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座談会
「 150年の歴史を新たな時代につなげるために
- 日ロ関係改善の機は熟している」

(「外交フォーラム」平成17年2月号より転載)


[司会]松田邦紀 外務省欧州局ロシア課長
下斗米伸夫 法政大学教授
高垣佑 (社)ロシア東欧貿易会会長、(株)東京三菱銀行相談役
吉田成之 共同通信社外信部長

プーチン政権2期目の内政

松田 2005年は、日魯通好条約調印150周年、第二次世界大戦終戦後60年、日露戦争から数えても100年、そういう節目の年です。政府・外務省は2005年を日ロ関係にはずみをつける、特別な年にしていきたいと考えています。本日は現在のロシアの状況と今後の展望、最近の日ロ関係の動向について、またプーチン大統領の訪日を控えて今後の日ロ関係をどのように進めていくかについてご議論いただきたいと思います。
 まずロシアの内政です。2003年12月の議会選挙で大統領を支持している「統一ロシア」が大勝し、選挙後には下院の3分の2以上の議席を確保しています。次いで2004年3月の大統領選挙ではプーチン大統領が70%以上の得票率を得て再選されています。大統領の立場からすると、政権の基盤を強化した上で第2期目に入ったといえます。しかし、2004年8、9月に一連のテロ事件が起こり、特にベスランの学校占拠事件では330人以上の犠牲者を出すなど政権にとって衝撃的な事件となりました。大統領は、テロとの闘いのために必要であるとして、知事などいわゆる連邦構成主体の首長の事実上の大統領による任命制を導入するなど全体としてクレムリンの権力をさらに強化する制度改革を行なおうとしています。これに対しては欧米諸国や日本のメディア、専門家の多くが、政権の権威主義化への懸念のトーンを強めているほか、諸外国の政治家の中にも明確に批判的な発言を行なっている人もいます。このように、政治的には安定したけれども、他方で権威主義の強化が懸念されている現在のロシアの政治状況をどう見ていらっしゃいますか。

下斗米 「第2期」がキーワードだと思います。第1期プーチン政権はエリツィン大統領の後継という色調を帯びていた。大きな転機は、ホドルコフスキー逮捕問題です。2003年10月に、ロシアの巨大石油企業ユコスのホドルコフスキー社長を横領・脱税等の容疑で逮捕しました。ホドルコフスキーは、プーチン政権下での暗黙の合意であった政経分離に挑戦した。しかしプーチン大統領はオリガルヒ(寡頭財閥)を政治にコミットさせない形で大統領選を乗り切った。反面、オリガルヒ周辺にいた意欲的で有能な人たちを政治システムに関与させない構造ができてしまった。その結果議会与党も「プーチン大統領の支持クラブ」の域を越えておらず、政党の体をなしているとはいえない状況です。今ロシアで行なわれている政治改革は、戦後日本のような、1つの強力な与党に建設的な野党という、「ロシア版55年体制」を考えようとしている節がありますが、その方向に動かす力がない。
 行政改革を見ても、89の連邦構成主体はもともとソ連の統治システムで、プーチン政権第1期は行政の目付け役の仕組みを作っただけでした。この整理を、例えばコザク委員会で考えていたわけですが、今のところ出てきた改革案も、知事など連邦構成主体の首長の事実上の大統領による任命制です。いまの中央とロシアの関係は複雑な連邦制、非対称な連邦制と言われています。結局地方の政治も、その地域に石油が出るのか、軍需産業があるのか、農業地域かによって色合いが違うマフィアに独占されている。したがって、上からコントロールをしようにも、実際には首長たちはプーチン大統領に賛成だと言って免罪符を得ているに過ぎない。それが第2期プーチン政権のパラドックスです。周辺からのインプットを遮断してしまったので、大統領自身が考え、遂行せざるを得ない。ですから政治が勢いテロ、ウクライナの大統領選挙という個別の事件に振り回されている印象があります。

