外務省タウンミーティング第4回会合
川口外務大臣と語るタウンミーティング
(平成14年11月30日、於:名古屋 名古屋観光ホテル 那古東中の間)
「WTO新ラウンド
~グローバリゼーションの世界における貿易問題~」
川口外務大臣冒頭説明に対するコメンテーター発言
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【高島外務報道官】
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それでは、そのベテランの、なんでも答えられるパネリストの皆さんに、少しコメントをしていただこうと思います。と申しますのは、こちらに登壇していただいているパネリストの皆さまは、外務省、経済産業省、農林水産省、そして日本経団連と、それぞれのお立場で、WTOの交渉に直接関わっておられる方々であります。
今、川口外務大臣から、なぜWTOのラウンド、つまり、多国間の話し合いが必要なのか、また、それを補完するような形で、二国間なり地域なりの通商交渉が行われているんだという、概略が説明されたわけですけれども、それでは一体、その中身をもう少し詳しく見るとどういうふうに見えてくるのか。
まず、外務省の中で、このWTOという世界貿易機関、こうしたものを担当して、通商交渉に直接携わっているのは経済局というセクションです。その経済局の局長の佐々江賢一郎さん、実は、つい先ほど、上海から飛行機で名古屋空港に着いて、ここに駆け付けてくれました。
上海の近くで、中国、韓国、そして日本の三つの国の、こうした通商交渉の責任者が集まって、定期的な打ち合わせをしている。その打ち合わせを終えて帰ってきてくれたわけですけれども、大臣から今ご説明があったように、WTOというのは、144もの国が参加した大変大きな国際会議を、なんとか2005年1月までにまとめ上げようと言って、今、話し合いをやっているわけです。
一体、どういうふうに交渉をするのか、さぞ難しい交渉だと思いますが、担当者の立場でこれをどう見ているのか、まず、佐々江さんからコメントをください。
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【佐々江経済局長】
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外務省の経済局長というのは一体何をしているんだろうかと、皆さん、思われるかもしれませんけれども、まさに私の隣に、農水省の村上部長、経産省の田中部長と、われわれは、常に一緒に動いて仕事をしております。
と申すのも、先ほど大臣からお話がありましたとおり、日本の対外経済関係は非常に多岐に渡っております。特に、WTOの交渉は、本当にたくさんの問題、品目に渡っておりまして、全体としてどのように日本として交渉するのが一番日本の得になるか、日本が、今後どういうルールを国際的に作れば、日本としてもっとも仕事をしやくなるか、あるいは、日本の利益を最大にできるかということを、日夜相談しながらやっているということでございます。
もちろん、外務省というのは、すべての経済的な事象をカバーするほど、人間も多くないわけでございますから、当然その中で、外交的に見て、あるいは政治外交上、日本全体として見て、優先度の高い問題、あるいは非常に重要な問題に、外交的な観点から、大いに対外折衝に当たるということが中心でございます。
特に、川口大臣や閣僚レベルの会合、総理大臣等が外国を訪問しまして、話し合いをしたり交渉する場合に、日本国全体として、どういう立場でものごとを処理していったらいいか。そういうことを、たくさんの関係政府部内、場合によってはビジネス、さらには業界の方も含めて、ご相談しながら全体としてこれをまとめていく、それが基本的には、仕事の中心であると言ってもいいだろうと思います。
先ほど大臣から、WTOの意味、今日のWTO交渉の大枠について、話がございました。私の立場から見ると、来年の9月にメキシコのカンクンで、閣僚レベルの会合がございます。それに先立ちまして、非公式の、先ほど、大臣がシドニーで閣僚会議があったということをご紹介されましたけれども、その他にも、来年の9月にかけて、何度か閣僚レベルの会合があるということで、その一つひとつをうまくこなして、来年の9月でそれなりの成果を上げなければ、このラウンドの交渉が失速してしまうかもしれない。これが、もっともわれわれとして、避けなければいけないことであるということでございます。
