第1章 > 6 > (6) 人間の安全保障
【人間の安全保障とは何か】
人間の安全保障とは、人間の生存、生活、尊厳に対する脅威から各個人を守り、それぞれの持つ豊かな可能性を実現するために、一人ひとりの視点を重視する取組を強化しようとする考え方である。
現在の国際社会はテロ、貧困、環境破壊、紛争、地雷、難民問題、麻薬、エイズ等の感染症など様々な脅威に直面している。9月11日に発生した米国同時多発テロは、紛争、貧困といった様々な要因がテロを助長する温床を造り出す危険性にも目を向ける必要があることを改めて国際社会に認識させたものであり、国際社会は、テロという脅威そのものに対する取組と同時に、個人に対するその他の様々な脅威を取り除くための取組を積極的に行っていく必要がある。
このような冷戦後の国際社会において、多様化し、複雑化した脅威に対処していくためには、各国政府のみならず、国際機関、非政府組織(NGO)を含む市民社会等の様々な主体が協力し、人間個人の潜在力が現実化するような社会を造り、持続させていくことが重要である。このことが、まさに日本外交の重要な視点の一つである、人間の安全保障の考え方が目指すものである。
人間の安全保障

【日本のリーダーシップ】
日本は、21世紀の国際協調の理念として人間の安全保障を掲げ、21世紀を人間中心の世紀とするため努力している。
2000年9月の国連ミレニアム・サミットにおける演説での森総理大臣の呼びかけに応え、2001年1月に緒方貞子前国連難民高等弁務官とアマルティア・セン・ケンブリッジ大学トリニティーカレッジ学長を共同議長とし、ラクダール・ブラヒミ・アフガニスタン問題担当国連事務総長特別代表などを含む、計12名の世界的な有識者をメンバーとする人間の安全保障委員会が設立された。同委員会は、人間の安全保障の考え方を深めるとともに、国際社会にとって具体的な行動の指針となるような提言を出すことを目的としており、6月に第1回会合がニューヨークで、12月に第2回会合が東京で開催された。小泉総理大臣は、日本が人間の安全保障委員会をこれまで同様支持していくことを明確にしている。
また、日本が国連に設置した人間の安全保障基金に対して2001年度予算から約77億円を拠出し、2002年3月時点での拠出額は累計約188億円となり国連で最大の信託基金となっている。同基金は、地球規模の課題に対して人間の安全保障の視点から取り組む国際機関のプロジェクトを支援するものである。2001年の具体的な活動としては、インド西部地震において破壊された水利設備を修復する事業やケニアの干ばつに苦しむ妊産婦・乳幼児に対する支援活動等を実施した。
さらに、12月には外務省主催で「テロと人間の安全保障」をテーマに、人間の安全保障委員会委員及び内外有識者の参加を得て、東京で国際シンポジウムを開催した。同シンポジウムにおいては、アフガニスタンをケーススタディとして、人間の安全保障に対する脅威に関する問題や人間の安全保障の推進に向けた国際社会の取組等について活発な議論が行われた。
このように、人間の安全保障に関し、日本は具体的な施策を積み上げつつ、知的・財政的貢献を積極的に行い、人間の安全保障の推進に国際的なリーダーシップを発揮しており、今後とも日本外交を展開していく上での中心的な視点の一つとして、取組を強化していくことにしている。
人間の安全保障委員会の共同議長である緒方前国連難民高等弁務官及びセン・ケンブリッジ大学教授と会話を交わす田中外務大臣(12月)
