2 2003年の日本外交の展開
【総論】
2003年の日本外交は、イラク情勢や北朝鮮情勢への対応をはじめとする日本及び国際社会の平和と安全に対する脅威への対応が大きな課題となる中で、安全保障分野における取組が最重要の課題となった。7月に成立したイラク人道復興支援特別措置法に基づいて人道・復興支援のための自衛隊の派遣が決定されたことや、テロ対策特別措置法の延長によるインド洋上における米英軍等の艦船に対する給油活動の継続といった自衛隊の活動や一連のテロ対策の進展、国内における有事法制の整備や法執行の厳正化などで進展が見られた。
また、国際社会全体の公益を確保していくとの観点から、主要な外交課題に際して、国際社会の責任ある一員としての立場を踏まえて日本が国際協調の維持・強化に努めたことも特筆される。イラク問題への対応に際しては、イラクが長年にわたって累次の安保理決議を無視してきたことが国際社会全体にとって問題であるとの認識に基づき、日本は、イラクの大量破壊兵器の査察について最後の機会を与える安保理決議1441の採択に向け関係国に対して働きかけを行った。同決議に基づいて行われた国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)とIAEAの査察に対してもイラクから十分な協力が得られず疑惑が晴れなかったため、米国と英国は、湾岸戦争の際の停戦決議に違反しているとして武力行使を行うに至ったが、日本は米国及び英国を支持しつつ、幅広い国際協調の実現に向け粘り強い努力を行った。戦後の復興プロセスにおいても、復興のための安保理決議1483、1511のコンセンサスでの採択に努力したほか、4年間で50億ドルまでという米国に次ぐ大規模な財政的支援を表明し、国際社会全体としての取組の加速化に貢献した。また、北朝鮮への対応についても主要関係国の一員として国際協調の推進に努め、日本、米国、韓国、中国、ロシア及び北朝鮮による8月の六者会合の実現に結びつけた。
さらに、途上国の開発と国際社会の発展に向けた取組の中で、途上国との関係強化に努めたことも大きな成果であった。第3回日本・太平洋諸島フォーラム首脳会議(太平洋・島サミット)、第3回アフリカ開発会議(TICADIII)、日・ASEAN特別首脳会議といった一連の大規模な首脳級会合を日本で開催して各地域との関係強化に努めるとともに、日本の開発問題への熱意を広く印象づけることとなった。
<テロとの闘いと大量破壊兵器等の拡散防止>
テロとの闘いは日本及び国際社会の安全の確保に向けた取組であり、テロの防止・根絶に向けた真剣な取組が国内外で実施されてきた。日本は、2003年11月にテロ対策特別措置法を延長したほか、テロ対処能力の構築・強化に協力するべく、東南アジア諸国を中心としたキャパシティ・ビルディング支援を進めてきた。その一環として、日本は、テロ資金対策強化及びテロ防止関連条約の締結を支援する目的で、東南アジア地域諸国を対象としてテロ防止関連条約締結促進セミナーを開催した。国内では武力攻撃事態対処関連3法(有事法制)が与野党の幅広い合意の下で6月に成立した。これを受けて現在、国民保護法制をはじめとする個別法制(武力攻撃事態対処法制)の整備と関連する条約の締結に向けた作業が進められている。また、不法な出入国防止を強化するため、生体情報による本人認証技術を用いた旅券を平成17年度中に導入することを目指しており、テロ防止にも資することが期待されている。
大量破壊兵器等の拡散防止には、国際社会の一致した協力が重要との認識の下、拡散防止に向けた実効的な措置を追求する取組に積極的に参画し、軍縮・不拡散関連条約の強化・普遍化に努めており、特に日本はIAEA追加議定書の普遍化に向け積極的に取り組んでいる。
日本は、アジアにおける初の局長級での包括的な不拡散協議となるアジア不拡散協議(ASTOP)を11月に開催し、2004年2月には日・ASEAN不拡散協力ミッションをASEAN10か国に派遣するなどアジアにおける不拡散体制の強化に積極的に取り組んできた。また、不拡散体制強化への新たな国際的試みとして、米国が提唱した「拡散に対する安全保障構想(PSI)」の会合や訓練に積極的に参加する一方、特にアジア地域における同構想への支持の拡大を働きかけている。軍縮分野での努力としては、昨年に引き続き国連において核廃絶決議案を提案し、同決議案の採択を実現したほか、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効を目指して積極的な外交努力を展開している。また、国内ではキャッチオール規制強化の一環として、大量破壊兵器の生産・開発に必要な物資・技術の不正流出を防ぐための輸出管理に関する法執行の強化など輸出管理の強化を図ってきた。
なお、大量破壊兵器の拡散阻止のための取組の一環として、イランの核問題の解決に向けて粘り強い外交努力も行ってきている。具体的には、IAEA追加議定書の締結・実施に関する日本の経験を伝達するとともに、累次のIAEA理事会において、本問題に対して国際社会が一致して取り組む姿勢を示す上で決議に対するコンセンサス形成が重要との観点から理事国に働きかけ、無投票での決議採択に貢献した。これらの努力の結果、イランでは12月にIAEA追加議定書に署名する等前向きな動きも見られる。今後とも、イランが累次のIAEA理事会決議におけるすべての要求事項を誠実に履行するよう働きかけていく必要がある。
<中東地域の平和と安定に向けた取組>
中東地域はテロや大量破壊兵器等の拡散の脅威が存在している一方、イラク、アフガニスタンの復興や中東和平といった課題を抱えており、国際社会全体の平和と繁栄に大きな影響を及ぼす地域である。中東地域への日本の原油供給依存度は9割に近く、日本のエネルギー安全保障の観点からも死活的に重要な地域である。こうした認識に基づき、日本はこの地域の平和と安定の確保に向けて積極的に取り組んできた。イラクについては、前述の通り自衛隊の派遣や復興支援の表明を行ったほか、国造りに向けた努力が続くアフガニスタンでは、2004年3月1日時点で総額約4億7,700万ドルの支援を実施、決定してきた。特に「平和のための登録(Register for Peace)」制度の具体的実施のため、DDR(元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰)支援に日本が主導的な役割を果たしてきた。中東和平については、対イラク武力行使直後の4月末、アッバース・パレスチナ首相就任のタイミングで川口外務大臣がパレスチナ等中東地域を訪問し、関係国に中東和平の重要性を訴えた。また、イスラエル・パレスチナ双方の官民の関係者を招いた「信頼醸成会議」を5月に東京で開催して和平の環境整備に努めた。ロードマップが行き詰まった中東和平の見通しは厳しいが、日本としても関係国と協力しつつ事態の打開に向けて粘り強く働きかけていく方針である。