有馬日本政府代表首席代表演説
第56回ESCAP総会有馬日本政府代表首席代表演説
(2000年6月5日、バンコク)
アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)
1.はじめに
議長、
モイESCAP事務局長
並びにご臨席の皆様、
日本国政府を代表し本総会の議長にハラズィ・イラン外務大臣閣下が満場一致で選出されましたことにお慶びを申し上げたいと思います。また、本総会をホストされますタイ政府に対して敬意を表したいと思います。
2.途上国の多角的貿易システムへの統合
議長、
今世紀を振り返りますと、国家間の経済活動の壁が次第に取り除かれ世界経済は一つのシステムに向かって進み続けています。現在、グローバリゼーションの恩恵を如何に活用し、同時にそれに伴う問題を如何に対処するかを議論しておくことは、今後の世界経済システムの安定的発展、ひいては全人類の将来の繁栄のために真に必要なことであると思います。
議長、
今日、最も重要な国際経済の課題のひとつは、WTOを中心とする多角的貿易体制の維持・強化ですが、そのためには、途上国との信頼醸成が重要な課題であると感じます。アジア太平洋地域を含む途上国の幅広い関心事項に適切に応えつつ、各国の様々な利害関心に応え、予めの限定のない包括的対象分野を有するラウンド交渉を早期に立ち上げることが重要です。
また、わが国は途上国も多角的貿易体制の利益を享受できることを認識できるよう各国とともに努力をする所存であります。その一環として、WTO協定を実施する上で困難を抱えている途上国に対して、我が国は、協定実施に必要な人材の育成等のため、積極的に途上国を対象にした支援策を行っていく用意があります。
更に、後開発途上諸国からの輸入については、今後、無関税・無枠の特恵待遇を実質的に全ての産品に対して供与し、実施するとのイニシアティブを他の主要国ともに推進していきたいと考えています。
また、多国間貿易交渉におけるモダリティーや実質的な話につきましては、今後のWTOの場で検討されることが適当であると考えております。
3.アジア経済について
議長
97年7月に発生したアジア通貨・経済危機の際には、危機に見舞われた国々は、その対応のため国際社会の支援を受けつつ自身の改革に向け懸命な努力を払いました。我が国はアジア各国の改革努力を支援するために、新宮澤構想を始めとする種々の支援策を発表、着実に実施してきました。幸い多くの国では景気回復の動きが広がっています。各国の最近の経済成長率は大幅なプラスに転じており、今後この回復の動きをますます力強いものとしなければなりません。
議長、
この経済回復の動きを一時的なものに終わらせずに、更に中長期的な成長につなげていくためには、今後の成長を担う人材の育成が何よりも大切だと考えています。人材育成の重要性は、昨年我が国が派遣した「アジア経済再生ミッション」の報告書にも提言として盛り込まれています。これを受け、昨年11月、ASEAN+3(日・中・韓)首脳会議において我が国は「東アジアの人材の育成と交流の強化のためのプラン」、いわゆる小渕プランを表明しました。小渕プランについては、フォーローアップのための政府ミッションの派遣などを通じて、引き続き着実に実施していきます。
また、アジア経済危機は保健・衛生・教育・雇用等、広く社会的な次元にもその影響を及ぼしています。危機により特に影響を被っている社会的弱者への対応として、我が国は、世銀に「日本社会開発基金」を、ADBに「貧困削減日本基金」を新設し、2000年度において、それぞれ100億円ずつ、合計200億円を拠出することとしているところです。今後は世銀・ADBと緊密な連携をとりながら、適切な施策の実施に努めて行きたいと考えています。また、ESCAPの取り組みに対しても、わが国が国連に設置した人間の安全保障基金から地域コミュニティの参加型プロジェクトへの拠出を新たに開始しました。
4.ESCAP環境大臣会合について
議長、
