(1) |
2002年8月、イランの反体制派組織であるイラン国民抵抗評議会は、イランがナタンズに大規模な「核燃料製造」施設(後に、ウラン濃縮施設と判明)、アラクに大規模の重水製造施設を秘密裡に建設していることを明らかにした。イラン政府は、これらの施設の建設を認めたが、すべての原子力活動は平和的目的である旨主張した。
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(2) |
2003年2月に、エルバラダイIAEA事務局長がイランを訪問した際、イラン政府はナタンズのウラン濃縮施設を正式にIAEAに申告した。これ以降、IAEAによる検証活動が行われ、1991年にイランが中国から未申告で天然ウランを輸入し、金属ウランに加工するなどの様々な活動を行っていたことが明らかとなった。こうした事実を踏まえ、2003年6月に開催されたIAEA理事会は、イランに対して、IAEAとの完全な協力、早期かつ無条件の追加議定書の締結及び履行等を求める議長総括2を発出した。
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(3) |
2003年9月に開催されたIAEA理事会では、イランに対して、2003年10月末までに全ての不備を是正しIAEAと協力すること、追加議定書を即時かつ無条件に署名、批准、完全履行し、批准前から追加議定書に従って行動すること、ウラン濃縮関連及び再処理活動を停止することを要求する決議3が、我が国及び豪加の共同提案の下に採択された。
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(4) |
イランは、当初9月決議採択の場からは退席したが、2003年10月、英仏独外相のイラン訪問の際に、決議の要求事項を実質的に受け入れる決定4を行ったことを発表し、その後、イランの現在及び過去の原子力活動に関し、包括的で正確と期待される報告書をIAEAに提出した。
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(5) |
イランがIAEAに報告書を提出するなど積極的に協力する姿勢を示したことにより、IAEAの検証活動に一定の進展が見られた。この結果、IAEA事務局長が2003年11月10日に提出した報告5には、イランが長期間にわたり、カライ電器工場その他の様々な場所で、ウラン濃縮やプルトニウム分離を含め、核物質を用いた転換や加工、照射といった原子力活動をIAEAに申告することなく繰り返し行っており、IAEA保障措置協定の義務に明白に違反(breaches)していたことが盛り込まれている。
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(6) |
2003年11月に開催されたIAEA理事会では、イランの過去の不備(failures)や違反(breaches)を強く遺憾とするとともに、イランの積極的な協力を歓迎し、イランが同年9月の決議に沿って行った決定を実行するよう求めること等を内容とする決議6が採択された。この決議案は、英仏独が作成し、我が国も共同提案国に加わった。
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(7) |
2004年3月に開催されたIAEA理事会では、イランが積極的なIAEAとの協力を継続し強化すること等を求める決議7が、議長提案として提出され、採択された。その後、イランは同年3月中旬に予定されていたIAEA訪問団の受入れを4月中旬まで延期させたほか、ウラン転換施設における生成試験の開始と重水減速研究炉の建設開始の決定を行った。その一方で、イランは、追加議定書の暫定実施の一環として、2004年5月には、追加議定書に基づく冒頭申告をIAEAに提出した。
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(8) |
2004年6月に開催されたIAEA理事会では、イランに対して、低濃縮ウランと高濃縮ウランの汚染の問題とP2型遠心分離機計画関連の問題をはじめ、全ての未解決の問題の解決に資するために必要な全ての措置を緊急にとること等を求める決議8が、英仏独の共同提案の下採択された。イランは、この決議に強く反発しつつも、IAEAに対する協力は継続するとしていることから、今後も未解決の問題を中心にIAEAによる検証活動が行われるものと予想される。
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1 |
イランは、1976年から、旧西ドイツの協力の下、ブシェール原子力発電所1号炉・2号炉を建設してきたが、1979年のイスラム革命で建設が中断。その後、同発電所は、イラン・イラク戦争の際に、イラク空軍の爆撃を受けた。1993年1月、イランはロシアとの間で、ブシェール1号炉の完成、運転開始、ウラン燃料の供給の協定に調印、契約高は約8億ドル。
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2 |
2003年6月19日付議長総括(Chairwoman's Summing-up Statement)のポイント。
(イ) |
イランに対し、速やかに、事務局長報告で特定された全ての保障措置上の問題を是正し、未解決の問題を解決するよう要求。
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(ロ) |
IAEAが必要とする全てのアクセスをイランが認めることを期待。関連の未解決の問題が解決するまで、信頼醸成措置として、核物質を濃縮パイロット施設に導入しないようイランに勧める。
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(ハ) |
イランに対し、濃縮活動に関する疑惑がある場所での環境試料採取をIAEAに許可するよう求めた事務局長発言に留意しつつIAEAと十分に協力することを求める。
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(ニ) |
イランに対し、速やかにかつ無条件に追加議定書を締結及び履行するよう求める。
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3 |
2003年9月12日付IAEA理事会決議のポイント
(イ) |
事務局長が加盟国に確証を与え、追加議定書が十分に適用されるまでの間、更なるウラン濃縮関連活動(ナタンズへの核物質の更なる導入も含む)、及び信頼醸成措置として、再処理活動を停止することを求める。
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(ロ) |
IAEAが核物質の転用がないことを検証できるよう、イランが本年10月末までに、全ての不備(failures)を是正し、IAEAと協力することが重要かつ緊急である。
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(ハ) |