吉田 第1期プーチン政権は、冷戦時代の生き残りと彼が引き連れてきたサンクトペテルブルググループあるいはKGBグループの混成部隊で発足したわけですね。政治・経済あらゆる制度的なものを掌握して強力に改革を進めて、経済の浮揚を進めるのが1期目の政策だったと思います。
 2期目に入って、プーチン化、すなわちプーチンのためのロシアという色彩が濃くなってきた。ですから日本の55年体制的な制度化が進むというよりは、プーチン大統領個人の権威主義的な体制が強まりつつある。ウクライナの大統領選挙へのロシアの介入ぶり――例えばロシアでヤヌコビッチ候補の宣伝の広告が溢れるというような異例の形をみると、なりふり構わぬプーチン大統領の権力集中の一端を表していると思います。地方首長の任命制も、うまく機能すれば、よりプーチン大統領に権力が集中して、さらに経済改革、行政改革が進むかもしれません。しかしロシア国内には、プーチン大統領はそれぞれの地方で実権を握っている地方のリーダーたちと妥協せざるを得ないという冷めた見方もあるようです。プーチン大統領が権力を集中しようとすればするほど裸の王様化が進むのではないかという懸念もあります。

高垣 一種のジレンマを感じながら私はプーチン大統領の動きを見ています。プーチン政権になって、ロシアは1つの法秩序を形成する方向に向かって精力的に動いていると思います。その方向性は、われわれから見ても望ましい方向です。ただ執行段階には至っていない。中央と地方の断絶や格差がある。そう考えると、国家としての一貫性を保つためにはある意味強い政権が必要です。欧米流の論調で、現在のロシアに対して民主主義に逆行していると批判しても的はずれのように感じます。知事の任命制などの施策が、住民や他国との協力関係に実際にどのような影響を及ぼすかを見ることが必要です。プーチン政権は2期目に入ったわけですから、大統領がやりたい政策をやって、その結果についてロシアの中できちんと評価をするような気運が出てくることが大事だと思います。

松田 ロシアに限らずいずれの国においても、静的なものとしての政治制度、法律制度と、それが実際どう運用されているのかということには、歴史的経緯や国民性などいろいろな理由があって、差があるのは当り前のことです。そういう中でロシアが、一方で客観的には民主主義国家としての制度・法律を整備しているのは事実ですが、運用面ではどうなっていくのかはよく見なければなりませんね。

下斗米 エリツィン体制とは何だったのかを考えると、ソ連崩壊後、地方の首長たちの現状維持と引き換えに大統領権力を得たという構図がありました。したがって、地方の首長とクレムリンはバイの関係の束で、基本的には法律が規制してはいなかった。地方と地方との関係も、バラバラであった。
 プーチン政権を捉える大きな柱の一つに、政治社会の安定度をどう見るかということがありますが、その点ではかなり安定しています。例えばストライキの件数は、1998年の経済危機の時は1万件余ですが、03年は60数件でした。もっとも04年は多少増えたようです。あるいは最近、ロシアの雑誌ではベビーブーム特集を組んでいましたが、ようやくロシアの女性たちが子どもを産むようになった。それだけ将来に見通しが出てきたということです。そういう意味で、ある種の安定効果がプーチン政権の中にあるのだと思います。問題はその先にどういう改革のプログラムをインプットしていくかということです。そこが経済改革、行政改革で見えてこない。あるいは突然大統領の一言でポッと出てくる。そういうところが気になります。

吉田 冷戦崩壊直後は、段階的に西欧的な民主主義社会に加わるのではないかという見方もありましたが、プーチン政権2期目に入ってからの動きを見ると、当面はロシア型の社会を歩んでいくように感じます。権力の集中に対して内部から批判が出る社会にはならないでしょう。なぜなら、これでいいのだという現状を肯定する新しい世代、まず自分の生活の安定を優先するという世代も現れています。ロシア社会は独自の道を歩み始めたといえます。

松田 健全な国家の繁栄のためには、安定した中間層、市民層の存在、それを前提に政府から独立した言論機関の存在が不可欠です。ジャーナリストとしてご覧になって、現在のロシアの状況はいかがですか。

吉田 そこがまさに市民社会ができるかどうかの一つのメルクマールになります。ロシアのジャーナリストは、声高にはプーチン政権を批判していませんが、非常に冷めた見方をしています。改革派のジャーナリストたちも、自分たちが何を書こうが世論がついてこないと悲観的でした。ですから、マスコミの限界というよりも、今のロシアの世論、国民性の問題です。

