-報道広報関係- |
国際交流が盛んになり,各国間の関係も一段と多面化しつつある世界において,わが国が諸外国と永続する真の友好関係を確立するためには,諸外国に対しては正しい日本の姿を紹介するとともに,日本国民が諸外国の実情をよく理解する必要がある。政府としても国民および海外諸国に対し,内外の実情を十分に紹介することによりその理解と支持を得てこそ,日本の外交を強力に推進してゆくことが可能となるのである。そのため外務省は,国内では報道関係者や国民とたえず接触し,国際政治の動向とこれに対応するわが国の外交の方針や政策を,わかり易くかつ正確に説明するように努めている。
最近のわが国のめざましい経済発展と国際的地位の向上を反映して,諸外国のわが国に対する関心が日増しに高まるとともに,国際社会において日本が果すべき役割に対する期待が一段と増大している。
しかし,その反面日本の経済的「侵略」に対する非難とか軍国主義復活に対する警戒論に加え,最近では一部の国における日本商品不買運動などの動きがみえ始めていることも事実である。このような情勢にも鑑み,広く海外諸国に対してわが国の政治・経済・社会・文化等諸般の事情を正しく紹介し,またわが国外交の基本方針や重要外交問題についての立場を十分説明することは,わが国に対する誤解を是正し,正しい理解を求め,ひいては対日世論の一層の好転をはかるためにも,ますます緊要な課題となっている。このため外務省は,外国報道関係者との常時接触をはかり相互理解の増進に努めるとともに本省および各在外公館を通じての海外広報活動の強化・拡充に努めている。
(1) 国内・国外に対する報道事務
情報文化局は,外務省と内外報道機関との接点であり,国内的には主として外務省常駐の霞クラブ(主要新聞,テレビ,ラジオ,計38社が加盟)を通じて国内報道機関に対し,対外的には日本外国特派員協会(Foreign Correspondents' C1ub of Japan,28ヵ国から178社が加盟)を通じて外国報道機関に対し,また在外公館においては現地報道機関に対し,常時わが国の重要外交問題や主要国際問題に関する発表や解説を行なっている。このため,
(イ) 霞クラブに対しては,外務大臣および,事務次官による記者会見,記者懇談のいずれかを毎日実施するとともに,経済局長,経済・協力局長,経済局次長,による経済記者との懇談を毎週1回行なっている。また重要案件については随時,主管の局部課長等によるブリーフィング(解説)を行なっている。
(ロ) 外国報道関係者に対しては,情報文化局長が毎週1回英語による記者会見を実施しているほか,各種の照会に対し,随時応接している。
(ハ) 上述の口頭による発表のほか,文書による発表として,外務大臣談話,情報文化局長談話,情報文化局発表,記事資料および参考資料の形で随時,内外報道機関に情報を配布している。
(ニ) 内外報道機関のみならず,在京の外国公館の広報関係者とも常に連絡を密にし,外交案件の説明あるいは照会に対する回答を行なっている。
(ホ) 主要国際会議の開催に当っては,プレス・アレンジメントを行ない内外報道関係者のために,会議場での記者会見室,控室のアレンジ,会議に関する新聞発表,会見のあっせん等を行なっている。
(2) 報道関係者への便宜供与
(イ) わが国の報道関係者が海外取材をする際に,本省と在外公館の双方で各種の便宜を供与し,海外諸事情の国内報道の充実にできる限りの側面的協力を行なっている。また,天皇,総理,外務大臣等の外国訪問に同行する報道関係者にも,必要に応じ報道課員が同行の上,種々取材の便宜を図っている。
(ロ) 外国報道関係者(常駐特派員,臨時特派員のすべて)に対しては「外国記者証」を発給し,わが国における取材活動をする際の便宜を供与し,あるいは総理大臣,外務大臣等との会見につきあっせんを行なっている。
(ハ) 外国の国賓,公賓の訪日に際しては,ほとんどの場合,記者団が随行してくるため,これら随行記者団に対し,取材上の便宜を与えている。
(3) 海外における対日論調収集および編集
