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NGO団体「ピースボート」からの公開質問状に対する返書


平成14年10月31日


 NGO団体「ピースボート」は、2002年8月27日~29日、ロシアによる不法占拠が続いている我が国固有の領土、北方領土の国後島に上陸しました。
 日本政府としては、我が国国民が、四島交流等の枠組みによらずロシア連邦の出入国手続に従うことをはじめとしてロシア連邦の不法占拠の下で北方四島へ入域することは、北方領土があたかもロシアの領土であるがごとく入域することとなるため、北方領土に対する我が国の法的立場を害することになるおそれがあるとの考えに立ち、平成元年9月19日の閣議了解により、国民に対し北方領土問題の解決までの間、このような入域を行わないよう自粛を要請しています。
 本件に関し、外務省は「ピースボート」に対し累次にわたって自粛を要請していたところですが、結果として本件上陸が行われたことは誠に遺憾とするところであり、同日、外務報道官談話を発出しました。
 国後島上陸後の9月9日、「ピースボート」の代表が外務省を訪れ、外務大臣宛の公開質問状を提出しました。以下の文書は、右公開質問状に対する欧州局ロシア課長名の返書(回答)です。




ピースボート共同代表 吉岡達也 殿

 9月9日付貴団体代表よりの公開質問状につきまして、以下のとおり回答致します。

1.貴団体による国後島入域と閣議了解等との関係について

貴団体の御質問

(1) 今回のビザ無し、パスポート携帯なしでの国後島訪問は、日本の法律に違反しているか。

(2) 同訪問は、ロシア連邦及びサハリン州の法律に違反しているか。

(3) 同訪問は、国際法及び国際慣習法に違反しているか。

(4) 閣議了解は、法的拘束力を有するか。

(5) 閣議了解は、憲法22条の居住・移転・外国移住の自由及び旅行の自由等の基本的人権を侵害する違憲性の高いものではないか。

(6) 閣議了解は、世界人権宣言第13条及び市民的及び政治的権利に関する国際規約第12条の移動の自由及び居住の自由に反する、国際法上も違法性の高いものではないか。

(答)

(1) 基本的考え方

 これまでも繰り返し御説明してきているとおり、我が国国民が、四島交流等の枠組みによらずロシア連邦の出入国手続に従うことをはじめとしてロシア連邦の不法占拠の下で北方四島へ入域することは、北方領土があたかもロシアの領土であるがごとく入域することとなるため、北方領土に対する我が国の法的立場を害することになるおそれがあります。このような考えに立ち、政府は、平成元年9月19日の閣議了解により、国民に対し北方領土問題の解決までの間、このような入域を行わないよう自粛を要請しています。

(2) 閣議了解とは

 閣議了解は、行政事務を分担管理する国務大臣が、その機関意思を決定するに当たって閣議において与えられる了解をいいます。本来ならば主任大臣の専決事項であるが他の閣僚の了解を得ておくことが行政各部の連絡上及び統一上好ましい案件等が、閣議了解の形式をとります。最近では、テロリスト等に対する資産凍結等の措置に関して閣議の了解を求めています。このように閣議了解は、それ自体法律ではありませんが、その内容からして極めて重い意味を持つものと考えられます。したがって、貴団体が、閣議了解は法律ではないとの理由から政府の自粛要請には正当な根拠はなく、これを無視して差し支えないとお考えであるとすれば、全くの誤解ですし、また、閣議了解が法律ではないことを当省に確認したことをもって、当省が今回の渡航には「問題はない」と確認したかの如く対外的に発表していますが、これは全く事実に反するものであり、当省の見解を歪曲したものと言わざるをえません。

(3) 「基本的人権の制限」について

 北方領土は日本固有の領土であり、本来、日本国内の移動として我が国国民が自由に往来できるはずの地域ですから、政府は、我が国国民が北方領土を訪問することをそれ自体として問題視しているのではありません。北方領土があたかもロシアの領土であるがごとく入域することに関して、また、北方領土問題の解決までの間に限って自粛を要請しているのです。つまり、貴代表の指摘するような、憲法22条や世界人権宣言第13条が規定する移動の自由等の基本的人権を一般的に「制限」しているとはそもそも言えません。

