで仮拘禁され、2006年1月にペルー政府からチリ政府に提出された引渡請求書に基づき、チリの最高裁判所において、担当特命判事の下で引渡しの是非について審理が行われている。




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