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外務省タウンミーティング第10回会合
川口外務大臣と語るタウンミーティング
(ディスカッション)



(高島外務報道官) それでは、ただいまから約1時間、会場の皆様からのご意見、ご質問を川口大臣に向けて出していただいて、議論してまいりたいと思います。最初の30分、北東アジアを中心としたご質問、ご意見を賜りたいと思います。

(参加者) 私が考えるに、先ほどのお話で、全体的な流れとしては、政府間のつながりと経済的なつながりが強調されていたように感じたのですが、その中で少し気になったのは、中国で、感情に左右されない利益共有型関係であるとか、田中先生からは、歴史的によい部分を強調した日中韓の関係づくりが必要ではないかという提示も頂いたのです。これはいわゆる歴史問題に根ざしたところをどのように考えるかというところを、少し突いたような意見ではないかと私は感じているのです。歴史的によい部分を強調した関係づくりというのは、一体何を指しているのかということを伺いたい。
 そして、歴史的にはいわゆる負の部分にもっと焦点を当てて、政府間レベルでの話し合いはもちろん非常に大切なのですが、国民的なコンセンサスの醸成が必要ではないかと私は感じているのですが、いかがでしょうか。

(参加者) 今のご説明で非常によく分かったのですが、もう一つ分からない部分が出てきました。それは、ビジョンといいますか、金融なり安全保障なり、北東アジアとして具体的にどのような社会を作っていくのか。金融でいうとEUのような、ああいう経済圏を作るのか、安全保障でいえばNATO的なものに持っていくのか。
 もう一つ、日本が北東アジアにくっつくとなると、アメリカに対してどういうスタンスをとるのか。その辺をお聞かせ願いたいと思います。

(参加者) 先ほどの基調報告の中に、北東アジアということで、台湾についてのお話が出てまいりませんでしたので、私からは台湾について、台湾からの観光客に対する査証免除の件について質問させていただきたく思います。
 ご存じのように京都は観光が大きな産業で、昨年はSARSの風評被害などで、かなり観光業界のかたは苦労されたということで、また、平成15年の小泉総理の施政方針演説においては、2010年に日本への観光客を倍増させるというように、数値目標を挙げて表明されています。そのことについていちばん効果があるのは、近隣諸国に対する査証免除を行うことではないか。
 問題はあるのですが、その中で、実際これまでに香港からの観光客がノービザになったり、韓国からの修学旅行生もノービザになっていますが、台湾についてはそのような措置がとられていない。特に修学旅行生については、同じ状況で緩和措置しかされていない。外国からの圧力による配慮という説明以外に、具体的かつ合理的な説明を、ノービザによって50万人ぐらい観光客が増えることを希望しておりますので、よろしくお願いします。

