第26回国連総会は,1971年9月21日から開会され,102の議題について審議を重ね,153の決議を採決して12月22日閉会した。同総会期間中10月25日中国代表権に関する決議2758が採択され,その結果中華人民共和国が中華民国に代つて国連の活動に参加することとなつた。なお,朝鮮問題については,一般委員会の勧告にもとづき審議が第27回総会迄延期された。また今次総会では,ブータン,バハレーン,カタール(以上9月21日),オマーン(10月7日),アラブ首長国連邦(12月9日)の国連加盟が決定され,この結果加盟国の総数は132ヵ国となつた。
本問題は1949年に中華人民共和国が成立してから20年余にわたつて争われてきたものであるが,第25回総会(1970年)でアルバニア決議案に対する賛成票が反対票を上回つて以来,中華人民共和国を国連に迎え入れたいという気運が盛り上り,この点に関しては加盟国の間にコンセンサスに近いものが生れるにいたつた。そこで第26回総会では中華人民共和国の国連参加に際し中華民国を国連より追放すべきか否かに争点が絞られたのであつた。
まず,7月中旬にアルバニア等は「中華人民共和国政府の代表権回復,中華民国政府追放」を趣旨とするアルバニア決議案(共同提案国23ヵ国)を早々と事務局に提出したが,これに対して米国等は,9月にいたり,中華人民共和国の国連参加を認め,安保理常任理事国の席をこれに与えると同時に,中華民国の議席も認めるといういわゆる二重代表制決議案(共同提案国19ヵ国)および中華民国の追放は憲章18条に従い重要問題であり,3分の2の多数によつて決めるべきであるとする追放反対重要問題決議案(共同提案国22ヵ国)を提出した。わが国はすでに8月に木村外務大臣臨時代理より中華人民共和国の国連参加は阻まないが,中華民国の議席追放は反対であるとの基本方針を発表していたが,9月22日にいたり,佐藤総理より二重代表制決議案および追放反対重要問題決議案を共同提案する旨発表した。
総会が始まると,議題採択等をめぐり一般委員会や本会議等で中華民国追放支持派と反対派の間で激しい論議が展開された後,注目のうちに10月18日より本件の本格審議が開始された。ここでは73ヵ国の多数が一般討論に参加したが,わが国の愛知首席代表も,わが方決議案は複雑かつ微妙な問題を漸進的に解決せんとする経過的な性格のものである等,わが国の立場を説明する発言を行なつた。
表決は25日に行なわれた。この日の審議は午後3時から深夜の11時30分まで食事抜きでぶつ続けに行なわれた。その中で追放反対重要問題決議案は8票差で先議権を獲得したものの,決議案自体は賛成55,反対59,棄権15,欠席2で否決され,これに続いてアルバニア決議案は賛成76,反対35,棄権17,欠席3で採択された。この結果,二重代表制決議案は表決に付さないこととなつた。また,アルバニア決議案の表決に先立ち,中華民国代表は,これ以上総会の審議に参加しないことを宣言し,総会議場より退場した。こうして20年来続いた国連における中国代表権問題は劇的な幕切れとなったのであつた。
総会は12月3日より14日まで中東問題の審議を行なつた。これに先立ち,3月15日事務総長はヤーリング特使活動に関する報告書において,2月8日付のヤ特使提案に対するアラブ連合の回答は肯定的であつたと評価する一方,イスラエルに対しては再考を求めたこと,また依然としてイスラエルの占領が継続していること等の事情のため,総会の討議はアラブ側に有利な形勢の下に進められた。一部AA諸国およびスペインは,(イ)武力による領土獲得の否認および被占領地域の回復の原則をうたい,(ロ)ヤ特使活動再開を要請し,(ハ)ヤ特使提案に対するエジプトの積極的回答を評価し,(ニ)イスラエルには同覚書に好意的に回答するよう要請する決議案を提出した。これに対しコスタリカ等ラ米4ヵ国は,(イ)ヤ特使活動の再開を要請し,(ロ)当事国にOAU10ヵ国委員会提案を慎重検討するよう要請する中立的性格の決議案を提出した。上記AA決議案はその後英,EC諸国修正案を全面的に受け入れて,安保理決議242の第1項の2原則を確認する条項を挿入した結果,同安保理決議に対する原案のアンバランスが是正され,コスタリカ等4ヵ国案と対決する形で表決に付された。その結果,AA改訂決議案は賛成79,反対7,棄権36で採択され(決議2799),コスタリカ等4ヵ国決議案は賛成18,反対56,棄権47にて否決された。