わが国に関する海外紙の報道・論評はここ数年来激増しており,これら海外紙に現われた対日観を把握しておくことは政策立案上,国内啓発上,あるいは対外広報の上できわめて重要とみられるので,引き続きこれらをでき得る限り広範にわたって収集し,傾向をとりまとめている。例えば前年度においては,サン・クレメンテでの日米首脳会談,東京での日ソ定期協議,テル・アヴィヴ空港事件,佐藤首相の退任と田中内閣の成立,ホノルルでの日米首脳会談,総選挙などのテーマのほか,日米関係の新展開についての米国紙の対日観をシリーズとして取りまとめた。
(4) 一般情報の編集
「一般情報」は,在外公館に本邦関係ニュースを速やかにかつ正確に伝え執務参考に供することを目的として情報文化局で編集しているディリーニュースであり,具体的には(i)総理大臣,外務大臣の重要演説,(ii)外務大臣談話,官房長官談話,情報文化局長談話,情報文化局発表,記事資料等,(iii)国外交交渉における共同声明等,(iv)外務大臣記者会見記録,(v)事務次官情報文化局長,その他本省幹部の会見およびブリーフィングの記録(vi)外交および主要国内問題についての新聞記事(コメントを付す)(vii)外務省関係人事等を掲載している。一般情報は電報,ファクシミリ,郵送等の方法により,全在外公館に送付されている。
(5) 在外公館に対する外国語によるニュース送達委託
在外公館に対し,わが国に関する重要ニュースをできるだけ速やかに知らせ,各館の執務参考にするとともに,広報活動および報道対策に役立たせる目的で,共同,時事両通信社に対し外国語(主として英語,一部スペイン語と中国語)による本邦関係ニュースを在外公館に送達する業務を委託しており,47年度現在共同ニュスを28公館に,時事ニュースを27公館に送付している。
(1) 外務省国内広報の目的
近年,国際情勢が著しく多極的かつ流動的になってきており,また,わが国の経済力増大に伴い日本外交の国際的影響力が増し,わが国の一挙手一投足が世界の注目を浴びていることに鑑み,政府は広く国民一般の支持を得た外交を積極的に展開する必要性がますます高まっているところ,情報文化局は国内広報活動を通じて,国際情報およびわが国の外交政策をできる限り平易、迅速、正確に国民に伝達するよう努めている。
(2) 国内広報の手段
外務省国内広報の具体的形態としては,主として(i)情報文化局の発行または編集にかかる刊行物,(ii)外務省員を講師とする講演会,(iii)国際問題および外交問題に関する民間団体主催の講演会に対する援助等があり,そ概要はつぎの通りである。
A 刊 行 物
(イ) 定期刊行物
(a) 「国際週報」(昭和48年5月より「月刊国際問題資料」と改称)
週刊,平均14頁,発行部数2,000,報道機関,専門家等の国内有識層向,主要な国際的問題の経過報告および週間国際日誌。
(b) 「国際問題資料」(昭和48年5月より「月刊国際問題資料」に合併)
半月刊,平均14頁,発行部数3,500,報道機関,専門家等の国内有識層向,国際問題に関する外務省各局課作成調書のうち国内広報上必要と思われるもの,国際問題に関する外国の論文翻訳等。
(c) 「世界の動き」
月刊,「世界の動き」社発行,情報文化局編集,32頁,発行部数6万,報道機関,政界,学界,経済界,中央・地方諸官庁,商工会議所,小中学校長,各種団体等に配布。国際問題およびわが国の外交の解説を主体,世界の国々の紹介記事(カラーおよびモノクロ・グラビア付),外務省だより(情報文化局発表を主体),月間国際日誌等。
(d) 「われらの世界」
月刊,「世界の動き」社発行,情報文化局編集,18頁,発行部数75,000。
「世界の動き」誌よりも平易な記述によるもので,中高校,地方公共団体,各種民間団体等に配布。国際問題およびわが国外交の解説を主体,世界の国々の紹介記事(カラーおよびモノクロ・グラビア付)等。
因みに,世界の動き社の宛名は東京都港区西新橋1-6-14,デトロイト・ビル(電話03-504-1655)である。
(ロ) 不定期刊行物
昭和47年1月以降情報文化局において作成した不定期刊行物はつぎの通りである。
(a) 海外論調を取りまとめたもの
(i)「日米友好関係強化の必要性(続)」
87頁,発行部数3,000,主として日米経済関係に関する米各紙の論調の紹介,国内有識層向。