(川口外務大臣) まず、歴史問題との関連ですが、国民レベルでの人の交流、人のつながりができることが、日中韓がより親しくなっていく、東アジアコミュニティに向かって歩けるために、何よりも重要であるというのは私も全く同じ意見です。
 おっしゃるように、幾つかの過去の歴史問題もありますし、現在起こっているいろいろな問題との関連で、中国と日本との間の国民感情には、さまざまな幅があると私は思っています。日中間で親しい友人を持ち、あるいは一緒にビジネスをやり、それで親しくやっている人たちもいらっしゃいますし、また、そうでない感情を持っている人もいる。これは乗り越えていかなければいけない状態であると思います。
 政府の間では、ご存じのように村山総理談話が出まして、日本政府は、過去、国策を誤って植民地支配をしたり、戦争に巻き込んだり、迷惑をかけたことについてお詫びをしている。これは政府というよりも、日本全体の国民の気持ちとしてやっているわけです。それはいろいろの機会に繰り返し、私などもその話はしています。
 ということですけれども、かつて日本とアメリカとの間で、「嫌米」という言葉がはやったことがあります。日本とアメリカがこれほど親しい国、同盟関係にある国なのに、経済の摩擦や、自動車やテレビなど貿易摩擦がたくさんあって、嫌米だという言葉が、日本の中ではやった時代もありました。
 ですから、関係が親しくなればなるほど、いろいろな問題が出てくることも日ごろあると思います。それを支えていくのは、両国民のお互いに対する親近感であり、お互いに対する尊敬の念であると思います。そういった面でまだまだこれから両国は努力をしていく必要があると思っています。
 2番目のビジョンの質問ですが、今、東アジアコミュニティをどのような形で進めようとしているか、今、どの段階にあるかということが答えのかぎで、それについて申し上げたつもりですが、日本は、東アジアコミュニティは、全員で作っていくものであると考えています。ですから、これについてこうあるべきだといって、それを押しつけるつもりは全くありません。考え方として幾つかのことを言ったわけでして、最初は機能的な協力ということを言いました。
 例えば、金融や環境など、テーマによって、いろいろな協力のしかたがあるでしょう。小泉総理が「ともに歩みともに進む」という言葉を使われたということは、一緒に歩きながら、それを考えていきましょうということです。金融について、例えば、アジアボンドを出した。これもタイや日本など、いろいろな国が集まって話をしながらできたことですが、ともに歩み、ともに進みながら、そういったことが出てくるということです。
 ですから、この国とこの国とこの国との間で協力しましょうと、限定的ということではなく、私はこれに入りたいということがあったら、それはそれで入れてあげて、いい形で実態が動いていく。その過程で、コミュニティの意識も出て、先に進んでいくだろうということです。
 その三つの考え方、これは日本がこの間はっきり提示していることで、一つはそういった意味での機能的な協力、もう一つは開放性、透明性、包含性、オープンでだれでも入っていらっしゃいということです。三つめがコミュニティ意識の形成で、人の交流を進めながら、文化的なことを一緒にやりながらできていき、さらにコミュニティとしていい形になっていくでしょう。
 今、まさに日本も含め、東アジア全体のコミュニティづくりは歩み始めている。最後の姿を今の時点でこうあるべきだというのは、それぞれ持っているかもしれませんが、それは相手に押しつけ合うことではなく、自然に発展していく中で出てくるでしょうということです。
 ASEANはこの11月に向けて、幾つかの行動戦略を採択しようとしています。経済、安全保障、社会的な側面でもやっている。この重層的なさまざまな枠組みがあるわけですから、これらを、それぞれのところでやりながら進んでいきましょうという考え方です。
 台湾の観光のお話がありましたが、台湾だけではなく一般的に、二つのぶつかる要素があります。日本は「ビジット・ジャパン・キャンペーン」で観光客を倍にしたい、人を呼びたいと思っていますし、来たい人も大勢います。他方で、日本の社会には、外国人が増えて、不法滞在者が増えて、例えば犯罪が増えていくことについての懸念を持っている国民も大勢いるわけです。この二つを、どのようにしてバランスを取っていくかということが、政策を考えるときの基本的な難しい問題です。
 少しずつ前に歩み始めていまして、例えば中国でいうと、修学旅行生について査証免除をしました。韓国の場合は、この前のワールドカップのときに限定的に査証免除をし、その後、その結果の研究を一緒にしたのですが、今度の愛知万博のときに、再度限定的に査証免除をしましょうという話を韓国にしてあります。
 台湾については、1999年の段階で、有効期間5年で滞在期間90日という数次の査証の発行を始めました。今年の9月からは、先ほどおっしゃったように、修学旅行生について査証の申請や手数料などの緩和措置をやっていまして、肝心の査証免除をどうするのかについては、今、検討中です。総合的にいろいろな問題を考えて、結論を出していくことになると思います。

(高島外務報道官) ありがとうございました。EUのような姿なのか、それともNATOのようなものなのかという具体的なご質問がありましたが、私の見た感じでは、通貨統合ができるまでに、多分EUでは半世紀ぐらいの時間をかけて、少しずついろいろなことが発展していってそうなっていった。それに比べますと、東アジアはまだまだヨーロッパがそういう話を始めたころではないかという感じがします。具体的な姿を今ここで見せるほどの成熟度には到底至っていないような感じで、そんなことを考えながら大臣の話を聞いていたのですが、何かコメントはありませんか。