好調なロシア経済

松田 一方で経済は客観的には好調です。プーチン1期目の4年間の国内総生産(GDP)成長率は年平均で6.7%。この好調は続いており、今年は7%前後の成長が予想されています。外貨準備高も1000億ドルを超えていますし、財政も予想以上の大幅な黒字で、ロシア政府は対外債務の早期返済を決めるなど、90年代のロシアの経済混乱、財政混乱を覚えている者としては隔世の感がある。また、政治面での権威主義傾向やユコス事件などへの懸念にもかかわらず、ロシアへの外国投資は昨年から急速に伸びています。しかし、このような経済の好調は、主として石油価格の高騰によるものです。そのためにロシア経済はますますエネルギー資源への依存を強めており、その経済はなお脆弱であるとの指摘もなされています。また大統領は2期目の優先課題として貧富の格差の解消、経済成長の達成を大統領教書の中で謳っています。ロシア経済の当面、中長期的な見通しについていかがでしょうか。

高垣 マクロ経済としてはロシアはいまうまくいっていると思います。世界銀行の評価でパフォーマンスがいい経済の一つとして挙がっている状況です。その牽引車になっているのはやはり石油と天然ガスなどエネルギーセクターです。そして所得水準が上がり、消費量が大きくなった。問題は、石油、天然ガスを中心とする資源に偏りすぎていることです。そして消費経済を支える製造業がどれだけ伸びるか、設備投資がどこまでついていくかが今後の課題です。それから、モスクワを中心に、東にシベリアの際まで行っても活気がありますが、さらに極東や、南のコーカサスに行くと経済力が落ちていく。その格差が問題です。
 一部の地域・部門で経済成長が進んでいるために、一つの新しい中産階級が出てきています。その人たちのものの考え方は、旧ロシア人のものとは異なります。経済成長が順調に進み、さらに浸透していくと、それが政治体制に反映する可能性がある。そこに一つの楽観的な材料があると思います。

下斗米 ブレジネフ体制と比較できると思います。ブレジネフ体制は、世界中がオイルショックで苦しんでいた時に、オイルバブルであったために、結局貴重な改革をする時機を逸して、崩壊につながった。今のロシア経済は石油ガスの高騰に支えられているわけで、99年段階の1バレル9ドルの世界にいつ戻らないとも限りません。ロシアの改革派の人たちはよく、「北のサウジアラビアだ」と言っています。でもロシアは北のサウジアラビアにならないポテンシャリティをもっています。それはロージナのようなグループでも軍事産業とは異なる選択肢を要求しているところにみられます。それに見合う工業都市には優秀な労働力や学者集団がある。ただそこをどうやって改革につなげていくかが見えてこない。

吉田 私は二つ注目しているところがあります。一つはゴルバチョフ時代に始まったペレストロイカの時に、ペレストロイカの道か、あるいは中国化の道かといわれました。ゴルバチョフ大統領ははまず、政治の自由化、政治改革を始めた。中国は経済優先、政治体制維持だという別の道を動き始めた。その後の経過を振り返ると、ロシアと中国は少しずつ同じような道に収斂してきたように感じますが……。ロシアがこれから歩む道は、経済の関係も含めて非常に興味深い。もう一つは、ロシアの経済が非常にうまくいっていることに、奢りが感じられる。これが気になります。プーチン大統領は2004年11月の軍指導部の会議で、ロシアは今後数年内に他の諸国にはない新型の核兵器を配備する計画だと述べたことが報道されています。昔の大国の郷愁が依然残っていて、政策が上滑りをしている。そういったことが今後、ロシアの対外政策にどういう影響を与えるのかがポイントになると思います。

外交はどう展開されるか

松田 外交に関しては、ロシアとしては旧ソ連の兄弟国であるCIS諸国との関係の強化、それからNATO・EU拡大等でだんだん大きな存在になっているヨーロッパとの関係、ヨーロッパにおける自分の位置付け、そしていま唯一の超大国アメリカとの関係が重要だと言われてきました。第2期政権に入って2004年5月の年次教書で、アジア・太平洋に眼を向けて、中国・インド・日本との関係についても具体的に言及されています。ロシアの第2期政権の外交はどう展開されるのでしょうか。