(4) 貴団体による入域の問題点

 貴団体が「ビザ無しかつパスポート不携帯」を行うに当たってサハリン州行政府関係者等と調整し、許可を得たことは、ロシアが北方領土において管轄権を行使していることを前提とする行為であり、まさにこの「北方領土があたかもロシアの領土であるがごとく入域すること」に当たります。貴団体のこのような行為は、現在日本がロシアとの間で北方領土返還のための交渉を精力的に行っている状況の中で、北方領土に対する我が国の法的立場に影響を及ぼすことになるおそれがあり、交渉上、我が国が不利な立場に立つことに繋がりかねないので、政府としてはこのような入域を自粛するよう御理解と御協力をお願いしたのです。
 なお、領土問題に関する一国の立場は、当該国民一般の認識と活動という歴史的事実の積み重ねも相当の重みをもって斟酌されるものと考えられています。貴団体による今回の入域のような行為が今後も繰り返された場合、その意図にかかわらず我が国国民が広く北方四島におけるロシア側の管轄権を是認しているとの誤解を与えかねず、北方四島が我が国固有の領土であるという、我が国の立場に影響を及ぼすおそれがあるのです。

(5) その他の質問について

 我が国としては、北方四島においてロシア及びサハリン州の法律が適用されるような事態をそもそも容認していません。したがって、今回の訪問がロシア連邦及びサハリン州の法律に違反するか否かといった、北方四島があたかもロシアの管轄下にあるという前提に立ったかのような貴団体の質問については、貴団体の認識すら疑わざるをえません。政府としては、むしろ、貴団体が、ロシア法を前提に今回の渡航を実施されたこと自体が問題であると考えています。
 また、国際法との関係について言えば、一般に国際法上、寄港を認めるかどうかの決定は、沿岸国の主権に基づく判断に委ねられています。貴団体は今回国後島に寄港するに当たり、ロシア側当局と「調整」を行ったとのことですが、上記に鑑みれば、このような行為は北方領土がロシアの領土であることを前提とした行為を取ったものと国際的に評価されかねません。このような貴団体の行為が、我が国固有の領土たる北方領土に対する国民の総意及びそれに基づく政府の政策と相容れないことは明らかです。
 なお、四島交流等の枠組みについては、旅券・査証なしの訪問手続きにより訪問を実施している上に、政府間の文書において、これらの交流に関連するいかなる問題においても、いずれか一方の側の法的立場を害するものとみなしてはならないという規定(いわゆる「ディスクレーマー条項」を設け、我が国の法的立場が害されないことを確保しており、ロシア側から許可を得たとの形で行われているわけではありません。


2.「上陸阻止の要請」について

貴団体の御質問

(1) 黒田駐ユジノ・サハリンスク総領事は、ロシア側関係者に対して、ピースボートの国後島上陸を阻止するよう要請したのではないか。

(2) 黒田総領事は、8月23日午後、国境警備隊に対し、ピースボートの国後島上陸を阻止するよう要請を行ったのではないか。

(3) 日本外務省及び総領事館がロシア側に対して、ピースボートの国後島上陸阻止の要請と受け取られるような行動を行ったことは、日本政府自らが北方四島におけるロシアの実効支配を認めたことととなり、日本の法的立場を害したのではないか。

(答)

(1) 御指摘のように、政府としてロシア側関係機関に対して貴団体の国後島上陸を阻止するよう要請したという事実はありません。

(2) 他方、政府としては、貴団体の今回の渡航が我が国の法的立場を害するおそれがあると考えられたことから、ロシア側に対し、貴団体の渡航にもかかわらず、我が国の北方領土に対する立場に変わりがないことを説明しました。また、貴団体の今回の渡航が、日ロ政府間の合意に基づき行われている四島交流事業の円滑な実施を阻害するおそれがあることから、そうした懸念をロシア側に伝えています。更に、貴団体による国後島上陸確認後にロシア側に対し、今回の貴団体による訪問にもかかわらず、領土問題に対する日本政府の法的立場には如何なる変更もないことをあらためて確認し、また、今後の四島交流事業の円滑な実施に対する協力を要請しました。政府によるロシア側へのこうした説明は、貴団体の活動によって、北方領土問題に対する我が国の法的立場を害することのないよう、政府としてとる必要のあった当然の措置であると考えます。

