第3章 分野別に見た外交


【重点課題・分野別ODA】
<貧困削減>
 貧困削減は、国際社会が共有する重要な開発目標となっており、新しいODA大綱においても重点課題の筆頭に掲げられている。日本は、「教育、保健、医療・福祉、水・衛生、農業」といった分野、すなわちMDGsの根幹をなす基礎生活分野における協力を重視しつつ、途上国の人間開発、社会開発を支援している。

<持続的成長>
 途上国の安定と発展にとって、持続的成長は不可欠な要素であり、また、経済成長を通じて貧困削減を達成するというアプローチは重要であることから、日本は、途上国の持続的成長を支援するため、経済活動上重要となる経済社会基盤の整備とともに、経済分野における政策立案、制度整備や人づくりといった支援を通じて貿易・投資を促進させることや、民間セクターの育成及び技術移転の促進を通じ、被援助国の経済成長を支援することを重視している。

(開発途上国の自助努力支援~民主化支援~)
 良い統治(グッド・ガバナンス)に基づく途上国の自助努力の支援は、日本のODAの最も重要な考え方であり、平和、民主化、人権保障のための努力や経済社会の構造改革に向けた取組を積極的に行っている途上国に対しては、重点的に支援を行うこととしている。こうした考えに立って、日本は、政策立案及び制度整備の面で、研修員受入や専門家派遣などの技術協力をはじめとした多角的な民主化支援を展開している。

<地球的規模の問題への取組>
 近年、経済分野における諸活動の高度化・拡大に起因する地球温暖化、オゾン層の破壊等の地球環境問題や、途上国における人口増加、グローバル化の進展に伴う武器、薬物の密輸や人身取引をはじめとする国際組織犯罪、テロ、そしてHIV/AIDS等の感染症といった国境を越える問題が深刻化する中で、一国では対処できないこれらの地球的規模の問題に対する取組強化の重要性が認識されるようになった。ODA大綱ではこうした地球的規模の問題は、国際社会が直ちに協調して対応を強化すべき問題であり、日本としてもODAを通じてこれらの問題に取り組んでいくこととしている。また、2004年12月に発生したスマトラ沖大地震及びインド洋津波被害も踏まえ、防災分野でもODAを活用して、積極的に対応していくこととしている。

<平和の構築>
 国際社会では、紛争要因や紛争形態の変化に伴い、紛争予防・紛争解決のための手段として、国連平和維持活動(PKO)や多国籍軍の派遣、及び予防外交や調停などの政治的手段のみならず、紛争後の国づくりも含めた包括的な取組が求められていることが認識されはじめ、平和構築における開発援助の果たす役割が重要視されるようになっている。
 日本は、これまでカンボジア、コソボ、東ティモール、アフガニスタン、イラク、パレスチナ自治区、アフリカ等において紛争下の緊急人道支援(紛争当事国、周辺国への緊急援助、難民・国内避難民支援)、紛争の終結を促進するための支援(和平プロセスの促進、貧困削減、格差是正への支援等)、紛争終結後の平和の定着や国づくりのための支援(和平プロセスの支援、人道・復旧支援、国内の安定・治安の確保、復興・開発支援)まで、状況の推移に即した継ぎ目のない支援を行っており、今後とも、アフガニスタン、イラクをはじめとした国・地域への平和の定着と国づくりに積極的に貢献していく考えであり、さらには、スリランカ、インドネシアのアチェ、フィリピンのミンダナオなどにおける和平の促進のためにも、日本のODAを活用した取組を検討・実施していくこととしている。



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現場発で組織の枠を超えてODA改革を推進~バングラデシュからの報告~

 現在、途上国では十億人以上が日々貧困に苦しんでいます。このような途上国の現場で、日本の関係者がより良い開発援助に向けてどのように取り組んでいるのかについて、バングラデシュを例に紹介させていただきたいと思います。
 バングラデシュは、東西パキスタンの内戦を経て1971年に独立しましたが、現在約1億4千万人の人口を抱え、年間の一人当たり国民所得は約400ドル(日本の約90分の1)の水準に留まっています。一般の国民の大多数は病気になっても治療らしい治療が受けられず、子どもは小学校に入っても三分の一が中途退学してしまいます。ダッカなどの都市では、痛々しい物乞いの人たちをよく見かけます。
 この国では、日本をはじめ多くの国や国際機関が援助を行っているだけでなく、国内外のNGOの活動も盛んです。近年、途上国政府を中核に、開発事業の関係者が緊密に協力して一層効果的に開発を実現しようという「援助協調」の動きが進む中で、日本も途上国の現場からのイニシアティブで、ODAをより良いものとするための先進的な試みを次々と行っています。
 当地では、4年前から日本大使館と国際協力機構(JICA)・国際協力銀行(JBIC)・日本貿易振興機構(JETRO)の各事務所が一体となって運営委員会を組織し、重点セクター(現在は12セクター)毎に作業部会を編成しています。この体制のもとで、無償資金協力、技術協力や円借款など様々な経済協力スキームを統合するセクター別援助方針を現地の主導で作成するとともに、現地の援助調整会合に積極的に参画し、他の援助国・機関との連携を推進しています。これにより、現地の実情を踏まえたより効果的・効率的な援助が可能となり、また日本の経験や技術といった強みも一層活用できるようになりました※1
 また、現地にいる日本のNGOや企業、国際機関の日本人職員と開発援助勉強会を定期的に開催して、各方面の知見を援助政策に反映しています。さらに、ウェブサイトや各種メーリングリスト、メールマガジンを駆使してネットワークを拡大し、幅広い関係者と情報を共有するシステムを整えています。先方政府との現地での政策協議、国別援助計画の改定作業、世銀との共同セミナーや英国とのハイレベル共同訪問なども、現地を核に本国の協力を得て立案・実施しています。
 途上国の開発問題については、日本国内や世界各地の国際会議などで様々な議論が行われていますが、具体的な個々の開発援助は各途上国の現場で日々実施されています。現地の最前線で働く日本の援助関係者として、日本国民の税金により賄われているODAが一層効果を上げられるよう、日々弛みなく改革を進めていきたいと思います。


執筆:在バングラデシュ日本大使館・経済協力班長 紀谷昌彦

※1 このようなバングラデシュでの現地ODAタスクフォース(バングラデシュ・モデル)の取組の詳細については、http://www.bd.emb-japan.go.jp/bdmodel/を参照。

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