第3回日・アラブ対話フォーラム
(2005年1月8日~9日、於:サウジアラビア・リヤド)
(主催者であるサウジアラビア側が発表した概要の仮訳)
2005年1月
背景
日・アラブ対話フォーラムのメンバーは、悲惨な地震と巨大な津波の結果、アジアと東アフリカの海岸をおそった大きな悲劇の中で集まった。参加者は、犠牲者に対する悲嘆と悲しみ、この悲劇的な事件の生存者に対する哀悼の意を表明し、地震と津波の結果に対処するために連帯と支援を誓約した。
日・アラブ対話フォーラムは、日・アラブ間のアイディアを検討し、協力を強化するための非公式な手段として設立された。これまで二回の会合が開催された。
第一回会合は、2003年9月に日本の東京で開催され、次の議題を議論した。(1)戦後イラクと国際社会の役割、(2)中東における経済社会開発
第二回会合は、2004年3月にエジプトのアレキサンドリアで開催された。次の三つの議題が詳細に議論された。(1)文化の対話、(2)アラブ世界における経済社会開発、(3)イラクの復興支援。第三回会合は、2005年1月8日~9日にリヤドで開催され、政治、経済、文化の問題につき大所高所から意見が交わされた。
第三回会合の焦点は、行動及び具体的な成果に当てられた。したがって、第三回会合のテーマとして、「ビジョンから実施へ」が選択された。その主要な目的は、過去の二回の会合における議論やアイディアを固めることであった。リヤド会合の議題は、過去の会合において特定された行動とそれを実施するための方策に集中した。同会合は、政治、経済、文化の見出しの下に区分されるトピックスをカバーした。
A.政治問題
同会合は、イラク及びパレスチナの情勢に取り組んだ。
イラク
イラクの政治プロセスは、1月30日の選挙が近づくにつれ、正念場にさしかかっており、すべての参加者は、選挙が予定通り進むことを期待している。治安の状況が改善した際には、特にライフ・ライン・インフラの分野における復興の努力を加速することが必要であろう。資金は、債権放棄や新規の財源から利用可能になるべきであり、パリ・クラブのメンバー以外の債権国及び民間債権者双方がパリ・クラブの債権国と同様にイラクの債務削減を行うことが期待される。状況を注意深くモニターする必要がある。
当面、困難にも関わらず、いくつかの活動は、継続されることができる。
⇒日本及びエジプトによって実施されている医療プログラムは順調に進んでおり、拡大されつつあることがしかるべく留意された。しかし、参加者は、人道支援の十分な拡大にはイラクにおける平和と安定が必要であるとの感をもった。同様に、サウジも、人道支援及び医療支援を提供した。
⇒ライフライン再建活動の訓練は、イラク国外でも可能であり、実際に行われつつある。しかし、イラク国内における活動規模の拡大には平和と安定が必要となる。
パレスチナ
⇒参加者はまた、中東における最近の事態の進展についてもレビューし、現在は、重要な移行期にあるとのことで合意した。パレスチナの選挙は、進行中であり、和平プロセス再開の見通しは、依然不確かである。
⇒国際社会は、新たに選出される長官の下で責任ある統治体制が確立されるようパレスチナ新指導部を支援する最大限の努力を行わなくてはならない。
⇒日本は、選挙実施支援に向けた財政支援の提供、選挙監視団の派遣、新たに選出されるパレスチナ指導部に対する6000万ドルの追加支援の提供を発表した。
⇒パレスチナの新指導部への統一された支援という立場から、エジプトとサウジアラビアは、可能限り時宜に適った形で支援を提供することに協力し、また、他のアラブ諸国がパレスチナ自治政府に支援の手を差しのべることを慫慂している。
結論
上記に加え、参加者は、進行する事態をモニターすることに合意し、タスク・グループが2005年2月にエジプトにおいて会合を持ち、あり得べき国際社会の反応と資金の潜在的利用可能性を含め、イラク及びパレスチナ双方における状況の評価を行い、また、(対話フォーラム)参加者に対して報告を用意する。
B.経済問題
第三回会合は、日・アラブ経済協力に関する問題、エジプト及びサウジアラビアにおける経済政策の変化に関する問題、職業訓練を通じて技術移転を向上させ、知的財産権問題に対処する追加的な手段について議論した。
日本-アラブ経済協力
昨年10月に行われた専門家会合の結果をレビューした結果、FTAというアイディアが協力の一つの道具として追求されるべきことが強調された。しかし、トラック1会合で取り上げ得る実行可能な提案とするためには、より多くの作業が必要であることも強調された。
当面、平行して追求できる、また追求すべき他の分野も存在する。
⇒投資を促進するため、投資環境に関する問題が各国別に検討されなければならない。これらの問題を解決するために、双方の官民が参加した二国間の委員会が必要とされる。エジプトは、このような委員会を立ち上げることを検討する。サウジアラビアは、既存の枠組みを利用する。
⇒投資環境に関する問題を検討し、お互いの経験から学ぶために、汎アラブ・ビジネス・カウンシルを設置する可能性を探ることが合意された。
⇒この点で貢献するために、日-エジプト経済委員会合同会議、日-サウジ・ビジネス・カウンシル、日-サウジ合同委員会、日-GCCハイ・レベル対話、日-エジプト局長級対話といった既存の枠組みを用い、努力を強化する。
⇒日本は、アラブ産業開発機関によって公表されたアラブ産業戦略に留意した。
経済政策における諸変化
参加者は、開発の各段階においてその段階に適した改革が必要とされることについて合意した。最も発展した国の一つである日本もまた、その経済を継続的に改革している。このように、全ての国に適合する標準的な改革パッケージは、存在しない。このように、継続的な改革が必要とされる。
