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第3章 > 3 中南米

3 中南米




 中南米

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【総論】
  中南米諸国では、近年、実体面における様々な課題を抱えているものの、制度としての民主主義は定着し、また、全体としては地域経済統合に向けた様々な取組が展開されてきた。一方で、2001年は、米国経済の低迷やアルゼンチンの経済情勢の影響を受け、中南米経済は減速した。日本は、2001年も、このような地域情勢を踏まえて、中南米地域の中長期的な安定の実現やエネルギー等資源の安定供給の確保、また、アジア諸国と中南米諸国との関係の強化に向け、数々の取組を行ってきた。

【民主化の進展】
 中南米諸国においては、1980年代以降民主化が進み、現在ではほぼすべての国で民主主義体制がとられている。2001年にもガイアナ(3月)、セントビンセント(3月)、ペルー(4月及び6月(決選投票))、ニカラグア(11月)、ホンジュラス(11月)、セントルシア及びトリニダード・トバゴ(12月)において、民主的手続に従って大統領選挙ないし総選挙が平穏裡に実施された。また、8月にはボリビアのバンセル大統領が病気のため、また、12月にはアルゼンチンのデラルア大統領が経済混乱から任期途中で辞任したが、いずれも憲法規定に従って後任の大統領が選出された。ハイチのように民主化の歩みを軌道に乗せるため、なお多くの課題を乗り越えなければならない例もあるが、概して中南米諸国においては、制度としての民主主義は定着しているといえる。
 この潮流を確固としたものにするため、米州諸国は、4月にカナダのケベックで開催された第3回米州首脳会議において、民主主義条項を盛り込んだケベック宣言を採択し、また9月にはペルーのリマにおいて米州機構(OAS)特別総会を開催し、米州民主主義憲章を採択するなど、米州域内においては民主主義強化の重要性に関する認識が共有されている。一方で、域内経済の自由化・開放化とともに、貧困、経済格差が深刻化しており、今後は制度面のみならず、民主主義、人権擁護、経済格差の是正等実体面における改善も重要な課題になっている。
 日本も中南米地域の中長期的安定のためには、民主主義の定着が重要であるとの考えから、ペルーやニカラグアでの大統領選挙に選挙監視団を派遣したほか、貧困撲滅、経済・社会問題支援などのために経済協力を引き続き行っている。また、キューバとの間では民主化や人権といった問題を含めた政策対話を行っている。

【経済情勢】
 中南米は、1990年代を通じ自由化・開放化を基本とする経済改革を実施した結果、外国資本の直接投資もあって比較的安定した経済成長を遂げてきた。しかし、2001年は、米国経済の低迷やアルゼンチンの経済情勢等の影響から、経済成長は減速した。
 特に、2000年秋以降、財政赤字を主な原因とする金融不安に見舞われていたアルゼンチンでは、2001年10月後半以降情勢が更に深刻化し、銀行預金の引出し制限、歳出大幅カットなどの措置をとったが、こうした措置が社会的な騒擾を招き、経済的・社会的混乱を契機として、デラルア大統領の辞任、対外債務支払い停止(モラトリアム)宣言という事態に発展した。
 世界経済の不透明感やアルゼンチン金融情勢等、中南米地域を取り巻く経済状況は予断を許さないが、中南米が食糧、鉱物資源、エネルギー分野での潜在的な供給能力が高いことには変わりなく、これら資源の安定供給は日本にとっても重要である。日本は天然資源という切り口から中南米の潜在力を捉え直し、関連ビジネスを通じた日・中南米経済関係強化の一助ともするため、3月に中南米石油資源セミナー、12月に中南米鉱物資源セミナーをそれぞれ東京で開催した。
 経済規模が小さく自然災害にも頻繁に見舞われる脆弱な国々で構成されるカリブ共同体諸国と日本との関係は、2000年秋に初めて開催された日・カリブ閣僚レベル会議を契機に強化されている。同閣僚レベル会議で採択された協力の枠組みに基づき、日本はカリブ諸国に対し、情報通信技術(IT)促進、防災、人物交流、貿易・投資や産業多角化、金融、環境保全、ガバナンス等の分野で支援を行ったほか、日・カリブ友好協力基金を発足させた。

【地域経済統合】
 米州においては、経済の自由化・開放化とともに、地域経済統合という大きな流れがある。既に地域的経済枠組みとしては、北米自由貿易協定(NAFTA)、カリブ共同体(CARICOM)、中米共同市場、アンデス共同体、南米南部共同市場(メルコスール)が併存している。これらに加え、キューバを除いたすべての米州諸国34か国を含む米州自由貿易地域(FTAA)については、1994年に行われた第1回米州首脳会議でその創設が合意されていたが、2001年4月の第3回首脳会議において、FTAA協定を2005年12月までに発効させることが合意された。FTAAが創設された場合、人口約8億人、域内国内総生産(GDP)の合計が11兆ドルを超える世界最大規模の自由貿易地域が誕生することになる。
 また、中南米諸国は、域外の国とも自由貿易協定(FTA)締結の動きを見せており、メキシコ、チリからは、日本とのFTA締結の希望が表明されている。このうちメキシコに関しては、経済関係強化のための方策について、FTA締結の可能性も含め、包括的な研究をするための産業界、官界、学界の有識者からなる共同研究会が発足し、研究を行っている。


 米州における地域経済統合

米州における地域経済統合


【アジア諸国との関係】
 これまでアジア諸国と中南米諸国の関係は比較的疎遠であったが、最近では関係緊密化に向けた動きが高まっている。特に、中国は、4月に江沢民国家主席、11月に李鵬全国人民代表大会常務委員会委員長が中南米を歴訪するなど、経済のみならず政治の分野でも関係強化に向けた動きを示している。また、3月にはチリでアジア・中南米両地域の30か国の外相級が一堂に会して、東アジア・ラテンアメリカ協力フォーラム(FEALAC)第1回外相会合が開催された。同会合では政治・文化、経済・社会及び教育・科学技術の三つの作業部会の設置が決定されたほか、枠組み文書、外相宣言が採択され、FEALACの目的、今後の態様が明確にされた。また、次期外相会合を2003年にフィリピンで開催することが合意され、FEALACが持続性のあるフォーラムとして動き出すことになった。
 経済・社会作業部会の共同議長国となった日本は、アジア太平洋と中南米の両地域の関係強化を目的とするこのフォーラムの役割を重視しており、既に東アジア・ラテンアメリカ知的交流シンポジウム等を東京で開催したほか、今後もその活動に対し貢献していく方針である。

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