先ほど大臣が、シドニーの会合で、主として途上国の問題を扱っているとおっしゃられましたけれども、次の閣僚会議、ミニ閣僚会議と申しておりますけれども、われわれとしては、東京で、来年2月の中旬ごろに開くということを想定しているわけでございます。先ほど申しましたような、農業の問題、あるいはサービスの問題、農業以外の分野の問題等々につきまして、相当これが進展するように、閣僚レベルの関与を得ながら交渉を前向きに進めていくことが、今の課題であるわけです。そういう意味で、この問題について、大いに皆さんのご支援、ご支持をいただいて、政府全体として、全力を挙げて交渉に取り組んでいきたいと思っているわけでございます。
もう一つは、今、高島報道官のほうから、中国のことについてお話がございましたけれども、韓国の政府の方、あるいは中国政府の方と、上海の南にある抗州で協議を行ったわけでございますけれども、中国も、韓国も、東アジア全体の貿易秩序をどういうふうにしていったらいいのかということを、それぞれに、率直に言って、悩みながら考えているということでございまして、われわれも、このWTOの交渉と同時に、東アジアの経済圏というものを、全体としてうまくいくように進めていきたいと思っているわけでございます。そういう意味で、非常に有益な話し合いができたと思っているわけでございます。
後ほどまた、この問題について、皆さんからご質問もあるかと思いますけれども、日本としては、当面の貿易交渉というのは、WTO多角化の交渉と、二国間の交渉を組み合わせながら、全体として、日本の利益を最大化するようにやっていきたいと思っているわけです。
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【高島外務報道官】
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佐々江さん、ありがとうございました。続いて、今たびたび話に出ております農業の点から、WTOをどういうふうに考えたらいいのか、さらに、WTOだけではなくて、二国間もしくは地域の通商交渉に、どう臨んでいったらいいのかという点を、農林水産省総合食料局の国際部長をしていらっしゃる、村上秀徳さんにお話しいただきたいと思います。お願いします。
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【村上農林水産省国際部長】
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村上でございます。WTOの農業交渉を担当しております。先ほど、川口大臣から話がありました名古屋港の話で、食料品、農産物の輸入の話がございましたけれども、わが国は国民の消費の6割を、海外、輸入に依存しているという状況であるわけです。自給率が40%という中で、WTOの農業交渉、あるいはFTAの交渉にどういうふうに臨んでいくのかという、なかなか難しい問題を抱えているわけでございます。
できるだけ国産でまかなえるものはまかないたい、というのが考えではございますけれども、現実問題として、国民全体の胃袋を確保するという意味で、国内生産と輸入、あるいは適当な備蓄を組み合わせてやっていくということで、かなりの部分を貿易、輸入に頼っていくという構造は、変わらないということであろうかと思います。
ただし、足腰の強い国内生産を育成していくことは、やはり重要だと思いますけれども、WTO農業交渉の中でも、いろいろな国の、いろいろな条件の農業が存続していけることを、主張の基本にしてやっているところでございます。
WTOというところは、自由化の交渉の場所でございます。そういう中で、アメリカやケアンズ諸国、輸出国というのは自由化をどんどん進めたい、急激に進めたいということを言っているわけですが、例えば関税も、現在の各国の関税をすべて25%未満にしようという提案を、それぞれ出しております。
そういう急激な改革というのは、各国の農業の存続を危うくするということで、われわれとして、改革そのものを否定するわけではございませんけれども、漸進的に各国が合理化を進める、足腰を強くしていくために、十分な期間をかけながらやっていく必要があると考えております。
そういうわけで、得てして輸入国が受け身になるわけでございますけれども、そういう改革を進めつつも、他方で、輸入国だけではなくて輸出国サイドも、今、必ずしも農業の分野では、規律が十分ではないということもございますので、そのへんも十分主張して、輸入国と輸出国の権利ないし義務のバランスがよく取れるような結果を出していきたいということでございます。