(3) なお、御指摘の8月23日午後、黒田駐ユジノ・サハリンスク総領事は、新しく着任した国境警備庁サハリン支部長を15分ほど表敬訪問しましたが、貴団体の国後島訪問については一切話題にしていません。

(4) また、黒田総領事は、御指摘のルカベッツ・サハリン州国際・対外経済・地域間関係委員会議長が出席していた8月19日開催の民間のフォーラムにオブザーバー参加をし、会議の場で同議長の要請を受けて、「今回のピースボートの訪問はビザ無し交流の枠外で行われようとしているものであるが、そのようなビザ無し交流に従わない形で北方四島への訪問が実施されれば、四島交流のあり方についても無用の議論を招き、今後の事業の円滑な実施に支障を来すことになることを懸念する」と、日本政府の立場を説明したのであり、上陸阻止の要請をした訳ではありません。


3.鈴木議員の問題について

貴団体の御質問

(1) 北方四島への人道支援をめぐる不祥事の事実を検証する権利を日本国民は有するか。

(2) 外務省による自粛要請は、外務省自らの不祥事を隠蔽する結果になったのではないか。

(3) 外務省の影響を受けずに合法的に日本国民が直接疑惑検証を行う方法如何。

(答)

(1) まず、本件閣議了解が発出されたのは北方四島住民支援が開始される以前の平成元年のことであることからも、鈴木議員の問題または北方四島への人道支援と貴団体による今回の入域に対する当省の自粛要請が全く無関係であることは明らかです。

(2) そもそも、政府が実施している四島交流の日本側訪問団が、御指摘の人道支援によって四島に供与された施設を現地で実際に確認していますし、また、訪問団に同行するプレスが人道支援の事実について報道しています。したがって、自粛要請が「不祥事を隠蔽」することにはなっていません。


4.四島交流について

貴団体の御質問

(1) 政府の「ビザ無し交流」は、出入域手続や税関申告を行っており、事実上ロシアの管轄下に入っているのではないか。

(2) ロシアの管轄下に入っていないとすれば、四島においてロシアの国内法を犯しても罪に問われず、ロシアの警察また国境警備隊から拘束を受けることはないのか。

(答)

(1) 政府が実施している四島交流(いわゆる「ビザ無し交流」)においては、その枠組みを作る際の日露政府間の文書において、この交流に関連するいかなる問題においても、日露のいずれか一方の側の法的立場を害するものとみなしてはならないという規定(いわゆる「ディスクレーマー条項」)が設けられています。御指摘のような諸手続も全て、この枠組みの中で行われています。したがって、四島交流の枠組みによる北方四島への訪問は、北方領土問題についての我が国の法的立場を害することにならないことが明示的に担保されています。

(2) また、四島交流の枠組みの下では、訪問は団体で行うとともに、政府職員が原則として同行していますので、仮に団員が現地の「警察」等に拘束されそうになるような事態が発生した場合には、当該職員が現場で直ちに然るべく対処し、拘束などの事態を回避することが想定されます。他方、貴団体による今回の渡航のように、政府間の文書によるこのような手当てがなく、政府職員の同行もないまま四島を訪問した場合には、「警察」等から拘束を受けるといった不測の事態の発生が懸念されます。


5.旧島民の方々への補償問題について

貴団体の御質問

(1) 日本政府は、どのように旧島民への補償を行ったのか。

(2) 大臣は、如何なる補償が必要と考えるか。

(3) 外務省は、旧島民対する人権侵害を国際社会に対しどのように訴えていくのか。

(答)

(1) 1956年の日ソ共同宣言第6項により、日ソ両国は1945年8月9日以来の戦争の結果として生じたそれぞれの国、その団体及び国民のそれぞれ他方の国、その団体及び国民に対する全ての請求権を相互に放棄しました。(但し、同宣言は、北方四島に所在していた日本国民の財産権それ自体については何ら規定していません。)

(2) 旧島民の方々に対しては、戦後の海外からの引揚者に対する措置に準じ、引揚者給付金及び引揚者等特別交付金が支給されています。また、北方地域の特殊事情を考慮して、旧島民に対する生活資金や事業資金の低利融資制度を創設するなど援護措置を講じています。


