第1章 概 観 |
(アジア地域) 2005年は、アジアのダイナミズムが顕著に見られた年でもあった。中国は引き続き高い経済成長率を達成、インドもIT(情報技術)産業を中心に発展し、経済分野を中心として両国の存在意義が増している。また、これまでASEANやこれに日本、中国、韓国を加えたASEAN+3といった枠組みで進んできたアジアにおける地域統合の流れを受けて、初めてのEASがマレーシアで開催された。 麻生太郎外務大臣は、ASEAN関連の国際会議やEAS参加国による外相会議のためマレーシアを訪問したが、それに先立って「わたくしのアジア戦略」と題する政策スピーチを行った。この中で麻生外務大臣は、日本が過去、アジアの中で高齢化やナショナリズムの克服といった難題に率先して取り組んできた「実践的先駆者」であること、アジアの安定勢力であること、また、国家間の対等意識を重視する国であることを述べた。そして、中国の台頭を歓迎すると同時に、様々な分野での「透明性」を求め、ASEANについては、開かれた東アジア共同体の構築を含め、地域協力における役割を期待すると述べた。 EASには小泉総理大臣が出席した。日本は、アジアの地域協力が開放性・透明性・包含性を確保した形で進展することを促進し、結果としてASEAN+3に加え、インド、オーストラリア、ニュージーランドもEASに参加した。ここでは、EASが地域における共同体形成において「重要な役割」を果たし得ること、EASは開放的、包含的、透明な枠組みであること、EASではグローバルな規範と普遍的価値の強化に努めることなどをうたった「クアラルンプール宣言」が採択された。 アジアの地域協力が進展する一方で、東アジアにおいては依然として安全保障上の懸念が存在する。北朝鮮が公言する核兵器の保有は、日本を含めた東アジア地域に直接的な脅威となっている。また中国は、台湾との経済的交流を増大させる一方で、反国家分裂法を採択するなど、依然として両岸関係の状況を注視する必要がある。中国の軍事力の近代化や国防費の増大についても依然として不透明な部分がある。 日中間では、2004年に引き続き、香港を含めた日中貿易総額が日米貿易総額を上回るなど、経済関係や人的交流といった分野での相互依存関係の緊密化がより一層進んだ。4月には中国各地における日本公館及び日系企業等に対する暴力的行為が発生したほか、歴史を巡る問題や東シナ海の資源開発問題等、日中間には意見の異なる分野もあるが、これが日中関係全体の発展に影響を与えることはあってはならない。中国は、古今の歴史を通じ日本が最も大切にしてきた国の一つであり、日本は同国に対して、大局的な視点に立って未来志向の協力関係を強化していくことを呼びかけている。 日韓関係では、竹島問題や歴史を巡る問題等、難しい局面もあったが、国交正常化40周年を記念して行われた「日韓友情年2005」や、「愛・地球博」を機に実施された短期滞在査証免除と同措置の継続を通じて、人的交流が進展し、また首脳・外相レベルでも、歴史を巡る問題を含む二国間関係について、率直な意見交換が行われた。さらに韓国及び中国とは、日中韓3か国協力の枠組みやアジア太平洋経済協力(APEC)、東アジア地域協力、あるいは北朝鮮の核問題に関する六者会合において、緊密な連携を図った。 北朝鮮問題については、日本は、「対話と圧力」という基本的考え方に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案の包括的解決に向けた外交努力を傾注した。拉致問題については、2006年2月の日朝包括並行協議を含め累次の機会に、生存者の帰国、真相究明、容疑者の引渡しを求めたが、北朝鮮側から前向きな対応は示されなかった。ただし、2005年12月には、日本も共同提案国となった「北朝鮮の人権状況」決議が国連総会で初めて採択されるなど、拉致問題の取組について国際的な広がりが見られた。核問題については、9月の第4回六者会合第2次会合で、六者会合として初めて「共同声明」が出され、北朝鮮がその中で「すべての核兵器及び既存の核計画」の検証可能な放棄並びにNPT及びIAEA保障措置に早期に復帰することを約束するなど、一定の進展もあったが、北朝鮮は、11月の第5回六者会合第1次会合が休会となって以降、米国による資金洗浄(マネー・ロンダリング)対策の措置を口実に、六者会合への復帰を拒んでいる。 インドネシアのアチェでは、30年近くインドネシア治安当局と「独立アチェ運動(GAM)」との間で衝突が続いてきたが、2004年12月の津波災害が契機となる形で、2005年8月にインドネシア政府とGAMとの間で和平合意が達成された。また東ティモールでは、同国の平和の定着及び国づくりのために展開していた国連東ティモール支援団(長谷川祐弘代表)が、その任務を成功裡に終了し、その後継ミッションとして、国連東ティモール事務所(UNOTIL)が2006年5月までの任期で活動している。 政治・経済大国として台頭するインドとの関係では、4月の小泉総理大臣のインド訪問時に、シン首相との間で、両国関係に戦略的方向性を付加することで一致し、共同声明と行動計画を発表した。2006年1月の麻生外務大臣のインド訪問時には、外相間で戦略的対話を進めること、及び、両国の産学官で経済関係強化の方途について包括的に協議している「日印共同研究会(JSG)」の作業を踏まえ、経済連携協定の可能性を真剣に検討していくことで一致した。 |
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