第1章 > 6 > (5) 感染症対策
【総論】
特に開発途上国において深刻な問題となっているエイズ、結核、マラリア等の感染症対策は、感染症の蔓延に苦しんでいる国々だけの問題ではなく、国際社会の安定と繁栄を実現するために、国際社会が一丸となって早急に取り組まねばならない課題である。こうした認識に立って、日本は、官民を含めた国際社会全体による取組を推進させるよう、国連エイズ特別総会での活発な議論や、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(GFATM)の立ち上げに積極的に貢献してきた。
【国連エイズ特別総会】
6月25日から27日まで、ニューヨーク国連本部において、国連エイズ特別総会が開催された。この特別総会は、開発途上国を中心に深刻化するエイズ問題を国連が正面から取り上げた初めての国際会議であり、エイズ対策の共通の戦略と行動目標を策定した歴史的な会議となった。ここで採択された政治宣言は、エイズ対策に取り組むリーダーシップの重要性等を唱えるとともに、エイズ感染の危機にさらされる若年層、女子等への保護的措置を含め、国レベル、地域レベル、国際的レベルでの広範なエイズ対策について具体的な行動目標を設定した。また、この政治宣言は、グローバルな追加的資金の動員を促す新たな世界基金設立を支持しつつ、国際社会としてエイズ対策を一層強化する政治的意思を表明した。
日本は、九州・沖縄サミットにおいて感染症対策を主要な議題として取り上げ、今後の国際貢献として、向こう5年間で30億ドルを目途とする沖縄感染症対策イニシアチブを発表した。日本のこうした感染症対策分野における取組が、その後の地球規模の取組強化に向けた流れへとつながり、国連エイズ特別総会が開催されるに至った。日本は、九州・沖縄サミットの議長を務めた森前総理大臣を首席代表に、国内有識者及び非政府組織(NGO)代表を含む大型の代表団を派遣し、議論に積極的に参加し、貢献した。森首席代表は代表演説において、沖縄感染症対策イニシアチブを柱とする日本の感染症対策の実績を説明し、新たな世界基金に対する相当額の拠出を表明するとともに日本がこの分野で引き続き主導的な役割を果たしていく決意を表明した。
国連エイズ特別総会に際しアナン国連事務総長と会談する森首席代表及び植竹外務副大臣(6月)

【世界エイズ・結核・マラリア対策基金(GFATM)の立ち上げ】
九州・沖縄サミット以降のサミット・プロセスにおける世界基金設立に対する議論、国連エイズ特別総会での議論、各国の拠出表明などを受け、2001年7月のジェノバ・サミットにおいて、エイズ、結核、マラリアと闘うための世界基金を2001年中に立ち上げるため、早急に作業部会を設けて準備作業を進めることが合意された。この合意を受けて、10月以降、ドナー国、開発途上国、関係NGO、民間団体代表、国際機関等で構成される暫定作業部会がブリュッセルで会合を重ね、準備作業が進められた。その結果、12月に開催された暫定作業部会最終会合において、機構・組織、管理・運営の方法等の基本的な枠組みが合意され、世界エイズ・結核・マラリア対策基金を2002年1月にスイス法に基づく民間財団としてジュネーブに設置することが決定された。2002年1月には、日本を含むドナー国、開発途上国、NGO、民間団体の18代表で構成される理事会(基金の最高意思決定機関)の第1回会合がジュネーブで開催され、世界エイズ・結核・マラリア対策基金は活動を開始することになった。
日本はこの基金に対して、2001年6月の日米首脳会談において小泉総理大臣から2億ドルを拠出する意図表明を行っている。この基金に対しては、G8や他の先進国、開発途上国、民間団体等から合計で約19億ドル(2002年1月現在)の拠出ないし寄付の意図が表明されている。
世界エイズ・結核・マラリア対策基金は、官民のパートナーシップと開発途上国の自助努力に基づいて、エイズ、結核、マラリアの予防、治療、ケア対策を資金的に支援するものであり、日本は、理事会の一員として、基金事業の効果的、効率的な実施を確保するため、基金の活動に積極的に参加することにしている。
日本のHIV/エイズ対策の支援強化 ─沖縄感染症対策イニシアチブの枠組みでの取組─

2001年末時点でのHIV/エイズ感染者(大人及び子供)の推定数