6.竹島への渡航について

貴団体の御質問

(1) 韓国政府が実効支配する竹島への渡航に関して、外務省は日本国民に対し渡航自粛を要請しているか。

(2) 自粛要請をしていないとすれば、理由如何。

(答)

 御承知のとおり、我が国の領土である竹島は、二つの小島とその周辺の数十の岩礁からなり、貴団体による国後島訪問のように観光客が訪れる可能性は少ないことから、敢えて渡航自粛要請は行っていません。しかしながら、仮にそうした事態が現実の問題として生じる場合には、北方四島に準じた対応をすることが想定されます。


7.国際社会への働きかけについて

貴団体の御質問

(1) 北方領土問題を国際司法裁判所に何故提訴しないのか。

(2) 提訴したことはあるか。ないとすれば、理由如何。

(3) 今後提訴の予定はあるか。

(4) 北方四島への第三国国民の入域について、日本政府はロシア政府に対して、抗議又は申し入れを行っているのか。行っているのであれば、いつ、どのように行ったのか。

(5) 何も行っていないとすれば、日本政府はロシアの実効支配を認めていることになるのではないか。

(答)

(1) 国際司法裁判所への付託については、昭和47年、当時の大平外相からグロムイコ外相に対し打診をし、これに対し、グロムイコ外相はこれに応ずる考えはないということを明確に述べたという経緯があります。なお、御承知のように国際司法裁判所は強制管轄権を持っているわけではなく、この問題を国際司法裁判所に付託するためには、当該付託について日露間で合意する必要があります。

(2) また現在、日露両国政府は、北方領土問題について、これまで積み重ねられた諸合意に基づき、粘り強い交渉によって二国間で解決することが重要であると考えており、本問題を国際司法裁判所に付託することは、かえって問題解決のプロセスを複雑にし、適切でないと考えます。

(3) 第三国との関係においても、第三国の民間人が北方領土において経済活動を行うことを含め、ロシア側の管轄権に服すること、または北方領土に対するロシアの管轄権を前提とした行為を行うこと等は、北方四島に対するロシアの領有権を認めることにつながりかねず容認できないというのが日本の基本的立場です。したがって、第三国国民がこのような行為または活動を行っているとの情報に接した場合、日本としては従来より申し入れを行ってきています。

(4) 最近の具体例を申せば、米国内の旅行会社数社が北方領土訪問を含む観光クルーズを実施している問題について、米国国務省や各旅行会社に対して、現地の在外公館より上記の考え方に基づき申し入れを行っています。


8.産経新聞の記事について

貴団体の御質問

(1) 産経新聞「正論」で上坂冬子氏が述べているように、北方領土に渡航した日本国民がパスポート没収になるような法律が日本に存在するのか。

(2) 北方領土に渡航した日本国民に対する法的制裁が検討されているのか。

(3) 8月28日付産経新聞朝刊一面の見出し「ピースボート、日本の領土主権を侵す」は、日本の法律上及び国際法上正しい表現か。

(答)

(1) 上坂冬子氏の見解は同氏個人の見解を述べられたものであって、政府として関係者のパスポートを取り上げるといった可能性を検討しているわけではありません。他方、貴団体が今後も今回のような訪問を継続することになれば、我が国の法的立場を害する可能性が益々高まりかねません。したがって、こうしたことが繰り返されることがないよう、政府として取りうる措置については真剣に検討する考えです。

(2) なお、8月28日付産経新聞朝刊第一面の見出しが日本の法律上及び国際法上正しい表現か否かについての御質問については、御指摘の法律及び国際法とは具体的に何を指すのか不明なので回答いたしかねますが、いずれにしても新聞社が見出しに如何なる表現を使うかについては報道の自由及び表現の自由に属する問題であり、当省がコメントすべきではないと考えます。


 最後になりますが、伝え聞くところによると、貴団体は来年も北方領土訪問を希望しているとのことですが、貴団体による今回のような訪問は平和条約交渉におけるロシア側の立場の強化に繋がりかねないことについては御理解頂けたと思いますので、ここに改めて自粛を要請いたします。

平成14年10月31日

外務省欧州局ロシア課長



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