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第3章 > 5 ロシア及び旧ソ連新独立国家(NIS)諸国

5 ロシア及び旧ソ連新独立国家(NIS)諸国




 ロシア及び旧ソ連新独立国家(NIS)諸国

ロシア及び旧ソ連新独立国家(NIS)諸国



【総論】
 ロシアでは、プーチン大統領が、2001年も70%を超える国民の高い支持率と好調な経済に支えられ安定した政権運営を行うとともに、対外的にも首脳外交を始めとして積極的な外交を展開し、強い国家としてのロシアを印象づけようと様々な取組を行ってきた。旧ソ連新独立国家(NIS)諸国では、中央アジアにおける宗教過激派の浸透が問題となっており、様々な取組が行われたほか、9月の米国同時多発テロ後は、米軍機等の領空通過を認めるなど、テロ対策における国際的連帯の強化に向け協力的な姿勢が示された。

【ロシア内政】
 内政面では、昨年に引き続き、議会、地方、財界等に対する大統領の指導力の強化が図られた。
 議会では、4月に発表された政党「統一」と「祖国」の統合(12月には政党「統一と祖国」が結成)等により国家院での大統領支持勢力の優位が明確となり、政権側の提出する法案(政党法案、土地法典案、司法改革諸法案、労働法典案、2002年度連邦予算案など)が順調に採択された。
 地方との関係では、2000年に制定された連邦院(議会上院)の再編に関する法律に従って知事等の地方指導者が連邦院の議席を失った。また、中央と地方の関係を明確にする動きとして、6月には、中央と地方の間の権限分割の問題を検討するための委員会が設置され、8月には新連邦財政主義概念(注1)が策定された。なお、2月には電力・エネルギー危機の責任を問われる形でナズドラチェンコ沿海地方知事が辞任に追い込まれた。また、チェチェン(注2)では、武装勢力が破壊・ゲリラ活動を散発的ながら継続しており、これに対し、ロシア連邦軍は南部の山岳地帯を中心に武装勢力の掃討を進めた。統治面では、2001年1月にチェチェン共和国政府が設置されるなど、復興のための環境整備が進展した。 
 人事面では、3月にプーチン大統領がいわゆる「力の省庁」にイワノフ国防相、グルィズロフ内務相などの側近を起用する動きがあり、大統領の影響力が強化された。
 財界との関係については、4月の独立TV(NTV)の経営陣の交替等により、一部有力資本家がメディアを拠点に政治的影響力を行使するという図式がほぼ解消され、代わって「産業家・企業家同盟」などの財界ロビーが政権への発言力を強めることになった。


 ロシア国家院議席数一覧

ロシア国家院議席数一覧



【ロシア経済】
 経済面では、2001年も好況が継続した。特に、国内消費及び投資が前年に引き続き拡大した。プーチン大統領は、引き続き、規制緩和やガス・鉄道・電気等の自然独占体改革、土地・労働・年金・社会保障等の制度改革といった経済構造改革を推進した。対外債務についても、年初には返済が滞ったものの、夏頃からは好調な財政を背景に着実に返済を行い、一部については期限前返済も行われた。また、財政赤字ゼロとして編成された2001年度連邦予算は、好況を背景として結果として黒字となり、さらに、年末に成立した2002年度連邦予算は、ロシアとして初めて、当初から財政黒字が予定されている。
 一方で、これまで経済回復の重要な要素であったルーブルの減価については、2001年にはその効果が薄れ、加えて、9月の米国同時多発テロ以降の世界経済の減速や、ロシアの国際収支及び財政に大きく影響を与える国際石油価格の低下により、経済成長率は鈍化した。なお、ロシアは、国際石油価格の維持のために石油輸出国機構(OPEC)の石油減産に呼応する形で、石油輸出量を2002年1月より削減(15万バレル/日)することを決定した。


 ロシア経済主要指標

ロシア経済主要指標



【ロシアの対外関係】
 外交面では、プーチン大統領は、前年に引き続き活発な首脳外交を展開した。特に米国との関係では、ブッシュ政権の誕生後、6月にスロベニアで最初の首脳会談が実施され、その後、建設的な対話が積み重ねられた。さらに、9月の米国同時多発テロ後は、軍事行動及び国際テロ対策につき、米国やNATO加盟諸国の首脳と頻繁に協議を行い、協力関係を強めた。11月には、プーチン大統領が米国を訪問し、ブッシュ大統領と共に米露両国が冷戦の遺産を乗り越え、民主主義、市場経済、法の支配に基礎を置く新しい関係に入ったとする内容の声明を発出した。12月には、米国が対弾道ミサイル・システム制限(ABM)条約からの脱退をロシアに通告したことについて、プーチン大統領は、米国の決定を批判しつつも抑制的に対応した。一方で、米国とロシアとの間には、新たな戦略的枠組みの構築にかかわる議論を含め今後の協議に委ねられる課題も残されている。
 今後も当面は、プーチン大統領は、安定した政権運営を行っていくものと思われるが、具体的な政策を実施していく上で、政権の求心力の保持、経済の好調の維持、対米関係での実績などの課題もあり、これらの課題に対してプーチン政権が適切に対処できるかが注目されている。

【旧ソ連新独立国家(NIS)諸国】
 NIS諸国は、1991年に旧ソ連から独立して10周年を迎え、各国において記念行事が行われた。この10年間、NIS諸国の間で多様化は進んだが、一方で、域内協力の可能性についても引き続き協議が続けられている。特に、近年、中央アジアなどに宗教過激派が浸透しており、この地域の安全にとって脅威となっていることもあり、様々な枠組みにおいて安全保障分野でのNIS諸国間の協力が進められた。11月30日、モスクワにおいて独立国家共同体(CIS)(注3)設立10周年記念首脳会議が開催された際、「CIS設立10周年に関する首脳声明」が発表され、CIS内の連携が確認された。
 日本は、これまで中央アジア・コーカサス諸国を対象に、対シルクロード地域外交を進めてきており、政治対話の促進、経済協力、平和のための協力という三つの方向で関係強化に努めてきている。特に、旧ソ連からの独立後、長年にわたって内戦が続いていたタジキスタンについては、2000年に和平プロセスが完了したこと、タジキスタンの安定が中央アジア全体の平和にとって不可欠であることもあり、日本としても積極的に支援を行ってきた。5月には、世界銀行主催のタジキスタン支援国会合が東京で開催され、その機会にラフモノフ大統領を日本に招き、首脳会談において、小泉総理大臣から、日本は、タジキスタンの和平の強化と復興を支援していくことを表明した。そのほか、12月にウズベキスタンのスルターノフ首相、アルメニアのコチャリャン大統領が訪日した。
 米国同時多発テロの発生を受け、反テロに向けての国際的な連帯の強化の流れが形成されていく中で、NIS諸国自身、宗教過激派によるテロの脅威に直面していることもあり、当初より米軍機等の領空通過を認めるなど、国際社会による反テロの取組に積極的に貢献してきた。また、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギスは、米軍機等に国内の空港・空軍基地を提供した。

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