(ii) 「1970年代の日本の国際的立場」
76頁,発行部数6,000,国内有識層向,アジア・太平洋地域の新な勢力としてのわが国に関する米,韓,豪の学者等の論文。
(iii)「「日本軍国主義」に関する海外論調」
100頁,発行部数5,000,国内有識層向,自由,共産両世界の「日本軍国主義」に関する肯定的,否定的両論を収録。
(iv) 「米大統領訪中と台湾問題」
58頁,発行部数5,000,国内有識層向,米国世論指導者層の論調紹介。
(v) 「日米関係をめぐつて―最近の米紙論調」
59頁,発行部数2,500,国内有識層向,キッシンジャー米大統領補佐官の訪日,沖縄返還,日米通商関係等に関するもの。
(vi) 「日米・日中関係―米国内の論調」
43頁,発行部数2,500,国内有識層向,ボール元米国務次官その他の論文。
(vii)「ハワイの日米首脳会談」
31頁,発行部数2,O00,国内有識層向,1972年8月末の本件会談に関する米紙誌論調。
(viii)「タイにおける日本商品不買運動」
31頁,発行部数1,000,国内有識層向,1972年11月に行なわれた本件運動に関するタイ,シンガポール,インドネシアの論調。
(ix)「われら両国―日米間の相互認識について」
16頁,発行部数6,000,一般国民向,米国のトレザイス元大使の論文,写真付。
(x)「日本の防衛問題に関する海外論調」
77頁,発行部数3,500,国内有識層向,わが国第4次防衛力整備5カ年計画発表後の世界各国新聞論調の紹介。
(xi) 「日本の経済進出に関する海外論調」
115頁,発行部数7,000,国内有識層向,わが国の経済活動に関する東南アジア,米国および欧州各国の論調。
(xii)「ソ連の新聞等における「日本軍国主義」批判とこれに対する米仏紙論評」
32頁,発行部数5,O00,最近のソ連の新聞雑誌等に現れた「日本軍国主義」批判および米国,西欧諸国の関連論評を紹介。
(xiii)「欧州の緊張緩和」
12頁,発行部数5,000,欧州における「東西緊張緩和」について方の当事者であるNAT0加盟諸国の考え方,対処方針を知る上で非常に参考になる72年12月7,8日のNAT0閣僚理事会の共同コミュニケを全訳したもの。有識者向け。
(b) 特集形式による冊子
(i)「尖閣諸島について」
36頁,発行部数10万,一般国民向,尖閣諸島に関する歴史的資料と解説等,カラー写真付。
(ii) 「われらの北方領土(改訂版)」
33頁,発行部数10万,一般国民向,北方領土問題の平易な解説,資料として北方領土地図,関係条約・文書を収録,写真付。
(iii)「エカフェの25年と日本」
47頁,発行部数3万,一般国民向,エカフェ設立25周年に当り,エカフェの仕組みと活動を平易に解説したもの,写真および地図付。
(iv)「国際主要事項年表(1945-1971年)」
514頁,発行部数2,000,国内有識層向,国際欄と日本欄を設け,日本欄には主要な国内事件を収録。
(v)「世界の国一覧表1973年版」
24頁,「世界の動き社」発行,部数3万,一般国民向,国名,面積,人口,GNP,為替レート,日本との貿易額等の一覧表,色刷国旗および地図付。
(vi)「世界の中の日本」
52頁,発行部数35万,一般国民向,わが国をとりまく国際環境を写真,絵等も交えて解説し,わが国の対外関係のあり方について考察したもの。
(vii) 「日本の経済協力」
83頁,発行部数1万,南北問題,経済協力の一般的解説からわが国の経済協力の沿革,現状につき説明したもの。
(c) 「世界の動き」臨時増刊号
(i) 「統合への道を進む西ヨーロッパ」
32頁,発行部数6万,一般国民向,内容は1,「欧州」の自覚,2,欧州統合の歩み,3,ECのたどった道,4,ECの経済発展とその対外的影響,5,世界経済は「多極化」の時代へ。
(ii)「ラテン・アメリカの情勢」
32頁,発行部数6万,一般国民向,内容はラテン・アメリカの歴史,最近の国際関係,経済,日本との関係,日本からの移住等。
(iii)「南北共同声明後の朝鮮半島の情勢」
32頁,発行部数6万,一般国民向,内容は1,統一朝鮮の重み,2,朝鮮半島をめぐる国際情勢,3,南北接触と経済事情,4,南北共同声明の主眼点,5,南北統一のむずかしさ,その他。
