14 トロント サミット
経済宣言(仮訳)
1988年6月21日
- 我々主要先進7ヵ国の元首及び首相並びに欧州共同体委員会委員長は、第14回年次経済サミットのため、トロントで会合した。我々は、過去から教訓を引き出し、将来を展望した。
- 過去14年の間、世界経済と経済政策は大きな変化を遂げた。特に、情報技術革命と市場のグローバリゼーションは経済的相互依存を高め、各国政府が政策を検討する際に、その国際的広がりにつき十分考慮することを不可欠なものとした。
- 1970年代と1980年代との間には明確な対照がみられた。前者は、高くかつ上昇していたインフレ、生産性上昇率の低下、短期的考慮に支配された政策、及び、しばしば適切さを欠いた国際的政策協力の10年であった。1980年代にはインフレが抑制され、力強い持続的成長と生産性改善のための基盤ができた。その結果、戦後の歴史で最長の経済成長がもたらされている。しかし、1980年代は、主要な先進工業経済における大幅な対外不均衡の出現、より大きな為替レートの変動、そして多くの開発途上国における債務返済の困難を経験してきた。このような状況に対し、我々は、国際協力に対する一層のコミットメントをもって対応し、その結果、1986年の東京サミットにおいて採用されヴェネチア・サミット及びG-7において一層強化された緊密な政策協調プロセスがもたらされた。
- サミットは、世界経済が直面する諸問題に対処し、新しい考えを推進し、そして共通の目的意識を醸成するための有効な場であることが明らかとなった。特に1980年代において、サミットは、インフレとインフレ期待の根絶が持続的成長と雇用の創出にとって極めて重要であるという認識を高めることに貢献した。このような認識は、経済政策の策定と実施に際しての短期的考慮から中期的な枠組みへの移行により、また、競争原理への一層の依存と構造改革を通じ効率性と順応性を改善するとのコミットメントにより強められた。この間、我々は、また、決定的重要性を有する他のいくつかの問題を特定し、協調して注意を払ってきた。即ち、決定的に必要であるのは、保護主義に抵抗し開放された多角的貿易体制を強化すること、開発の課題に対処し債務の重荷を軽減するための有効な戦略を維持・強化すること、及び深刻な世界の農業問題に取り組むことである。
- 我々が前回会合して以来、我々の経済は成長のモメンタムを維持してきた。雇用は概して引き続き拡大し、インフレは抑制され、また、大幅な対外不均衡の是正に向けての進展があった。これらの勇気づけられる動向は楽観主義の理由とはなっても自己満足の理由とはならない。インフレなき成長を持続させるためには、一層の協力に対するコミットメントが必要である。これは信頼性とコンフィデンスにとっての鍵である。
国際経済政策協力
マクロ経済政策と為替レート
- 東京とヴェネチアのサミットは、我々の経済政策の協調プロセスを発展させ強化してきた。その過程で行われた取決めの有効性と強靭性は、昨年10月の金融市場の緊張に続く事態の推移により実証されている。G-7では、我々の経済について、その政策、短期的見通し、及び中期的な目標と見通しが定期的に議論されている。政策とパフォーマンスは経済諸指標に基づき評価される。我々は、現行の諸指標への商品価格指標の追加と、諸指標の分析的使用の洗練における進展を歓迎する。協調の進展は、国際通貨制度の機能の一層の改善に貢献している。
- インフレなき成長の下でのより持続可能な経済・財政状態への調整を促進するために、財政、金融、及び構造政策がとられてきた。財政赤字の継続的な削減を含め、こうした方向の努力が続けられる。我々は、インフレの如何なる再燃に対しても警戒を維持する必要がある。我々は、大幅な対外赤字を有する諸国にあっては支出の伸びを減らし、大幅な対外黒字を有する諸国にあっては国内需要のモメンタムを維持するという、協調努力について合意されている戦略を継続し、また、可能な場合には、それを強化するとの決意を再確認する。しかし、大幅な対外不均衡の削減のためには、我々の協調努力だけではなく、新興工業経済を含む大幅な対外黒字を抱えるより小さな経済の協調努力も必要である。
- 過去3年間の為替レートの変化、特に日本円と主要な欧州通貨に対する米ドルの下落は、実質的な貿易収支の調整において主要な役割を果たした。我々は、為替レートが過度に変動すること、これ以上ドルが下落すること、あるいは調整過程を不安定にしてしまうほどドルが上昇することは、いずれも、世界経済の成長の可能性を損うことにより逆効果となる恐れがあるとのG-7の結論を支持する。
構造改革
