第2章 地域別に見た外交


第3節 中 南 米


【総  論】

「日・中南米 新パートナーシップ構想」の推進

 中南米地域は、5億人を超える人口と豊富な天然資源を有し、活力ある日系人社会を内包している。地域経済統合や自由貿易協定を通じ域内の経済自由化は深化し、近年は順調な経済成長を遂げている。中南米地域全体の国民総所得(GNI)は約2兆ドルで、ASEAN諸国の合計の約2.5倍に相当する。ブラジルやメキシコといった地域大国のみならず、中米・カリブ諸国も地域としてまとまることで国際的な発言力を高めており、政治的な重要度も増している。

 2005年は、小泉総理大臣が2004年9月にブラジルのサンパウロでの政策演説で表明した「日・中南米 新パートナーシップ構想」を実行に移す年であった。同構想では、「協力」と「交流」を2つの柱とし、中南米との経済関係の再活性化、国際社会の諸課題への取組、相互理解と人物交流の促進を目指すことをうたっている。

 経済関係の再活性化については、4月に日・メキシコ経済連携協定が発効し、同協定に基づくビジネス環境整備委員会が開催されるなど、着実に実施されてきており、両国間の貿易・投資の増大に寄与している。11月には、チリと経済連携協定交渉を開始することで合意した。また、5月には日・ブラジル両国の民間レベルで経済合同委員会、11月に中米展がそれぞれ開催されたほか、4月には、JICAによる支援の下、南米南部共同市場(メルコスール)の駐日観光事務所が開設された。

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▲ 11月に東京で開催されたJETRO主催中米展の様子(写真提供:JETRO)






 2005年は、中南米から首脳はじめ多くの要人が訪日した。4月にウリベ・コロンビア大統領、5月にルーラ・ブラジル大統領、10月にダグラス・セントクリストファー・ネーヴィス首相、10月末から11月初めにかけてドゥアルテ・パラグアイ大統領が、それぞれ訪日した。これに加えて8月、日本と中米各国の外交関係樹立70周年を記念する「日・中米交流年2005」の中心的な行事として、中米7か国の首脳等が訪日して日本・中米首脳会談が開催された。4月の米州開発銀行(IDB)沖縄総会や「愛・地球博」の各国のナショナルデーに際しても多くの要人が訪日した。



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▲会談を前に握手する小泉総理大臣とルーラ・ブラジル大統領(5月26日、総理大臣官邸 写真提供:内閣広報室)




▲日本・中米首脳会談に臨む首脳一同(8月18日、総理大臣官邸 写真提供:内閣広報室)



▼日・メキシコEPA〈協定の効果〉


 小泉総理大臣とルーラ大統領との首脳会談では、2008年「日伯交流年」に向けた交流の拡大、経済関係の活性化(特に、エタノール等のバイオ・エネルギー分野での協力)、国連改革等について話し合われ、11本の共同文書が発表された。また、ウリベ大統領との首脳会談で、小泉総理大臣は人道的援助を通じた平和構築支援や経済社会開発支援を今後も積極的に実施すると表明するとともに、二国間関係の一層の強化や国連、核不拡散等の国際場裡における協力について確認した。日本・中米首脳会談では、「日本と中米:未来に向けた友情」をメイン・テーマに、今後の日本と中米地域の関係発展のための中長期的指針となる「東京宣言」及び「行動計画」が採択された。さらに、日本は、事務レベルの二国間協議、地域統合体との協議、APEC、東アジア・ラテンアメリカ協力フォーラム(FEALAC)などの場を活用し、幅広く協力と交流のテーマについて協議している。また、中南米地域の民主化、行政機能の近代化、統治能力の向上、汚職撲滅、対人地雷除去、選挙プロセス、経済社会インフラの維持・整備、貧困削減、持続可能な開発等についても、引き続き積極的に協力を進めている。

 人物交流・文化交流の面では、中米8か国との間で「日・中米交流年2005」が実施され、外交関係樹立70周年記念式典のほか、文化・音楽・芸術・スポーツ交流事業が行われた。10月には、常陸宮同妃両殿下がニカラグアとエルサルバドルを皇族として初めて公式訪問された。メキシコとの間では、両国の有識者が参加してメキシコ・シティーで第1回日墨文化サミットが開催(9月)されたほか、著名な国際芸術祭であるセルバンティーノ国際芸術祭(10月)に日本は招待国として参加した。

 両地域の交流の観点から重要なのは、中南米地域における150万人以上に上る日系人の存在である。2005年にコロンビアで移住75周年を迎え、2006年はドミニカ共和国で50周年、パラグアイで70周年となる。2008年には、日本人のブラジル移住100周年という節目の年を迎えることから、同年を「日伯交流年」と位置付け、両国関係の更なる発展のための重要な契機となることが期待される。

 また、日本に滞在する日系ブラジル人やペルー人等の存在も日本と中南米をつなぐ「懸け橋」として友好と相互理解の増進に重要な役割を果たしている。その一方で、日本での就労・教育等を巡る諸課題も顕在化しており、こうした在日日系人の住みやすい環境整備や住民との共生に向け積極的な取組が行われている。




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