川口外務大臣のロシア極東訪問 結果概要
平成15年6月29日
1.訪問の意義
今回のウラジオストク訪問は、2002年10月の貿易経済政府間委員会におけるフリステンコ副首相の提案を受けて検討されたもの。以下の点で時宜を得たものであり、次のような意義がある。
(1) |
2003年1月の小泉総理のハバロフスク訪問のフォローアップとして、我が国の極東重視の姿勢を改めて明確にする。 |
(2) |
極東におけるエネルギー・プロジェクトが進展しつつあるタイミングを捉え、民間企業関係者も参加する貿易経済政府間委員会極東分科会を併せて開催し、極東との経済関係強化の流れを後押しする。 |
(3) |
ウラジオストク郊外のズヴェズダ造船所を中心に進展しつつある日露非核化協力に関し、改めて本件協力を重視するとの我が方メッセージを露側に伝達する。 |
(4) |
日本センターの活動に関する覚書を署名し、同センターを通じた経済改革支援を継続・発展させることを確認する。 |
2.カシヤノフ首相の訪日
共同議長間会合の結果、カシヤノフ首相の訪日を年内に実現することで一致した。
3.貿易経済日露政府間委員会共同議長間会合
(1)サハリン・プロジェクト
(イ) |
川口大臣:
サハリン2プロジェクトについては、事業主が先般総額約100億ドルの投資(このうち45億ドルは日本企業からの投資)を決定。今回の決定は、我が国のガス・電力企業の20年以上にわたる大規模なLNGの引取のコミットメントにより可能となった。両プロジェクトの進展は、露側財政収入の増加、雇用の創出、インフラ整備及び現地企業の受注拡大等を通じてサハリン州を始めとする極東地域に大きな裨益効果をもたらすもの。両プロジェクトの円滑な実施のため、迅速な許認可手続の実施等、引き続きロシア政府の協力を期待。 |
(ロ) |
フリステンコ副首相:
ロシア政府として、サハリン2プロジェクトにおける100億ドルに上る新たな投資決定を歓迎。サハリン・プロジェクトは優先的なプロジェクトである。許認可手続きの迅速化に努めたい。 |
(2)太平洋パイプライン
(イ) |
川口大臣:
太平洋パイプラインは、その戦略的・地政学的意義を踏まえ、実現に向け日露双方で協力したい。極東地域の諸知事のナホトカ・ルートへの支持に感謝。引き続きよろしくお願いする。日本としては、ナホトカ・ルート先行建設を前提として、東シベリアの油田開発への協力について露側と協議する用意がある。このような協力を含めナホトカ・ルートを実現するための話し合いを本格化させたいと考えており、近く岡本資源エネルギー庁長官を団長とする代表団を派遣。 |
(ロ) |
フリステンコ副首相:
アジア太平洋地域はエネルギー需要の増加が見込まれており、ロシア極東地域の発展のためにも、エネルギーの問題はロシアにとって戦略的課題である。この戦略的課題の実現を通じてロシア極東をアジア太平洋地域に組み込んでいくことが出来る。日本が本件プロジェクトに強い関心と意欲を示していることに感謝。ロシアとして石油を東方に供給することは戦略的決定。現在具体的ルートについての審査が行われており、これには上流の埋蔵量や環境面に対する考慮も必要であるが、最も重要な考慮の要素は経済的合理性の確保である。本件協議のための代表団の訪ロを歓迎する。 |
(3)ITER
(イ) |
川口大臣:
ITER計画は、1月の小泉総理訪露の際にも首脳会談でとりあげられるなど、日露協力の強化がハイレベルで確認されていることを高く評価。ITERのサイト選定については、我が国のサイト候補地である青森県六ヶ所村への貴国の支持をお願いしたい。 |
(ロ) |
フリステンコ副首相:
ITERは興味深いテーマであり、日本の提案には様々な点で長所が多い。 |
(4)京都議定書
(イ) |
川口大臣:
京都議定書の発効については、ロシアが鍵を握っており、ロシアが批准すれば同議定書は発効する。貴国の早期締結を強く希望。
9月に世界気候変動会議を主催する等の、気候変動問題に関するロシアの主体的取組みを高く評価。貴国政府がリーダーシップを発揮して、京都議定書締結を決定することを強く希望。 |
(ロ) |
フリステンコ副首相:
京都議定書批准がもたらす結果の経済的評価はロシアの社会経済中期プログラムと2020年までのエネルギー戦略を踏まえて行う。 |