(iv)「拡大する国運の役割と日本」
36頁,発行部数7万,一般国民向,内容は(あ)国連とは何か,(い)国連の平和維持活動,(う)軍縮問題とわが国の立場,(え)南北問題と国際貿易開発会議,(お)前進するエカフェ,(か)宇宙空間の平和利用,(き)新しい課題としての環境問題,(く)重要な海洋法会議,(け)設立が決まった国連大学,(こ)迫られる財政の建直し,(さ)国連と法律問題,(し)国連専門機関の活動。
(ハ) 講 演 会 等
情報文化局においては従来より各種民間団体および地方公共団体等の求めに答え,国際情勢および外交問題に関する講演会,研修会等に講師として外務省員を派遣する業務を担当しており,1972年4月から1973年3月末までに国内各地に派遣した回数は418回に及んでいる。
(1) 概 況
わが国の国力の伸展および国際責任の増大に伴い,海外において,わが国の国情全般,その政策,将来の針路等に関する関心が急速に高まるとともに,各種の対日批判乃至警戒心,すなわち,わが国の急激な対外経済進出に対する批判,軍国主義復活に対する懸念,わが国対外経済協力に対する不満,さらに近時わが国の内外の社会的不祥事件の続発も禍いして,わが国社会,国民性をも対象とした批判が抬頭し,マスメディア等を通じて各国の指導者,有識層を始め一般大衆にも浸透しつつある。
外務省としては,対日関心増大の機運をとらえて,わが国の国情全般,内外の施策を広く正しく海外に広報し対日認識の飛躍的向上を計る一方,対日批判乃至警戒心の中には多分にわが国の実情あるいは政策に対する誤解乃至理解の不足に基づくものがある点に鑑み,わが国の実情を深く掘り下げて紹介し,また,わが国内外の重要施策を説明し,関係諸国の理解と賛同を得,もって海外の対日批判乃至警戒心を緩和し除去するよう努力している。
このような海外広報活動は,外務本省および在外公館を通じて行なつており,各公館には最低1名(兼任を含む)の広報担当官を配置し,さらに24公館には広報文化センターを設置し,シンポジューム・セミナー・講演会資料配布,映画会,写真展その他あらゆる可能な手段を活用して広報活動を強力に推進している。とくに諸外国の新聞・テレビ等の報道機関とは常時緊密な連絡を保ち,これらの機関によって正しく日本の実情と政策が報道されるよう努めている。
具体的活動としては,対日批判に対処する対外特別広報活動と全般的対日理解増進のための一般広報活動の二本建てにより行なっている。
(2) 対外特別広報
1972年度には,米国,西欧およびアジアに対し重点的に実施した。なかんずく,日米関係の重要性に鑑み彼我の相互理解を深めるため,米国を最重点とし次の如き活動を集中的に行なった。
(イ) シンポジューム・セミナー・親善訪問
米国各州において州政府,議会,商工会議所,大学等各界の有力者,有識層を対象とし,日米協力,日米経済関係,日米間のコミュニケーション等をテーマとして実施するもので,各界より多数の参画を得,またその結果が各地のマスメディアを通じ広く一般大衆に伝わり,所期の成果を挙げることができた。カナダ,豪州および西欧諸国において同種のシンポジュームを開催した。(開催実績は付表11,(1)を参照)
(ロ) テレビ広報
テレビ向短篇映画(カラー,約3分)を20種作成し,全米テレビ局50局に配布している。テーマとしては,主として日米経済関係における誤解ないし偏見を是正するものを選んだ。またテレビ用ドキュメンタリーフィルムとして「東京―世界で最も安全な都市」(カラー,30分)および「日米両国」(カラー,50分)をそれぞれ作成した。(付表11,(2)を参照)
(ハ) 新聞・雑誌広報
米国では,ウォール・ストリート・ジャーナルおよびリーダーズ・ダイジェストに日米関係に関する啓発記事を掲載,西欧については,リーダーズ・ダイジェスト欧州版(英国,ドイツ,フランスを含む9カ国版)に日欧関係の啓発記事を掲載した。なお,これら啓発記事を掲載するに際しては,民間筋よりも積極的な参画を得た。
(ニ) 特別広報資料
主として有識層を対象として,日米農業関係,日本の貿易政策,日本における外資企業の活躍ぶりをテーマとした各種資料を作成し米国内に配布している。(付表11,(3)を参照)