下斗米 ロシア外交の最大の問題は、いわゆるCIS諸国関係です。ソ連崩壊を通じて最大の問題が実はウクライナ問題でした。ウクライナのクラフチュク政権がクーデターに加担しかけていて、その訴追を逃れるために独立というカードを切った。そして東側のロシアとつながりの深い地域も含めて一斉に独立に走った。それが西側のウクライナでのナショナリズムと響きあってソ連崩壊が起きたわけです。その後アメリカやヨーロッパは旧ソ連空間をある種多元化しようし、その結果GUAAM(グルジア、ウクライナ、アルメニア、アゼルバイジャン、モルドバ)がロシアの大国化、帝国化への牽制となった。GUAAMのなかでもロシアに弱いのが、UAAMで、プーチン政権は1期目からUAAMのほうにずっと関与して、ロシアに引き戻そうとしたのです。特にグルジア、ウクライナでいま起きているのは、これに対する揺り戻しです。ウクライナの、特に西部には親ヨーロッパ的な雰囲気があります。その結果、ウクライナの中のポピュリズムが盛り上がっていて、これに対し、旧ソ連のハートランドであった東ウクライナの権威主義とぶつかっている。この問題の処理を間違えると、ロシア自身が分裂してしまう。この問題は大きいと思います。ウクライナという彼らからすれば心のふるさとと感じているところが揺れているとなると、長期的にはロシアは東側にシフトせざるを得ない。教書に出てきている中国・インド・日本・朝鮮半島へのシフトは、長期的・構造的な問題になってくると思います。まさにいまその順番どおり関係改善が図られています。韓国とは首脳会談がありましたし、2004年10月に胡錦濤国家主席との首脳会談で懸案の国境問題を処理し、12月のインド訪問を経て、2005年に日本との関係改善をする、というプログラムです。

吉田 以前は、プリマコフが少々アメリカに厳しい行動に出て、それに対してプーチン大統領がより親米的なことを言ってバランスをとっていた。プーチン大統領は理性を代表し、プリマコフさんのグループはより旧ソ連への郷愁、旧来の伝統的な価値観を代表していた。ところが最近気になるのは、今度のウクライナ大統領選への介入も含めて、プーチン大統領の外交政策をみると、「プリマコフ化」している印象を持ちました。これは2期目のプーチン外交の1つの変化の予兆のように感じます。
 そういう意味では、これからの米ロ関係の流れが注目点です。この1、2年のアメリカとの関係を見ると、米ロ間には9・11直後のような親密さはもう感じられません。ブッシュ政権が2期目に入って、米国の対ロ外交がどう変化してくるかが興味深いところです。ウクライナ問題を契機としたブッシュ政権の発言を見ても、プーチン政権に対して冷ややかです。それがめぐりめぐってロシアの対日政策にも影響してくるわけですから、ブッシュ政権2期目の米ロ関係は重要です。

松田 ソ連時代の共産主義というイデオロギーに裏づけられた外交、あるいはエリツィン大統領になってからは混乱した時期を経て、ある種プラグマティックな側面がプーチン大統領のもとで外交に出てきているように感じます。経済協力の分野では特に、EUとの関係強化、あるいはWTO加盟についてもひところと異なり、本格的にかつ本気で各国との交渉を進めています。また、先ほどご指摘のあった東へシフトすることの背景には、経済発展著しいアジア・太平洋地域、中でも中国、あるいは巨大な経済国にならんとしているインド、そして日本ともある種プラグマティックな関係を求めていることもあるでしょう。

高垣 ロシア・東欧貿易を考える際に肝心なことは、モスクワがヨーロッパとアジアとの関係をどう考えているかということです。ロシアに対する投資量・内容をみると、ヨーロッパが中心です。ですから、ウクライナ問題という微妙な問題はあっても、最終的な軸足はヨーロッパにあるように感じます。広大な領土、豊富な資源、成長力がありますから、もちろんアジアも大事だと思っているでしょう。しかしどうも足の置き方が安定していない。例えば、私が関わっていたABAC(APECビジネス諮問委員会)でも、ロシアの委員を見ていると、とても本気だとは思えない。東のなかで無視できない国は中国だととらえていると思います。文字通り隣国です。今東に対する必然性があるとすれば経済でしょうが手がまわりません。

