第3章 > 第2節 > 3 国際経済におけるその他の課題
【情報通信技術(IT)】
ITは、生産性の向上や市場としての将来性等の経済的な期待にとどまらず、情報発信・伝達の手段として、民主主義の強化、政府の透明性の向上等についても大きな力を発揮し得るものである。この観点から、日本は、幅広い方面においてITを活用し、グローバルな情報社会を構築するための努力を行っている。
具体的には、第一に、二国間・地域的・多国間の枠組みを通じた国際的なルール作りといった制度・政策面での協調を進めている。二国間の枠組みとしては、日米、日・EU等があり、2002年6月には、日米間の「規制改革及び競争政策イニシアティブ」に関する両国首脳への第1回報告書において、日米のIT分野における規制改革等の措置及び協力的取組についてとりまとめを行った。また、地域的な枠組みとしては、アジア太平洋経済協力(APEC)があり、10月の第10回APEC首脳会議の際には、電子商取引等の規制を自由化してデジタル・エコノミーによる域内の貿易促進を目指す「貿易とデジタル・エコノミーに関するAPEC政策の実施のための声明」が採択された。また、多国間の枠組みには、経済協力開発機構(OECD)、世界貿易機関(WTO)、国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)、世界知的所有権機関(WIPO)、G8リヨン・グループ等があり、セキュリティ、電子商取引、税、プライバシー、暗号、サイバー犯罪防止等の課題に積極的に取り組んでいる。特に、OECDでは2002年7月に情報セキュリティに関する指針(ガイドライン)を改定した。
第二に、国際的な情報格差(デジタル・ディバイド)の解消に向け協力を行っている。G8九州・沖縄サミットを受けて設置されたデジタル・オポチュニティ作業部会(ドットフォース)では、幅広い関係者による議論を行い、2001年5月にとりまとめた行動計画の実施状況を2002年6月のG8カナナスキス・サミットに報告した。また、日本は、政府開発援助(ODA)を活用して、政策・制度作りへの知的支援、人づくり、情報通信基盤の整備・ネットワーク化支援、援助におけるIT利用の促進を柱に協力を行っている。
【エネルギー問題】
〈日本のエネルギー外交〉
日本は、国民生活と経済活動の基盤たるエネルギーの約80%を海外に依存していることから、エネルギーの安定供給の確保(エネルギー安全保障)は、日本の外交政策の重要な課題である。日本は、石油供給の途絶といった緊急時における対応策の整備やエネルギー需給構造の改善等について、国際エネルギー機関(IEA)等を通じて、他の先進国と協調して取り組んでいる。また、今後、経済成長によりエネルギー需要の増大が見込まれるアジア地域及び産油国との協力の推進を図り、エネルギー安全保障の強化に努めている。
アジア地域では、エネルギーの需要の増大が見込まれるにもかかわらず、石油備蓄等の取組がほとんど行われていないなど、緊急時の対応面での脆弱〔ぜいじゃく〕さが見受けられる。このような問題意識から、2002年3月に、東京でアジア・エネルギー安全保障セミナーが開催された。同セミナーにおいて、石油備蓄等整備の必要性が指摘され、日本から、日本の備蓄に関する知見、経験及び技術を、中国、韓国及びASEANと共有する用意があることを述べた。この流れを受け、12月、東京でASEAN+3(日中韓)・IEA合同ワークショップが開かれた。同会合では、緊急時での対応を始めとして、ASEAN+3における協力の具体的な方策について議論が行われた。
7月には、エネルギー供給源の多様化という観点から、杉浦外務副大臣を団長とし、産学官で構成されたシルクロード・エネルギー・ミッションがカザフスタン、ウズベキスタン、アゼルバイジャン及びトルクメニスタンに派遣された。このミッションは、各国要人と会談を行い、長期的な観点から、潜在的なエネルギー供給能力を有するシルクロード地域とアジア地域とのエネルギー協力の強化につき「ルック・イースト」として、呼びかけを行った。
