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河野外務大臣演説
第147回国会における河野外務大臣の外交演説
平成12年1月28日
新千年紀の幕を開けた世界は、政治、経済、社会のいずれの面でも多くの挑戦に直面しています。冷戦の終焉によって世界的規模の戦争の恐れから解放された世界においても民族紛争や地域紛争が頻発しております。今日、人類は民族、宗教といった各々の帰属意識の相克を乗り越え、対話と協調により問題を解決する国際社会を築かなければなりません。対立ではなく対話が求められているのです。 また、経済のグローバル化の進展や情報通信分野の革新的変化は、国際社会に未曾有の繁栄をもたらしました。しかし、このような変化に取り残された人々や地域に対する目配りを決して忘れてはなりません。国際社会の持続的な安定と繁栄を確保するために社会的公正の確保や地球環境問題への配慮とともに、貧困や社会的弱者への対応などの問題につき、引き続き国際社会が一致協力して対応することが必要であります。 多くの国におけるこれまでの幾多の試練を経て、我が国憲法の中心的な柱である自由と民主主義、そして基本的人権の尊重といった価値が一段と国際社会に定着してきたことは歓迎すべきことであります。これらの価値を実践していくことが、社会、経済の発展、平和の礎となることを、今後とも国際社会全体が力をあわせて証明していかなければなりません。このような共通の価値観の実現のためにも、文化的、社会的背景の異なる各国、各文明間の対話を繊細さと寛容の精神で進めていかなければなりません。 このような基本認識の下に、私は、「国民と共により良き未来を拓く外交」をモットーに、「より平和で安定した未来」、「より人間的な未来」、「より繁栄した未来」に一歩でも近づけるよう、全力を尽くす所存です。 「より平和で安定した未来」を築くためには、まず、我が国及びアジア太平洋地域の平和と安定を確保するための努力が不可欠であり、この基盤となるのが米国との同盟関係です。我が国と自由、民主主義、基本的人権の尊重など、価値観を共有する米国は、安全保障問題のみならず、中東和平や通商問題などでも国際社会のためリーダーシップを発揮する意志と能力を持った国家であり、このような米国との協力は我が国外交の基軸であります。 政府としては、日米安保体制の信頼性を一層向上させるため、「日米防衛協力のための指針」の実効性の確保に引き続き取り組んでまいります。先日、私は沖縄を訪問し、我が国にある米軍施設・区域の約75%が存在する沖縄の現状の一端に触れてまいりました。普天間飛行場の移設・返還問題については、稲嶺沖縄県知事、岸本名護市長をはじめとする関係者のご尽力に心から敬意を表するとともに、昨年12月28日の閣議決定に基づき、普天間飛行場の移設に関連して適切な対応をすべく全力で取り組んでいく考えです。 今後とも、沖縄県の方々が我が国全体の平和と安全のために背負っておられる多大なご負担を少しでも軽減していくために、誠心誠意努力してまいります。 我が国の位置するアジア太平洋地域における平和と安定の維持・強化のためには、このような米国の存在と関与に加え、近隣諸国との二国間関係の強化が重要であり、その一環として地域における多角的な対話と協力を深めていくことが必要です。私としては、この近隣諸国との関係強化を我が国外交の柱として全力で取り組んでまいる所存です。 民主化の進んだ韓国との関係は一段と深まり、近年首脳間の相互訪問等を通じ更に大きな進展を見ました。今後は、2002年の「日韓国民交流の年」に向けて、幅広い交流を推進すること等により、信頼関係をより強固なものとする考えです。さらに、中国の安定と発展は地域の平和と安定につながり、我が国にとっても極めて重要であります。このような観点から今後の日中関係について、日中共同声明の原点をしっかり踏まえ、その精神を広く国民と共有し、本年の朱鎔基総理の訪日を軸として幅広い分野で具体的な協力を着実に進めてまいります。 また、アセアン諸国との関係についても、あらゆるレベルの対話を深め、緊密な関係を更に強化できるよう努力いたします。 最重要課題の一つである対北朝鮮政策についての基本方針は、韓米両国との緊密な連携の下、北東アジア地域の平和と安定に資するような形で、北朝鮮と第二次世界大戦後の正常でない関係を正すよう努力していくことです。この方針の下、引き続き抑止のための施策を進めるとともに、村山訪朝団の御努力もあり、それを契機として昨年来芽生え始めた日朝対話を育て、国交正常化交渉を再開すべく全力を尽くす考えです。 また、そのような対話を通じて、日朝間に存在する様々な人道問題や安全保障問題についても真剣に取り組んでまいります。 ロシアでは、昨年末エリツィン大統領が辞任し、プーチン首相が大統領代行に就任しましたが、今後ともあらゆる分野で日露関係の強化を図ります。平和条約については、新政権との間で、東京宣言やクラスノヤルスク合意等に基づき締結するよう全力を尽くす決意です。 こうした関係の前進が実現すれば、対立と緊張の多かった日本海を平和と協力の海として発展の中心とすることも可能になると思うのです。 これら二国間の取組に加え、アセアン地域フォーラムやアジア太平洋経済協力、アセアン・プラス3等の様々な枠組みにおける協力を通じ、高まりつつある地域協力の気運を更に確かなものとするための取組に積極的に参画すると共に、4月には宮崎で「太平洋・島サミット」を開催します。 世界の平和と安定を実現する上で最も重要な課題の一つが、現在G8の外相間で議論されている紛争予防の問題であります。紛争の予防のためには、国際社会の英知を結集し、取り得るあらゆる政策手段を検討しつつ、紛争の根本的原因の一つである貧困の撲滅等の地道な努力を一つ一つ積み重ねていくことが重要であります。