(ホ) 地域社会指導者招待
米国の世論形成に大きな力のある労働組合,婦人団体等の幹部,地方有力者等計64名を招待した。招待グループは本邦各界との意見交換,各地の視察見学を行ない対日認識を深め帰国し,各分野において知日家として活躍し同国の対日理解向上に大きく寄与している。
米国以外にはインドネシア(3名)および西欧諸国(英国1名,フランス3名,ドイツ1名,オランダ1名およびスウェーデン1名)から10名を招待し,本計画による招待は,総計74名にのぼった。
(3) 一般広報
1972年度には概要次のとおり活動を行なった。
(イ) 報道関係者招待
世界各国より有力報道関係者をそれぞれ約2週間招待し,わが国の外交・政治・経済・社会事情を視察・研究せしめている。
1972年度は,米国,西欧,アジアその他の諸国より32名を招待したが,これら招待記者は,帰国後,各種の日本紹介記事を執筆し,また日本紹介講演を行なった。さらに,同年度中には,フランスおよびインドネシアよりテレビ取材チーム(計4名)を招待し,日本紹介テレビ番組を作成せしめた。
(ロ) 広報資料の作成と配布
海外広報用として外務省が発行し,各方面に配布している資料は定期・不定期を通じ多種多量にのぼる。
不定期刊行物のうち,最も基本的なものは,わが国の現状に関する基礎的な事実を総括的に説明した小冊子「今日の日本」である。この小冊子は,カラー写真さし絵29頁,白黒写真さし絵28頁を含む計115頁余りのもので,従来より海外において多大の好評を博し,隠れた「ベスト・セラー」となっている。
この「今日の日本」は,高校生以上を対象としたものであるが,このほかに中学生および小学生をそれぞれ対象とした日本紹介小冊子も各国語版で作成されている。
また,わが国の外交,政治,経済等については,レファレンス・シリーズという比較的詳細かつ専門的な記述を含む20頁程度の小冊子を刊行しており,1972年度においては従来の「北方領土問題」,「公害問題」,「日本の経済協力」等に加え新に「尖閣諸島問題」,「外交青書」など装丁にも工夫をこらしたものを作成し,また,「国連と日本」,「書物を通じての日本紹介」の改訂版を作成した。本シリーズは1972年度末現在で36種類に達した。他方,明治維新以降のわが国の近代化の過程を総合的に紹介する写真入り小冊子「移り変わる日本」は,各国語版をも加え開発途上国を中心に広く配布したが,右冊子の好評にも鑑み,1971年度からはわが国の実情についてより進んだ知識の提供を目的とするこの種解説資料の作成に重点をおくこととし,「日本の教育と近代化」,「日本における人間関係」を作成したが,1972年度においては,右に加えて「日本文化の歩みとその特質」および「日本の人口問題」を作成した。
また,各種の照会に迅速に回答できるよう,わが国の憲法・地理・歴史・教育等の36項目をそれぞれ簡単に説明したファクト・シーツを主要5カ国語にて作成しているが,1972年度においては「能と狂言」を新に作成するとともに「地理」,「子供と祭り」,「鉄鋼」,「医学」の改訂版を作成し,「皇室」,「運輸」,「歴史」,「造船」,「教育」の改訂を進めた。
このほか,大小地図,およびいけ花をテーマとした1972年月カレンダーを英・仏・西の3カ国語による説明文入りで作成した。色彩印刷の美しいこれら広報刊行物は,多大の好評を博し,わが国情の紹介にとどまらず,わが国の高度の印刷技術の紹介にも役立っている。
定期刊行物としては,わが国の外交・政治・経済その他各般の実情と政策を紹介する英文インフォメーション・ブレティンを毎月2回本省で発行しており,各在外公館は,これを基礎にそれぞれの地域の事情に応じて再編集の上,これを現地語で発行・配布している。現在かかるインフォメーション・ブレティンは27カ国語で発行されており,毎号合計約9万部に及んでいる。またグラフ誌「ジャパン」を年4回,英・仏・西・中国語・露語および独語版にて毎回計12万部近く刊行している。(付表11,(4)を参照)
(ハ) 広報用映画,スライドおよび写真の作成配布
(a) 広報用映画
