スリランカ復興開発に関する東京宣言(仮訳)
平成15年6月10日
東京会議の概要
- 6月9日及び10日、東京において「スリランカ復興開発に関する東京会議」(以下「東京会議」という。)が、51ヶ国、22の国際機関から閣僚を含む代表者の参加を得て開催された。参加した国及び国際機関のリストは別添のとおりである。小泉純一郎総理及びラニル・ウィクラマシンハ・スリランカ首相が開会演説を行った。開会会合においては、明石康日本政府代表が議長を務めた。
- 日本、ノルウェー、米国及びEU(議長国及び欧州委員会)が会議の共同議長を務めた。各共同議長を代表して、川口順子外務大臣、オーラフ・ヒョールベン・ノルウェー外務副大臣、リチャード・アーミテージ米国務副長官、イオアニス・セオファノプロスEU議長国代表及びベルンハルド・ツェプター欧州委員会代表が、開会会合で演説を行った。また、同会合では、千野忠男アジア開発銀行総裁が演説を行い、続いてジェームス・ウォルフェンソン世界銀行総裁のビデオメッセージが紹介された。
- 実務会合において、ジャヤワルダナ・スリランカ中央銀行総裁がスリランカの経済発展及び見通しについて報告を行った。世界銀行及び国際通貨基金がスリランカのマクロ経済パフォーマンス及び復興開発における課題についての報告を行った。アジア開発銀行及び国連システムが、世界銀行、アジア開発銀行及び国連システムによって、スリランカ政府及びタミル・イーラム解放の虎(以下「LTTE」という。)との緊密な協議の下に準備された、スリランカ北・東部の「ニーズ評価」についての報告を行った。「ニーズ評価」作成の過程においては、市民団体が協議を受けた。
- 全体会合において、参加国及び国際機関が発言を行い、スリランカへの経済支援を行う意図を表明した。市民団体及び民間部門によるスリランカ開発への貢献につき報告が行われた。
スリランカ和平プロセスの歴史
- スリランカでは、20年にわたる武力紛争により6万5千を超す人命が失われ、北・東部から80万人以上の国内避難民及び数多くの難民が発生した。現在の和平プロセスは、2000年に、チャンドリカ・バンダラナイケ・クマーラトゥンガ大統領及ウェールピッライ・プラバカランLTTE指導者がノルウェーに和平交渉の中立的な仲介者を務めるよう要請を行い開始された。ノルウェーの優れた仲介により、2002年2月23日に相互停戦合意が締結された。2002年9月以来、両当事者の間で6回の和平交渉が行われ、意義のある進展がみられた。2002年11月25日には、オスロ会合が開催され、参加した国及び国際機関が和平プロセスを支持するため、緊急人道支援の供与を約束した。2003年4月には、ワシントンDCにおいて、東京会議に向けた政治的モメンタムを構築するため、アーミテージ国務副長官が議長を務めて東京会議の事前セミナーが開催された。
東京会議の目的
- 東京会議の目的は、国際社会に対して、スリランカ復興開発についての力強い、一致した決意を表明するとともに、両当事者に対し和平プロセスの進展に向けた努力を倍加させることを勧奨するための機会を提供することにある。東京会議には和平プロセスの一方の当事者しか参加しなかったが、国際社会は、この機会に、北・東部の実効的な復興開発のための必要な行政機構の両当事者による設立を支援するとの決意を表明する。これらの地域を実効的に再建するためには、スリランカ政府とLTTEとの間の連携が必要とされよう。他のすべての共同体の利益を確保するために適切な保障措置がこの枠組みに含められるべきである。
- 東京会議は、スリランカが直面する経済的な課題に留意し、この関連で、均衡がとれた公平な基礎の上にスリランカを発展させるための包括的計画である、同国政府の「リゲイニング・スリランカ」イニシアティブを支持する。
- 参加者は、東京会議からのLTTEの欠席について遺憾の意を表明する。東京会議は、スリランカ政府に対し和平プロセスの継続に向けた決意を再確認し、スリランカ復興開発に焦点を当てる機会を提供する。
和平プロセス促進における東京会議の重要性