9月には、エネルギー生産国とエネルギー消費国の対話の促進という観点から、第8回国際エネルギー・フォーラムが大阪で開催され、65か国、10の国際機関が参加した。同フォーラムにおいて、日本は、経済成長、環境保全、エネルギー安全保障の達成のため、天然ガス、再生可能エネルギーの活用等が必要であるとの指摘を行った。また、同フォーラムに先立って、アジアの石油消費国で初めて石油輸出国機構(OPEC)総会が大阪にて開催され、エネルギー分野におけるアジアの重要性が改めて強調された。
シルクロード・エネルギー・ミッションの一環で訪問したアゼルバイジャンでの会議に臨む杉浦外務副大臣(右)(7月)
原油価格(週平均価格)の推移
〈石油市場の動向〉
米国同時多発テロ後の世界経済の低迷を受け、2001年後半に続き、2002年初頭も原油価格は低水準で推移した。2月以降、パレスチナ情勢の緊迫化等により原油価格は上昇、4月に入ると、イラクによる1か月の原油禁輸措置やベネズエラ情勢の混乱がこれに拍車をかけ、原油価格は更に上昇した。8月以降は、特にイラク情勢をめぐる観測により高水準で推移し、12月初頭から始まったベネズエラの全国ストライキの影響が重なり、原油価格は一段と上昇した。
【食糧問題】
国連食糧農業機関(FAO)によれば、世界の食糧生産量は、2002年から2003年には、前期に引き続き上昇し、約19億5,400万トンとなる見通しで、需要量に対して十分な生産がなされている。しかし、食糧需給の不均衡から、開発途上国では、1998年から2000年の平均で約7億9,900万人の栄養不足人口が存在しており、依然として高い水準が続いている。1990年から1992年時点と比較しても、栄養不足人口はわずかに2,000万人程度しか削減されていない。これは、中国を中心とする一部のアジア地域においては改善が見られるものの、アフリカ地域の状態の悪化に相殺されたためである。
また、食糧不足と貧困とは密接な関係にあり、毎日2.5万人が飢えと貧困により亡くなっている。また、干ばつ、水害、紛争、政治・社会・経済的混乱等に起因する深刻な食糧不足に直面している国が約30か国あり、約6,700万人が緊急食糧援助を必要としている。
日本は、こうした状況に対処するため、農業開発、世界貿易、教育、技術移転等を含めた包括的な対策と二国間あるいは国際機関を通じた食糧援助や食糧増産援助を実施している。
世界食糧サミット5年後会合でほかの出席者と言葉を交わす水野外務大臣政務官(6月)
【漁業】
日本では、水産物は国民の食生活の中で伝統的に重要な位置を占めており、国民1人当たりの水産物消費量は他国に比べて著しく多い一方で、世界の海洋漁業資源の4分の3は満限利用状態にあるか、あるいは、それを超え乱獲状況にあるとの懸念が国際的に広まりつつあり、漁業資源の保存と海洋環境保全のための国際協力がますます重視されている。このような中、日本は世界有数の漁業国としてのみならず、主要水産物の輸入国としての立場からも、国際漁業資源管理に積極的な役割を果たすことが期待されている。
特に、回遊する範囲が広いカツオ・マグロ類については、近年、規制を逃れる目的で地域漁業管理機関の非加盟国に船籍を置くいわゆる便宜置籍漁船による無秩序な漁獲が資源に対する脅威となっている。日本は、地域漁業管理機関等を通じて便宜置籍漁船の廃絶に向けて取組を強化しており、便宜置籍漁船の漁獲物の輸入を防止することを含む種々の対策をとっている。世界のカツオ・マグロ漁業生産の約半分、日本のカツオ・マグロ漁業生産の約80%を占める中西部太平洋における魚類資源の保存管理のため、中西部太平洋まぐろ類条約が2000年9月に採択されている。日本は、この条約は少数派である漁業国の立場が十分反映されていないとして条約案の採択に反対したが、この条約を実際に運用するための手続規則の策定を目的とする準備会合に引き続き参加し、日本の懸念が実質的に解決できるよう各国との協議を進めていく考えである。
捕鯨については、2002年5月に山口県下関市において第54回国際捕鯨委員会(IWC)の年次総会が開催された。同会合でも日本が長年の政策目標としている捕鯨活動の再開は認められなかったが、日本の沿岸小型捕鯨地域へのミンククジラの暫定捕獲枠要求については、過去最高の得票数を得るなど前進が見られた。また、6月末より、第2期北西太平洋鯨類捕獲調査の本格調査が開始されている。捕獲調査に対しては、国外から批判はあるものの、鯨類を含む海洋生物資源の持続的利用の原則に基づき、冷静かつ科学的に議論されるべきであるとの立場を伝えている。