わが国は一般発言において,(イ)戦争による領土の獲得には絶対に反対であり,イスラエルの撤兵を要請する,ただし撤兵の態様と範囲につき合意がなされた場合には,撤兵は必らずしも一きょにではなく段階的になされよう,(ロ)もしイスラエルが撤兵の原則の受諾を宣するならば,現状打開に大きく貢献するであろう,と述べた。決議案の表決においては,わが国はAA決議案に賛成し,コスタリカ等4ヵ国決議案には棄権した。
今次総会においては,南ローデシア問題については英国政府とスミス政権との解決案の合意,またナミビア問題については国際司法裁判所の勧告的意見の言渡などの新しい事態の変更があつたため,これら問題の審議に大きな比重がおかれた。しかし本問題審議全体としては,従来に比較し特に進展はみられなかつた。ただ,将来の問題として,アフリカでの安保理開催を原則的に認めたことは注目される。
今次総会においても依然としてアフリカ諸国強硬派が主導権を握つたが,穏健派が従来より明確にその態度を打出したことが注目された。例えば,ナミビア問題,ポルトガル領アフリカ問題に関する決議については穏健派の意見が入れられ昨年に比較しかなり穏健なものとなつた。他方,南ローデシア問題,南アのアパルトヘイト問題など原則にかかわる問題については,強硬派は従来同様一歩も譲らないとの強硬な態度を貫いた。
わが国は,ナミビア基金創設に関する決議案の共同提案国となるなど,南部アフリカ問題決議につき全般的に積極的な姿勢をとり,問題は平和的かつ現実的に解決されねばならないというわが国基本方針に反しない限り出来るだけ問題点に留保を付して賛成するとの態度をとつた。
第25回総会で設置された総会手続合理化委員会は,1971年4月~9月にわたつて総会手続規則を検討しその結果を委員会報告としてまとめ第26回総会に付託した。右報告で委員会は本会議委員会開催の定足数,スピーチの所要時間,委員会の作業計画,議事録等に関する総会手続規則改正その他の総会手続合理化案をまとめ,総会が右改正を決定し,これらの合理化作業の成果を時折り再検討することを求めた決議案を採択するよう勧告した。12月17日の総会本会議では本件が審議され,合理化委の勧告した右決議案を全会一致で採択した。
第26回総会では安全保障理事会,経済社会理事会等の各種機関のメンバー国の選挙が行なわれた。
わが国は経社理の選挙に立候補したが,改選9議席のうちアジアの2議席(パキスタンとインドネシアの後任議席)には,わが国のほかタイ,ネパール,パキスタンが立候補した。パキスタンはその後立侯補を撤回したが,他の3ヵ国は競合したまま選挙に至り,その上同総会中に国連参加をみた中華人民共和国が新たに立候補した。投票の直前タイが立候補を撤回したので,日本,中華人民共和国,ネパールが2議席を争うこととなつたが,安保理常任理事国は経済社会理事会の事実上の常任理事国でもあるのが,国連の慣例であるので(61年以後の中華民国は例外),中華人民共和国の当選は問題のないところであつた。
投票(有効投票数128)の結果は,中華人民共和国100票,わが国90票,ネパール51票で,わが国と中華人民共和国が必要得票数86票を上回る支持票を得て選出された。任期は1972~74年であり,これをもつてわが国は1972年には,国連加盟以来初めて安保理と経社理の両方に議席を占めることとなつた。
12月22日総会は,安保理勧告どおり,ワルトハイム(Kurt Waldheim)オーストリア常駐代表を新事務総長(任期1972年1月1日より76年末まで)に任命することを全会一致決定した。
(なおインド・パキスタン問題については第2節参照)