【イラク復興と政治プロセス】
米英軍の制圧が進む中でイラクの復興と政治プロセスをめぐる動きが焦点となった。米国は、軍事行動をめぐって立場の違いが表面化したフランス、ドイツ等との関係修復を試みるべく、北大西洋条約機構(NATO)及び欧州連合(EU)加盟国の外務大臣と協議し、国連をはじめとする国際機関が戦後復興に関与する必要があるとの考えを確認した。一方、イラク復興における政治プロセスについては、国連の関与の度合い、イラク国民への統治権限の移譲時期をめぐり、米国、英国とフランス、ドイツ、ロシアなどの間で立場の相違は依然存在した。
4月15日、イラク人による暫定政権設立を目指す初の準備会合「イラクの将来に関する会議」が南部ナーシリーア近郊で開催され、シーア派最大組織であるイラク・イスラム革命最高評議会(SCIRI)からの出席は得られなかったが、イラク国民会議、クルド二大勢力など旧反体制派らイラク人代表約60人が参加した。さらに、5月1日には、ダ・シルバ人道調整官をはじめとする国連関係者がバグダッド入りし、国連による活動も再開した。5月12日、米国政府は、ブレマー大統領特使を連合暫定施政当局(CPA)の文民行政官に就任させた。
5月22日、国連安保理では、米国、英国、スペインが提出した安保理決議1483が賛成14、欠席1(シリア)で採択された。これにより、1990年8月以来安保理決議661に基づいて続けられてきた対イラク経済制裁が解除されることとなった。同決議には、国連加盟国に対して、イラクにおける人道、復旧・復興支援、並びに安定及び安全の回復への貢献を要請するとともに、アナン国連事務総長に対し、イラク復興のための「特別代表」を任命し、イラクにおいて新しい政権を構築する民主的プロセスにあたらせることを要請する旨明記された。同決議に基づき、アナン国連事務総長は、23日、セルジオ・デ・メロ国連人権高等弁務官をイラク復興を担当する事務総長特別代表に4か月の任期で任命する方針を決定した。
こうした流れの中で、6月1日~3日にかけて開催されたG8サミットでは、安保理決議1483が採択されたこと、また、G8外相会合で、イラクの復興に向けてG8をはじめ国際社会が一致団結して取り組むことが不可欠であり、あらゆる分野で国連の果たす役割は極めて重要であると結論づけられたことを踏まえ、イラク復興支援に関する国際会議の開催に向けた準備会合を開くとの国連の発表を歓迎することで意見の一致を見た。
復興に向けての協調及び政治プロセスの進展に伴い、イラク人自身の手による復興の道筋を作るべきであり、また国連の役割の明確化が必要であるとの国際社会の認識が高まった。7月13日には、戦後イラクに戻った者を含むイラクの主要各派指導者とその他の有力部族指導者(女性を含む)等の計25人から構成されるイラク統治評議会が発足した。この統治評議会は、安保理決議1483に言及されるイラク暫定行政機構の主要な一部であり、各省庁の暫定閣僚の指名・罷免、予算承認、憲法準備委員会の設立等の権限を有するものである。これを受け、憲法準備委員会が発足するとともに(8月11日)、暫定閣僚25人が就任した(9月3日)。8月14日には、イラク統治評議会の設立を歓迎し、国連イラク支援ミッション(UNAMI)の設立を決定する安保理決議1500が大多数の賛成を得て採択された。
さらに、10月16日、国連の役割を明確化し多国籍軍の設置を決定するとともに、統治評議会及び暫定閣僚がイラクの国家の主権を体現するイラク暫定行政機構の主要な機関であることを決定し、イラク統治評議会に対し憲法制定及び民主的選挙実施のための日程表を12月15日までに安保理に提出することを要請する安保理決議1511が全会一致で採択された。これを受け、11月15日、イラク統治評議会とCPAは、イラク人への統治権限の委譲を早期に行うことを目的として、2004年2月末までに移行期間のための「基本法」を制定、同年6月末までに移行行政機構を選出・承認(これとともにCPAが解体され、統治評議会の任務が終了)、2005年中に憲法制定及び新政府の選出等を内容とする政治プロセスに合意した。11月24日、タラバーニ統治評議会議長は合意の内容を書簡として国連安保理議長に提出した。そして2004年3月8日、「移行期間のためのイラク国家施政法」(いわゆる「基本法」)がイラク統治評議会メンバーによって署名された。
政治・復興プロセスを支援していくため、現地の治安維持と人道・復興支援には連合軍が携わっている。北・中部は米国、南部は英国、その間に挟まれた中南部地域はポーランドが管理責任を負う中で、米国、英国の他に、イタリア、スペイン、オランダ、韓国、タイ、フィリピン、オーストラリア、ニュージーランド等、35か国が軍隊を派遣し(日本の自衛隊を除く)、イラクの復興に貢献している(2004年3月14日現在)。
また、政治プロセスとともに復興プロセスも進展している。日本の積極的な働きかけも功を奏して、10月23、24日、マドリードにおいてイラク復興国際会議が73か国、20の国際機関、13のNGOの参加を得て開催された。イラクを破綻国家にしてはならないとの共通認識を背景に、2007年末までの期間で総額330億ドル以上のプレッジがなされたほか、多くのドナーから資金供与に加えて輸出信用、研修、技術協力、物資協力等の支援も表明された。さらに、ドナーからの資金の受け皿となる国連・世銀が管理する信託基金が可能な限り早期に設立される方向となった。
また、イラク旧政権が負った債務をイラク復興の妨げにしてはならないとの認識に基づき、日本を含むイラクに債権を有する国々がイラクの債務問題についてパリクラブで協議していく旨を表明するなど、復興需要の本格化に向けた資金面での国際的協力が進んでいる。
▼マドリードで開かれたイラク復興国際会議で発言する川口外務大臣(10月)