来年の3月に、モダリティと言いまして、交渉の全体の大枠、関税の引き下げの方式、引き下げ率というようなことが決まるわけでございまして、あと3、4カ月が非常に重要な時期となっております。全力を挙げて取り組んでいきたいと思っております。
FTAでございますけれども、WTOを中心としてきたわれわれの貿易政策の中で、FTAも、その補完的なものとして当然進めなければいけない。その中で、仮に交渉に入る場合には、農業そのものをセクター全体として排除することは、WTOの約束事から言っても難しいということでございますので、テーブルに載せて議論をするということでございますが、先ほどから申し上げておりますように、改革というのは漸進的に進めなければなりませんし、わが国の農業が構造調整のために非常に厳しい状況にある中で、国民全体が安心して食料供給を受けるという、その安心感を与える上でも、国内の農業の構造調整に悪影響が及ばないような形で、FTAというものも締結していく、交渉していくということではないかと思っております。
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【高島外務報道官】
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村上さん、ありがとうございました。実は私も先日、大臣のお供をして、シドニーのミニ閣僚会議に行ってきましたが、そのときに、各国の記者団からしきりに、日本にはWTOの話し合いの中で、農業についてどんな提案を出すんだ、どんなことを考えているんだと、大変しつこく聞かれました。
2月に東京で開かれる次のミニ閣僚会議でも、もっともっと各国の、日本の農業に対する注目が集まるのではないかと思います。その分、また村上さんの仕事も大変になると思うんですけれども、それはそれとしまして、次のコメンテーターです。
WTOの交渉は、例えば、先ほど申し上げたシドニーでのミニ閣僚会議ですけれども、日本からは川口外務大臣とともに、経済産業省から高市副大臣がご出席になりました。つまり、日本は通商関係の交渉をやるときに、外務大臣と経済産業大臣が並んでご出席になることが多いのです。
そういう意味では、非農業製品についての交渉の最前線に立つ経済産業省から、きょうは経済産業省通商政策局の通商機構部長をしておられる、田中伸男さんに来ていただきました。田中さんもやはり、WTO交渉のベテランでございます。お願いします。
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【田中経済産業省通商機構部長】
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田中でございます。きょうは、尊敬する川口先輩に呼ばれまして、喜んで出てまいりました。
先ほど、川口さんは非常にエレガントに、名古屋港は日本で貿易がナンバーワンだという説明をされておられましたけれども、はっきり言えば、トヨタ自動車があるから、まさにそうなっているわけであります。
これは非常に重要な話で、昔、GMの社長が、「GMにとっていいことは、アメリカにとっていいことだ」と言って、ひんしゅくを買ったことがありますが、少なくとも、名古屋にとってみれば、トヨタというのは極めて重要な会社でありますし、その会社が、今ここまで成功してきたというのは、まさに自由貿易のおかげそのものでありますので、名古屋市民は、自由貿易はこんなにありがたいものだと、肌で実感されおられるということではないかと思います。これを実感していただくのは非常に難しいことでありまして、日本全体でそれがシェアできるか、これがわれわれの最大の課題であります。
先ほど、投資の問題が出てまいりましたけれども、自由貿易で関税が下がっていけば、確かにものはどんどん出ていくわけでございますが、それだけでは行き過ぎになりまして、摩擦が大きくなります。
私もアメリカ勤務をしておりましたけれども、大きな摩擦問題というのは、自動車に始まって、鉄鋼やら、半導体やら、産業機械やら、コンピュータやら、ありとあらゆる摩擦が起こりました。それを乗り越えるべく、今度は現地に投資をしていきますと、投資にあたっては、現地でいろいろなものを調達しろという、ローカルコンテンツの要求ですとか、投資した先でものをどんどん流していこうとしても、流通を規制されてしまえば、ものが売れなくなるということで、実は、ものに係る関税以外でも、投資のそういうパフォーマンスの要求をなくすとか、サービスも、流通についても、自由にしてもらう必要があります。
