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トップページ > 各国・地域情勢 > アジア |
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第一部 提言-21世紀のアジアと共生する日本を目指して通貨危機は不幸な出来事であった。しかしそれは、21世紀に向けて、日本を含むアジア地域が新たな長期展望を持って建設的な発展を進めていく上でまたとない機会を提供している。経済の弱い所を見事に突いてきた通貨危機は、何を改革しなくてはならないのか、鮮明な形で問題を突きつけている。
通貨危機はアジアの国の多くをほぼ同時に襲った。これは、アジアの国々が、孤立した国の集まりではなく、一つの地域として経済的、社会的連関を強め、運命共同体になりつつあることを示している。また、これらの国においては通貨危機の機会に単なる経済面のみならず、政治・社会面を含む改革への強い意欲が出て来ている。今回のミッションにおける各国首脳との意見交換においても、そうした改革への強い意欲を感じさせられた。アジアには経済発展の程度や社会体制の異なった様々な国が含まれる。この地域が一つの経済地域として相互依存関係を深めていくためには、継続的な働きかけが必要である。もしそうした一体化への努力を怠れば、今回の通貨危機のような地域的な混乱が再度起こるかもしれない。日本も含めたこの地域が、どのような意味で運命共同体であるかを理解することが肝要である。既に述べたように、地域的に隣接していることが重要なことは言うまでもない。通貨危機に見られるように、一つの国で起きたショックが、容易に他国へ波及する。しかし、経済的地域としての重要性は、地理的な近接性にとどまらない。経済のグローバル化の中で、一つのまとまった経済単位としての地域経済の重要性が増している。欧州、北米や南米で見られる地域経済化の動きは、その形こそ違うが、アジアでも進展していくべきなのである。
1980年代以降のアジア経済の急成長の中で、日本経済はこの地域に深く組み込まれてきた。日本企業の海外での活動、アジア域内での分業の進展、金融分野における関係の強化などである。こうしたアジア諸国との相互依存関係の進展は、高齢化していく日本社会にとって測り知れない利益をもたらすものである。しかし、そうした相互依存関係の深化は、必ずしも理想的な形で進展してきたわけではない。そもそも通貨危機がこの地域を襲ったのは、この地域の経済発展に様々な形で歪みがあったからである。それは、ヒト・モノ・カネ・情報のそれぞれの面で国境を越えた動きに偏りがあったこともあるだろうし、域内の個々の国でイノベーションが少しずつ誘発されてそれぞれの確固とした比較優位構造を確立することができなかったこともあるだろう。また、地域内の諸国が、グローバリゼーションと情報化という世界経済の歴史的な変化に対して自らの経済運営を適時適切に適応させなかったことにもよるだろう。以下で述べるように、こうした過去の失敗を改め、新たな成長軌道にこの地域を乗せていくためには、地域的な取り組みが必要となる。そして、そこで日本が果たしうる役割は大きい。そのような取り組みは、日本にとっても、そして東アジアの国々にとっても大きな利益をもたらすはずである。今求められているのは、21世紀を見据えた長期的な視点に立った新たなアジア諸国との関係の構築である。ミレニアムの転換点にある現在は、長期的な視野に立った議論を行う絶好のチャンスである。これまでの常識の中ではできないと考えられていたことも、もう一度根本から見直すことが必要である。日本にとって、そして東アジア地域にとって本当に必要なことは何かを考えなくてはいけない。
重要なことは、日本がアジアにどのような支援を提供できるかということ以上に、アジアで変革への強い意欲が出て来ているのに応じ、日本自身がどのように変わるのか、そしてアジアにどのような変化を求めていくのかということである。新宮澤構想をはじめとする一連の支援は、今回の通貨危機からの回復において、大きな貢献をしたという高い評価を得ている。また、日本からの海外直接投資や経済支援が、これまでの東アジア諸国の経済発展に大きく貢献してきたことも最大限評価されるべきだろう。こうした動きは今後も継続させていかなければならない。
