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(2) 国際社会の取組



【米国の対応】
 テロ攻撃の標的となった米国は、テロ発生後ほどなくして、アフガニスタンを拠点とするテロ組織アルカイダとその指導者ウサマ・ビンラディンが今回のテロに関与していると示唆した。そして、9月20日、ブッシュ米大統領が上下両院合同会議で演説を行い、今回のテロへの基本的な対応を示した。この演説では、アフガニスタンのタリバン政権に対し、アルカイダ指導者全員の米国への引き渡し、すべての外国人の解放と保護、テロリスト訓練キャンプの閉鎖、すべてのテロリストの引き渡し、訓練キャンプへの米国のアクセスの確保を要求した。さらに、この要求には交渉の余地はなく、テロ組織を支援する国は米国に敵対する国と位置づけると述べた。
 また、テロ直後から各国首脳との会談、電話会談により、米国への支持を呼びかける一方、国家非常事態の宣言及び予備役の召集(9月14日)、国土安全保障局の新設の発表(9月20日)、対インド及びパキスタン制裁の部分解除の決定(9月22日)、テロリストの米国内資産の凍結命令(9月24日施行)等の行政措置をとった。


 バロン・ニューヨーク市議会議長に日本政府を代表して義捐金を贈る山口外務大臣政務官(9月21日)

バロン・ニューヨーク市議会議長に日本政府を代表して義捐金を贈る山口外務大臣政務官(9月21日)



【国際社会の対応】
 国際社会は、今回のテロに対して一致団結して迅速な対応をとった。テロ発生翌日の9月12日、国連安全保障理事会(以下「安保理」)は、安保理決議1368を採択した。この決議は、個別的又は集団的自衛の固有の権利を認識し、今回のテロ攻撃が国際の平和及び安全に対する脅威であると認め、テロ防止関連諸条約及び関連安保理決議の完全な実施によりテロ行為を防止し、抑止するための国際社会の努力を求めるものであった。その後安保理は、9月28日、テロ根絶に向けてテロ資金対策等に関して具体的な措置が盛り込まれた安保理決議1373を採択した。この決議は、テロ行為のための資金供与等の犯罪化、テロリストの資産の凍結、テロリストへの金融資産等の提供の禁止、テロ資金供与防止条約等のテロ防止関連諸条約の締結の促進などを内容とし、テロと闘うための金融面を含む包括的な措置の実施を国連加盟国に求めるものであった。
 G8は、9月19日にG8首脳声明を発出した。この声明は、今回のテロという野蛮な行為を限りなく強く非難するとともに、12本のテロ防止関連諸条約のできる限り速やかな批准、又は、批准前であっても直ちに条約内容を実施することを強く要請し、さらに関係各大臣に対し、テロリストへの資金の流れを断ち切るための金融的措置及び制裁の行使の拡大、航空安全、武器輸出の管理等を含む対テロ協力強化のための具体的措置に関するリストの作成を指示するものであった。また、10月6日にはG7財務大臣・中央銀行総裁会議において、テロ資金供与に対し闘うためのG7行動計画が採択され、これを受けて金融活動作業部会(FATF)が緊急会合を開催し、テロ資金対策に関する特別勧告を採択した。11月11日にニューヨークで開催されたG8外相会合でも、9月19日のG8首脳声明の内容を再確認した。
 北大西洋条約機構(NATO)は、9月12日に北大西洋理事会声明を発表し、今回の攻撃が米国に対して国外からなされたものと確定される場合には、北大西洋条約第5条(注)が対象としている行為と見なされるべきであるとの立場を表明した。また、欧州連合(EU)は、9月12日、EU緊急外相理事会結論文書・理事会宣言を発表し、テロに共同して対抗することを明らかにしたほか、9月21日には特別欧州理事会(EU首脳会議)を開催し、テロ対策に関する「結論及び行動計画」文書を採択し、さらに10月19日のゲント非公式欧州理事会ではテロに関する宣言を発出した。
 ロシアは、テロ発生直後から米国との協調姿勢を打ち出した。9月24日には人道支援目的の米軍機のロシア領空の通過を認め、中央アジア諸国が米軍に対し空港施設を提供する可能性を排除しないことを表明した。この結果、米軍はアフガニスタンにおける軍事行動のため、これら地域に展開することが可能となった。
 世界各国の首脳も、今回のテロの発生を受け、米国に対するお見舞い、被害者に対する追悼の意を表明するとともに、米国訪問や米国要人の諸国訪問の機会等に際して、テロを強く非難し、テロと闘っていく姿勢を表明した。テロの首謀者とされたウサマ・ビンラディンは、イスラム諸国に対して聖戦(ジハード)を呼びかけたが、米国を始め各国は、今回のテロとの闘いは、全人類に対し深刻な脅威をもたらしたテロリストとの闘いであり、イスラムとの闘いではないことを繰り返し強調し、国際社会は結束を維持した。

【米軍等による武力行使の開始】
 タリバン政権に対する要求が拒否される状況の中で、米国を中心とする国々はアフガニスタンにおける武力行使の準備を進めた。この準備にはアフガニスタン周辺国、特にパキスタンの協力を得ることが不可欠であり、米国を始めとする各国は、パキスタンのムシャラフ政権に対し、領空使用や後方支援での協力を求めた。タリバン政権や自国民との関係で困難な立場に追い込まれたムシャラフ大統領は、9月19日、演説を行い、テロとの闘いであることを理由に、米国への協力を表明した。そして、米国等は10月7日、タリバン軍事施設等に対する攻撃を開始した。この作戦は、「不朽の自由作戦(Operation Enduring Freedom)」と命名された。作戦は、タリバンの軍事施設や政府関連施設、アルカイダの拠点等に対する空爆を中心とし、後に攻撃目標が地上軍や移動目標にも拡大されるとともに、特殊部隊も投入された。
 最新鋭の兵器を駆使した米国等の強力な攻撃の展開を背景として、反タリバン勢力の北部同盟も攻勢を強めた。大きな転機となったのは、11月10日の北部の要衝マザリシャリフの陥落であった。以後、北部同盟の進撃は加速し、13日には首都カブールを制圧した。その後、戦線はタリバンの拠点であった南部のカンダハルや、東部のトラボラへと移ったが、12月中旬までにはこれらも反タリバン勢力の手に落ちた。こうしてアフガニスタンにおけるタリバンの実効支配は崩壊した。

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