こういう部分についても自由にしていかないと、全体の恩恵は実現できないわけでありまして、まさにラウンドが、関税交渉以外にも新しいルールの交渉があると、川口大臣はご説明されておられましたとおり、マーケットアクセス、ルールの全般で自由化を進めていくことが重要なわけです。
それから、アンチダンピングという話が出てまいりましたけれども、これも同じことでございまして、ものをコスト割れで国内で売っても罰せられません。独禁法違反にならない限りにおいては、ものを安く、コスト割れで売ってもなんの問題もございませんが、それを外国に売ると、ダンピングということで指弾されます。
これは国際ルールでございます。やってはいけないんですけれども、しかし、計算方法をいい加減にやりますと、いくらでも高い関税がかけられます。現にアメリカは、それをさんざんやっているわけでございますけれども、途上国がそれを真似し始めています。
世界中がそれを使うことによって、実は、他方で行われている関税の引き下げ努力、それが結局無効になってしまう、役に立たなくなってしまうということで、ダンピングについてはこれを乱用しないように、もっとルールをきっちり作ろうではないかということを、交渉の重要なアイテムとして、われわれ、やっているわけです。
こういった、いろいろなルールがうまくできれば、売りやすい、日本から投資がしやすい世界ができるということで、それが、われわれ政府が、今やっている最大の仕事であります。自分たちにとって、やはり都合がいいルールを作らないと、この世界は勝てません。
日本では女性のシンクロナイズドスイミングが非常に強いわけですが、コーチの話を聞いてみますと、どうやってシンクロを強くするかというと、芸術性という意味では、ロシアに負けると言うんですね。だけど、スポーツという力強さでわれわれは勝てると。では、どうやって勝つかというと、もちろん選手をしごくんですが、それだけではなくて、スポーツシンクロ、これが世界の常識ですというルールを、世界中に売って歩いたそうであります。
評価点、つまり、審判官がどういう採点をするかを変えることによって、日本は世界一になれる。これは大変おもしろい議論でありまして、われわれも世界のルールを、自分に都合がいいように変えないと、やはり勝てません。それを努力しているというのがWTO交渉だと、わかりやすく言えば、そういうことだと思っていただけたらいいと思います。
ただし、自分に都合よくやっても、さっき村上さんが言っておられましたけれども、輸入が増えます。特に、保護されてきたセクター、サービスセクターもそうですし、農業もそうですが、そういうセクターについては、ものが入ってくると被害を受けるわけでありまして、その被害を受けるのに、先ほど彼が言っていましたけれども、徐々に徐々に自由化を進めていく。これはやっぱり必要でありまして、WTOのルールにもそういうルールがあります。したがって、それもわれわれに都合がいいように、できるだけ使えるようなルールにしていきたいということであるわけです。
もう一つ、FTAの問題をひと言申しますと、中国がWTOに加盟して、今、中国に行きますと、WTOの本が中国の町に氾濫しています。なぜかと言うと、中国はWTOに入ることによって、国内の経済構造改革を進めようとしているからです。
WTOのルールがあるから、われわれの内部の経済を変えなければいけない。このルールを変えなければいけない。法律を変えなければいけない。こういうことで、一生懸命幹部が、挙げてWTOを勉強させて、それによって経済構造改革を進めようとしています。つまり、WTOを、一種外圧として使っているわけです。
日本にとって、やはり同じことが、戦後にありました。ガットでございますが、それに入ることによって、われわれは日本の経済を変えてきたわけです。ルールを変えてきたわけです。ただし、最近では、われわれはWTOの先進国ですので、ここの中にいるだけではなかなか変わらない。そういった意味では、FTAを使うというのも一つの方法だと思っています。
FTAというのは、WTO以上に日本を縛りこむことがあります。ただし、それは逆に、構造改革を日本で進める絶好のチャンスでありまして、伸びていく東アジアの力を、どうやって日本の中に導入してくるか。脅威ではなくて、われわれはチャンスとしてどう生かすかを考えています。