しかし、21世紀に求められるのは、一方的な支援や投資の関係ではなく、アジア各国が相互にパートナーとして共存する関係である。日本もアジアの製品や人材を積極的に受け入れなくてはならない。そして、貿易と投資だけの関係ではなく、ヒトの交流を大きな柱とする深みと広がりのある関係でなくてはならない。今回のアジア諸国への訪問においても、こうした双方的な関係の構築ということの重要性が多くの人によって指摘された。そうしたことを通じて、はじめて、ヒト作り、モノ作りのダイナミズムが生まれる。東アジア地域が経済地域としてダイナミズムを取り戻し、豊かさを実現するためには、個々の国が、ヒト作り・モノ作りのメカニズムをしっかりと持ち、それが域内の交流の拡大によって相互に補強しあうような形にならなくてはならない。私たちは、アジア経済の再生を考えるための基本的要素が、ヒト・モノ・カネ・情報の流れにあると考える。アジアが一つの経済地域として活力を維持し、発展するためには、これらが国境を越えて活発に動くことが基本となる。奇跡と言われた80年代後半から90年代にかけてのアジアの経済発展においても、資金や直接投資などの動きが発展の原動力であった。そうした中で、ヒトや情報についてもそれなりの動きはあった。しかし、ヒト、モノ、カネ、情報の動きがバランスを欠き、限定的であったり、歪みを生じやすい形であったことなどが、結果的には通貨危機を引き起こした。
こうした歪みを是正するためには何が必要なのか、そしてヒト・モノ・カネ・情報の動きをさらに活性化させるためにはどのような政策が必要なのかが論じられなくてはならない。また、こうした域内の動きは、世界経済のグローバル化・情報化の流れの中にあることも意識しなくてはならない。5.撹乱要因であった短期資金移動―より多面的な金融チャネルの育成を
通貨危機の重大な原因は、東アジア諸国の多くが国際的な短期資金に過度に依存してきたことであることは、多くの識者の指摘するところである。短期資金は貿易決済資金などそれなりの重要性を持っているが、余りにそれに偏ったカネの流れでは、健全な金融市場は育たない。中長期の融資、長期の債券、株式型の資金の活用、直接投資を通じた投資など、多面的な金融チャネルが活用されるようにならなくてはならない。
現在日本が積極的に進めている円の国際化は、東アジア諸国にとって新たな金融チャネルを提供することにつながる。円建て債券による資金調達(サムライ債)、円資産による資金運用などを支援することにつながるからである。そうした意味では、円の国際化はさらに積極的に進めていかなくてはならないが、結局のところ、アジア諸国にとって使い勝手のよい通貨にならない限り、円の国際化は実現しない。
短期資金は、国際金融情勢や市場心理の変化で、大きく変動する。その意味からも、多面的な金融チャネルを構築することのポイントは、いかに長期的資金が流れていくチャネルを構築できるかにある。今回のミッションにおいても、いくつかの国で、国内に債券市場を構築したいという考えが提示された。こうした市場の育成への期待はアジア各国で同時に起こっていることであり、それを促進していく上での制度的な協力や資金活用など、日本の貢献できることは少なくない。また、各国が孤立した内向きの債券市場を育成するのではなく、東アジア地域に、さらにはグローバルに開かれた債券市場を育成していく必要がある。そうした方向での地域的な協力と健全な競争が必要である。
債券市場と並んで重要なのは、株式型の資金チャネルである。投資家がリスクをとりながら長期安定的な資金を提供するという意味では、株式型の投資は債券や融資にはない利点がある。これは東アジアの主要企業が日本を含む域内の証券市場で株式型の資金調達が行われるようになるというレベルから、地域の中小企業、とくにベンチャー型の中小企業に資金投資する投資ファンドの育成というレベルまで、いろいろな形のものが考えられる。ヒト・モノ・カネ・情報の流れの中で鍵を握るのがヒト、つまり人的資源である。ヒト・モノ・カネ・情報の動きは相互に補完的なものであり、そのどれかが滞っても他の動きに大きな歪みが出てくる。その中で、特に重要な鍵を握るのが人的資源である。人的資源に関する域内の協力がモノ・カネ・情報の流れにも大きな影響を及ぼすと言える。
例えば、海外で活動する日本の企業にとって、現地の人的資源の状況は極めて大きな意味を持っている。企業で働く人の資質、下請けなどの形で部品や原材料を供給する現地企業の人的資源のレベルなどは、日系企業の経営に大きな影響を及ぼす。そのような人的資源の蓄積の少ない国には長期的な産業発展は望めない。この分野で、日本が貢献できることは少なくない。中小企業を育成するため技術・会計・販売・法律など、様々な専門家を送りこむことが可能である。また、市場経済化努力を助ける知的支援や経済構造改革への支援としての人的育成への協力は極めて重要である。既に日本は、いろいろなレベルでこうしたプログラムに着手しているが、アジア全域を見据えてこうした人的支援を拡大していく必要があろう。そうしたことを通じて、日本企業にとっての投資環境も改善され、直接投資の動きも活性化するはずである。