日本政府は今年8月末に北九州市において第4回ESCAP環境大臣会合をホストする予定です。北九州市は過度の公害を克服する為に各種施策を実施したことにより高い評価を得ております。また、北九州市の関係機関は公害をコントロールすべく各種施策を実施し、環境問題を解決してきました。我が国はこのような北九州市の取り組みを「北九州イニシアチブ」として同会合に提出し承認を得たいと考えております。このイニシアチブには、大気、水汚染、ゴミ、都市における緑の発展、巨大都市及び中間都市における環境の管理の問題等を含み、同地域の取組への指針とすることに重点がおかれています。環境問題に関する北九州市の経験に学び、今後アジア地域全体の環境問題への取り組みへの指針となる同イニシアチブが同会合で採択されることを期待しています。
北九州市イニシアチブに加え、ESCAP環境大臣会合と同時期に開催されるアジア太平洋環境会議(エコ・アジア)からは、長期視点計画の下で作成された重要な環境問題に関する政策ペーパーが提出される予定であります。
我が国は1992年のリオ「地球サミット」以降生じた新しい技術革新やグローアバリゼーションについても議論する未来志向のアジェンダも含む会議であるべきと考えます。このようなインプットを活用することにより、ESCAP第4回環境大臣会合がアジェンダ21を10年ぶりに包括的に見直す為の国連会議、いわゆる2002年「リオ+10」へ向けた準備過程へ貴重な貢献をするものと強く期待しております。
5.ESCAP機能強化について
議長、
昨年、我が国提案をベースにしたESCAPの活動・機能強化、ビジビリティー向上のための提言が総会で採択されました。その後、当地バンコク常駐の各国メンバーから構成されるACPR会合での活発な論議の上、同提言の実現のために必要とされる具体的行動を含む諸提案が作成され、今次総会に提出されました。
アジア太平洋地域に第二次世界大戦後まもなく経済復興のため設置された最初の国連組織から出発したESCAPも、その後多くの国際機関・国連諸計画が誕生する中、途上国の経済・社会開発問題に取り組む上から、他の国際諸機関にみられないより付加価値の高い活動を目指すべきであります。そのためのメンバー各国及び事務局の意識改革や従来の諸活動の有効性につき定期的な見直しが必要であります。また、提案内容には、活動対象となる途上国メンバーによるESCAP諸活動の評価を重視すること、活動成功例については、国や地域レベルでの広報を強化すること、ESCAPのWeb siteを利用した情報のフィードバックを活発に行うこと、成果につきビジビリティーを向上することも求めています。
また、モイ現ESCAP事務局長に賛辞を送るとともに、キムESCAP次期事務局長の選任に心からお祝い申しあげたいと思います。キム氏の卓越したリーダーシップのもと、既存のESCAPの人的・資金的リソースの最大限利用の観点から、ESCAP事務局が全面的な組織見直しにも果敢に取り組むことを強く期待しています。
わが国は、ESCAPが経済社会開発分野で特徴ある技術協力活動を推進するため、これからも積極的に人的・資金的な協力を行う所存であります。2000年度においては、ESCAPが域内諸国の経済・社会開発関連の事業を実施するために必要な資金として、「日本・ESCAP協力基金」(JECF)、アジア太平洋統計研修所(SIAP)、CGPRTセンターを通じて約350万ドルの拠出を行う他、国際協力事業団(JICA)等を通じた専門家の派遣を引き続き行います。
6.終わりに
議長、
こうして21世紀を直前に控え、豊かで安定し、人々が安心して暮らせる世界を次の世代へ引き継ぐためにも、我々は英知を集め、アジア太平洋地域、ひいては全人類が希望に満ちた輝かしい21世紀を迎えられるよう全力を傾注すべきであると考えております。
本年7月には我が国が九州・沖縄サミットを主催しますが、21世紀に全ての人々が一層の繁栄を享受し、心の安寧を得、より安定した世界に生きられるよう、各国、そして国際社会は何をすべきかを大きなテーマにしたいと考えています。その上で、21世紀が全ての人々にとってより素晴らしい時代となるという希望を世界の人々が抱けるよう明るく力強いメッセージを発信したいと考えています。
我が国はこのようにESCAP等種々の国際的な協力を通じ、地域全体の安定と繁栄のため努力していく決意であることをここに表明して本演説を終わりたいと思います。
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