第1章 概 観 |
1.戦後60年~平和国家としての取組 2005年は、1945年に終戦を迎えてから60年目という節目の年であった。終戦当時、日本は一時的に米国による占領体制下に置かれ、経済的にも言わば灰燼の中に立ち尽くしていたが、そのような中で日本国民は平和で豊かな国をつくることを決意した。このような考え方に基づいて、日本は、他の自由民主主義諸国と協調し、日本の平和と繁栄にとって欠かせない世界の平和と繁栄を維持しつつ、憲法の認める最小限の自衛力を維持して日本の平和と安全保障を確保するとの選択を行った。そして、サンフランシスコ平和条約により主権を回復した日本は、日米安全保障条約を締結して米国との同盟関係に入り、国の再建を進めていった。その中で日本は、各国が国際連合を結成して、武力の不行使を誓い、諸国間の協力によって世界の平和と安全を維持しようとした理想を強く支持し、1956年の国連加盟後は国連との協力を中心とした国際協調主義の考え方の下、各方面での国際貢献を積極的に推進してきた。また日本は、アジア太平洋地域の諸国との関係を一貫して重視し、友好関係の増進と域内開発途上国の発展への協力を積極的に進めてきた。こうした努力の結果として、現在の日本は世界第2位の経済力を誇り、各国との友好関係の基礎の上に平和と繁栄を享受している。 本年の外交青書の冒頭では、戦後60年の節目に当たり、日本が平和で安定した国際環境を構築するために国際社会の責任ある一員としてどのような外交を展開してきたのか、これまでの日本の平和国家としての取組を総括する。 戦後、日本は、自由、民主主義、基本的人権の尊重といった、人類が歴史の中で勝ち取ってきた価値を国の基本に 据え、平和国家として歩んできた。そして、米国や世界銀行等の国際機関による支援を受けつつ急速に経済発展を遂げるとともに、国際社会の責任ある一員として世界の種々の問題を解決するため、積極的に貢献してきた。 経済協力の面では、日本は1954年にコロンボ・プランに加盟し、政府開発援助(ODA)を開始した。開発途上国には、貧困や飢餓、環境、水、感染症、腐敗、紛争やテロ等の様々な問題がある。日本は、ODAを通じて開発途上国の経済発展を促進し、これらの問題を解決して国際社会の平和と発展に貢献している。同時に日本は、ODAと共に民間企業による直接投資によって東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国等の東アジアの開発途上国の民間部門の発展を促し、経済成長に大きく貢献してきた。 自由貿易体制の恩恵を享受しつつ、国民のたゆみない努力の結果として世界の主要な経済大国となった日本はまた、自らが「平和国家」であることに安住せず、国際紛争を防ぐための取組も行っている。軍縮・不拡散のための取組がその代表的なものである。 戦後の国際関係を形づくった冷戦構造は1991年のソ連の崩壊をもって 終焉するが、冷戦後の世界はヒト・モノ・カネなどの移動が瞬時になされるグローバル化の恩恵を各所でもたらす一方、大量破壊兵器の拡散、国際テロ、国際組織犯罪、新型インフルエンザ等の感染症、環境問題といった新たな地球規模の問題をも提起した。地域紛争や内戦は跡を絶たず、開発途上国を中心とする貧困の問題も依然として世界を覆っている。 日本周辺に目を転じれば、東アジアでは朝鮮半島や台湾海峡を巡る情勢等、不安定な要素が依然として存在する一方、中国やインドの台頭という世界秩序に大きな影響をもたらす新しい要素も現れている。 日本が戦後60年間享受してきた平和と繁栄は、日本国民の絶えざる努力の成果であることはもとよりであるが、同時に、国連を中心とした国際社会による世界の平和と安定のための努力に負うところも大きい。日本は、特に冷戦終了後、国際社会で責任を担う主要な国家として積極的に協力をしており、1992年に制定された国際平和協力法に基づき国連平和維持活動(PKO)等へ要員を派遣、2001年9月11日の米国同時多発テロを契機とするテロ対策特別措置法に基づきインド洋へ自衛隊艦船を派遣、さらに2003年からはイラク人道復興支援特別措置法に基づきイラクに自衛隊を派遣している。 2005年4月22日、小泉純一郎総理大臣はインドネシアで開催されたアジア・アフリカ首脳会議に出席し、日本が平和国家として国家発展に努める決意に揺るぎはない旨を述べた。また、先の大戦の反省に立って、今後とも、世界の国々との信頼関係を大切にし、国際社会でグローバルな責任を担う一員として、世界の平和と繁栄に貢献していく決意である旨を表明した。 戦後60年、日本は、アジア太平洋地域の平和と繁栄を目指すとともに、国際社会全体の共通利益を確保するために、日本らしい、かつ時宜に適った国際貢献の在り方を追求しながら外交政策を推進している。その根幹にあるものが、日本の国益の確保、すなわち日本及び日本国民の平和と繁栄を追求することであり、これはいつの時代にあっても変わることはない。日本は、今後とも、日米同盟と国際協調を外交の基本として位置付け、日本及びアジア太平洋地域の平和と安定の礎である日米同盟の維持・強化に努めていく。また、国連をはじめとする国際機関における多国間の協力や中国・韓国等の近隣諸国との関係促進にも尽力し、地域の安全や協力に関する問題、国際テロや貧困・開発、人道危機、人権侵害等の国際社会が抱える諸課題に対して、平和国家にふさわしい国際協力を行い、平和で豊かな世界を築くための努力を続けていく考えである。
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