(田中東京大学東洋文化研究所所長) 2点ほど、歴史の話とビジョンについて、私は政府ではありませんから、やや無責任な話を申し上げます。
 まず、歴史の話ですが、先ほど、よい部分を強調してというふうに言いましたが、もちろん、歴史を認識するというのは、よい部分だけを認識すればいいというものではありません。よい部分も悪い部分もいろいろひっくるめて、認識しなければいけない。これはもちろんです。特に近代の歴史に関して、日本人は決して目を背けてはいけないと思います。
 それを前提にしていえば、この北東アジアの歴史はそこだけがあったわけではないのです。2000年さかのぼると言ってもいいし、4000年さかのぼると言ってもいいし、さまざまな面があった。最近の話でいえば、戦後の歴史もある。こういうことを日本人も朝鮮半島の人々も中国の人々も、みんなでできる限りフランクに議論を進めていくことが大事だと思います。その面でいえば、私の職業は研究者ですので、研究者としてこの近隣の研究者のかたがたと共同して、さまざまな東アジアの歴史、文化の研究を促進していくことが非常に大事だと思っております。
 ですから、大学で勉強なさっている学生の皆さんも、これは非常に重要な話であるということで、ぜひぜひ近代史も含めて、この東アジアの歴史や文化を勉強していただきたいと思います。
 それから、ビジョンのことですが、私はたまたま1999年に外務省から依頼を受けまして、ASEAN+3の関連で東アジアビジョングループというのができて、ASEAN+3に対して、ある種の展望をする、報告書を作れというので、日本のメンバーの2人のうちの1人として参加させていただきました。個人としての参加ですので、日本政府と意見をすり合わせたものではありません。
 東アジアビジョングループは、東アジアを、超長期にわたっては、平和で、繁栄して、進歩している地域にしたい、そういう提言を出しました。その実現のために、経済面をできるだけ一生懸命進めることによって、長期的にいうと平和も、それから進歩といったときには、人権や民主主義も広がるような、普遍的な価値を持った地域にしていきたい。ただ、そのための方策として見ると、いきなり天下り的にこうしなさいというのは望ましくないので、経済面や、先ほど大臣が言われた機能主義を重視してやっていくのが望ましい、としていました。
 ただ、ビジョンとしてみれば、その先には19世紀、20世紀と戦争ばかりやっていたこの地域を、平和な地域にしていくことが、やはり非常に重要な点としてあるのだと思います。ヨーロッパの人たちは、そのことを20世紀の半ばに決意して、今、ヨーロッパ連合という形にしたわけです。今後、ヨーロッパと同じような形になるわけではないと思いますが、さまざまなことで進めていかなければいけないと思います。
 ただ、ここで、日本の立場についてちょっと、やや外野からコメントしますと、日本の立場というのはけっこう難しいのです。恐らく、私が申し上げましたようなビジョンは、日本国民であれば、おおむね合意いただけると思うのですが、外交的に、日本がこういうことをやるから、ついてこないとだめだとかいうと、どういうことになるか。経済力でいうと日本が圧倒的に大きいわけで、その日本がこうやるのだと、上から天下り的に言うと、この地域のさまざまな人たちに、また日本がこの地域を支配しようとしているのではないかという観点も生まれるわけです。
 これは日本だけではなく、中国もそうなのです。中国があまり強いことを言うと、周りの国々の多くの人たちは、かなり慎重になる。ですから、この地域についてコミュニティを作るというのは、指令的というよりは、庭造りみたいに、庭師がやるように、こっちをやりあっちをやり、最後にできたときは京都のりっぱな庭園のようになっている。そういう外交ではないかと私は思っております。

(川口外務大臣) 田中先生がおっしゃったことについて、触発されたことが一つあるので申し上げておきたいのですが、日本がやっていることは、庭師の例でいうと、ここにこの木を植えよう、あそこにこの木を植えようということを、実は密かに考えているということだと思うのです。先ほど、東アジアコミュニティについて、三つの考え方ということを言いました。物事の進め方や考え方について、日本はペーパーを作り、この前の会議で提出したものですが、それは日本の考え方として提出する。そこにいろいろな国が反応します。反応を受け、それで議論してもらって、さらに一歩進めようということです。
 同じようなことで、東アジアサミット、首脳だけで東アジアのサミットを開こうということを考える動きがあります。それも、ではどうやってやるのか、何をテーマにするのか、どういう間隔でやるのか、だれが事務局をやるのか、いろいろなことについて整理をする紙を日本が作って、これも出しました。そこをベースに皆さんの考えを議論してもらうわけです。
 もう一ついえば、ARF、安全保障についての取り組み、今、信頼醸成ということでやっていますが、実は、日本は次のステップに行くべきだと考えています。しかし、反対の国もありますし、いろいろあります。次に向けて、まず、これをやりましょう、あれをやりましょうと提案したり、紙を作って出している。こうあるべきだとは決して言わないけれども、こういうことを考えたらどうか、知恵を出すところでリーダーシップをとっていると申し上げるといいかもしれません。