- 参加者は、スリランカにおいて交渉により紛争が解決すれば、武力紛争の平和的解決の画期的な成果となるであろうとの認識を表明する。東京会議は、両当事者が統一されたスリランカの中における連邦構造に基づいて、永続的で交渉を通じた和平を実現するとの決意を有していることを賞賛する。更に、東京会議は、スリランカのすべての人々に目に見える平和の配当をもたらす重要性を強調する。
均衡のとれた人道・経済支援
- 東京会議は、北・東部の紛争により影響を受けた地域を再建し、スリランカ全体の発展を支援する上で緊急人道支援及び中長期的支援が有する重要性に留意する。東京会議は、支援の提供にあたって、微妙な民族的・地理的均衡に十分配慮することの重要性を強調する。東京会議は、紛争により影響を受けた地域におけるニーズを特定した北・東部における「ニーズ評価」を歓迎する。援助国及び機関は、東京会議に提供された基礎資料、すなわち「リゲイニング・スリランカ」、北・東部における「ニーズ評価」、北・東部に隣接し、紛争に関係を有する地域の「ニーズ評価」、並びにこれら二つの「ニーズ評価」及び「リゲイニング・スリランカ」の関連付ける連結文書を基礎として、スリランカに対する支援を供与する意図を表明する。
援助国及び機関による支援
- 東京会議に参加した援助国及び国際機関は、2003年から2006年までの4年間にわたり見積額累計45億米ドルを超す支援を行うとの意図を表明した。また、一部の国及び国際機関は技術協力の提供を申し出た。他の一部の国及び国際機関は、自らの支援についての約束が和平プロセスが存続可能であるとの仮定に基づくものであることを明らかにした。
- いくつかの国及び国際機関は、支援の相当部分が北・東部に対するものであることを明示した。これら国及び国際機関の一部は、そのような支援の実施が、和平プロセスの満足の行く進展に応じて行われることを表明した。他の国及び国際機関は、このような進展があれば、追加的な約束について検討するとの意図を表明した。
北・東部における支援の経路
- 国際社会は、人道支援及び人権保護を支持することに引き続きコミットし、また、この機会に、両当事者に対し、北・東部における復興開発のための創造的な行政機構について合意に達することを勧奨する。国際社会は、この目的のために両当事者と協力する決意を再確認する。この行政機構は、それ自体がスリランカの和解プロセスに寄与する。東京会議は、北・東部において既にいくつかの人道支援計画が、現地NGO又は国際NGOと協力し、二国間又は多数国間の経路を通じて実施されていることを満足の意をもって認識する。東京会議はまた、北・東部における支援の重要な経路として、世界銀行によって運営される「北・東部復興基金(NERF)」の設立を歓迎する。東京会議は、スリランカ政府及びLTTEが、援助国及び国際機関からの様々な形態の支援を受け入れるための柔軟性を持つ必要性につき強調する。援助国及び機関はまた、その支援を受けて行われる計画が、説明責任を負い得る形で、信頼性、透明性、迅速性及び効率性をもって実施されることを確保するために、良好な統治の能力を高める支援を行う意図を表明する。
力強くかつ成長志向的なマクロ経済政策の重要性
- 東京会議は、「リゲイニング・スリランカ」に盛り込まれた健全なマクロ経済政策の実施がスリランカ政府にとって緊要であることを指摘する。東京会議は、貧困削減を目的とした経済政策の必要性を強調する。持続的発展のためには、経済成長、雇用創出及び民間部門に対する活力の付与も重要である。
和平プロセスの進展
- 東京会議は、過去6回の和平交渉において意義のある進展があったことに留意する。援助国及び機関は、スリランカ政府及びLTTEに対し、オスロ宣言に明らかにされた原則を基礎として、両当事者が和平プロセスの更なる進展のために最大限の努力をすることの重要性を指摘する。援助国及び機関は、北・東部における紛争により影響を受けた地域の人々に対して緊急に支援を行う必要性があることを認識し、このための分配を行う。北・東部に関する優先順位の決定及び計画の実施については、LTTEと連携しつつ作業を進めるスリランカ政府と協力しつつ、すべての共同体の利益擁護のための適切な保障措置をとりながら、これを行う。東京会議は、北・東部の復興開発のために、援助国及び機関から約束された支援が、所期の目的に使用されることをスリランカ政府が確保することを期待する。