すべての第三国に対して、イランの核計画に関する質問を明らかにするにあたって、IAEAと緊密にかつ完全に協力することを求める。
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(ニ) |
イランに対し、追加議定書を即時かつ無条件に署名、批准、完全履行、そして信頼醸成措置として、今後追加議定書に従って行動するよう、事務局と作業することを求める。
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(ホ) |
事務局長に対して、理事会が最終的な結論を出すことができるよう、11月もしくは適切な場合には、より早い時期に、この決議の履行に関する報告を行うよう求める。
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4 |
2003年10月21日、英仏独の外相がイランを訪問し、イラン政府との間で以下の内容の合意声明を発表。
(1)イラン政府の決定事項
(イ) |
IAEAの全ての要求及び未解決の問題に、完全な透明性をもって全面的に協力する。
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(ロ) |
信頼促進のため、IAEA追加議定書に署名すると共に、その批准手続きを開始する。また、批准前から同議定書に従いIAEAと協力を継続する。
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(ハ) |
核不拡散体制の下で原子力平和的利用の権利を有するが、IAEAが定義する全てのウラン濃縮・再処理活動を自主的に停止(voluntarily to suspend all uranium enrichment and reprocessing activities)。
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(2)英仏独外相は、イラン政府の決定を歓迎し、以下を伝達。
(イ) |
イランがNPTの下で原子力の平和的目的の利用を享受する権利を認める。
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(ロ) |
イランが今次決定を完全に履行し、これがIAEA事務局長により確認される場合、現下の状況はIAEA理事会によって解決できることとなると考える。
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(ハ) |
国際社会の懸念が完全に解決された暁には、イランは様々な分野における先進技術及び供給品(supplies)へのより容易なアクセスを期待できるであろう。
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(ニ) |
英仏独は、中東非核地帯の創設を含め、地域の安全と安定を促進するためにイランと協力する。
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5 |
2003年11月10日付IAEA事務局長報告のポイント
(イ) |
イランが、過去において、その原子力活動の多くの側面を隠蔽(conceal)し、その結果として、保障措置協定の規定に従う義務に違反(breaches)していたことは明白である。現在までに特定された違反(breaches)のほとんどは、限られた量の核物質に関わるものであるものの、濃縮及び再処理を含む核燃料サイクルの最も機微な側面を扱っていた。イランによる数々の不備は、重大な懸念(serious concerns)を惹起するものであった。
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(ロ) |
前回の8月26日付事務局長報告以降、新たに特定された違反は次の通り。
・輸入核物質を用いた未申告の濃縮実験及びウラン酸化物等の製造
・未申告での二酸化ウラン試験片の製造、照射、プルトニウムの分離等の実施
・これらの活動が行われた施設の設計情報の提出漏れ
・数々の事例における円滑な保障措置実施への非協力姿勢
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(ハ) |
現在までのところ、過去の未申告の核物質及び原子力活動が核兵器計画と関連しているものであったとの証拠はないが、イランの原子力活動が専ら平和的目的であるとの結論を得るには一定の時間(some time)が必要である。
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(ニ) |
緊急に調査が必要な問題の一つは、高濃縮ウランと低濃縮ウランの汚染源の問題であり、IAEAは、多くの国とこの問題に取り組む予定であるが、問題の解決にはこれらの国による全面的協力が不可欠である。
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(ホ) |
最近、追加議定書の締結及び発効前に追加議定書の規定に従って行動するとの意図を表明したことは、前向きな動きであり、また、ウラン濃縮関連及び再処理活動の停止を決定したことは、歓迎すべき動きである。
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6 |
2003年11月26日付IAEA理事会決議のポイント
(イ) |
イランが積極的な協力と公開性を提供し、9月12日付理事会決議の要求に前向きに対応していることを歓迎する。
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(ロ) |
イランのIAEAとの保障措置協定の規定に従う義務に関する過去の不備(failures)及び違反(breaches)に強い遺憾の意を表明する。
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(ハ) |
事務局長に対し、イランによって提供された過去及び現在の原子力活動に関する情報が正確かつ完全であることを確認し、未解決の問題を解決するために必要な全ての措置をとることを要求する。
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(ニ) |
イランに対し、全ての必要な是正措置に緊急に着手し、完了させること、完全な開示と無制限のアクセスに対するイランのコミットメントを履行するにあたってIAEAとの完全な協力を継続すること、IAEAが加盟国によって求められている確証を提供し維持するために必要な相当の作業を完了させるために不可欠な透明性・公開性を提供することを求める。
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(ホ) |