日ロ関係の新たな動き

松田 さて、2003年1月にモスクワを訪問した小泉総理がプーチン大統領との間で日ロ関係を幅広い分野で、全面的に発展させよう、日ロ間の最大の懸案である領土問題を解決しようという気持ちをこめて「日露行動計画」を採択しました。好調なロシア経済やエネルギー分野における二国間協力の進展を背景に上向きつつあって、2003年の日ロ間の貿易高は対前年同期比31.3%の増加で、今年も同様の伸びを示しています。ただし、米中韓など他の隣国との経済関係と比較すると、いまだに低い水準にとどまっています。まず、日ロ経済関係について、どのような可能性があるでしょうか。

高垣 ここ数年の日ロ経済関係をみると、実績より期待感が強いのかもしれませんが、少なくとも発展の方向に向かっていると思います。2004年の日ロ貿易額は第三国経由のものも入れると、100億ドルになろうとしています。ちなみに、日中貿易はいまや2000億ドルを目標にする規模ですから、それと比べると小さいのですが……。大事なのは、その内容が多角的、多面的になってきていることです。つまり、以前は各種資源の輸入と家電製品や一部機械の輸出という単純な形だったのが、今日本からロシアには、貿易とロシアには産業機械、家電、自動車等をはじめ、環境・住宅関係、化粧品、ファッション、スーパーマーケットの各事業で動きが見られます。ロシアの経済規模はいまそれほど大きなものではなく、オランダくらいの規模です。しかし、年々7%程度の成長をしており、西ヨーロッパもアメリカも成熟市場になっていますから、日本からすれば、伸びる経済、市場としてロシアが出てきているといえます。
 ただ、そうはいっても外国企業がロシアに進出するのは制度や法律の面でなかなか厳しい面があります。ロシア側には投資を阻害している要因を認識し、直してもらわないといけない。潜在的には大きな可能性がありますが、それが実現するかどうかの鍵は、私はロシア側にあると思います。

松田 日ロ間の経済協力関係でいえば、石油、天然ガス、石炭等をはじめとするエネルギー分野における協力が進んでいます。サハリンプロジェクトや太平洋パイプラインの建設に向けた日ロ間の協議が行われている。パイプラインプロジェクトは実現されれば、東シベリア地域の開発の促進や、アジア太平洋市場への原油供給を通じたエネルギー安全保障の強化といった観点から、日ロ双方にとって互恵的なプロジェクトが実現することとなります。
 さて、2004年の11月にはプーチン大統領、ラブロフ外相がそれぞれ、日本との最大の問題である領土問題に関して、いわばロシアの国民に対して働きかけるという注目すべき発言もありました。領土問題についてはいかがでしょうか。

下斗米 最近新しい動きがありました。1つは、11月のプーチン大統領、ラブロフ外相の発言です。日ロ関係改善の意欲があるということを示しています。2つ目に、このところ、97年からの日ロ関係の進展が止まっていましたが、もう一度ロシア側からカードを切ってきた。その前提として中ロの国境問題の解決がある。領土問題を最高首脳レベルで解決できるという前例を示したわけです。加えて、さらに2島の引き渡しまで言い始めた。日ロの間に開きはありますが、問題の置かれている文脈が変わってきた。今、日ロ関係が領土問題を含みつつも、違った次元で論じるべきことがたくさん出てきています。アジアのエネルギー問題や安全保障問題など重要な課題での日露交流は進んでいます。
 注目すべき問題は、実は平和条約は、1945年に蒋介石とスターリンが一緒にやろうと決めたんですね。領土問題は中国の要素が案外大きい。1954年秋にはフルシチョフが旅順港に行って、ソ連軍の引き揚げを言った。毛沢東とスターリンが合意した上でソ連は鳩山政権と交渉を始めている。73年の田中訪ソでは、残念ながら中ソが対峙していて、この問題を解決する条件は整わなかった。冷戦後のいま、中ロが関係を改善して、米ロが安定2期政権に入り、小泉政権もまた安定して、しばらく内政に向く必要がない。こういう時期ですから、日ロの対話の条件は整っていると思います。こういう歴史的チャンスは生かすべきですし、機は熟していると思います。

吉田 プーチン大統領が再選されて、2004四年夏頃から対日平和条約問題についての政策の再構築、再点検に乗り出した徴候があった。その結果として、秋以降例の発言がでてきたわけです。私はプーチン政権は本気だろうと感じています。プーチン政権1期目から私が一貫して感じるのは、日本との領土問題を終わりにしたい、という強い意欲です。2期目のプーチン政権はさらに権力を強めて、より本気度が高まった。それを日本側がどう受け止めるか。従来の平和条約の話し方と協議の進め方、あるいは哲学を、日本側も考えないといけない。いわば技術論だけではもはやすまなくなっているのではないでしょうか。

