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演説

河野外務大臣演説

アジア太平洋における地域協力と日本


平成7年7月28日 

(序)

 本日、私は、来週のブルネイにおけるASEAN地域フォーラムとASEAN拡大外相会議への出席を前にして、我が国として、アジア太平洋における地域協力をどのような基本的考え方で進めていくのか、どのような具体的な施策を追求すべきかという点に絞って私の考えを明らかにしたいと思います。勿論、アジア太平洋における日本の外交は、過去の歴史を直視し、過去への反省を忘れることなく、中国や韓国などの近隣諸国との間で相互理解と信頼の絆を更に強めていくことを基礎としており、このことはアジア太平洋の地域協力に対する我が国の役割を論じる上でも大前提となっています。


(アジア太平洋地域の情勢認識)

 私は、ASEANが発足した約30年前の状況と今日を見比べる時、隔世の感を抱かずにはおられません。現在この地域は、不安定要因を依然抱えつつも、カンボジア紛争の解決や最近のヴィエトナムの対米国交正常化、ASEAN加盟等の明るい動きに象徴されるように、政治的安定の度合いを高めております。経済的には、域内の貿易や投資が急増し、多角的な相互依存関係がダイナミックに進んでいます。他方、発展段階、国家の政治体制、文化や民族構成における広範な多様性というこの地域の特徴は依然存在しております。また、中国の将来はこの地域の重要なテーマです。中国が改革・開放政策を引き続き推進し、この地域の繁栄と安定のための作業に一層積極的に参画していくことが望まれます。
 このような中、APECやASEAN地域フォーラム(ARF)などを通じての地域協力は、この地域の諸国間の相互信頼関係を強化し、コミュニティとしての一体感を醸成していく上で極めて有益なものとなっております。


(アジア太平洋地域協力において我が国が目指すところ)

 我が国がこうした地域協力の動きを推進していくに当たっては、我が国として、具体的に何を志向していくのか明示する必要があります。私は、我が国はアジア太平洋において、民主主義的発展を支える力となるべきであり、同時に、地域の安定に不可欠の国たることを目指すべきだと考えます。我が国においては、現在、規制緩和の断行や民間活力の一層の活用が不可欠となっていますが、アジア太平洋の諸国においても、自らの市場開放や規制緩和が更なる経済発展をもたらすという認識が深まりつつあります。また、個々人の創意・工夫とその幅広い交流が活力ある社会の構築の基盤と成りつつあります。日本において、また、アジア太平洋において、時流は正に、より自由で開かれ、創造的、民主的な社会の構築に向けて動き出しており、我が国は、このような動きが定着するよう努力していく所存であります。
 我が国は、また、アジア太平洋における安定を支える力になるべきであります。自由で民主的な繁栄を求めるアジア太平洋の諸国民は、同時にその基礎である平和と安定を希求しております。我が国は、非核3原則や軍事大国にならないとの基本方針を堅持するとともに、日米安保体制を通じて、この地域の安定に不可欠な米国の存在を堅固に支え、冷戦後のこの地域の安定に貢献しております。我が国としては、アジア太平洋の安定を支える力として一層積極的に貢献していくべき時期が到来したと言えましょう。
 このような我が国の基本姿勢を明らかにした上で、次にアジア太平洋の地域協力をどういう原則で推進していくかについて述べたいと思います。


(地域協力の原則)

