第3章 > 第2節 > 2 経済連携の強化
【総論】
自由貿易協定・経済連携協定(FTA/EPA)は、世界貿易機関(WTO)で実現できる水準を超えた、あるいは、WTOでは取り扱われていない分野における連携を強化する手段として有効であり、WTOを中心とする多角的自由貿易体制を補完・強化するものとして、近年急速に拡大している。FTA/EPA網の拡大は1990年代以降顕著であり、現在、WTOには約140本のFTAが通報されており、そのうちの90本以上が1990年代に、30本近くが2000年以降に通報されたものである。
日本は、WTOを中心とする多角的自由貿易体制の維持・強化を対外経済政策の柱と位置づけているが、同時にFTA/EPAを通じた経済連携の強化も積極的かつ戦略的に進めている。FTA/EPAには、関税・非関税措置の撤廃を通じて得られる輸出入市場の拡大効果や、安価で良質なモノ・サービスの輸入の促進等から得られる経済活性化効果等、経済的な利点がある。また、第三国間において既に存在しているFTA/EPAにより、日本企業が競争上の不利益を被っている場合には、日本もこれら諸国とFTA/EPAを締結することにより、競争上の不利益を除去することが重要になっている。日本は、FTA/EPA締結を通じて得られる経済的利益の大きさ、政治・外交関係強化の必要性、日本自身の構造改革の促進、日本の産業界からの要望といった様々な要素を勘案の上、いかなる国・地域といかなる分野において経済連携の強化を図ることが望ましいかを総合的かつ戦略的に判断していく考えである。外務省では、2002年10月に「我が国のFTA戦略」を発表し、このようなFTA/EPAに関する基本戦略を明らかにした。
一方、FTA/EPAの締結にあたっては、WTO協定との関係で、実質上すべての貿易について関税等の撤廃を求められていることから、FTA/EPA締結に向けた交渉の過程では、国内生産の競争力が必ずしも高くなく、自由化の影響が大きい品目の扱いが、交渉の成否の鍵〔かぎ〕となっている。また、そのほかにも、人の移動といった分野についても十分な議論が必要となっている。
自由貿易協定・経済連携協定(FTA/EPA)の動き(日本、米国、EU が関与するものを中心として)
【各論】
〈シンガポール〉
産学官の共同検討会合を経て、2001年1月から政府間交渉が開始され、2002年1月の小泉総理大臣の東南アジア諸国連合(ASEAN)訪問の際に、シンガポールにて両国首脳間で、日・シンガポール新時代経済連携協定の署名が行われた。その後、国会の承認を経て、2002年11月30日、本協定は発効した。本協定は、貿易・投資の自由化・円滑化のみならず、金融、情報通信技術(IT)、科学技術、人材養成、貿易投資促進、中小企業、放送、観光といった幅広い分野での経済連携を強化するものであり、今後、日本とアジア諸国等との経済関係を強化する方途の一例となることが期待されている。
〈メキシコ〉
2001年6月の日・メキシコ首脳会談において設置が合意された産学官の共同研究会(経済関係強化のための日・メキシコ共同研究会)は、2001年9月以来計7回の会合を開催し、2002年7月、経済関係を強化するための具体策として、FTAの要素を含む二国間での経済連携の強化のための協定の締結に向けた作業に早急に着手することを提言する報告書を公表した。この提言を受け、10月にメキシコのロスカボスで行われた日・メキシコ首脳会談では、FTAの要素を含めた日・メキシコ経済連携強化のための協定の締結交渉の立ち上げに合意し、11月に第1回交渉、2003年2月に第2回交渉を開催した。交渉開始後1年程度を目標にできる限り早期に交渉を実質的に終了させる予定となっている。メキシコとの関係では、日本企業が米国や欧州連合(EU)の企業と比べて競争上の不利益を被っていることが具体的な問題となっており、その解消のため二国間の法的な枠組みを整備することが課題となっている(注)。
〈韓国〉
2000年9月の日韓首脳会談において設置することが合意された日韓FTAビジネス・フォーラムは、2002年1月、日韓FTAを包括的な経済連携協定として早期に推進すべきであるとの共同宣言文を発出した。この提言を受け、3月の小泉総理大臣の訪韓の際、産学官による研究会を設置することで日韓首脳間で合意し、2003年2月までに4回の会合を開催してきた。共同研究会では、早期の包括的なFTA締結の必要性について一致しており、日韓FTAに含まれ得る各分野について検討を行っている。
〈ASEAN〉
2002年1月のASEAN諸国訪問の際、小泉総理大臣は「日・ASEAN包括的経済連携構想」を提案し、日・ASEANフォーラム(外務次官級協議)等を通じて、同構想の具体化に関して、幅広く議論・検討を行ってきた。また、4月には、官房長官の主催による「日・ASEAN包括的経済連携構想を考える懇談会」が設置され、10月には、日本とASEANとの経済連携構想は、現実的には、当面は二国間の包括的経済連携の積み重ねとして具体化されるなどの考えをまとめた中間報告を発表した。11月の日・ASEAN首脳会議では、同構想の今後の取り進め方の指針となる共同宣言を発出し、日・ASEAN全体との間の包括的経済連携の実現のための枠組みを検討するとともに、日本は、用意のあるいずれのASEAN加盟国とも、二国間経済連携の協議を行うという方式を承認し、10年以内のできるだけ早期に自由貿易地域の要素を含む経済連携の措置の実施を完了することを宣言した。今後、日・ASEAN全体との経済連携に関しては、関係する高級実務者から構成される委員会が設置され、同委員会が連携についての枠組みを検討し、2003年の日・ASEAN首脳会議に報告書を提出する予定となっている。
二国間での経済連携については、タイとの間で、両国政府間で2002年5月及び7月に作業部会設置に向けた2回の予備協議を開催し、日・シンガポール経済連携協定を基礎又は参考として検討を進めること等が確認された。7月の日・タイ経済パートナーシップ協議(外務次官級協議)では作業部会の検討対象・構成等につき合意が得られ、その後、3回の作業部会を開催した。
フィリピンとの間では、2002年5月の日・フィリピン首脳会談において、アロヨ大統領から作業部会の設置につき提案があったことを受け、その後、予備協議を開催した後、計3回の作業部会を開催した。また、12月の日・フィリピン首脳会談後、共同声明を発出し、両国の経済連携の実現のため、次の段階が早期に開始されることについて期待を表明した。
マレーシアとの間では、12月の日・マレーシア首脳会談において、マハティール首相より、2003年初めには、二国間連携の正式な提案を行う予定であるとする協議開始の提案があり、これを受けて事務レベルの作業部会で協議を開始することになっている。
〈オーストラリア〉
2002年5月の日・オーストラリア首脳会談において、両国間のより深い経済的なつながりのためのあらゆる選択肢を探求するため、次官級のハイレベル協議を開始することになった。3回の課長級会合を開催し、2003年6月に予定される次官級協議等を経て、両国首脳に対して協議の成果を報告書として提出することになっている。