資金の移動においても、人材支援が大きな意味を持っている。アジアの中小企業支援のための株式型ファンドといった資金チャネルを実現させるためには、現地で中小企業の業績内容を適切に評価する人材を育成することが必要である。そうした人材を現地で育てるのか、日本で育成して送り込むのかは、いろいろな可能性があるだろうが、いずれにしろ人的資源のサポートなしには投資資金の円滑な流入を期待することは難しい。健全な国際関係は、しばしば自転車に例えられる。自転車はこぎ続けなければ倒れてしまう。それと同じように、健全な国際関係は、常に対話を継続することでしか維持できない。アジア諸国が健全なる発展を遂げていくためには、常に、域内での協力強化に向けての対話を続けていかなければならない。その意味では、東南アジア諸国連合(ASEAN諸国)がASEAN自由貿易地域(AFTA)やASEAN産業協力スキーム(AICO)などを成功させていくことは、アジアの貿易や投資を拡大させていくモーメンタムを維持していく上で重要なことである。
今回の各国首脳との対話の中で、マクロ経済に関する早期警戒システムの構築の重要性が何度か指摘された。通貨危機の反省から、短期資金の動きを監視し、マクロ経済政策の運営での協調を強めていきたいという考え方である。東アジア諸国のマクロ経済が密接に連関していることは通貨危機がこの地域を同時に襲ったこと(伝染効果)からも明らかで、マクロ経済の監視に関する対話の場を設けて、早期警戒システムをはじめとするマクロ経済協調についての対話を継続していくことが求められる。また、こうしたマクロ経済の対話の中に、緊急時の地域的融資制度や共通の通貨バスケットの議論を加えることも考えられる。
通商の場でも継続的な対話が必要である。1994年のAPECのボゴール宣言で採択された貿易自由化はその実現に向けてAPECの場で対話を続けていかなければならないが、同時に、域内でより積極的な自由化に踏み切る可能性のある国とは、前倒しで自由化の対話を行っていく必要がある。韓国との間で始められた自由貿易協定構想についての共同研究プロジェクトは、そうした意味で大切に育てていきたいプロジェクトであり、このようなことを今後シンガポールなどとも行っていくことが考えられる。我が国はこのような協力の強化に向けてアジア各国の声に耳を傾けつつ、積極的にイニシアティブを発揮すべきである。8.「日本を開く」ことなくしてアジアの、そして日本の繁栄はありえない
日本社会は、アジア諸国に対して十分に開かれているとは言えない。アジア諸国の変革への意欲の盛り上がりに合わせ、ヒト・モノ・カネ・情報という様々なレベルで、日本を開いて「第三の開国」を進めていく必要がある。「日本を開く」ことなしにはアジア諸国との真のパートナーシップの構築はあり得ない。また、日本を開いていくことが、日本にとっても望ましい結果につながることを理解しなくてはいけない。
その中で特に重要な点として、ヒトの分野での「開国」について触れておきたい。高齢化社会の進展により医療介護などへのニーズが高まる中で不足する人材を積極的に外からの人的資源の導入でまかなうことを真剣に検討すべき時期に来ている。将来、日本の国内だけでこうした分野の人的資源を十分にまかなって行くことは困難である。また、こうした分野でアジアの人的資源を有効に活用することは、アジア諸国との経済的連携を強める上でも意義が大きい。
若者の交流を拡大することも重要である。東アジア諸国が緊密かつ建設的な関係を維持していくためには、できるだけ多面的な人的インターフェースを確立しなくてはならない。そのためには、できるだけ多くの人が相互に訪問しあうことが必要であり、長期的な視野からこうした関係を構築していくとなれば、若者の交流を支援していくことが最も現実的である。アジアからの留学生を大量に受け入れるという構想の下で留学生の受け入れ体制を早急に改善する必要がある。日本の大学のあり方が見直されて行く中で、より実務的な大学に脱皮して行くことも必要であり、アジアに開かれたビジネススクールなどの実務的な大学の設置など取り組むべき課題は少なくない。
このようなヒトのレベルでの国際化を進めていけば、言葉の問題が大きな問題となる。既にアジアにおいても英語が広範に普及していることを考えると、日本の英語教育を徹底的に見直す必要がある。また、海外での日本語教育の機関を設置するなどアジア諸国で日本語をもう少し学びやすくする努力もしなくてはならない。更に、日本の若者がアジアの言語を学ぶ環境を整備し、相互理解を進めて行くことも重要である。
また、ヒト、モノ、カネ、情報の流れを円滑にするため、交通網を拡充・強化するとともに、入管、検疫、税関等についてはその本来の目的を実効的に担保しつつも、その手続きの簡素化・迅速化を進めることが重要である。ヒトの交流が進むためには、交通アクセスや行政サービスは決定的に重要な意味を持っているからである。残念ながら日本のインフラや行政サービスはこうした意味では遅れていると言わざるを得ない。こうしたインフラの整備やマンパワーの増強なしに「開国」は実現しない。政府の決断と実行が求められる。
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