- 国際協力はマクロ経済政策の協調に関するものだけではない。構造改革は、マクロ経済政策を補完し、その有効性を高め、また、より堅固な成長の基礎を提供する。我々は、共同して構造改革の進展を吟味し、構造政策を我々の経済協調プロセスに組み入れるよう努力する。
- 我々は、障壁と不必要な管理・規制を除去すること、社会グループや地域への悪影響を緩和しつつより競争を増大させること、税制改革等により労働、貯蓄、投資に対するディスインセンティブを除去すること、また、教育と訓練を改善することにより、引き続き構造改革を追求する。我々の各々が確認した個々の優先課題は、別添の構造改革に関する付属文書にその概要が述べられている。
- 我々は、OECDによる構造改革の監視の一層の発展を歓迎する。そのような監視は、政府予算、消費者物価、及び国際貿易に対する構造改革の影響を明らかにすることにより、構造改革に対する国民の理解を深める上で特に有益であろう。
- 先進国と開発途上国の双方における主要な構造問題の一つは、農業政策の分野におけるものである。すべてのサミット参加国による一層の積極的な行動を通じて、最近の幾つかの国によって行われた意義ある政策改革の努力が継続されることが不可欠である。より市場指向的な農業政策は、農村地域と自営農業の保持、質的水準の向上、環境保護等の重要な目的の達成を支援すべきである。我々は、OECDが農村経済の構造調整と発展を一層強調している点を歓迎する。
- 金融と技術の革新は、急速に金融市場の国際的統合をもたらしつつあり、資本のより良き配分に貢献する一方、一国における混乱が他の諸国へ波及し得る速度と規模を増大させている。我々は、証券市場を含む世界的な金融制度の機能を検討する上で、他の諸国と引き続き協力する。
多角的貿易体制/ウルグァイ・ラウンド
- ウルグァイ・ラウンドの成功は、明確なルールに基づいた開放され予見可能な多角的貿易体制の一体性を確保し、貿易の拡大と一層の経済成長を導く。プンタ・デル・エステにおいて、閣僚は、貿易関連の知的所有権や貿易関連投資措置といった新分野を含む、物とサービスの幅広い分野にわたって、貿易を一層自由化し、多角的貿易体制を強化し、また、適切な場合には、早期合意を行う用意があることを約束した。各国は、引き続き、保護主義と、ガットのルールの枠外で一方的措置をとることの誘惑に抵抗し、また、適切な場合には、早期合意を行う用意がなければならない。好ましい交渉環境を維持するためには、参加国は、プンタ・デル・エステ及びその後の国際会合において行った、スタンドスティルとロールバックのコミットメントを誠実に実施すべきである。
- 我々は、米加自由貿易協定、及び、1992年までに域内市場を完成させるとの欧州共同体の目標に向けた着実な進展を強く歓迎する。我々の政策は、これらの動向が、我々諸国が関与する地域協力に向けてのその他の動きとともに、開放された多角的貿易体制を補強すべきであり、また、ウルグァイ・ラウンドの自由化効果に対し触媒作用を及ぼすべきであるというものである。
- 我々は、ガットそれ自体の強化に大きな重要性を与える。ガットは、閣僚のより大きな関与と他の国際機関との連携の強化により、特に貿易政策サーベイランスと紛争処理手続きとの関連で、よリダイナミックで効率的な機関となることが極めて重要である。ガットの規律は、加盟国がその義務を受け入れるよう改善されなければならず、また、紛争が迅速、効果的かつ衡平に解決されるよう確保するものでなければならない。
- 貿易は開発において中心的役割を果たす。我々は、開発途上国、特に新興工業経済が、国際貿易と国際的な調整過程におけるこれら諸国の重要性及びこれら諸国のそれぞれの発展段階に応じて、ガットにおいて一層のコミットメントと義務及びより大きな役割を引き受けるよう奨励する。同様に、先進国としては、開発途上国の輸出に対しより開放された市場を確保するよう引き続き努力すべきである。
- 農業においては、国内政策の改革における政治的に困難な努力を補強し、同様に困難でかつ関連のある農業貿易の改革のプロセスを前進させるために、引き続き政治的なはずみが不可欠である。1987年には、ウルグァイ・ラウンド交渉において、主要な諸提案も提出され、重要な進展がみられたが、1988年12月のモントリオールでの中間レヴューが、他の分野と同様に、農業分野においても、交渉に更なるはずみを与えるよう確保することが必要である。我々は、昨年開始された改革のプロセスを促進し農産物市場における現在の緊張を緩和する短期及び長期の要素を含む、大枠の取組みを採択するための努力を支持する。これは、支持と保護を計量するための考案により促進されるであろう。また、食糧の安定供給の確保と社会的要請について考慮するための方途も開発されるべきである。この問題を前進させるために、また、とりわけ、我々の農業事情の多様性に留意して、ジュネーヴにおける我々の交渉者は、農業貿易に直接または間接に影響を与える、すべての直接及び間接の補助金並びにその他の措置の削減に関する長期的目標に沿った短期のオプションを含む大枠の取組みを考案しなければならない。大枠の取組みの目的は、農業部門が市場のシグナルに対しよりよく反応するようにすることであろう。
