七ヵ国の元首及び首相並びに欧州共同体代表の宣言(仮訳)
1982年6月6日
ヴェルサイユにおける会談を通じ、我々は世界経済情勢の深刻さについての我々の理解を深め、これを改善するべく緊急な行動のため幾つかの目標について合意した。
我々は、インフレの一層の低下及び着実な成長とより高い雇用水準への復帰による現状の改善は、我々の安全を擁護し、我々が共有する民主主義的諸価値に対する信頼を維持し、多様にわたる我々の諸国民の文化的遺産を保持していく我々の共同の能力を強化するものであることを確認する。完全雇用、物価の安定及び持続的かつ均衡のとれた成長は、野心的な目標である。これらは、もし我々が生産的投資及び技術的進歩を促進する政策を追求し、我々が個々の努力に加え、進んで力を合わせ、各国がその政策が他国に与える影響に配慮し、また世界の発展を促進すべく我々が協力するのであれば、今後達成し得るものである。
この精神の下に、我々は、次の行動を実施することを決定した。
- 成長及び雇用は、拡大されなければならない。我々がインフレに対する継続的な闘いに成功すれば、これを永続的基盤の上で達成することができる。これは、また、現在受け入れ難い程高い水準にある金利を引下げ、より安定した為替相場をもたらす助けとなろう。この緊要な実質金利の引下げを達成するために、我々は緊急な課題として、慎重な金融政策を追求し、財政赤字の一層の抑制を達成する。我々の経済及び通貨上の協力を強化することが肝要である。この関連で、我々は、中期的な経済及び通貨上の目標を追求するに当たり、北米、日本及び欧州共同体の通貨を代表する当局の間の一層緊密な協力によって国際通貨制度の建設的な秩序ある発展に向かって努力していく。この点に関し、我々は、付属の声明に含まれる約束を行った。
- 世界貿易のすべての側面における発展は、各国の成長のため必要な要素であるとともに、その成長の結果でもある。我々は、ガットに具現される開放された多角的貿易体制を強化し、その効果的運営を維持するとの我々のコミットメントを再確認する。貿易と成長を通じ安定と雇用を促進するために、我々は、保護主義圧力及び貿易歪曲的慣行を排除する。我々は、東京ラウンドの作業を完成させ、現在及び将来の貿易問題を解決するガットの能力を改善していく決意である。我々は、また、我々の市場の一層の開放のために努力する。我々は、多角的体制を強化、改善するため開発途上国と協力していくものであり、特に新興工業国との貿易の機会を拡大していく。我々は、これらの目的に向かって具体的措置を講ずるために、来たるガット閣僚会議に全面的に参加する。我々は、OECD(経済協力開発機構)輸出信用コンセンサスの更新につき早期の合意が見られるよう努力していく。
- 我々は、我々の政治上及び安全保障上の利益と合致した形でソ連及び東欧に対し、経済面において慎重かつ多様なアプローチを追求することに合意した。これは三つの主要な分野における行動を含む。第一に、一月の国際的な話合いに続き、我々の代表は、これら諸国に対する戦略物資の輸出を規制する国際的制度及び安全管理の実施についての国別体制を改善するために協力する。第二に、我々は、ソ連及び東欧との経済、商業及び金融上の関係のあらゆる側面についてOECD(経済協力開発機構)において情報を交換する。第三に、現行の経済及び金融上の考慮を勘案しつつ、我々は、ソ連及び東欧諸国との金融関係を、輸出信用を制限するにあたっての商業上の慎重さの必要をも含む健全な経済的基盤に基づいて注意深くとり進めるようにすることにつき合意した。経済及び金融関係の動合は定期的な事務的レヴューの対象とされる。
- 我々が既に達成した進歩は、長期的観点より、特に価格メカニズムを通じて、エネルギーを節約し、また、原子力及び石炭を含む代替エネルギー源の開発を促進するため、引き続き努力する必要性を減ずるものではない。これらの努力は、エネルギー供給の中断及び価格の不安定に対する我々の脆弱性を一層低減することを可能にする。新エネルギー技術を開発し、また、供給攪乱に対する我々の対応力を強化するための協力は、我々の共通のエネルギー安全保障に貢献するものである。我々は、また、石油輸出開発途上国及び石油輸入開発途上国双方との我々の協力を強化するよう努めていく。
- 開発途上国の成長及びこれら諸国との建設的な関係の深まりは、世界全体の政治的、経済的安寧にとって枢要である。従って、高い水準の資金の流れ及び公的援助が維持され、その量及び有効性が可能な限り増大され、貢献を行い得るすべての諸国の間で、広く責任が分担されることが重要である。包括交渉の開始は、サミットのすべての参加者が認めた主要な政治的目標である。77ヵ国グループにより提示された最新の決議案は有益なものであり、ヴェルサイユでの討議において、同決議案が関係諸国との協議の基礎となるとの見解が一般的に受け入れられた。今や我々は、専門機関の独立性が保証される限り、包括交渉の早期開始とその成功の良い見通しがあるものと信ずる。同時に、我々は、世界銀行内の改革、地域開発銀行の事業に対する我々の支援、一次産品輸出所得の不安定への対策の進展、民間投資のための条件を改善する国際取極を含む民間資本の流れの促進及び公的援助の貧困国に対する一層の集中を通じて、開発途上国との実際的協力を継続し、発展させていく用意がある。であるが故に、我々は、IDA(国際開発協会)第六次増資の資金調達問題を克服するための特別暫定取極及びIDA第七次増資の検討の早期開始の必要性を認める。我々は、食糧及びエネルギーといった必需物資を輸入しなければならない開発途上国におけるこれらの物資の生産の増大を目的とした計画又は取極及び人口増加より生ずる種々の影響に対処するための計画を特に支援する。国際収支支援の分野において、我々は、九月のIMF(国際通貨基金)年次会議において、同基金の資金規模の増大が来たる第八次割当額のレヴューに適した結着を見るよう進展が得られることを期待する。
- 世界経済の再活性化及び成長は、科学技術の発展を活用する我々自信の努力に依存するのみならず、我々の国の間の協力及び他の諸国との間の協力も相当程度依存するものである。我々は、新技術が提供する膨大な機会、特に新たな雇用を創出する機会を活用しなければならない。我々は、公共部門及び民間部門の双方において、新技術の開発及び貿易に対する障壁を撤廃すること、また、これらの開発及び貿易を促進していくことを必要としている。我々の国は、新技術分野で人々を訓練し、また、これらの技術が発展し隆盛することを可能とする経済的、社会的及び文化的諸条件を作り出していく必要がある。我々は、これらの問題についてフランス共和国大統領が我々に提出した報告を検討した。この関連で、我々は、我々の政府及び欧州共同体の代表から成る作業部会を速やかに設置し、我々が留意した諸目標の達成を助けるための諸提案をOECD(経済協力開発機構)を始めとする適当な国際機関と緊密に協議しつつ策定せしめることを決定した。作業部会は、その報告を1982年12月31日までに我々に提出するよう要請される。報告の結論及びこれに基づく措置は、1983年に米国で開催される次回経済サミットにおいて検討される。