(参加者) 1番目の質問に関連して、歴史の問題があったのですが、私は、過去の問題についてはもう十分に答えを頂いたと思うので、未来の話について伺いたいと思います。個人、国家の交流がうまくいっていないという現状があると思うのですが、その間に一つ、個人と国家の間に、地域共同体や企業などを入れてみて、そのファクターがけっこう大きな役割を、これからの日中間の交流に果たすと思うのですが、それについてどう考えられますか。

(参加者) 長崎で被爆して兄貴を亡くしております。私が考えますに、北東アジアはやはり、ともかく仲良くすることにまず主眼を置かないといけないと思うのです。日本人は割と水に流します。確かに、けんかした後でも、けんかが終わったらもう水に流す。だけど、流せない人たちもいるのに、どう仲良くしたらいいか。それが非常に大事なことであると思うのです。
 それには、スポーツ、文化、映画、「冬のソナタ」でもそうですが、そちらに、やはりこの北東アジアは集まりをして、なるべく顔を合わせる。そして、日本は、平和な時代というのが4000年ありまして、その中で、韓国の百済のかたが追われたら受け入れて、その中で文化も頂き、そういう歴史があります。長い歴史の中でも、対外的な戦争は少ない。たまたまいちばん近いところでしたのが、写真、すべて撮ってありますので、日本はものすごくけんかっ早いと思われていますが、ちょっと違う。そういう印象を、アジアのかた、特に中国、韓国のかたに知っていただくのは非常に大事だと思いますし、それに外務省はよろしくお取り組みください。
 もう一つ、テロの首謀者に対する懸賞金とか、あれは全くくだらないので、そうではなく、やはり外交問題について非常にいい意見をみんなから競争で出させて、それに対する外務大臣の賞状でも頂けるようなことで、なるべくくみ上げていただきたいと思います。

(参加者) 領土の件で聞かせていただければありがたいと思っています。
 現在、竹島、尖閣諸島、ああいうところで、いろいろとトラブっているといいますか、日本は固有の領土であるとはっきり言っているわけですが、当該の各国は違う見解を持っているようです。経済的なこと、漁業のこと、いろいろあると思うのですが、外務省としてどういう分析をされているのか。逆に日本として、どうしようとされているのか。その辺のことを、できましたら分かりやすくご説明いただけたらありがたいと思います。