松田 日ロ関係の最大の懸案は、領土問題を解決して平和条約を締結する問題ですから、政府としても、日本固有の領土である北方領土の帰属の問題を解決し、平和条約を締結するという一貫した基本方針のもと、粘り強い交渉を続けています。
 最後に日ロ関係の構築に向けて一言ずつお願いします。

2005年を関係再構築のきっかけに

下斗米 肝心なのは、日ロ関係をずっと見てきて、この2、3年再び互いの国への関心が強まったことです。2002~03年には、人の行き来が観光レベルで6割くらい増えたと言われていますし、ビジネスも活発になっています。
 それでも残念ながら、今モスクワにいる日本人の登録は1000人程度で、私がモスクワに最初に行った75年ころからほとんど変わっていません。ドイツ人はあのころ同じくらいだったのが、いまは10倍以上いる。今年、ロシアの某新聞のインタビューを受けた時に、「寿司バーはあるけれども、日本人はいない」、と書いたことがあります。ロシアに行く日本の航空機は週に1便しかない。だから日本人が気軽にソウルにいくような感じがないのでしょう。人の往来は以前よりは増えたとはいえ、例えば中国の人的交流に比べると圧倒的に少ない。大学でロシア語を勉強する人も減る一方で、ロシア語の先生が中国語の先生に変わるというありさまです。もう、日本のロシア屋さんとロシアの日本屋さんだけが交流しているという状態を脱して、普通の人の普通の交流、つまりマルチの交流を強めたいと思っています。

吉田 同感です。モスクワで経済を見ると日本の影は大きくなっているものの、やはり人的交流は少ないですね。そのなかで注目したいのは、テニスプレイヤーのシャラポワ選手です。彼女の登場で日本でのロシア・ロシア人への関心や風向きが変わったように思います。日ロ間で新しい弾みをつけるには、日ロ間の「ヨン様」が必要です(笑)。数年前、日本と韓国の間でこれだけ人の往来が活発化し、精神的にいろいろなものの考え方が接近するとはだれも思わなかった。日ロの間でも、「ヨン様」のようなスターが出てくれば、日韓間で起きたことが起きないとは限りません。

高垣 日ロ関係の緊密化には、各方面で人の交流が増えることが基本だと思います。ところがいまだにロシアに行くのは不便です。日本の航空会社の幹部に、なぜモスクワ便を飛ばさないのかと聞くと、シベリアの上空を飛ぶのは非常に高い通行料がかかるということでした。それなら、政府に航空交渉をやってもらったらどうかと申し上げました。やはり物理的に、便数を増やすことが必要です。民間も一生懸命やりますから、政府にも頑張ってもらいたい。特に極東に行く便は全部ロシア機です。これでは、一般の方はなかなか増えません。
 過日、はじめてヤクーツクに行った時には、しかたがないのでチャーター便で行きました。通常のルートでは乗り換えを含めて2日かかるところ、4時間で着きました。ヤクーツクにはマンモスの遺跡もありますし、ダイヤモンド鉱山も展示販売室もあり、ダイヤを買った人によると安いそうです。アレンジの仕方次第で観光地になるでしょう。
 最近ハバロフスクでは、街を歩いても、博物館にいっても、中国の方がずいぶん多い。前はそんなに目にしませんでした。ハバロフスクには日本センターを置いていますが、中国は黒竜省に5カ所、対極東ロシア用の生産・輸出基地を作っています。距離的にも近いし、商品をそこからどんどん持っていく政策をとっている。この中国の積極性に比べると、日本の体制は弱い。極東ロシアとの交流を日本はもっと深めるべきです。

松田 多面的な人の交流は、総理の打ち出された大方針、つまり幅広い分野での日ロ関係の全面的な発展ということですね。そして日ロ間に長きにわたって残っている領土問題についても、解決しようという意欲が双方で出てきています。2005年、この150年間の日ロ関係の来し方を思い、これからの行く末を日本側でもロシア側でも改めて考えるよいきっかけになればと思います。
 本日はありがとうございました。


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