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基本的考え方
これまでも繰り返し御説明してきているとおり、我が国国民が、四島交流等の枠組みによらずロシア連邦の出入国手続に従うことをはじめとしてロシア連邦の不法占拠の下で北方四島へ入域することは、北方領土があたかもロシアの領土であるがごとく入域することとなるため、北方領土に対する我が国の法的立場を害することになるおそれがあります。このような考えに立ち、政府は、平成元年9月19日の閣議了解により、国民に対し北方領土問題の解決までの間、このような入域を行わないよう自粛を要請しています。
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閣議了解とは
閣議了解は、行政事務を分担管理する国務大臣が、その機関意思を決定するに当たって閣議において与えられる了解をいいます。本来ならば主任大臣の専決事項であるが他の閣僚の了解を得ておくことが行政各部の連絡上及び統一上好ましい案件等が、閣議了解の形式をとります。最近では、テロリスト等に対する資産凍結等の措置に関して閣議の了解を求めています。このように閣議了解は、それ自体法律ではありませんが、その内容からして極めて重い意味を持つものと考えられます。したがって、貴団体が、閣議了解は法律ではないとの理由から政府の自粛要請には正当な根拠はなく、これを無視して差し支えないとお考えであるとすれば、全くの誤解ですし、また、閣議了解が法律ではないことを当省に確認したことをもって、当省が今回の渡航には「問題はない」と確認したかの如く対外的に発表していますが、これは全く事実に反するものであり、当省の見解を歪曲したものと言わざるをえません。
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「基本的人権の制限」について
北方領土は日本固有の領土であり、本来、日本国内の移動として我が国国民が自由に往来できるはずの地域ですから、政府は、我が国国民が北方領土を訪問することをそれ自体として問題視しているのではありません。北方領土があたかもロシアの領土であるがごとく入域することに関して、また、北方領土問題の解決までの間に限って、自粛を要請しているのです。つまり、貴代表の指摘するような、憲法22条や世界人権宣言第13条が規定する移動の自由等の基本的人権を一般的に「制限」しているとはそもそも言えません。
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貴団体による入域の問題点
貴団体が「ビザ無しかつパスポート不携帯」を行うに当たってサハリン州行政府関係者等と調整し、許可を得たことは、ロシアが北方領土において管轄権を行使していることを前提とする行為であり、まさにこの「北方領土があたかもロシアの領土であるがごとく入域すること」に当たります。貴団体のこのような行為は、現在日本がロシアとの間で北方領土返還のための交渉を精力的に行っている状況の中で、北方領土に対する我が国の法的立場に影響を及ぼすことになるおそれがあり、交渉上、我が国が不利な立場に立つことに繋がりかねないので、政府としてはこのような入域を自粛するよう御理解と御協力をお願いしたのです。
なお、領土問題に関する一国の立場は、当該国民一般の認識と活動という歴史的事実の積み重ねも相当の重みをもって斟酌されるものと考えられています。貴団体による今回の入域のような行為が今後も繰り返された場合、その意図にかかわらず我が国国民が広く北方四島におけるロシア側の管轄権を是認しているとの誤解を与えかねず、北方四島が我が国固有の領土であるという、我が国の立場に影響を及ぼすおそれがあるのです。
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その他の質問について
我が国としては、北方四島においてロシア及びサハリン州の法律が適用されるような事態をそもそも容認していません。したがって、今回の訪問がロシア連邦及びサハリン州の法律に違反するか否かといった、北方四島があたかもロシアの管轄下にあるという前提に立ったかのような貴団体の質問については、貴団体の認識すら疑わざるをえません。政府としては、むしろ、貴団体が、ロシア法を前提に今回の渡航を実施されたこと自体が問題であると考えています。
また、国際法との関係について言えば、一般に国際法上、寄港を認めるかどうかの決定は、沿岸国の主権に基づく判断に委ねられています。貴団体は今回国後島に寄港するに当たり、ロシア側当局と「調整」を行ったとのことですが、上記に鑑みれば、このような行為は北方領土がロシアの領土であることを前提とした行為を取ったものと国際的に評価されかねません。このような貴団体の行為が、我が国固有の領土たる北方領土に対する国民の総意及びそれに基づく政府の政策と相容れないことは明らかです。
なお、四島交流等の枠組みについては、旅券・査証なしの訪問手続きにより訪問を実施している上に、政府間の文書において、これらの交流に関連するいかなる問題においても、いずれか一方の側の法的立場を害するものとみなしてはならないという規定(いわゆる「ディスクレーマー条項」を設け、我が国の法的立場が害されないことを確保しており、ロシア側から許可を得たとの形で行われているわけではありません。
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