イランによる何らかの更なる重大な不備(any serious failures)が発覚した際には、理事会は、状況及び事務局長の勧告を勘案し、IAEA憲章およびイランとIAEAの保障措置協定に従って、とりうる全ての選択肢につき検討するために即座に会合を開くことを決定する。
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(ヘ) |
追加議定書を締結するというイランの決定を満足しつつ留意し、イランが速やかに批准すること、また、批准までの間、全ての必要な申告を要求された時間の枠内に実施すること含め、追加議定書が発効したのと同様の行動をとることの重要性を再び強調する。
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(ト) |
全てのウラン濃縮関連および再処理活動を自発的に停止するとのイランの決定を歓迎し、イランに対し、この決定を完全かつ検証可能な形で厳守することを要求する。
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(チ) |
事務局長に対し、3月理事会での検討のため、2004年2月中旬までに、本決議の実施に関する包括的な報告を提出すること、もしくは、適切な場合には、より早い時期に報告することを要求する。
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7 |
2004年3月13日付IAEA理事会決議のポイント
(イ) |
イランが積極的にIAEAと協力しているとの事務局長の報告を確認するが、これまでのイランの協力が不十分であるため、イランがその協力を継続し、強化することを要請する。
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(ロ) |
イランの追加議定書の署名を歓迎し、その早期批准を求める。
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(ハ) |
濃縮関連及び再処理活動の停止の範囲に関する、2003年12月29日及び2004年2月24日のイランの自主的な決定が有益な措置を構成することに留意し、イランが、この約束の適用範囲を、イラン全土にわたる全ての濃縮関連及び再処理活動に拡大することを要請する。
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(ニ) |
イランが、P2型遠心分離機の設計図の保有や機械テスト活動等について言及漏れをしたことは、遺憾である。
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(ホ) |
ポロニウム210の生成と意図されている使用についての実験に関連するイランの活動の目的の問題に関し、事務局長により表明された懸念に共鳴する。
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(ヘ) |
イランが全ての未解決の問題の解決のために必要な全ての措置を早急かつ積極的にとることを要請する。
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(ト) |
事務局長に対し、6月理事会の検討のために、5月末までに、若しくは適当な場合にはそれ以前に、報告を行うことを要請する。
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(チ) |
イランの申告の検証についての進展、及び、上記申告漏れへの対応についての検討を、6月会合まで、かつ上述の事務局長報告の受領後まで、延期(defer)することを決定する。
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8 |
2004年6月18日付IAEA理事会決議のポイント
(イ) |
イランの協力の結果として、求める全ての場所にIAEAのアクセスが認められるようになったことを認識する。
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(ロ) |
イランの協力が本来あるべき完全で時宜を得た積極的なものではなかったこと、特にイランが元々3月中旬に予定されていたIAEA訪問団の受入れを4月中旬まで延期したことによって、いくつかのケースでは、環境サンプル採取とその分析に遅れが生じたことは、遺憾である(deplores)。
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(ハ) |
イランが協力を継続し、強化することを求める。
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(ニ) |
イランが、全ての未解決の問題、特に低濃縮ウランと高濃縮ウランの汚染の問題とP2型遠心分離機計画の性格と範囲の問題の解決に資するために必要な全ての措置を緊急にとることを求める。
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(ホ) |
イランの追加議定書に基づく申告の提出を歓迎し、イランが追加議定書で義務づけられている更なる申告の期限を遵守することの重要性及び全てのそういった申告が正確かつ完全であるべきであることを強調する。
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(ヘ) |
イランが引き続き追加議定書の規定に従って行動することの重要性を強調し、イランが追加議定書を遅滞なく(without
delay)批准することを求める。
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(ト) |
イランによる全ての濃縮関連及び再処理活動を停止するという自主的な決定を歓迎する。この約束が包括的には実施されていないことは残念であり、イランに対して、1)残された全ての欠陥を是正すること、2)六フッ化ウランの生成と全ての遠心分離機の部品の生産を控えること等によって、イランの停止に関する決定の範囲についてのIAEAの理解との関連で存在する食い違いを取り除くこと、3)IAEAが停止を完全に検証できるようにすることを求める。
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(チ) |
イランが、更なる信頼醸成措置として、ウラン転換施設において生成試験を開始するという決定を自主的に再考すること、追加的な信頼醸成措置として、重水減速研究炉の建設を開始するという決定を再考することを求める。
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(リ) |
事務局長が、9月理事会の十分前に、若しくは適当な場合にはそれ以前に、これらの問題やイランに関する今回及びこれまでの決議の履行についての報告を行うことを要請する。
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