映画は直接視聴覚に訴える極めて効果的な広報手段であるので,諸外国の官民がわが国の社会・経済・文化その他各般の実情を理解するのに役立つよう,広報映画(カラー16ミリおよび35ミリ)を毎年4種程度作成している。外務省作成広報映像には英・仏・西・葡・アラビア語をはじめとして約10カ国語版があり,全在外公館に配布の上,在外公館主催の映画会,一般貸出し,テレビ上映,広報車による巡回上映などを実施して非常な好評を博している。
1972年度には,「日本の河」,「子供の四季」,「生花の美」(改訂版)および「鶴と少年」の4種を作成した。さらに諸官庁・団体・会社等が作成した映画の中で海外広報上有効と認められる広報映画28種を購入し,在外公館に配布した。(当省作成広報映画付属5参照)
(b) 巡回広報車
アジア・アフリカ・中近東・中南米地域のとくに電気のないような辺地において,映画による広報活動を積極的に行なうため,1960年以降,発電装置を備え,映写機,スクリーン,テープレコーダー,拡声器等を搭載した巡回広報車を配置し,広報上大きな効果を挙げている。1972年度には在ナイジェリア,セネガル,マレイシア,アルゼンティン各大使館および在ボンベイ総領事館(セネガルの他は買替)にこれを配置した。本広報車を保有する公館は,現在35公館にのぼる。
(c) 外国テレビ用スクリーン・トピックス
外務省は,毎月1回,比較的カレントなトピックスをあつかう「ジャパン・スクリーン・トピックス」(白黒15分)を企画・作成し,50の在外公館に配布している。これらの映画は配布先公館の所在する各国テレビ局の番組に組み入れられて,毎月放映されている。
(d) スライド
カラー・スライドの利用は,映画に次ぐ視聴覚手段として多大の効果があるので,在外公館保有のスライドおよび解説用テープレコーダー同調式スライド映写機の充実とその利用に努めており,在外公館では,日本事情紹介講演会その他の催しにあたってこれらスライドを利用し,また貸出しを行なっている。
(e) 写真
1972年度においては,3,000種,約60,000枚にのぼる各種写真を作成し全在外公館に配布した。これらの写真は,各国主要新聞,百科辞典,教育用図書および雑誌等にひんぱんに掲載利用されている。
(ニ) 外国教科書,百科辞典等の日本関係記述の是正
諸外国で発行され,使用されている教科書ならびに百科辞典等の中には,いまだに日本に関する誤った記述があり,これを是正することは次代の諸国民の正しい対日理解をはぐくむ意味で極めて重要である。
外務省は,このために設立された財団法人・国際教育情報センターと緊密な連絡を保ちつつ,誤った日本関係記述の指摘,関係資料・写真の提供等により誤った記述の是正に努めている。
(ホ) 広報文化センター
各在外公館においては,わが国の実情および外交政策の紹介を図るため,講演会の開催,広報資料の配布,映画の上映,日本事情に関する照会処理等あらゆる手段を活用していることは前述のとおりであるが,とくに重要な所には順次広報文化センターを設けて,広報活動の拡充強化を図っている。
ニュー・ヨーク,ロンドン,バンコック,ジャカルタ,ブェノス・アイレス,ジュネーブ,ニュー・デリー,カイロ,シドニー,ラゴス,ウィーン,マニラ,リオ・デ・ジャネイロ,メキシコ,香港,ウエリントン,サン・フランシスコ,パリ,クアラ・ルンプール,ソウル,テヘラン,トロントおよびカラチの既設の23公館の広報文化センターに加えて1972年度にサイゴンにも開設し,計24センターとなった。
(ヘ) 対日論調調査
海外における対日世論の動向を迅速かつ的確に把握するため,在外公館においては,常に注意深く対日論調,日本関係記事等を検討分析するほか,関係記事を本省に送付し,本省においては,さらに総合的に分析の上,その結果を海外広報活動の立案および実施に組み入れている。
さらに外務省は,対日世論傾向把握のため,従来より各国の権威ある世論調査研究所に依頼して,米国その他の諸国において,対日世論調査を実施している。
1972年度には,米国において一般市民を対象とした一般調査,大学生を対象とした意識調査および有識者層を対象とした深層調査をそれぞれ実施したほか,カナダ,オーストラリアおよび英国においても対日世論調査を実施した。