- ウルグァイ・ラウンドがより困難な局面に入るにつれて、この野心的な交渉のモメンタムを確保することが極めて重要である。中間レヴューは、貿易関係者に対して信頼できる政治的シグナルを送る無比の機会を提供する。本年末までに具体的な進展を示し得る段階に達するためには、交渉のすべての分野において、適切な場合には決定を行うことも含め、最大限の前進がみられなければならない。この目的のため、我々は、交渉のすべての項目、即ち、ガットの体制とルールの改革、市場アクセス、農業、及び、(サービス貿易、貿易関連の知的所有権、貿易関連投資措置といった)新分野について、大枠の取組みを採択するための努力を支持する。我々としては、中間レヴューにおいて、プンタ・デル・エステ宣言に従い、交渉の十分かつ完全な成功のための堅固な基盤が確立されるよう確保することにコミットしている。
- 我々すべては、国際投資の世界経済における決定的かつ拡大しつつある役割を認識し、保護主義の増大は開放的な投資政策のもたらす利益を害するであろうとの深い懸念を共有する。我々は、国際投資政策を漸進的に自由化する決意であり、他の諸国に対しても同様の行動をとるよう求める。
新興工業経済
- アジア・太平洋地域のいくつかの新興工業経済(NIEs)は、世界の貿易においてますます重要なものとなってきた。これらの経済は多くの重要な点で異なっているが、すべてを通ずる特色は、1960年以来世界貿易におけるこれらの経済のシェアを3倍にしたダイナミックでかつ輸出主導型の成長である。他の対外指向型のアジア諸国も、急速に成長しつつある製品輸出国として台頭しはじめている。経済的な重要性が増大するに伴い、国際的な責任も増大し、先進工業国とアジアのNIEs及びこの地域の他の対外指向型の諸国との間で、近い将来に建設的な対話を増進し協調努力を行うことについて、相互の関心が高まる。対話と協調努力は、世界経済の持続的かつ均衡のとれた成長にとって必要な国際的調整を達成するために、マクロ経済、通貨、構造、貿易等の政策分野に焦点を当てることができよう。我々は、相互に関心を有する問題について、多国間で討議することを容易にし、必要な協力を促進するような非公式なプロセスの進展を奨励する。
開発途上国と債務
- 開発途上国のパフォーマンスは、世界経済にとりますます重要なものとなっている。開発途上国の将来にとって中核となるのは、健全な世界経済環境、開放された貿易体制、適切な資金フロー、そして最も重要であるのは、これら諸国による適切な経済改革へのコミットメントである。多額の債務を抱えた多くの開発途上国の問題は、経済的かつ政治的な懸念を引き起こしており、開発途上国における政治的安定にとって脅威となりうる。ラテン・アメリカ、アフリカ、及び太平洋、特にフィリピン、のように世界の諸地域においていくつかの国がそのような状況におかれており、我々の特別の注意に値する。
中所得国
- 巨額の債務を抱えたいくつかの中所得国は、対外債務を返済し持続可能な成長のために必要な投資を生み出す上で引き続き困難を有している。ケ―ス・バイ・ケースのアプローチに基づく市場指向かつ成長主導の戦略は、これら諸国の対外債務問題を克服する上で、依然として唯一の実行可能な方法である。
- 我々は、多くの債務国が、持続的発展のために必要なマクロ経済調整と構造改革の困難なプロセスを開始しており、逃避資本の還流及び新たな投資のフローを促していることに勇気づけられる。こうした努力が成功することが、これら諸国の経済的パフォーマンスを改善し信用力を強化する上で不可欠である。
- 公的融資は、パリ・クラブ(1983年以来、730億米ドルの元本と金利が繰り延べされてきた)、及び輸出信用供与機関の柔軟な方針を通じ、債務戦略において中心的役割を果たしてきている。国際金融機関は、引き続き極めて重要な役割を果たす。我々は、国際通貨基金が、マクロ経済調整と構造改革の中期計画を支援し、また、予期せざる外部状況の変化から調整計画を一層保護するための能力を強化する上で最近とったイニシアティブを支持する。我々は、中所得国における調整を促進する世界銀行の能力を強化するための、世界銀行の750億米ドルにのぼる一般増資の完全な実施を強く支持する。我々は、また、国際金融機関がその開発計画の有する環境上の影響について認識を深めていることを支持する。
