第1章 概 観


(中東地域)

 中東地域の平和と安定を確保することは、国際社会全体の平和と繁栄に直結する問題であるとともに、日本の石油資源確保の観点からも重要である。

 イラクとアフガニスタンにおいては、それぞれ政治プロセスと経済復興の両面から国際社会による国づくりのための支援が続き、日本も積極的な役割を果たしてきた。

 イラクでは、国民投票によって、憲法草案が承認され、また国民議会選挙が大きな混乱もなく実施された。これらは、イラクの民主的な政治プロセスが大きく進展していることを示している。他方、米軍を中心とする多国籍軍兵士や民間人に対する無差別な攻撃は相次ぎ、イラク人の側にも多くの死傷者が発生している。イラクの国づくりに対する国際社会の支援が進捗するためにも、治安の安定は依然として大きな問題となっている。日本は、サマーワ等に派遣している自衛隊とODAを車の両輪とする支援を行っており、イラク人道復興支援特別措置法に基づく基本計画に定める自衛隊の派遣期間の期限を1年間延長した。

 アフガニスタンでは、国会下院等の選挙に引き続き国会が開会され、国家統治機構整備のための移行期(政治プロセス)が終了した。また、日本等の支援を受けて同国政府が行っている元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰(DDR)計画における武装解除が完了し、旧国軍約6万人の武装解除が実現した。日本は、国際社会の「テロとの闘い」に協力するために海上自衛隊をインド洋に派遣するテロ対策特別措置法の期限を1年間延長した。確固たる国づくりのためには、国際社会による復興支援の継続と治安状況の更なる改善が求められる。

 イランでは、8月に強硬保守派のアフマディネジャード大統領が誕生した。2006年に入り、イランは、同大統領の下でウラン濃縮関連活動を再開しており、同年2月に開催されたIAEA特別理事会はイランの核問題を国連安保理に報告することなどを内容とする決議を採択した。

 中東和平問題については、イスラエルではテロ事件が跡を絶たないが、その一方で、パレスチナ暫定自治政府大統領選挙におけるアッバース・パレスチナ解放機構(PLO)議長の当選、ジェリコ等の治安権限のイスラエルからパレスチナ自治政府への移譲、パレスチナ諸派による暴力停止の合意、イスラエルによるガザ地区等からの入植者及び軍隊の退去、ガザ-エジプト間の国境通行の再開等、中東和平プロセスの進展において前向きな動きが見られた。国際社会も、パレスチナ自治政府強化のためのロンドン会合等を通じて、中東和平プロセスの支援を継続している。なお、2006年1月には、シャロン・イスラエル首相が病気に倒れ、パレスチナ立法評議会選挙では、イスラエルの存在を否定するハマスが第一党となったが、これが今後の中東和平プロセスにどのような影響を与えるか、注目される。




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