第5章 > 1 外務省改革
【総論】
外交を実施していく上で重要なことは、外交が国民から理解され、支持されるものでなくてはならないということである。一連の不祥事により失墜した外務省への国民の信頼を一刻も早く回復するため、外務省は、2001年を通じて、外務省改革に全力で取り組んできた。このような外務省改革に向けての努力は、2002年に入ってますます強化されており、外務省にとって最も重要な課題として、省員を上げての取組が続いている。
【外務省不祥事への反省を踏まえた外務省改革の積極的な推進】
2001年に明らかになった松尾元大臣官房総務課要人外国訪問支援室長による公金詐欺事件など一連の外務省職員による不祥事は、外務省に対する国民の信頼を失墜させた。国民全体の奉仕者である外務省職員が、国民の貴重な税金を不正に詐取したことは、いかなる理由があろうとも、決して許されるべきではない。また、11月にはいわゆるプール金問題についての調査結果が発表され、省員の公金の使用・管理に対する認識の甘さが指摘された。2001年を通じて、外務省は、これら不祥事について厳しい反省に立ち、外交及び外務省自身に対する国民の信頼回復に努めてきた。
具体的には、斎藤明毎日新聞社社長以下7名の民間有識者からなる外務省機能改革会議から4月24日に発表された提言を踏まえ、6月6日、外務省改革要綱を策定し、改革作業に着手した。まず、田中外務大臣の包括的な指揮・監督の下、杉浦外務副大臣を長とする外務省改革要綱推進委員会や綱紀引き締めのためのプロジェクトチームを発足させ、「効率的かつ効果的な外交体制の実現」(外務省改革要綱第2章)や「不正の疑惑と根絶」(同要綱第4章)のため、報償費制度の見直し、調達業務の一元化などを始めとする予算・会計手続の改善を実施した。また、新たに本省業務について監察制度を創設し、同時に、公認会計士などの外部専門家の参加を得ながら従来の査察の強化なども実施した。さらに、外務省改革要綱推進委員会の下に、丸谷、山口、小島外務大臣政務官を長に、情報サービスの拡充、人事制度改革、領事業務改革のそれぞれに関するプロジェクトチームを立ち上げ、「国民のための外交・国民と共に歩む外交」(同要綱第1章)や「強力な外交のための人事体制改革」(同要綱第3章)にも取り組んだ。特に、人事制度改革については、中央官庁としては初めて本省審議官等の幹部ポストを含む省内公募制の導入などを決定した。
2002年2月1日、川口外務大臣が就任した。同日行われた就任記者会見において、川口外務大臣は、外務省改革を最大の優先課題と位置づけ、「透明性」、「スピード」、「実効性」を標語に、従来の改革作業を加速し、外務省に対する国民の信頼を一刻も早く回復することを表明した。また、就任直後の2月4日に行われた第154回国会における川口外務大臣による外交演説においては、外務省改革を力強く実施していくとの考えを改めて述べるとともに、改革を推進していくにあたって、外交に関する意見は、幅広く謙虚に拝聴するとともに、不当なものは受け入れず、外交への特定の圧力を排除していくとの考えを述べた。こうした方針に基づき、2月12日、川口外務大臣は、今後の改革方針として、「開かれた外務省のための10の改革」を発表し、改革を具体化する方途として、2月26日、宮内義彦オリックス株式会社代表取締役会長を座長に、各界で活躍する有識者からなる「変える会」の発足を発表した。なお「変える会」メンバーは、五十音順に以下のとおり。
阿川 尚之 慶應義塾大学教授
生田 正治 株式会社商船三井代表取締役会長
今川 幸雄 関東学園大学教授
岡本 行夫 外交評論家
神田 秀樹 東京大学教授
嶋津 明 全国知事会事務総長
田中 明彦 東京大学教授
藤原 美喜子 ソシエテ・ジェネラル証券東京支店常務取締役
船橋 洋一 朝日新聞特別編集委員
星野 昌子 特定非営利活動法人 日本NPOセンター代表理事
宮内 義彦 オリックス株式会社代表取締役会長(座長)
吉永 みち子 ノンフィクション作家
渡部 惇 弁護士(座長代理)
3月6日、「変える会」は、川口外務大臣の出席の下、第1回会合を開催し、活動を開始した。「変える会」は、今後議論を重ね、5月中旬までに中間報告を、さらに、遅くとも今夏までに最終報告を作成し、「開かれた外務省のための10の改革」の中で例示された措置を含め、外務省改革のためにとるべき諸施策を川口外務大臣に提言として提出する予定である。これらの報告には、各措置の実施期限と、できる限り具体的な目標が盛り込まれる方針である。同時に、外務省としては、「変える会」の提言を待つことなく実施することができる措置については、直ちに実施に移すことで、外務省改革の推進力を維持しながら、改めるべき点は改め、反省すべき点は反省し、国民全体の奉仕者との意識改革を外務省職員に改めて徹底しながら、国民の理解と支持に支えられ、国益を守る強靱な外交が出来る体制を整備していく決意である。
「開かれた外務省のための10の改革」には、外務省が全力を上げて取り組まなければならない具体的な課題が示されている。特に、北方四島住民支援や在京コンゴ民主共和国臨時代理大使等に関する外務省の一連の調査で明らかとなった、鈴木宗男衆議院議員と外務省との関係は、社会通念に照らしてあってはならない異常な状態であり、行政の公平性、透明性に対する疑念を国民に抱かせたことにつき、外務省として深く反省するとともに、国民に深くお詫びしている。
開かれた外務省のための10の改革

「変える会」第1回会合で挨拶する川口外務大臣(2002年3月6日)
