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第3節 中南米



【総論】

 中南米地域は、1960年代から70年代にかけて、その豊富な天然資源を背景に目覚ましい経済成長を遂げる一方、成長を支えた海外からの資金借入れの増大に起因する金融危機により、1980年代は「失われた10年」と形容された。しかし1990年代初頭以降、そのほぼ全域において、いまだに脆弱〔ぜいじゃく〕ではあるものの民主化が定着し、その後の経済構造改革や地域経済統合への積極的な取組により、今日では改めて新興市場として注目を集めている。

 2002年、日本は、このような中南米地域において、日・メキシコ経済連携強化のための協定(EPA)の交渉を開始し、日本企業の北米市場への足がかりを確保するための法的枠組みの整備に取り組んできた。また、遠方に位置する中南米諸国との貿易・投資を促進するため、各種情報の提供(セミナーの開催等)を含むビジネス環境の整備を積極的に実施してきた。さらに、中南米諸国が引き続き民主体制を堅持しつつ、更なる経済発展を遂げることができるよう、経済協力を含む様々な支援を実施しているほか、テロ、環境等のグローバルな課題についても二国間・多国間での対話を積極的に推進してきた。


【経済情勢】

 中南米は、1990年代を通じて、貿易の自由化や国営企業の民営化等を中心とする新自由主義的な政策を実施し、安定的な経済成長を遂げてきたが、2002年には、世界的な経済成長の鈍化、アルゼンチン金融危機等の影響を受け、中南米経済は減速した。

 特に、2001年秋以降、金融不安に見舞われていたアルゼンチンでは、2002年初頭に、ドゥアルデ政権が発足したが、国際通貨基金(IMF)等の国際機関に対する債務支払いに関する交渉が難航しているほか、政府が、国民生活の窮乏化、悪化する失業率等各種問題に対応できず、深刻な政治経済危機に陥っている。

 ブラジルでは、過去にIMF等の国際金融機関に対し協調的ではなかった左派のルラが有力な大統領候補であったことなどから、10月の大統領選挙前には、ブラジル通貨レアルの対米ドル・レートが低下し、金融市場が混乱した。しかし、11月以降は、大統領に選出されたルラが国際金融機関との協調路線を改めて表明し、ブラジルの金融情勢は一定の落ち着きを取り戻した。

 日本と中南米との経済関係では、近年、日本の存在感が低下傾向にある。日本としては、豊富な鉱物資源や高い食糧生産力に恵まれている中南米の潜在力に見合った経済関係を構築していくことが課題であり、2002年を通じて、中南米との経済関係の強化に向け、各種の施策を講じてきた。具体的には、天然資源という観点から中南米の潜在力をとらえ、関連ビジネス関係者を招待し、11月に中南米農牧水産資源セミナーを開催した。また、同じく11月に、日本と中米諸国との経済関係等の強化を図るため、双方の企業経営者等が参加する、「中米エンカウンター・イン東京」の開催に協力した。また、日本におけるカリブ諸国への理解を高め、同地域との経済関係を強化するため、2002年夏には、カリブの文化、物産、観光資源などを紹介する各種行事を開催した。これらに加え、日本と中南米との間で貿易投資を活発化させるため、民間企業を交えた官民合同会議の開催や政府間の定期協議等を実施してきた。



APEC首脳会合の際に、ラゴス・チリ大統領と会談する小泉総理大臣(10月)

APEC首脳会合の際に、ラゴス・チリ大統領と会談する小泉総理大臣(10月)


【地域経済統合の進展】

 中南米諸国は、自由貿易協定(FTA)を含む経済連携を構築することにより経済発展を促し、雇用や生活水準を向上させ、同時に、国内の構造改革を促していくとの経済戦略を基本的にとっており、FTA先進地域となっている。

 1990年代初頭より、中南米では、北米自由貿易協定(NAFTA)や南米南部共同市場(メルコスール)(注)のような多国間の地域経済統合に加え、二国間のFTAが数多く締結された結果、域内貿易量が急速に伸びてきた。近年では、EU等域外地域との経済統合も試みている。また、2005年に向けて、北米、中南米全体を含み、世界最大(人口約8億人、GDP合計約12兆米ドル)のFTA圏となる米州自由貿易地域(FTAA)創設に向けた交渉が進展している。FTAAが創設された場合には、域外国にとっても、北米への輸出を念頭に中南米諸国の重要性が増大すると見込まれている。

 このように経済統合が進展するに従って、中南米全体で日本企業が欧米企業等との競争上不利な立場に立たされる状況が出ている。特にメキシコでは、日本企業が米国やEUの企業と比べて競争上の不利益を被っていることが具体的な問題となっており、その解消のため二国間の法的な枠組みを整備することが課題となっている。2002年10月には、小泉総理大臣とフォックス・メキシコ大統領との間で、日・メキシコ間でFTAの要素を含む経済連携の強化に向け、協定交渉を開始することが合意され、現在、交渉が進展している。また、既に多くのFTAを締結しているチリとの間では、民間レベルの研究会から日・チリFTA締結を提言する報告書が提出されている。



米州における地域経済統合

米州における地域経済統合


【中南米諸国の政治情勢と日本の取組】

 中南米地域ではほぼ全域において、いまだに脆弱〔ぜいじゃく〕ではあるものの民主主義が定着している。しかし、2002年4月には、ベネズエラにおいて、反政府勢力によるチャベス大統領の辞任強要により暫定政権が発足するという一幕も見られた。南北アメリカの地域政治機構である米州機構(OAS)は民主的プロセスの逸脱を容認しないとの強いメッセージを発出し、チャベス大統領は政権に復帰したが、12月以降再びチャベス大統領の辞任等を求める反政府派による全国規模のストライキが実施され、原油の輸出も滞るなどの混乱が生じている。

 コロンビアにおいては、コロンビア革命軍(FARC)等テロリストとの闘いが続く中で、8月に対テロ強硬派とされるウリベ氏が大統領に就任した。また、その他一部の国々でも、貧困層を中心とする大衆の声が大きく選挙に反映されるなどの動きも見られ、これらの動きに今後とも注視していく必要がある。

 日本としては、引き続き中南米地域の安定を確保するため、顕著な所得格差や治安の悪化といった同地域が直面する問題に配慮しつつ、経済・社会問題の解決のために迅速な支援を行っていく必要がある。

 また、政治分野での対話については、日本は、二国間協議に加え、地域経済共同体であるメルコスール、カリブ共同体、中米統合機構との定期協議を行っているほか、2002年には新たにアンデス共同体との協議を開始した。なお、2001年に発足した、東アジアと中南米の関係強化を目的とする東アジア・ラテンアメリカ協力フォーラム(FEALAC)(注)は、日本にとって、上述の地域経済統合体との協議とあわせ、中南米地域との更なる関係構築を進める枠組みとして、可能性を秘めていると言える。



二国間協力の強化のためにパナマを訪れ、モスコソ大統領を表敬する今村外務大臣政務官(7月)

二国間協力の強化のためにパナマを訪れ、モスコソ大統領を表敬する今村外務大臣政務官(7月)


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