⇒参加者は、エジプト及びサウジにおける最近の改革努力に留意した。改革努力に関する情報を他国とより広範に共有するために、一層の努力が払われるべきことについて合意された。
⇒改革の策定及び実施にかかる経験の交換を継続することについて合意された。
訓練その他の手段を通じた技術の移転
⇒技術移転は、迅速な近代化と開発を進めるための最も重要な手段の一つである。それは、投資と訓練を必要とする。この点に関し、参加者は、二国間ベースで行われている訓練分野での日本の努力について留意した。
⇒日本は、本対話フォーラムの活動から生じるニーズに基づいて、追加的な適切な計画を策定し、実施する。
⇒産業ハイテク・パーク及びインキュベーターへの共同参加の可能性が探求されるとともに、日本による中小企業支援についても然るべく留意された。エジプトとサウジは、そのようなハイテク・パークの受益国として、その魅力及び潜在的な成功の機会を増大させるために、教育から研究、中小企業、投資に至る多くの政策を調和させる必要があることが強調された。
知的財産権
⇒途上国にとって知的財産権が有する潜在的重要性を認識しつつも、最も適切な次の措置について直ちには合意が得られなかった。この点に関し、エジプトは、知的財産権問題について調査を実施し、次回会合に提出することを申出た。対話フォーラムは、それを受けて何が次の措置であり得るかを決定することができる。
C.文化
文化面での相互理解を強化し、ステレオタイプを克服し、各国の文化に対する尊重の念を強化することの重要性について、強いコンセンサスがあった。この分野に対する日本の継続的なコミットメントは、高く評価される。探求されるべき協力分野は、交流の強化、学術研究の強化及び日本アラブ工科大学の可能性を含む。
交流の強化
参加者は、研究、メディア、文化、文学、観光、展示、訪問等の交流を強化することが極めて重要であると感じた。
⇒国際交流基金と同基金によって2003年、2004年に実施された中東地域文化交流・対話ミッションによる多大な努力は、特に評価される。アラブの文化とイスラームを日本に紹介するために、努力を強化することが追求されるべきである。
⇒双方は、交流を強化するための可能な手段をさらに探求することについて合意した。この点に関し、すべての国におけるフォーカル・ポイントが交流についてより詳細に検討し、交流の現状と交流をさらに強化するための選択肢についてレビューすべきであることが提案された。
相互の学術研究
相互の学術研究を実施することが合意された。
⇒参加者は、国際交流基金が日本とアラブ諸国との間の新たな学術交流計画を開始した努力を評価した。双方は、アラブ世界における日本研究及び日本におけるアラブ研究を促進するために、既存の努力を継続し、強化することに合意した。この点に関し、専門家タスク・グループがこのような相互の学術研究を強化するための手段を検討することが提案された。
日本アラブ工科大学の可能性
参加者により再度このアイディアが検討され、この提案を有意義な形に具体化するために追加的作業が必要であることが合意された。特に、
⇒双方は、このプロジェクトの実施にあたって責任を共有し、長期的なパートナーシップをもって取り組むこと、及び双方にとって有益となる政策的枠組みを構築することの重要性について合意した。
⇒この大学を設立するための技術的可能性を双方が検討することが提案された。加えて、アラブ諸国に専門的な技術学校(注:複数)を設立する提案が対話フォーラムで議論され、日本側は、この提案に留意した。
D.フォーラムの将来の方向性
参加者は、次回会合が東京で開催されることに合意した。メンバーシップの拡大の可能性については、後日レビューされるであろう。イラクとパレスチナ情勢をモニターするタスク・グループは報告を提出し、その他の特定された行動も追求されなければならない。次回会合の議題は、これらの進展に照らして決定されるであろう。
第3回日・アラブ対話フォーラム出席者リスト
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【日本】
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橋本龍太郎 衆議院議員(元内閣総理大臣)(座長)
宮原 賢次 日本経団連副会長
岡本 行夫 内閣総理大臣外交顧問
須藤 隆也 日本国際問題研究所軍縮・不拡散研究センター所長
山内 昌之 東京大学教授
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【サウジアラビア】
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サウード・アル=ファイサル外務大臣(座長)
ハーリド・ビン・ムハンマド・アル=ゴサイビ経済企画大臣
ハーシム・ビン・アブドッラー・ヤマニ商業工業大臣
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【エジプト】
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イスマイール・セラゲッディーン・アレキサンドリア図書館長(座長)
オサマ・エル・バーズ・大統領政治顧問
ハーテム・エル・カランシャウィ・観光大臣経済顧問(前首相特別顧問)
ファルーク・イスマイール元カイロ大学学長
アブドゥルファッターハ・シャバーナ元駐日大使(80~84年駐在)
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