第2章 地域別に見た外交 |
第1節 アジア・大洋州 【総 論】 日本を取り巻くアジア・大洋州地域の安定と繁栄の確保は、日本の安全と繁栄のために不可欠であり、地域諸国との関係の強化が重要である。 今日のアジア・大洋州地域には、「機会」と「挑戦」が共存する。未曾有の経済的繁栄と域内相互依存関係の深まり、共通の生活様式の浸透等を通じた一体感の醸成等は、地域の一層の発展に向けた大きな「機会」である。また、中国とインドの台頭もそうした「機会」の一つである。その一方で、朝鮮半島や台湾海峡を巡る情勢といった日本の安全保障にも直結する問題、テロや海賊、エネルギー問題、新型インフルエンザ等の感染症といった地域共通の困難な課題、ナショナリズムの高まりといった不安定要因等、安定・繁栄・協調のアジアを形成していく上で直面せざるを得ない「挑戦」も存在する。 アジア・大洋州地域においては、こうした「機会」をとらえて更なる発展を遂げるとともに、地域共通の課題に対して連携して対処していこうとする地域協力のネットワークが重層的に展開しつつある。こうした協力は、東南アジア諸国連合(ASEAN)+3(日本、中国、韓国)に加え、インド、オーストラリア、ニュージーランド等も大きな役割を果たしつつ、将来の東アジア共同体形成を地域の共通目標として深化しつつあり、12月には第1回の東アジア首脳会議(EAS)が開催された。 以上の状況を踏まえ、日本は以下の3点を基本的な方針として、アジア・大洋州外交に取り組んでいる。 第一に、安定した国際関係構築のため、地域の安定にとって不可欠な日米安全保障体制を堅持して不安定化の動きに対する抑止力を引き続き確保しつつ、外交的努力による問題解決と諸国間の信頼醸成を図る。同時に、軍事力増強の動きに対しては透明性の向上を求め、また、平和の定着のための様々な努力を継続しつつ、伝統的な脅威とは異なる課題に関しては「人間の安全保障」確保のための取組を進めていく。 第二に、かつてアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えた歴史の事実を謙虚に受けとめ、痛切なる反省と心からのおわびの気持ちを常に心に刻みつつ、強固な民主主義に支えられた「平和国家」として戦後60年一貫して取り組んできた実績を踏まえ、日本自身が経験してきた「経済的繁栄と民主主義による平和と幸福」の道をたどるアジア諸国の歩みを助け、共にこの地域の平和を維持し、発展を目指していく。同時に、自由や民主主義、市場経済等の普遍的価値を共有する諸国との戦略的連携を図りつつ、域外の国・地域との間でも対話と協力を継続・強化し、アジア・大洋州地域を「開かれた」地域とする。 第三に、金融、経済連携、投資、国境を越える問題等の幅広い分野における協力を積極的に主導し、この地域全体を更に発展させる。 これらの方針の下、2005年には、各国・地域の首脳・閣僚と種々の二国間会談及び多国間会議を通じた対話を進め、地域協力の推進に努めた。また、北朝鮮情勢を巡る六者会合等の安全保障分野における問題解決の努力、日中経済パートナーシップ協議、ASEAN諸国や韓国との間の経済連携協定(EPA)の締結またはそのための交渉やインド、オーストラリアとの間での共同研究の推進等の経済分野における協力を含め様々な分野での協力を積極的に推進してきた。さらに、アジア太平洋経済協力(APEC)、ASEAN地域フォーラム(ARF)、アジア欧州会合(ASEM)等の多国間の枠組みを通じ、他の地域との間でも幅広い分野における協力関係の強化に努めてきた。 なお、小泉総理大臣が10月17日に靖国神社を参拝したことに対して、中国及び韓国からは遺憾の意の表明があった。これに対しては、累次の機会をとらえ、小泉総理大臣は祖国のために心ならずも戦場に赴き命を落とさなければならなかった方々に対し、心からの哀悼、敬意及び感謝の気持ちをささげるとともに、不戦の誓いを込めて、総理大臣の職務としてではなく一人の国民としての立場で靖国神社に参拝している、との日本の考え方を説明し、理解を求めてきている。 |
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