- ファイナンスのオプションのメニューの拡大は、民間銀行の融資が生産的用途へ流れることを促進してきており、これを通じ、民間銀行は、債務国の改革努力を支援する上で重要な役割を果たしてきている。これらの銀行が引き続き関与することが債務戦略上不可欠である。この点に関し、世界銀行とIMFは、債務国の調整計画を支援するために民間(及び公的)資金源から追加的資金を引き出す上で、重要な触媒としての役割を果たすことができる。
- 我々は、近年、革新的な金融手法を用いることが多くなってきている点に留意する。これらの手法の重要な特徴は、それらが、自発的かつ市場指向的であり、また、ケース・バイ・ケースで適用されるという点である。「メニュー・アプローチ」は、新たな資金フローを生み出しており、いくつかのケースにおいては、既往債務の残高を減少させている。現在の戦略の柔軟性は、メニュー・アプローチの一層の拡大及び新規融資の質を改善させるような革新的な金融手法の奨励により増大されるであろう。しかし、具体的なイニシアティブについては慎重に検討する必要があろう。
- 国際直接投資は、開発途上国における経済成長と構造調整を刺激する上で重要な役割を果たしている。従って、国際直接投資は債務問題の緩和に貢献する。開発途上国は、好ましい投資環境を作り出すことにより、このような投資を歓迎し奨励すべきである。
最貧国の債務
- 最貧開発途上国の持続的成長の回復を支援するために、特にこれら諸国にとって債務を返済することが極めて困難な場合には、譲許的資金フローの増大が必要である。昨年のヴェネチア・サミット以来、これら諸国の抱える債務負担への対応における進展は勇気づけられるものである。パリ・クラブの債権国は、据置期間及び償還期間を延長して債務繰り延べを行っている。更に、最近におけるIMFの構造調整ファシリティーの拡大、世界銀行と政府開発援助機関による協調融資プログラムの拡大、及びアフリカ開発基金の第5次増資により、1988年から90年の期間に、調整努力を行っている最貧かつ最も債務の多い諸国のために、総額180億米ドル以上が用意される。この総額のうち、150億米ドルが、サハラ以南のアフリカ諸国へ向けられる。
- 我々は、国際的に是認された調整計画を実施している最貧国の債務返済負担を更に軽減するために、我々のいくつかの国によりなされた提案を歓迎する。我々は、公的債権者が、通常比較的短い返済期間における譲許的金利と、商業的金利による比較的長い償還期間と、繰り延べ期間中の債務返済義務の部分的帳消しのいずれか、あるいは、これらのオプションの組み合わせを選択することを可能とするような、相互に比較可能な枠組みの中で、これら諸国の公的債務を繰り延べることにつき意見の一致をみた。このアプローチは、公的債権者が、各々の法的あるいは予算上の制約と整合性のあるオプションを選択することを可能にするものである。パリ・クラブは、相互の比較可能性を確保するために、最も遅くとも、本年末までに、必要な技術的細目を策定するよう求められている。このアプローチは、過去1年間になされた、最貧国を支援するための重要な多数国間の合意に追加して一層の利益をもたらす。我々は、また、いくつかの債権国政府によってとられた、ODA融資を帳消しするか、または、ODA融資の重荷を取り除くための行動を歓迎し、また、各国が最貧国に対する将来の援助において高いグラント・エレメントを維持するよう要請する。
環 境
- 我々は、環境の保護及び増進が不可欠であることに合意する。環境と開発に関する世界委員会のレポートは、地球上に人類が生存しつづけるためには、環境上の考慮が経済政策決定のすべての分野において組み入れられなければならないことを強調した。我々は、持続可能な発展という概念を支持する。
- 環境に対する脅威は国境を越えたものである。その緊要性に照らしすべての国に国際協力の強化が求められる。多くの環境分野において重要な進展がみられている。オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書は画期的なものである。すべての国は、これに署名及び批准するよう奨励される。
- 一層の行動が必要とされている。地球的規模での気候変動、大気汚染、海水及び淡水の水質汚濁、酸性雨、有害物質、森林減少、絶減の危機に瀕している種の問題が優先的にとりあげられるべきである。従って、広域越境大気汚染に関するジュネーヴ条約の枠内での酸化窒素排出についての議定書に関する交渉を精力的に進めることは時宜を得ている。有害廃棄物の越境輸送に関する合意に向けての国連環境計画(UNEP)の努力も、UNEPと世界気象機関(WMO)の協力のもとでの地球的規模の気候変動に関する政府間パネルの設立とともに、奨励されるべきである。農業の環境に対する潜在的な影響は、資源を過度に集約的に使用する場合は否定的なものであり、また、砂漠化を防止する上では肯定的なものであるが、我々は、そのような影響をも認識する。我々は、トロントで来週開催される大気の変化に関する会議を歓迎する。
