第3章 分野別に見た外交 

2 有事法制

 国家と国民の安全の確保は、国家存立の基盤をなすものであり、そのための法制の整備は、日本の安全保障上の長年にわたる懸案であった。2002年4月に政府が武力攻撃事態対処関連3法案を国会に提出して以来、活発な議論が行われ、これらの法律が与野党の幅広い合意の下で2003年6月6日に成立したことは、大きな意義を有する。
 武力攻撃事態対処関連3法が成立したことにより、政府の最も重要な責務である緊急事態への対処に関する制度の基礎が確立した。政府としては、これを受けて、国民の保護のための法制をはじめとする個別の法制(武力攻撃事態対処法制)の整備に取り組んでいる。外務省としては、関係府省庁と緊密に協力しつつ、ジュネーブ諸条約第1追加議定書及び第2追加議定書を武力攻撃事態への対処に関する個別法制の全体の整備と時期を同じくして締結する方向で詳細な検討を行ってきている。また、自衛隊と米軍の間の物品・役務の相互提供の枠組みを定める日米物品役務相互提供協定(ACSA)を、武力攻撃事態等においても適用するために改正するための協定につき、米国側と交渉を行い、2004年2月に署名を行った。さらに、関係府省庁とともに武装不審船、大規模テロ等の様々な緊急事態への迅速かつ的確な対処態勢の整備などを図っている。
 武力攻撃事態対処法制は、外交政策の観点からは特に次の三つの点で重要である。
〔1〕日米安保体制の信頼性を向上させ、日本の安全保障を一層確固たるものとする。
〔2〕国際人道法の遵守を通じて国際的な信頼を高め、国際秩序の強化に資する。
〔3〕武力攻撃事態等が発生した場合の日本の対応について対外的に透明性を高める効果を持つ。
 日本が、平和主義と国際協調の下、世界の平和と安定のために努力するとともに、国家の緊急事態への対処のため万全の態勢を整備しておくことは、日本の平和と安全を確保する上で極めて重要であり、政府としては、このような考え方の下、国民が安心して暮らせる国造りに、引き続き努力していく考えである。
 また、武力攻撃事態対処法制については、諸外国も関心を有しているが、政府としては、このような本法制の基本的な考え方や法制の全体像について各国に随時説明してきており、また、今後も必要に応じて説明していく考えである。

 
武力攻撃事態対処法制

武力攻撃事態対処法制

 

 ジュネーブ条約とは?


 国際人道法とは、武力紛争という極限的な状態においても最低限守るべき人道上のルールを定めたものです。国際人道法は、〔1〕戦闘で傷ついた兵士や敵に捕えられた捕虜、また、戦闘に参加しない文民を保護する、〔2〕戦闘においては敵に不必要な苦痛を与えない、〔3〕文民と戦闘員、あるいは民間の施設と軍事施設とを区別し、攻撃を軍事目標に限定するといった基本的な考え方の上に成り立っています。
 そのような国際人道法で中心的なものが1949年のジュネーブ4条約とその2つの追加議定書です。ジュネーブ4条約は、別名赤十字条約と呼ばれることもあります。これは、19世紀半ばのイタリア統一戦争で傷病兵を手当てしたアンリ・デュナンらの活躍により設立された赤十字国際委員会が中心となって、武力紛争の犠牲者を保護するために作成された数々の条約の集大成として位置付けられるものだからです。その後、第2次大戦後の植民地独立の動き、軍事技術の発達などにより武力紛争の形態が多様化したことを踏まえて、1977年には、4条約を補完・拡充するものとして2つの追加議定書(国際的な武力紛争に適用される第1追加議定書と、いわゆる内乱などに適用される第2追加議定書)が作成されました。政府としては、2003年6月の武力攻撃事態対処関連3法成立を受けて整備に取り組んでいる個別の法制(武力攻撃事態対処法制)と時期を同じくして2つの追加議定書を締結する方向で検討を行っています。
 現在の国際社会では、紛争解決の手段として武力に訴えることは禁止されていますが、残念なことに実際にはたびたび武力紛争が発生しています。国際人道法は、そのように一旦発生してしまった武力紛争による犠牲をできるだけ小さくすること、また、武力紛争による被害者を保護することを目的とするもので、今日においても重要な役割を果たしています。

 

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