 最近一部では、「日本は、アジアを取るのか、米国を取るのか」といった極端な議論も聞かれますが、私は、このような二者択一的な議論は、現在アジア太平洋で進められている地域協力の現実、また、その進むべき途を考慮すれば、全く不適当なものであると思います。この地域の繁栄と安定にとり、アジア諸国との間の協力が大前提でありますし、米国の関与が不可欠であると申せましょう。我が国としては、冷静に日本の置かれた立場を見据え、次に述べる3つの原則の下で、今後のアジア太平洋での地域協力に取り組むべきものと考えております。
 第1に、全地域的な相互依存関係の一層の深化、即ち、地域全体の繁栄が自国の繁栄に繋がるとの明確な認識に基づき、APECに代表される全地域的な協力を一層深化させるべきであります。
 第2に、地域内の様々な協力の枠組みを総合的、重層的に活用すること、即ち、域内各国・地域の特徴や発展段階に留意し、域内の様々な対話や協力の枠組みを柔軟に活用し、これらを連携させることにより、地域全体として一体感を高め全地域の安定と繁栄を実現すべきものと考えます。 
 第3に、域外国に対して開かれた協力関係、即ち、アジア太平洋の地域協力は国連やWTOを始めとするグローバルな枠組み・原則と整合的であると共に、これらを補完・強化するものであるべきです。
 私は、このような3つの原則により、アジア太平洋における地域協力の健全な発展に誤り無きを期すことが出来ると考えます。このような原則を踏まえれば、APEC、ARFといった全域的な枠組みを中核に据えるべきことは明らかであります。また、その下で利益と関心を共有する関係国間の新たな協議の場については、地域全体の協力と相互補完的でこれを好ましい方向に向かわせることに資するものは、活用すべきであり、他方、地域全体の協力を阻害するおそれのあるものには与すべきではありません。このような原則の下、この地域の関係国の間で、APECの貿易・投資の自由化と円滑化、開発・経済協力、域内の環境・エネルギー問題あるいは欧州など域外との対話の進め方等について議論していくことも必要でしょう。
 来年開催が提案されているアジア欧州会合についても、ASEANと日本、中国、韓国、更に東アジア地域との相互依存関係を一層深め、この地域の一員としての強い自覚を有している豪州とニュージーランドを加えたグループがアジア側の参加者の1つの基本になり得るものと考えます。


(アジア太平洋の諸課題へのイニシアチィブ)

 次に今後どのような分野でアジア太平洋の協力を強化していくべきでしょうか。私は、APEC、安全保障に関する協力、軍備管理軍縮・不拡散、経済協力、及び知的交流の5つの分野を挙げたいと思います。


(I.APEC)

 APECの強化について、我が国は、本年のAPEC議長国として、シアトルやボゴールで示された首脳の政治的意志を11月の大阪会合までに具体化することが求められています。そのため我が国は、ボゴール宣言で謳われた目標を具体化するための「行動指針」の作成に当たり、これが十分に意味のあるものとなるよう取りまとめに積極的に取り組むとともに、我が国はじめ各メンバーがウルグァイ・ラウンド合意実施の前倒し等の具体的成果を「当初の措置」に盛り込み、APECにおける行動を信頼性のあるものとすべく、議長国として更なるリーダーシップを発揮する所存です。
 充分な内容をもった「行動指針」の作成は、次のような大きな意義を有するものと考えられます。
 第1に、これはAPECとして、初めての中長期的、総合的、かつ、具体的な行動計画となります。
 第2に、焦点となっている貿易・投資の自由化・円滑化につき、交渉によらず、各メンバーの自主性を基本とした協調的な行動及び共同行動に合意しようとする点が挙げられます。これは、先に述べたように、アジア太平洋地域において、自らの市場開放、規制緩和が更なる経済発展をもたらすとの認識及び、世界に開かれ多角的自由貿易体制に沿った地域協力を目指すことがこの地域の繁栄に資するとの考え方を反映した新しい手法です。これは、他の伝統的地域統合取決めと異なるユニークな「アジア太平洋方式」を世界に示すものといえます。


(II.アジア太平洋地域の安全保障)

 以上のようなAPECを中心としたアジア太平洋地域における経済面での協力が円滑に進むためには、この地域の平和と安全が確保されることが必須の要件であります。
 このためには、まず第1に、今後とも日米安保体制と米国の存在が、アジア太平洋の平和と安定にとって極めて重要な役割を果たしていくべきものと考えます。我が国としても、日米安保体制の円滑な運用のため、引き続き在日米軍に対する接受国支援を継続・充実させていくと共に、米国との間で一層効果的な協力体制の構築につき積極的に検討していきたいと考えます。
 更に私は、この地域の安全のため、主要国間の関係の安定化が極めて重要であると考えます。米国、中国、ロシア、日本という諸国が地域の安定と発展のために各々の役割を果たさなければなりません。
 同時に、域内諸国の相互理解と安心感を高めるべくARFや北東アジア協力対話などの様々な対話と協力のネットワークを強化していくことが必要であります。我が国としては、この関連で、域内諸国間の信頼醸成を促進するための具体的措置を検討すべく、ARF参加諸国の外交・防衛当局関係者による政府レベルの会合をASEANとも協力して開催したいと思います。このため、来る8月1日に開催されるARFでは、私から参加各国に対し、かかる会合の実現に向けて働きかけを行う所存です。


(III.軍備管理・軍縮・不拡散問題)