(川口外務大臣) まず、学生のかたの交流のお話、おっしゃるとおりだと思います。先ほど数字でお見せしたように、日中韓の交流が増えており、観光客も、ビジネスの人も、学者の方もいる、政府の人もいます。人と人との交流が基本的にはうまくいっていると思っています。多くの人がいて、いろいろな考え方をしている人がいる。そういったことを、もっと基盤を広くすることが大事で、地域、地方公共団体、市町村、姉妹都市の提携のプログラム、学校の姉妹校のプログラム、いろいろあります。そういったプログラムが多くあればあるほどいいと思っています。今、あちこちで熱心に取り組まれているので、私はとてもうれしく思っています。
 2番目のかた、同じような趣旨かと思いますが、スポーツ、文化、映画というお話があって、これも大事なことで、できる限り政府の予算も使ってやろうとしています。「日韓友情年2005」のパンフレットがお手元の袋に入っていると思いますが、2005年を友情年としてさまざまなプログラムを両国でやって、最大限に日韓関係を盛り上げましょうということです。共通のキャッチフレーズも作っていまして、「進もう未来へ、一緒に世界へ」という標語で一緒にやっています。
 それから、中国との間でも、昨年、一昨年、さまざまなプログラムがあって盛り上がっています。ASEANとの間でも昨年は友情年ということで、ASEANの国々一つ一つ、10か国ありますが、一つの月を担当して、例えば3月はラオスと日本、ラオスがプログラムを日本についてやり、日本もラオスについてのプログラムをやる。4月はベトナムとか、順番にやっていったのですが、もっともっと必要だと思っています。
 それから領土問題ですが、これも大変国益にかかる重要な問題で、竹島は歴史的に見ても、我が国固有の領土で、国際法的にいっても我が国の領土であることに全く間違いはない。これは非常に強く主張しています。尖閣諸島については、日本の立場からいえば領土問題ではない。国際法的に見ても歴史的に見ても日本の領土であり、日本がこれを実効支配しています。中国は領土問題だと言うけれども、我々は、これは領土問題ではないと考えているということです。
 竹島については、いろいろな機会に韓国政府に申し入れています。名前の呼び方から違う。この間、一連のことがあって、韓国政府との間ではいろいろやったことがあります。領土問題は、田中先生のほうがお詳しくていらっしゃると思いますが、歴史的にほかの国でも、いろいろな取り組みがなされているわけですが、日本政府は確固とした態度で、これは日本の領土であるということを申し入れています。同時に考えているのは、日本と韓国はお互いに最も近い隣国であり、民主主義や市場経済など、考え方や価値観をともにしているという意味で重要な国です。
 ですから、領土問題をもって日韓関係全般を悪くしてしまうことが起こることについては、注意しなければいけない、そういうことをやってはいけない。これは日本も韓国も両方とも、そう思っています。そういった中でねばり強く何度も何度も、これについて話し合いをしようと、漁業の問題もそうですが、今やっているということです。
 歯がゆい、もっと具体的なアクションを執るべきだ、例えば実効支配をするべきだ、そのような取り組みをすべきだ、いろいろなご意見が国内にあります。状況に応じて確固たる態度で日本は主張していますし、日本にとっての大きな国益を外してはいけないと同時に考えており、ねばり強さが大事だと思っています。

(田中東京大学東洋文化研究所所長) 地域共同体を使った交流というのは非常に大事ですね。韓国との間はだいぶよくなってきていて、韓国の多くのかたの日本理解は非常に進んできたと思うのです。今後の課題として、先日、中国で行われたサッカーの試合のようなことを考えますと、中国の一般の国民のかたに、日本のことをもっとよく知っていただくことが必要ではないかと思います。
 特に中国でも、内陸部の一般のかたがたは、なかなか日本について触れる機会がないこともあるので、日本について決まったイメージでもって判断されることがあって、生身の日本人と交流していただくことによって、だいぶ変わってくる面があると私は思っています。
 もちろん、日本の各市町村の中で、中国内陸部と姉妹都市をやっていらっしゃるところはありますし、かなり成果が上がっていると思いますから、どんどんやっていただければいいと思います。領土の問題はとても難しいのですが、我が国は、国際紛争を解決するために武力行使はしないというのが原則です。その面で言いますと、領土問題は、いかに歯がゆくとも、やはり平和的解決しかありえないわけです。ですから、外務省その他、国民全体が努力していくことしか、やりようがない。
 領土問題は、こちら側ももちろんそうですが、相手側も非常に複雑な状況を生んでいますし、先ほどのご質問で、分析ということをおっしゃったので申し上げます。例えば、韓国における竹島の問題、韓国のかたは独島と呼んでいますが、相当程度、韓国の国民の間のナショナル・アイデンティティの象徴みたいになっているのです。あんな小さい島じゃないかといっても、小さいころからのいろいろなイメージの中で、独島の歌などいろいろなものがあって、大海の中に存在する、小さいけれども韓国だ、そういうイメージになっているところです。
 もちろん国際法的にいえば、日本政府の立場は正しいと思いますけれども、韓国における感情についても、それなりに認識する必要もあるでしょう。いずれにしても平和的に何とかするのは、なかなか時間のかかることだということは、理解しておいたほうがいいのではないかと思っております。