今後のサミット
- 我々7ヵ国の元首及び首相並びに欧州共同体の代表は、経済サミットが、我々諸国の間に存在する政治的及び経済的な連帯の絆を強化し、そして、それ故に、我々の経済的及び政治的体制の根底にある民主主義の諸価値を維持することに貢献してきたと確信する。我々の年次会合は、主要先進諸国の政府にとって、毎年、非公式かつ柔軟な形で、世界経済の進展に対する共通の責任につき思いをめぐらし、また、そのような責任を将来どのような形で実際に果たしていくかを決意するための主要な機会となってきている。我々は、我々の会合において醸成された相互理解が、我々諸国のみならず広く国際社会に利益をもたらしたと確信する。我々は、また、我々の会合により与えられる機会が、相互依存と技術変化を高めている今日の世界において、一層意義深いものとなりつつあると確信する。従って、我々は、1989年7月14日から16日までの間、フランスにおいて会合を開催することについてのフランス共和国大統領の招待を受話し、サミットの新たなる一巡を開始することに合意した。
他の諸問題
ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム
- 我々は、ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラムに関する日本のフィージビリテイ・スタディが成功裡に完了したことに留意するとともに、我々諸国の科学者がそのスタディに貢献できる機会を与えられたことに感謝している。我々は、近い将来のプログラムの実施に向けた日本政府の提案に期待する。
生命倫理
- 我々は、生命科学の発展の倫理的影響に関する検討の継続の一環として、1988年4月にイタリア政府が生命倫理に関する第5回会議を主催したことに留意するとともに、1989年春に第6回会議を主催するとの欧州共同体の意向を歓迎する。
構造改革に関する付属
- 欧州は、雇用創出に拍車をかけ、潜在成長力を高め、そして持続可能な対外均衡のパターンを達成するために、マクロ経済政策を補完すべく構造改革を追求している。構造改革措置は、1992年までに域内市場を統一するとの共同体のプログラムの枠内で実施されつつあり、資本移動の完全な自由化、人・物・サービスの完全な移動を可能とするための物理的・行政的・技術的障壁の撤廃、及び競争政策の改善を含む。しかしながら、その全面的な達成は、改革措置の完全で時宜を得た実施、並びに、地域、社会、環境及び技術面での協力の分野におけるものを含む補完的政策にかかっている。
- ドイツの構造改革の主要な要素は、税制改革と減税、規制緩和と民営化、郵便と電気通信の制度改革、労働市場における柔軟性の増大、及び社会保障制度の改革である。
- フランスにおいては、主要な構造改革は、教育水準の改善と労働者のための職業訓練・開発の改善、及び、可能な限り低コストでの経済のファイナンスを円滑にするための金融市場の機能の大幅な改善に関するものである。
- イタリアは、訓練と教育を推進し、雇用に拍車をかけるために労働市場の柔軟性を増大させ、金融市場の機能を改善し、効率性を高め歪曲を除去するために税制を改正し、また、公的部門の効率性を高めるよう努力する。
- 英国においては、既に、税制改革、労働組合法の改革、規制緩和、市場開放及び国営産業の民営化という実質的なプログラムが行われてきており、これは継続される。教育の質と住宅市場の柔軟性を改善するために更なる措置が導入されつつある。
- 日本は、顕著に伸長した内需主導型成長への一層の依存を維持し持続させるために、構造改革を更に追求する。日本は、土地利用政策及び流通制度を含む主要部門における政府規制の改革、並びに税制の改革を推進する。
- 米国においては、民間貯蓄の低下傾向が底を脱したかもしれないという最近の兆候には勇気づけられるが、それにも拘らず、貯蓄のインセンティブを増大させることが優先課題である。米国は、また、その産業部門の国際競争力を強化する。
- カナダにおいて最も期待できる構造改革の分野は、税制改革の第二段階の実施、提案されている金融サービス部門の自由化、そして最も重要であるのは、米国との自由貿易協定の実施である。
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