- 東京会議はまた、両当事者が永続的かつ公平な政治的解決に向けて速やかに行動することを強く求める。そのような解決は、人権の尊重、民主主義及び法の支配に基づくものでなければならない。この点で、東京会議は、両当事者が、箱根で開催された第6回和平交渉で議論された人権宣言について、早急に合意に達することを期待する。
- 東京会議は、LTTEが交渉による和平プロセスにコミットしていることを歓迎し、LTTEが可能な限り早急に和平交渉の場に戻ることを強く求める。北・東部の紛争により影響を受けた地域の人々が直ちに平和の配当を享受できるようにしなければならない。北・東部の紛争により影響を受けた地域の復興開発に対して国際社会が支援を供与するためには、和平プロセスの更なる進展に対するスリランカ政府及びLTTE双方の明確な決意が必要とされる。
援助国及び機関による支援と和平プロセスの進展との関連付け
- 援助国及び機関による支援は、オスロにおいて両当事者が合意した目的の達成に向けて和平プロセスが実質的にかつ並行して進展することと密接に関連付けられなければならない。東京会議は、スリランカ政府及びLTTEが、移行過程の復興開発面を管理する暫定的行政機構について、できる限り早期に折衝に入るよう勧奨する。この過程は、相互に受け入れることができる最終的な政治的解決への道筋を示す到達目標を含めた行程表の迅速な策定を必要としよう。これを踏まえ、国際社会は、特に以下を含む目的ないし到達目標に言及しつつ、和平の進展状況を綿密に検討し、監視することとする。
- 両当事者による停戦合意の完全な遵守
- 北・東部の開発活動についての効果的な実施メカニズム
- タイにおける第4回和平交渉の宣言に盛り込まれた合意に沿ったイスラム教徒代表の参加
- オスロ宣言の原則に基づく最終的な政治的解決に向けた並行的な進展
- 武力紛争により生じた避難民問題の解決
- すべての人々の人権の効果的な促進及び保護
- 女性が政治的な場又はその他の意思決定レベルにおいて公平に代表されるべきことを強調しつつ、性の公平及び平等を、平和構築、紛争状態からの移行及び復興のプロセスに含めること
- 未成年者の徴兵を停止し、徴兵された未成年者の解放及びそれらの者の社会への復帰・定着を促すため、国際連合児童基金に支援された「行動計画」に沿った効果的な措置を実施すること
- 北・東部における元兵士及び文民であって武力紛争のために肉体的・精神的に障害を負った者の社会復帰
- 政治問題の解決に至るまでの文脈において、段階的で、均衡のとれ、かつ検証可能な緊張緩和、武装解除及び正常化のプロセスについて、スリランカ政府及びLTTEが適当な時期に合意すること
市民団体・民間部門からの貢献
- 東京会議は、2003年4月26日から27日までにコロンボにおいて、また6月8日に東京において開催された市民団体の会合から提供された貢献を歓迎する。東京会議は、市民団体の熱意ある継続的な関与が、両当事者による挑戦への取組みを成功させるために不可欠な重要性を有すると考える。東京会議は、民間部門が果たす活力ある役割に勇気づけられる。東京会議はまた、学界、労働組合、職能団体、宗教団体等からの貢献を認識する。
検討及び監視
- 援助国及び機関による支援が、和平の進展と相互に関連付けられていることにかんがみ、国際社会は、和平の進展状況の検討及び監視を行う。援助国及び機関は、自らの援助計画の実施にあたって、このような定期的な検討の結果を注意深く考慮する。日本は、ノルウェーの仲介者としての立場に十分配慮しながら、米国及び欧州連合と協力しつつ、できる限り早期にこの目的のための方途を策定すべく必要な協議を行う。
今後の取組み
- 東京会議は、同会議を主催した日本政府に対し、同会議の結果をLTTEに伝達することを要請する。
|