伸びる東アジアを、日本の庭にする。これが、今のFTAの戦略であります。出て行く企業もそうです。それから、豊かになった中国人が、日本に来て観光しています。そのうちに、日本の医療サービスも使うかもしれない。北九州には韓国の人がたくさん来ています。
こういう人たちがお金を日本で使ってくれること、これが一種、FTAの中の一つの重要なファクターでありまして、われわれ、これをマルチのWTOの交渉をやることに合わせて、バイのFTAをやっていくという意味で、重層的な通商政策、多層的な通商政策と呼んでいます。
もう一つ、国内の構造を変えていくことを念頭に置いているという意味で、単に対外通商政策ではなくて、内外一致の経済政策と呼んでいます。そういったことで、私ども交渉していますと、フリートレードかプロテクショニズムか、自由貿易か保護主義かという二極論をしますが、むしろそうではなくて、リストラクチャリングをするのか、世界の墓場に行くのか。そういう二者択一ではないかと思っていまして、小泉総理が改革なくして成長なしと言っているのは、まったくそのとおり、非常にきつい言葉ではありますけれども、先ほど、リストラクチャリングか墓場かという言葉を引いたのは、GEのジャック・ウェルチが1990年、今から12年前に、GEのアニュアル・レポートの中で言っていた言葉でありまして、われわれは、やれることはみんなやる。リストラを進めない限り、行き着く先は産業界の墓場だと、彼は90年のアニュアル・レポートで言ったわけです。
われわれ、今政府がやろうとしているのは、まさにそれを、12年遅れではありますけれども、同じことをできるだけやってみようということでありまして、free trade or protectionismという言葉よりは、むしろ、リストラクチャリングまたは墓場かというのが、われわれが言うべきことではないかと思います。少し長くなりましたが。
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【高島外務報道官】
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ありがとうございました。今までは官の立場で、貿易、通商にどう立ち向かっていくのかという話をお聞きいただきましたけれども、これを、民の立場から見るとどういうふうに見えるのか。日本経済団体連合会に貿易投資委員会という組織があります。そこで、総合政策部会の部会長をしていらっしゃる團野廣一さんに、きょうは参加していただきました。團野さん、コメントをお願いします。
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【團野日本経済団体連合会貿易投資委員会総合政策部会長】
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私は、名古屋に4つ工場を持つ三菱重工で長い間働いておりまして、そんなこともあって、きょうこの席に陪席する機会を得たと思います。
産業界はご存じのように、社会主義国が市場経済のほうに入ってきまして、全地球規模で市場の経済化に伴う経済のグローバル化が加速度的に進んでいる中で、世界市場で大変熾烈な国際競争に挑戦をしている状況であります。
政府の通商交渉に対してそういうことでありますから、われわれ、無関心ではいられないのであります。特にWTOの新ラウンドでは、ものの貿易に加えまして、サービス貿易の自由化が大きく取り上げられました。また、市場のアクセスの問題だけではなくて、先ほどからお話が出ておりますように、国際ルールを作っていくというところまで、議論が拡大してきておりますから、交渉結果は、私どもの日々の国際ビジネス活動に、直接大きな影響をもたらすという状況になってきているのであります。
通商交渉は政府の交渉チームがおやりになりますから、われわれは直接参画できませんけれども、間接的ではあっても、積極的に政府の交渉チームに対しまして、交渉のタマを提供するという形で協力するのと、もう一つは、産業界としての重要関心事項については、率直に強く要望を申し上げていく。こういう形にしていこうという活動をしている状況でございます。
今回のWTOの交渉立ち上げは、シアトルで失敗して、2年間無駄をしたのですけれども、ドーハでようやく立ち上がりました。その前に、私どもは7項目の関心事項を、ぜひ議題に取り上げてくださいという要求をいたしました。