 また、軍備管理・軍縮や兵器の不拡散の問題への取組みは、アジア太平洋の平和と安定を図る上でも不可欠であります。各国の経済的伸張が軍備競争に結びつくとの事態は避けなければなりません。また、カンボジアでは、放置された地雷が人道上の問題として、また、戦後復興や開発の大きな障害として存在しており、我が国としても地雷除去等の分野で出来る限りの貢献を果たしていく決意であります。
 なお、この地域の安全保障にとり、北朝鮮の核開発問題が極めて大きな懸案となっています。我が国は、米国、韓国と協調し、これまで朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)の体制確立に向け、大きな支援を行ってきており、その他の諸国の協力も得て、KEDOは本格的活動を始めようとしています。我が国は既にKEDOに事務局次長を派遣していますが、今後更に我が国人材の派遣を行うとともに、軽水炉プロジェクトの成功のため、同プロジェクトの全体像の下で意味のある財政的貢献を行う考えであります。更に、中国及びフランスの核実験問題は、核不拡散体制の信頼を損ないかねない動きとして憂慮に耐えません。我が国としても、この問題についてARFや国連等で積極的に取り上げ、適切に対処して参る所存です。
 冷戦末期以降になって軍縮に向けた本格的取組みが始動していますが、我が国では、軍備管理や軍縮問題にたずさわる人材は、残念ながら極めて不足しており、国内の体制強化を図ることが不可欠となっています。このような視点から、私は、今後、軍備管理・軍縮や不拡散に関連する専門知識の整理や収集、技術等の調査、更には内外の意識啓発のための広報事業等を行うため、体制の整備に向け作業を進めて参りたいと思います。


(IV.経済自由化・民主的改革のための協力の強化)

 また、アジア太平洋地域の発展に向けた我が国の貢献の1つとして、引き続き経済協力を推進し、同地域の民間の活力を一層高めていきたいと考えます。その際、各国の発展段階に応じたきめの細かい協力を実施する「個別的アプローチ」、および、ODAに加えて輸銀融資等他の公的資金を途上国における民間経済活動の活性化のため有機的に活用する「包括的アプローチ」を重視いたします。また、経済発展の著しいアジア太平洋地域においては、新興援助国が力強く出現しております。我が国としては、これら諸国を支援しながら、ともにパートナーとして、援助をより必要とする国々を助けていく「南南協力支援」を進めていく所存です。
 また、経済自由化と民主的改革は、中長期的な安定と発展のための車の両輪であります。我が国はODA大綱の諸原則により、ODAを通じても民主主義、市場経済といった基本的な価値観や制度を粘り強く追求していくことを内外に宣明しています。このため、これまでも途上国のリーダーを対象に民主化研究セミナーを開催した他、選挙制度整備、市場経済化支援のための協力を実施して参りました。このような新しい方向の援助を更に効果的に推進すべく、我が国は途上国の国造りのための知的支援を一層強化する所存です。具体的には途上国の重要政策策定を支援するための高度のアドバイザーの派遣をはじめ、広範囲にわたる有機的、かつ、効果的な「市場経済化、民主的改革のための制度造り」を積極的に支援して参ります。


(V.知的基盤整備のためのプログラムの拡充)

 更に、アジア太平洋地域がコミュニティとしての一体感を高めていくためには、その他あらゆる側面でこの地域の交流・対話を深めることが不可欠であり、特に研究者、研究機関間の知的交流を支援していくことが重要です。このため、私は、アジア太平洋の知的交流促進支援のためのプログラムを設けることを提言いたします。
 具体的には、この地域の発展のためには如何なる問題を取り上げて地域内の共同研究や対話を推進すべきかを主要な民間知的交流機関の間で討議してもらい、そのような機関のネットワークを構築し、その下で、共同研究プロジェクトや若手研究者の育成がはかられるよう提案していく所存であります。


(結び)

 地域協力は、アジア太平洋のほか、欧州、米州などの各地で進展しておりますが、国際社会のブロック化を招かないよう、地域協力の強化と並行して国連やWTOなどのグローバルな枠組みを強化していくことが重要です。
 私は、この場で示した我が国のイニシアティブを、長期的な地域の安定と繁栄、民間活力の一層の活用、そして自由で開かれたアジア太平洋地域におけるコミュニティ作りの一助とすべく努力していくことを表明し、結びの言葉に代えたいと思います。
(了)

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