(高島外務報道官) ありがとうございました。それでは、ここからは、北東アジアだけではなく、外交全般を含めたご質問、ご意見をちょうだいいたしたいと思います。

(参加者) 最近、日本の国連安保理の常任理事国入りとか、旧敵国条項の解釈とか、日本政府でも川口大臣の私的懇談会など、いろいろな働きかけをなさっていることが報道でも取り上げられています。本日のテーマが「北東アジアと日本」ということで、国際社会全般もそうですし、北東アジアへの、日本政府としての具体的なコミットメントみたいなものはあるのか。日本が常任理事国になるのを説得するという観点から、具体的な大臣のお考えをお伺いしたいと思います。

(参加者) 実は、私も領土問題について話したかったのですが、日本は外交的な諸問題において武力をもって対処できないことになっていますので、竹島に韓国が陣地を築いて常駐しているようなときでも、武力をもってこれを解決できない。一方、外交問題全般についていいますと、そういう観点で、武力で解決できないので、しからば日本は経済大国として、ODAという武器を大いに活用して何らかの圧力を示す。それもしないとなると、相手になめられると思います。

(参加者) 東アジア各国において、政府が、各国の政治情勢、もしくは社会情勢を調査、評価する際に、障害者に対する政策は検討の一つとして組み込まれているかどうか。例えば、障害を持つアメリカ人のアメリカ法、そのような調査、ヨーロッパでは障害者の差別禁止法がありますが、どのようなことをやっているのでしょうか、検討されているのでしょうか、あるのであれば、どのようにされているのでしょうか。

(川口外務大臣) まず国連外交ですが、多くの国が国連に改革が必要だと思っています。例えば、昨年の国連の一般総会で私も演説をしましたが、演説をした国の140ぐらいが何らかの改革が必要だと言っていました。現に、過去10年ぐらい、相当熱心にいろいろな改革案も検討されていますが、なかなか実現には至らないというのが今の状況です。日本としては、特に国連改革の必要性は、イラクの問題があって、そのときに国連が機能できたかどうかということの問題意識がある。
 国連というのは国がやっているわけですから、国が何か戦争をした。では、国に対してどうするかということはいろいろあるわけですが、最近の脅威というのは、例えばテロであり、大量破壊兵器の拡散であり、そのとき、その主体は国ではないわけです。そういった問題に、本当に国連が対応できるのだろうかという問題意識もあるわけです。
 そういうことを踏まえ、アナン事務総長が世界中から人を集めて、日本からも緒方貞子さん、今のJICAの理事長が入っていらっしゃいますが、国連の改革としてどういうことができるかということで議論をしており(注:アナン事務総長提唱「ハイレベル委員会」)、12月に報告が出ることになっています。日本は、こういう改革の機運が盛り上がってきている、この機会をとらえて改革をしなければ機会をずっと逃すことになるだろうと思っていまして、今、働きかけをしています。
 私も、各国の外務大臣との会合のときには、常にこの話をしていて、日本は安保理の常任理事国として安全保障理事会に入る資格を持っている。そして、世界の中でも、今まで実績として、そういうことをやってきていると言ってきています。この前インドに行ったときには、インドとの間で、安保理の常任理事国になることの相互支持をしましょうという話をしました。今度、国連の場で、常任理事国に関心のある国々が首脳ベースで集まって、会議をしようという話もあります。
 このようにいろいろなことをやりながらやっていくということで、日本は、今の憲法の枠内でやることをやりながら、国連の常任理事国として責任を果たしていくという考え方でやっています。
 北東アジアとの関係についておっしゃったのですが、その趣旨はよく分かりませんが、日本が常任理事国になることについて、世界のほとんどの国は賛成しています。あまり態度を明らかにしていない、中国などのような国もあります。パキスタンのように、インドが常任理事国になるのは嫌だ、だから反対だという国もありますし、南米、アフリカあたりは、常任理事国を広げるとして、どこの国がなるのだという意見があります。中南米なら、メキシコなのかブラジルなのかという話もありますし、アフリカでいえば、南アなのか、ナイジェリアなのかという問題もあります。これについてはいろいろな問題があって、話し合いをしながら、いろいろな説得工作をしながら、この機会が大事だと思っているということです。
 それから、領土問題とODAの関係をおっしゃったわけですが、竹島ということでおっしゃっているのでしたら、韓国は、もう日本からODAを供与していない国ですので、ODAは関係ありません。一般的にいえば、ODAというのは、人道援助等は必要だからやっているということですが、同時に、ODAの大綱を昨年夏に改定しまして、どのようなODAの使い方が、我が国の国益に資するかという考え方を入れてやっています。
 例えば、日本のODAというのは、世界が平和で安定して発展していくために使っているのですが、和平のプロセスで、あまり話が動かなくなってきているようなとき、「話し合いを進めてくれないと、このODAを使うのは難しいんですよね」というようなニュアンスの出し方はやっているということです。もちろん、核実験をやったとか、そういうときには、ODAを止めることも過去においてやっております。
 それから、障害者の方に、「(手話で)ご質問を頂いてありがとうございます」というつもりなのですが、障害者に対して国内的に何をするのかということは、外務省の主たる担当ではないので、むしろ国際的に今、どういうことが行われているかということについてお話しさせていただきます。
 世界に、主要な人権関係の条約というのがあります。国際人権A規約、B規約、人種差別撤廃条約、女子差別撤廃条約、児童の権利条約、いろいろありまして、日本としてはすべて批准しています。アジアの国々を見ると批准していない国もあります。
 これらの人権条約については、障害者の方々も当然、考え方として含まれているわけですが、現在障害者権利条約と呼ばれる障害者だけに焦点を当てた条約を新たに作成するよう、国際的に交渉中です。日本も、これは非常に重要だと考え、積極的にリーダーシップをとって交渉に参加しています。去年、私が国連総会の一般討論演説をしましたときも、この条約の早期締結が望ましいと強調して参りました。今後、早く合意に達するように引き続き努力していきたいと思っています。