我が国としては、九州・沖縄サミットに向け、今後ともこのような努力を続けていく考えです。 国際社会全体の平和と安定を始めとする諸問題への取組のための国連の役割は引き続き重要であります。本年9月には国連でミレニアム総会及びミレニアム・サミットが開催されますが、国連が新たな時代にふさわしい役割を果たしていくためには、安保理、財政、開発の各分野にわたる国連改革を推進し、その機能を強化する必要があります。我が国としては、国連強化の観点から安保理改革が実現する中で、安保理の常任理事国としてその責任を果たしたいと考えております。 私は、昨年コソヴォを訪問してまいりましたが、現在、国連コソヴォ・ミッションや国連東チモール暫定行政機構等の国連の活動に多くの邦人が参加し、献身的に活動していることを心強く思っています。また、我が国は、東チモール避難民救援のためインドネシアに自衛隊の派遣を行っています。我が国としては、このような国連を中心とする国際社会における平和と安定を確保するための活動に、今後とも積極的に協力してまいりたいと考えます。 また、中東和平については、先般、シリア・トラックが再開されたことを歓迎しており、今後もすべての交渉トラックにおいて和平が進展し、中東地域に公正・永続的かつ包括的な和平が実現することを期待しております。 国際の平和と安定のためには、軍備管理・軍縮、不拡散の分野における努力も重要です。 我が国は20世紀において広島と長崎の被爆により核の悲惨さを体験した国家として、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効、米ロ核軍縮交渉の進展の働きかけを強化するとともに、本年4月の核兵器不拡散条約の再検討会議において核不拡散・核軍縮の追加的目標につき合意が得られるよう最大限努力致します。また、生物兵器や化学兵器、弾道ミサイルの不拡散、更には2001年に国連会議が行われる小火器の問題についても積極的に取り組む考えです。 我々が目指すべき未来は、戦争や紛争がないということにとどまらず、個人個人がより人間らしい生活を営める未来でなければなりません。このような未来を拓くためには、貧困、地球環境問題、国際組織犯罪、テロといった個人の生存、尊厳、生活に係る様々な問題について、「人間の安全保障」の視点を踏まえて取組を強化しなければなりません。 その際、我が国の戦後の発展の基礎となった自由と民主主義及び基本的人権の尊重の理念を外交によって実現しようとするならば、既に大きな役割を果たしているNGOなど市民社会の自発的な活動との建設的な協力関係を構築していかなければなりません。 我々は、同時に、多様な文化や価値観が相互に理解・尊重され、共生することの出来る世界を目指し、そのためにも国民各界・各層の国際交流を通じて、文化・文明間の対話・交流と相互理解を一層促進してまいります。 私たちは、世界経済の繁栄を確保し、各国の持続可能な発展を実現することを通じ、「より繁栄した未来」を拓いていかなければなりません。アジアなどにおいては、総じて通貨・金融危機から回復の動きが見られていますが、我が国としては、今後ともアジア経済の再生にも重要である我が国自身の経済再生に引き続き努力するとともに、アジア各国の経済再生のための改革努力に対し引き続き支援してまいります。また、世界各国が経済的繁栄を享受する上での重要な礎石である多角的貿易体制の強化のために、我が国として世界貿易機関(WTO)における新ラウンドの早期開始に向け引き続き努力してまいります。 「より繁栄した未来」を考える際には、アジアやアフリカなどにおける開発途上国の貧困撲滅と持続的開発は避けては通れない課題です。そのためには、途上国自らが主体的に開発に取り組むこと、そして先進国と途上国が国際社会の対等なパートナーとして連携することが今も重要です。政府としては、国民の皆様の一層の御理解と御支援が得られるよう、政府開発援助を我が国の重要な外交手段として、また広い意味での国益に資するものとしてより効果的かつ効率的に実施して参ります。 私は、先般の欧州訪問で、欧州は今、21世紀の政治と文明の担い手として、非常に強力な存在になりつつあることを実感し、このような欧州と政治面での協力を更に進めていきたいと考えています。 本年7月に我が国が主催する九州・沖縄サミットは、今年の我が国の最も重要な外交日程であることは言うまでもありません。 私は、これまでも各国の首脳、外相に対し、沖縄が独自性の強い文化を持つ個性的で魅力的な場所であることを説明し、今回のサミットでは、アジアの視点を意識し、文明や文化の多様性に配慮しつつ、諸国間で創造性豊かな未来を築くために先進国がなすべきことにつき十分話し合うべきであることを訴えてきました。 2000年という大きな節目の年に開かれるサミットですので、21世紀において、すべての人々が一層の繁栄を享受し、一人一人の心に安寧が宿り、また、人々がより安定した世界に生きられるように、明るいメッセージを発信すべきと考えております。 我が国における民主主義の成熟に伴い、外交と内政の関連性は益々高まってきており、外交における市民社会の役割が一層重要となってきております。21世紀の日本外交が、国際社会の直面する諸課題に的確に対応していくためには、国民各界や各層と意見を交換し、連携して我が国の持てる「総合力」を存分に発揮していかなければなりません。そのような努力を通じて、私は、国民と共により良き未来を拓いていきたいと考えています。御臨席の議員各位、そして国民の皆様の御支援と御協力を心からお願い申し上げます。 |
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