最近、官の世界も一部に不祥事などがあって、マスコミで報じられておりますけれども、実際に交渉に携わっておられる方々は、実に粛々と努力を重ねていただきまして、われわれが要望した項目のほとんどが、ドーハの閣僚会議で取り上げられることになったということで、大変喜び、また、評価をしているのであります。
ただ、先ほど田中さんからもご指摘があった投資のルールについては、日本は海外で生産をしたり、世界中からものを調達したり、あるいは、海外の企業と連携によって仕事をしていくというような場面がますます増えてきておりますので、この投資につきまして、海外にお金を投入して事業をやるときに、守ってもらわなければいけない。
それから、投資をするについて、例えば技術供与を3年以内にやれとか、あるいは、その国で作ったものは輸出をしないさいというような形で、いろいろ制約条件を付けられると、そのリスクに耐えられる企業しか外に出て行けない。そうしますと、冒頭申し上げたような、グローバルな動きの中で仕事をしていくことが難しくなるわけですから、投資のルールは、来年の秋の、カンクンというメキシコの町で行われる閣僚会議まで先送りになりましたけれども、ぜひ、アジェンダに取り上げる形になるようにと、希望しているのであります。
もう一つは、貿易の円滑化。ファシリテーションといわれる問題で、貿易手続きと関税の手続きを、世界中で非常に透明な、わかりやすい仕組みにもらいますと、貿易もさらに活性化しますから、これもぜひ議題に上げてほしい。
それから、今回、努力によりまして取り上げていただいた一番大きな問題は、鉱工業品の関税のさらなる引き下げです。皆さんご存じかどうかですが、日本はずっと努力をして、自由化を進めてきまして、鉱工業品の平均関税譲許率は1.5%です。それに対しまして、欧州は3.6%、アメリカは3.5%です。そこに非常に不平等感があるんですね。
おまけに、欧米では産業の立場が強いですから、政府に対して強い産業は関税を上げろというようなことを言って守る。例えば、トラックですね。欧州で言いますと、自動車も10%ありますし、エレクトロニクス製品などを守ろうとしているというようなところがありまして、著しく高い関税率がある。
それから、途上国はおしなべて25%とか30%と、大変高い関税率の障壁がある。これらを下げていただければ、もっと日本の貿易は大きくなって、外貨を稼いで、みんなの生活も豊かになっていく。こういうことだと思いますので、これはぜひ、がんばっていただきたい。
それから、アンチダンピングは、先ほどお話がありましたから紹介しますけれども、産業界はこの仕組みを、やめてくださいと言っているのではありません。ただ一方的に調べられて、調べる費用は全部こちらにもたされて、結果的に高い関税を、暫定期間であるとはいえ、一方的に賦課されてしまう。こんなやり方はないんじゃないのかと。もう少し透明でわかりやすく、みんなが納得するようなものにしていただきたいというのがわれわれの要望でありまして、これもぜひお願いしたいと申し上げております。
それから、中国が今度WTOに加盟しまして、先ほどお話があったように、144カ国にもなります。この間私ども、ミッションをジュネーブに派遣しまして、産業界の意見を、WTOの本部や、ジュネーブに出ております各国の代表団に訴えてきましたが、中国の大使に対しまして申し上げたのは、知的財産権の問題で、コピーイングとか、模倣品が横行しているために、大変日本の企業は困っておりますので、なんとか取締りをお願いしたいということを申し上げました。
「上に政策あれば下に対策あり」という言葉が中国ではあるそうですが、地方まで中央の指令が行き届くには時間がかかるというお話もございました。しかし、厳罰主義でもって対応するので、しばらく時間を猶予してほしいということで、非常に前向きな対応を聞くことができました。このような問題、その他大事な問題は、だいたい取り上げていただいたと思います。
外務省を始め、経産省、財務省等、関係省庁を含めまして、実に粘り強く、これまでのところ交渉していただいておりますが、この交渉が本格化するのはこれからです。ですから、長丁場になりますが、引き続きわれわれも協力し、要望を申し上げていきますけれども、一つ、ここにお揃いの交渉のリーダーの皆さんには、応援もしますが、国益のために一枚岩で大いにがんばっていただきたいと、このように考えます。ありがとうございました。
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