(参加者) 将来、外交官になりたいと思っています。
 北東アジアというお話の中で、日本から見て中国と韓国は大きな貿易額で、人の移動もあると思いますが、北朝鮮がまだ国交も進んでおらず、経済格差も大きいと思います。近い将来、韓国と北朝鮮は一つの国になっていくと思うのですが、統合する際に経済格差を幾らか補っておかないと、統合したときに韓国に大きな負担がかかると思われます。周辺国として、日本、中国、隣の国韓国というのは、例えば、どのような政策をもって、地域統合という中において北朝鮮を位置づけているのでしょうか。
 もう一つ、東アジアコミュニティ形成というお話の中で、国によって宗教、文化、風習、生活などさまざまな違いがあると思われます。中でも人権についての取り扱いが国によって異なる面もあると思われます。地域コミュニティを作る中において、人権に対するとらえ方の違いを、どのように考えていくのでしょうか、教えてください。

(参加者) ODAのことなのですが、日本は、東アジア地域では非常に大きな功績を残したといいますか、各地域の発展に寄与していると思うのです。アジア各国のかたがたの、日本が、お金が全然ないのに莫大なお金を出して地域を盛り上げてきたことに対する認識が薄いと思うのです。
 ここで、東アジア地域のコミュニティ形成に対して、大臣がおっしゃった、知識を出して周りに提案していくことに加えて、例えばODAで東アジア地域に資金を提供しているので、名前を、東アジアコミュニティ開発基金、開発援助などと変えて、日本が寄与してきたことをアナウンスしてみてはいかがでしょうか。そうすることで、日本に対していいイメージを持ってもらえるのではないかと私は考えます。ありがとうございました。