(5)貿易投資促進機構
(イ) |
川口大臣:
今後とも「機構」の設立に向けて両国間の調整を進めたい。「機構」の設立によって個々の取組をネットワーク化し、情報交換の拡大により相互の信頼感を高めることを通じて、小さくとも確かな成功例を積み上げていくことが経済交流活性化への近道。 |
(ロ) |
フリステンコ副首相:
機構」の早期設立を期待。 |
(6)個別案件
川口大臣より、我が国民間経済界から要望のある問題として、(イ)ビザ発給のための招待状発給審査に時間がかかっている問題及び(ロ)カムチャッカ州の水産会社UTRFグループに対する日本企業の前渡金債権が回収されない問題を取り上げ、善処を求め、フリステンコ副首相からはよく調べることとしたい旨述べた。
4.非核化協力
(1) |
川口大臣は、28日、ウラジオストク近郊ボリショイ・カーメニ市のズヴェズダ造船所を視察し、同造船所内において川口大臣の立ち会いの下、日露非核化協力委員会の代表である野村一成駐ロシア大使とセルゲイ・アンティーポフ原子力省次官との間で、極東における原潜解体事業「希望の星」の最初のプロジェクトであるヴィクターIII級多目的原潜304号の解体に関する実施取り決めが署名された。 |
(2) |
フョードロフ太平洋艦隊司令官は、非核化支援の実現は重要な課題であり、上記実施取り決めの署名はこの分野における「記念すべき一里塚」である旨述べた。 |
(3) |
貿易経済政府間委員会共同議長間会合において、フリステンコ副首相より、日露の非核化協力はグローバルな協力としても重要であり、G8グローバル・パートナーシップの一環として位置づけられると述べると共に、日本からの協力は他のG8諸国より速いペースで進展していると評価した。 |
5.日本センター・極東大学訪問
(1) |
共同議長間会合において、フリステンコ副首相より、企業経営者養成の拠点である「日本センター」を通じた経営者養成計画への日本の貢献に感謝すると共に、同計画の2007年までの延長に伴い、協力の継続を要請。これに対し川口大臣より、協力継続の意向を表明するとともに、日本センター研修生OBのネットワークを活用して日露の企業間交流を促進していきたい旨発言。 |
(2) |
日本センター視察、覚書署名
29日午後、川口大臣は、極東大学にある日本センターを視察し、同センター内でフリステンコ副首相と共に日本センターの活動に関する日露間の覚書に署名した。同覚書は支援委員会廃止後も新スキームの下で日本センターを通じた経済改革支援を継続・発展させることを確認したもの。 |
(3) |
更に、川口大臣はクリロフ極東国立総合大学総長に対し、同大学で実施されている国際交流基金による日本研究への協力プログラムの目録を贈呈した。
上記目録贈呈後、川口大臣は、フリステンコ副首相とともに日本センター研修生OB、極東大学学生と日露経済関係、文化交流等をテーマとして懇談を行った。 |
6.北朝鮮
(1) |
プリコフスキー大統領全権代表との会談において、川口大臣より日本側の立場として、平和的・外交的解決を目指していること、北朝鮮の核兵器の開発は認められないこと及び拉致問題の深刻性につき説明し、協力を要請。 |
(2) |
プリコフスキー全権代表:
拉致問題の深刻性を理解し、周辺国を中心とする解決に向けた協力の必要性を強調。2003年3月の米中北朝鮮の3者協議を支持しているが、これが日露を含む6者協議に発展することを支持。北朝鮮の核開発への野心を阻むことが重要であり、解決に向けた国際機関、特に国連の役割は大きい。 |
7.極東に関するスピーチ
29日、川口大臣は、沿海地方行政府庁舎内会議場において、日本とロシア極東との協力に関するスピーチを行い、日本と極東との歴史的関係、北朝鮮問題、非核化協力、防衛交流、日本と極東の経済分野における協力の現状・展望に触れつつ、日露間の平和条約締結の必要性を極東の住民に直接訴えた。スピーチは、フリステンコ副首相、ダリキン沿海地方知事、ロシュコフ外務次官の見守る中で、立ち見客が出るほどの盛況の下行われた(会場の定員は650名)。
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