(川口外務大臣) それぞれいいご質問だったと思います。北朝鮮の話ですが、日本が今後、北朝鮮とどのように進めていこうと考えているかというと、小泉総理が2年前に訪朝されたとき、「日朝平壌宣言」に署名を双方でしています。その中に、拉致、核、ミサイル、さまざまな問題を解決して国交正常化をしましょう、国交正常化すれば、その後で経済協力をしましょうということを言っています。
 今、北朝鮮というのは、先ほど数字を言いましたが、GDPでいうと、実に韓国と北朝鮮の格差はざっと30分の1ぐらいで、非常に格差があります。ですから、日本として、まず、いろいろな問題をすべて包括的に解決しましょうということなので、今、それを進めている過程です。それから先は問題が解決してからの話で、今はとにかく解決するために、6者会合や日朝間の会談で全力を尽くしているということです。
 将来的に韓国と北朝鮮が統一されるかどうか、いつごろか、これはまだずっと先の話で、見通すのはなかなか難しい状況だと思います。東ドイツと西ドイツの例を見ても、格差を埋めるときに、西ドイツは非常に苦労したわけで、当然そういったことがあった場合、影響は及ぶと思います。基本的に、この地域が平和で発展していくことが大事ですから、そういうことになるように、また、そういったことがかなり見えるようになった段階で、考えていくということです。今は問題を包括的に解決し、国交正常化をし、その後で経済協力をします。人道的な支援はすでにやっていますが、そういうステップで進んでいくということです。
 アジアの人権の問題は、コミュニティを作っていくときにどのようになっていくか。これも一つの大きな要素で、考え方が違うと一緒にコミュニティはできないわけです。コミュニティとして今考えているのは、EUのように、ローマ条約とか、いろいろな条約でがっちり固まった形になることが視野にあるわけではありません。おっしゃるように、EUより、アジアはもっともっと多様で、多様性がアジアの特徴ですから、文化その他についてもそうですし、人権の考え方についても、ミャンマーあたりですと人権規約を批准していません。ですから、進む過程で考え方が一緒になっていく、そういう世界に入るだろうということです。ただ、人権問題は重要なので、今の時点から、これはこうあるべきだということは積極的にほかの国にも常にお話ししています。
 外務省は幅広く人材を求めていますので、お勉強を続けられて、ぜひドアをたたいていただきたいと思います。
 それから、ODAについてですが、ODAが感謝されていないのではないかと思っている人がいちばん多いのは、日本だと私は思うのです。どこの国に行っても、日本のODAがいかにその国を助けたかについて、大変に感謝の念を持っています。カンボジアですと、日本のODAで造った橋が、お札や切手の絵になっています。切手にしている国はほかにもあります。
 中央アジアのキルギスについ最近行ったのですが、独立記念日の前の夜の演説をアカエフ大統領がしまして、その中で、「皆さん、キルギスのマナス空港は日本の支援で作られました。中央アジアでいちばんいい空港ができました。首都と次の大きな都市を結ぶ道路、これは日本の支援でできました。これも日本です。ほかにも、女性の死亡率が減ったのも日本の支援です。その支援をしてくれている日本の外務大臣が今ここに来ています」と拍手で迎えてくださる、そういうことはしょっちゅうあるのです。
 ASEANの首脳を日本に呼んで、去年の12月に会議をしましたが、すべての国からODAを大変にありがとうという話があります。中国も、過去には韓国も、ODAをありがとうということを、どんどん言っています。そういうふうに感謝されているODA、日本のODAが感謝されていないと思っている人がいちばん多いのは、どうも日本ではないかという印象です。

(田中東京大学東洋文化研究所所長) 大変素晴らしい質問を頂いて、かなり日本外交について本質的な問題を提起されていると思います。川口大臣は近来まれに見る有能な大臣ですから、すべてそつなくお答えになっていますが、多分、内心これはなかなか厳しいと思っておられると思うのです。
 例えば、ODAをどう使うか、これは大変難しい問題ですね。発言にありましたように、なめられてはいけないのですが、ただ、人道援助などについてみると、これを経済制裁に使って人道援助を引き揚げることは、その国の指導者をいじめることにはなるかもしれませんが、実際に人々を苦しめることになるわけで、これは大変なことです。
 もう一つ、感謝していただくということも、大臣がおっしゃったように、いろいろな国でげんに感謝されているのは確かなです。ただし、世界的に普遍的な感情だと思いますが、感謝しろと言って感謝してもらうというのは、実はそんなに大した感謝ではないのですね。日本がODAを出しているからといって、感謝してくれなければ困るということを、日本国民がみんな言っているのだとしたら、あまり世界の国の人は本心では感謝してくれないのではないでしょうか。

(川口外務大臣) 田中先生もおっしゃったように、本当にレベルの高い質問をたくさん頂いて、お話しさせていただいて、楽しいひとときでした。外務省のホームページに「ご意見を送ってください」というところがありますので、引き続き外交にぜひご関心をお持ちいただいて、引き続きご意見を頂いて、活発な議論をするための大きな力になっていただきたいと思います。今日はありがとうございました。


概要 / 冒頭説明 / 目次


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